金魚

死んだ金魚

金魚が死んだ

丸い水槽にプカプカ浮いて、一匹だけ軽くなって死んだ。

掬い出してあげても、少しも口をパクパクさせなかった。

他の金魚達は、皆元気に泳いでるのに、この子だけ死んだ。

まだ寿命じゃないはずなのに。

小さな金魚を握りしめて、庭に埋めた。大粒の雨が降っていて、土の中に埋めたけど、きっと息苦しくないだろうと思った。

ふと、パチンコ店の駐車場を挟んだ所にある、歩道で皆が歩いてるのを見つけた。

同じ学校の、皆。

仲良しの5人組だったけど、一昨日ゆきちゃんが死んで4人になってた。

皆は、こっちに気付きそうも無かったから、部屋に入って大好きな漫画を読むことにした。

だけど、剣士が死ぬ度に手を止めて、天井を見つめた。

何にもないけど、頭の中は疑問でいっぱいだった。

手を伸ばして、天井に届くように頑張ってみるけど、漫画が地面にボサッと落ちたから、上を向いたまま腕一本だけ動かして拾ってみる。

金魚が死んだ。

当たり前みたいに思ってるし、時間も過ぎていくけど、理由も無く金魚は死なない。

昨日エサだって、ちゃんとあげたし水槽だって綺麗にした。他の金魚はちゃんと皆泳いでるし、水槽から顔を出して口をパクパクさせてた。病気で死んだの?それとも、新しい環境が嫌だった?

考えても考えても、そう言えばもう分からない。金魚は埋めちゃったし、解剖だってできないし。

ゆきちゃんが死んだのだって理由があるんだろう。

学校の先生も、お母さんも誰も教えてくれなかったけど。

理由無く誰も死なない。

ゆきちゃんのことで考えていたら、カチャンと玄関のカギが開く音がして、お母さんがスーパーの袋を沢山抱えて帰ってきた。

「ごめんね〜、遅くなって」

大好きな母さんのふわふわのニットに身を埋めて、今が8時だって知る。
唐揚げの匂いが漂ってきて、お腹が大きく鳴って、今日の晩ご飯は大好物だって知る。
「今日は大好きな唐揚げだからね。お惣菜だけど、ごめんね」

ごめんね、の意味が分からない。大好きな唐揚げを、お母さんと一緒に食べられるのに。



夜お母さんが横にいて、眠るまで側にいてくれる気がするんだけど、いつもお母さんが先に寝ちゃうから、起こして、布団まで連れて行って、その後天井を見ながら眠る。


夢の中で、ゆきちゃんに会った。


「起きたら、死んでたの。」

ふわふわ白い髪の毛のゆきちゃんがそこにいて、白いワンピースに包まれて、ゆきちゃんの周りにはタンポポが飛んでて、足元には雲みたいな雪みたいな白い空気みたいになってて、その上に浮かんでるみたいだった。

「でも、何にも覚えてないの。時々、ここにいると一人ぼっちだなって思う。だけどポカポカして暖かくていい気持ち」

ゆきちゃんは幸せそうだったし、左手に持った星のついたステッキはキラキラ輝いてるし、すごく眩しくてその光でゆきちゃんの周りを明るく照らしてるし、何だか凄く大きな人に見えた。

「会いにきてくれて、ありがとう。」


目を瞑っちゃう程の光で、チカチカして、何も言えなかった。


急に暗くなって、目を開けたら真っ暗闇で、ゆきちゃんもいなくって、そこが自分の部屋だって気づいたのは少し後だったけど、ゆきちゃんに会えて嬉しかった。


もし、ゆきちゃんが明日死ぬって分かってたら、沢山話しかけたのに。 

どこか痛いところは無いか、聞いたのに。

ゆきちゃんは遠慮するから、「何でもないよ。」って多分言うけど、教えてくれるまで、聞いたのに。


隣の隣のクラスまで、毎日会いに行ったのに。


理由がない人なんて、いないから。

金魚

金魚

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-08

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