泥濘
囁きかけるような葉ずれが聞こえる
なにを伝えようとしているのか
どうして僕に伝えようとしているのか
わからないまま、ただ足を進めている
惨たらしい現実を前にしては打ちひしがれて
波間に潜んでいるときでさえも上手く呼吸ができない
潮鳴りのような葉ずれに責め立てられて
歩きながら溺れているような心地で
踏みしめられない泥濘の中で
必死になにかを呼び覚まそうとしていた
気がかりだったことを気のせいにしたのは
失うものを、これ以上増やしたくなかったからだろうか
未知の限界を明らかにしようとしたのは
器に罅が入ることに怯えていたからだろうか
あの時、どうしても伝えたかったことは何だ?
いつかの面影が古ぼけた写真のように眼裏に過ぎる
刹那主義に侵された君の目は、誰にもわからない深い哀しみを湛えていた
泥濘