夏の参道

一日いちにち、一つで()
たったひとつで構わないから
なにか美しいものを目に焼き付けておきたくて
草木が弧状に、青々と生い茂る参道を
脱獄した囚人のように、無我夢中になって走っていた

生活、生活、生活、見渡す限りの生活と
みえざる場所にも、確かに鼓動している生活
(おれ)の知らない生活の片鱗が至るところに存在していて
おれは何時(いつ)も、その数の(おびただ)しさに気圧(けお)されてしまう

花も草木も、虫も小鳥も、おれもお前も
いつ死んでも(ちり)ひとつの悔いも無いように
美しいものだけ(おぼ)えていてくれ

美しくなければ、(きたな)くもなりきれなかったおれは
()えつづける内傷(ないしょう)愈々(いよいよ)耐え切れなくなって
綺麗なものだけを蒐集(しゅうしゅう)しては、(すべ)てを上書きするように詰め込んでいる

参道の(はて)、木陰に咲く名もない花に一日を救われていた

夏の参道

夏の参道

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-08

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