空席
そこには誰が坐っていたのだろう
誰が、坐るべきだったのだろう
おもむろに顔を上げると
その誰かと目が合ったような気がして
得体の知れない毒々しいものが
忽ち迫り上がってきて
途端に自分が
替えの利く消耗品だったということを
背中に押される烙印のように
痛々しい熱をもって自覚させられる
悠然とした面持ちで期待と失望の均衡を保つことは
掌で踊らされている確証のない人間には
到底出来ない業で...
その熱の正体が、源泉が
明確な悪意だと肌で察する時
漸くながい眠りからさめたかと思うと
こんどは平均律を乱すことばかりに気を取られてしまう
踊っている振りをしながら、踊らせていることに得意顔になって
はじめからどこにも救いなどないということを
恰も自分だけが知っているという體で
背後に潜む歪な影に、誰も気が附くことが出来ずに
空虚な戦略だけが目の前で、泡沫の如く飽和していく
空席