泥濘

囁きかけるような葉ずれが聞こえる

なにを伝えようとしているのか

どうして僕に伝えようとしているのか

わからないまま、ただ足を進めている

(むご)たらしい現実を前にしては打ちひしがれて

波間に潜んでいるときでさえも上手く呼吸ができない

潮鳴りのような葉ずれに責め立てられて

歩きながら溺れているような心地で

踏みしめられない泥濘(ぬかるみ)の中で

必死になにかを呼び覚まそうとしていた

気がかりだったことを気のせいにしたのは

失うものを、これ以上増やしたくなかったからだろうか

未知の限界を明らかにしようとしたのは

器に(ひび)が入ることに怯えていたからだろうか

あの時、どうしても伝えたかったことは何だ?

いつかの面影が古ぼけた写真のように眼裏(まなうら)に過ぎる

刹那主義に侵された君の目は、誰にもわからない深い哀しみを(たた)えていた

泥濘

泥濘

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-07

Copyrighted
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