空席

そこには誰が(すわ)っていたのだろう

誰が、坐るべきだったのだろう

おもむろに顔を上げると

その誰かと目が合ったような気がして

得体の知れない毒々しいものが

(たちま)()り上がってきて

途端に自分が

替えの利く消耗品だったということを

背中に押される烙印のように

痛々しい熱をもって自覚させられる

悠然とした面持ちで期待と失望の均衡を保つことは

(てのひら)で踊らされている確証のない人間には

到底出来ない(わざ)で...

その熱の正体が、源泉が

明確な悪意だと肌で察する時

(ようや)くながい眠りからさめたかと思うと

こんどは平均律を乱すことばかりに気を取られてしまう

踊っている振りをしながら、踊らせていることに得意顔(したりがお)になって

はじめからどこにも救いなどないということを

(あたか)も自分だけが知っているという(てい)

背後に潜む(いびつ)な影に、誰も気が附くことが出来ずに

空虚な戦略だけが目の前で、泡沫(うたかた)の如く飽和していく

空席

空席

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-08

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