絹枝の魔性3️⃣
絹枝の魔性3⃣
-混浴の女-
二人は一つしかない大浴場に向かった。混浴だ。案に相違して熟れた女達が三人いた。二人が豊かな身体を洗い流している。主府の言葉だ。
男は巨根を隠さない。湯船の一人の女がそれを目で追う。二人は広い浴場の一番奥に浸った。女達は湯気でかすみ叫声も遠い。
「あなた?手拭いを落としたふりして、わざと見せてたでしょ?ゆっくり歩いたりして?憎らしい」女が股間を握りしめてしごきながら、「小便出たくなるまでしてあげる」と、男を立たせて、湯に潜った女が陰茎をくわえた。汗にまみれて、時おり、あの女達に聞かせるごとくの嬌声を洩らしながら、「こんな事はあなたとだけしかしたくない」と、言言いながら女はさんざん戯れる。
隠れ家の廃寺から絹枝が去ると、女が持ってきた衣服に着替えた樽川は、女の指示通りにある繁華な街に出て、夏の背広に身支度を整えた。散髪も済ますと、背が高く何処か異人の風貌の男は浮わついた女などの目を引くのだ。もはや、流浪する理由の全くない男は、その日のうちに女が指定した温泉宿に向かった。
関東と東北の狭間の、県境の山あいの大滝から流れ落ちた川沿いに、数件の濁り湯の湯治宿が点在している。硫黄の強烈な臭いが集落を覆い尽くしていた。女が来るまでに時間は充分にある。
着くなり、一つしかない混浴の大浴場の濃く白濁した湯で汗を流した男は、持ち込んだウィスキーを喉に通した。しかし、女の思惑を推し量ると、何故か、一〇年前のあの忌まわしい記憶が蘇ってきて、鬱々として気の収まる事はない。
夜半に目を覚まして、ウィスキーの瓶を持って浴場への長い階段を降りた。 脱衣所の篭の一つだけに女物の浴衣が脱ぎ捨ててある。男の猟奇心が火照った。しかし、真夜中の浴場は湯気で曇って静まり返っている。広い湯船に浸かりウィスキーを飲み始めると、湯を流す音がした。その方向に目を探索して、湯気が動いた隙間の意外なほどの近くに、洗い場に座って身体を洗っている女の半身を捉えた。
豊満な背中と乳房や横顔の半分に見覚えがある。夕方に来た時に目についた三人連れの、とりわけ、男の趣向を惹いた女に違いない。男は、昼前に別れてきた絹枝との、確執にまみれた浅ましい性交を苦々しく反芻する。やがて、訪ねてくるその女は、再び汚濁の混沌の兆しのような気がしてならないのだ。それに比べて、深夜に真裸で二人きりの眼前の女は、新しい獲物で、それに見あう僥倖すらもたらしてくれるかも知れない、などと散々妄想して、ウィスキーを重ねた。
暫くすると、女の短い叫声と洗い桶が転がる音が、同時にした。艶かしい唸り声が、男を呼び寄せるように尾を引いている
。
歩み寄ると、洗い椅子から外れた豊かな尻を木の床に直につけて、足首を押さえている。一瞥で、三〇半ばだろう女の全貌を把握した男が、慎重に獲物に忍び寄る段取りを、再び自らに言い聞かせて長い息を吐いた。 転んだのか、多少の心得があると声をかけると、男の全裸を見据えながら女が同意すると同時に、股間を豊満な裸体には小さすぎる手拭いで、申し訳の程度に隠した。しかし、臍のすぐ下まで届く三角の激しい繁茂の底辺を僅かに覆ったばかりで、陰毛の大半や豊潤な乳房や紫の大きな乳輪、その真ん中の膨れたやはり紫の乳首、張りつめた太股などは隠しようもない。陰唇だけが僅かに秘匿された全裸なのだ。
湯浴みが目当ての混浴なら劣情もすまいが、こうとなれば尋常ではない。
だが、男は再び勇み足を諌める。膝を折って腰を落として女の足首に手を当て、善意の意思の風に尋ねた。「そんなに痛くはないけど。捻挫したのかしら?」女が頼りなさげに男を見た。視線が股間にぶら下がる巨根に絡み付いた。 「大したことはなさそうだが、しっかり手当てしておかないと後後に障る。柔術をするので心得がある。み療治をしてやろう」と、男が言うと、女が礼を返した。尻も痛いから椅子には座りたくないと言う女に合わせて、床に直に尻をついて、女の足首を取り、脹ら脛にのせてゆっくりと揉み始めた。
「按摩みたいに局所を揉むのではない。神経は身体全体に網羅しているから全体が衝撃を受けている。神経に安堵を与え機能を復活させる。急いではならない。丹念が肝心、とりわけ、リンパの圧迫がいけない」などと、利いた風な御託を連ねて女の顔を覗くのである。
女は納得し切って頷く。やがて、男の指がじわじわと足裏に及んで、しっとりと揉みあげると、女が低く呻いた。
「そう。主府からよ。あなたは?」女が返す。陸軍との取引が早くすんだので久々の骨休めだと、男が短く言葉を濁しながら、男がそろりそろりと躙り寄り、女の足首を太股まで引き上げた。女は抗わない。指の一本一本まで及ぶと女の荒い息づかいが、もはや、男に届く。
話の続きを女が引き取った。「主府は空襲で大変よ。生き地獄だわ。こころも身体もへとへと。こんな戦争をなんでしてるのか、さっぱり解らないわ。夫は四年前に戦死したのよ。髪結いの亭主でも、死んでしまえば女も脱け殻だわ。美容院を畳んで疎開しようにも縁者があるわけでなし。実家も主府で、焼夷弾の直撃で丸焼け。母親も妹も焼け死んだ。父親は早くに病死していて。誰にも頼れない。ままよと、開き直って生きているんだわ。同業の二人と湯治に来たの。贅沢禁止で、お店も閑古鳥でさっぱりだし。皆目、明日の判らない時勢だもの。生き残ったこの身体が一つ切りでしょ?。せいぜい養生しないと。あなたは食事付きでしょ?」「自炊は安上がり
だから半月はいるわ。おいくつ?若いのね。何もかもご立派だし。結婚されてないの?仕事に?ますます頼もしいわ。志が大事よね。私なんかもう乳母の桜。誰も見向いてなんかくれない大年増だわ。美容院なんて女の園で、男っ気なしなんだもの」
最も大事なリンパへの動脈などと言いながら、いつの間にか男の狡猾な指は女の太股を揉んでいる。そして、女の足裏は、ずいぶん前から勃起した男根に微かに触れているのである。時折、女が指を動かしながら久方ぶりのたぎる感触に耽溺しているのだ。
あられもない姿態は、いつの間にか、手拭いもよじれて、女陰の半分を曝している。
「こんな揉み療治って初めてだわ」続けて、紀子だと、女が名を告げた。男も名乗った。
いよいよリンパの直の治療だからと、男に促されるままに、女は仰臥して、股間を改めて手拭いで覆った。そこに、男が自分の手拭いを重ね、重ねて療治を装った。我に帰ったのか、豊かな乳房を女が初めて両手で覆う。
「あなた?時間は大丈夫なの?そうなの。ありがたいわ。私も昼間に、過ぎるほど寝たし。連れの二人も、この時間は絶対に起きないから、ここに来ることもないし」と、督促を重ねる風情なのだ。
男が痛めた足の太股の付け根を、これが最も大切なリンパだと言いながら、丹念に揉み始めた。やがて、盛り上がった女陰の縁にまで指を這わせる。繁茂する陰毛の森の端が男の指に触れる。
女が自分の手の甲を噛んだ。片手でリンパを揉み続けながら、ウィスキーを飲む。両方のリンパをもっとしっかり揉む必要があるからと言って、足を開くように催促するのに応えて、女が股を大きく広げた。
その太股の間に男が尻を移すと、眼前に熟した肉の塊が乱れて息づいている。両手で両のリンパを揉み続ける。
最後の止めを焦ってはならないと言い聞かせて、男はウィスキーを一気に含んだ。女は何も言わずに、無防備に股を広げたままだ。再び両手で両のリンパを揉み続ける。 女が乳房を覆っていた両の手を静かに動かし始めた。男が女陰の両端からじわじわと攻めあげる。女が立て続けに呻く。揉み上げながら、遂に両手で女陰を覆った。
「ここで両方のリンパが繋がっている。女の最も大切なところだ。男なら陰茎だ。だから子供が産めるのだ」などと講釈して、盛り上がった肉をねっとり
揉み続けるのである。
女は何も言わずに、乳首を指で転がし始めた。女陰に似た厚い唇が半開きだ。
膨らんだ陰核を手拭いの上から指でなぶる。女が痙攣した。「そこも凝ってるの?」と、震える声で、その手に女が手を被せる。「これが下半身のリンパの頂点。最も鋭敏なところ。男には亀頭に当たり手で触ってもならない。本来の治癒は口でするものだ」と、言う男の言葉に「喉がカラカラだわ。あなた、お酒飲んでるんでしょ?私にも頂戴な?」と言い、半身を起こして、直立に勃起して裏側を見せている男根を盗み見ながら、瓶からそのまま飲み、「おいしい。上等なウィスキーね。今頃はなかなか手に入らないわ」と、溢れたのか、わざと溢したのか、ウィスキーを乳房に塗りたくる仕草を見せるのであった。
絹枝の魔性3️⃣