闇の女帝

闇の女帝


-卑弥呼異聞-

 大陸の歴史書に名を残しながら、未だに天皇と認定されない古代屈指の女王、卑弥呼。年代から類推すれば神劫皇后なのだし、江戸時代には『卑弥呼神劫皇后説』が喧伝されたとも聞くが、今時では唱える者はいない。タブー化しているのか。そうであるならば、なおさら、私は創造力を逞しくして、私の卑弥呼像を創るばかりだ。

 卑弥呼は九〇まで生きたというから頑健で早熟な女だった。この時、世界一のスーパーウーマンだったろう。
 一一歳で初潮を迎え、一四歳で一族の長の実父の子を出産した。男子である。一六歳で実兄の子を孕んだ。
 この一族は中国沿岸部からの渡来人である。父子、母子、兄妹、姉弟などで力のある者との近親相姦は、権力者の特権として認められていた。強い血を継承する為である。彼らはできる限り濃い血を求めた。そして、近親相姦の危険性も、実証で知っていた。
 負を遺伝した者は直ちに抹殺されたのである。彼らにとっても、血の継承は危険な賭けだったのである。

 さらに、卑弥呼はニ六歳で実父の子の子供を産んだ。孫を自分で産んだのだ。三八でその孫の子を出産した。

 その間、各地の豪族一五人の子を次々と出産した。その子供や孫達とも交合した。卑弥呼は八ニ歳まで、毎日、交合した。単純計算で2万回以上である。しかし、売春を生業とする者と比べれば、性器の使用回数はそんなに驚くべき事ではない。むしろ、性交の実態にこそ卑弥呼の秘密があった。
 卑弥呼の性交の技巧は政治的使命であった。そして、卑弥呼の「鬼道」は、まさに性交の密教だったのである。これが邪馬台国成立の根源である。
 卑弥呼は大乱収束の談合に集まった豪族の長たち一〇〇人と瞬時に交わった。卑弥呼は彼等の共通の女であり、卑弥呼との性交は「共立」の絶対条件であった。

 この卑弥呼の生涯は古事記に濃密に反映されている。
 卑弥呼が生きたのは紀元ニ〇〇年代であり、古事記が完成したのが八〇〇年である。神道の根元は氏神信仰である。まさにこの時間の蓄積は、卑弥呼を神とするに十分な条件である。古事記の作者には卑弥呼が偉大な神として伝承されていたのだろう。
 古事記でいう神劫天皇が卑弥呼である。そして天照も卑弥呼の伝承を多くまとっているだろう。邪馬台国統一はそれほど壮大な事件だった。

 では、神劫天皇、すなわち、卑弥呼が現在の天皇家の先祖なのか。全く違う。
 万系一世などは一笑にふすほどの不毛な幻想だ。天皇家の家系はどこの家と同じ様に、切断され貼り継がれたものである。
 そして、現在の天皇がある人々に忌避される様に、縄文の人々は全面的に卑弥呼を拒否したであろう。
 性を統治の手段とはしない、いわゆるエミシの無辜の人々には、卑弥呼は化け物に写ったに違いない。北方の私の始祖達は、文化的になびく必要も全くなかった。食料や衣服、火や薬を産み出す山河、日用の縄文土器、祭祀の土偶、どれをとっても西方の異境よりも豊かで勝っていたからである。卑弥呼が誇った銅鏡すら縄文の古里の水鏡には劣ると考えたであろう。
 この時の縄文の人々には自らを言い表す名前がない。せいぜい、侵略者のヤマト調停に刻印されたというイミシやマツロワヌモノである。卑弥呼を祀ろわない、奉ろろわない者達だ。
 私はこうした始祖達を、万感の尊崇を込めて『カムイ』と名付けよう。
 カムイとヤマタイ、ヤマト王権は全く別な民族である。
 東日本と西日本では、そのDNAが違うという研究がある。それ以前に顔が全く違う。琉球、薩摩隼人、京都人、東北人(エミシ)、アイヌ人の顔は全く違うではないか。
 カムイはアミニズム、狩猟の民だ。ヤマタイは人間崇拝、農耕集団である。
 宮城県北部一帯迄にはアイヌ語の地名が山程ある。一方、奈良は韓国ハンナラのナラ、国の意味だ。
 西日本、とりわけ九州には漢字一字の姓が多い。『部』の付く姓も西日本だ。反対にカムイでは三字や四字もある。北方の特徴だ。
 カムイはヤマタイの一〇〇倍の人口を擁していた。カムイは北方やシラギ、ヤマタイはクダラ、中国と交易した。

 なぜ、統一帝国、邪馬台国が成立したのか。シラギと交易する先進文化地域の出雲から、新潟を支配するシラギ民族のスサ国と対抗する為だ。卑弥呼のアマ族はクダラ民族で、九州、瀬戸内海、伊勢から上陸し攻め上った。
 両勢力は列島中央で激突した。この戦いを勝利する為に大連合、すなわち、邪馬台国が結成されたのである。
 そして卑弥呼は勝利し、スサ族の長のスサノオは処刑された。敗退したスサ族の一部は長野に立てこもった。諏訪大社の起こりだ。
 その後、邪馬台国を災害や飢饉が襲い、スサノオの祟りだとした卑弥呼は出雲大社を建立し霊を鎮めたのである。


-アブクマと女帝-

 「お前達エミシという者は、この世で稀に見る貪婪な奇獣だと聞いたぞ」
 精悍な若者のはだけた毛皮から剥き出しの、そりかえった桃色の男根に視線を凝固させながら、「随分と異形だな」と、女帝が紅い舌を覗かせた。「猪の様に息が臭いともな」と、呟いて、淫靡な視線でアダタラの全貌をなめ回すのである。

 この女、女盛りのクダラ人のキムニョは、後に武艷皇后と呼ばれる女帝だが、史記にもその記録は、一切、ない。
 エミシの勇者アブクマは、後ろ手の手鎖に囚われ、半裸の屈辱に耐えながら、意を決して男根を猛らかしているのである。アブクマと共に俘虜になった同族の数十名が牢獄に繋がれている。既に、戦いには破れ永年の反抗は終焉していた。アブクマの最後の抵抗なのである。
 「しかし、お前は違う。大陸の草原の狼の匂いを漂わしている。エミシは皆、こうした臭いを放っているのか?」「それともお前だけが特別なのか?」「だが、猛き蒼き、若き狼よ。雄々しき首領よ。お前は、私が遣わしたヒノタケルとの戦いに敗れたのだ。
 お前の数々の武功を惜しみなく讃えようとも、最早、お前は私の哀れな虜囚に過ぎないのではないか。戦いは終わったのだ。ここに至っては、どうだ。若者よ。賢明なる狼よ。私の従順な犬になるなら許してやってもいいぞ」唇を濡らした女帝の言葉は、しかし、アブクマには、まったく、通じないのである。

 毒蛇の酒をすすり、長い金煙管で麻薬草を吸いながら、呪文の様な言葉をさらに陶酔に揺らして、女帝はアブクマを傍らに招いて四つん這いに侍らせた。
 蝉時雨が女帝の劣情をことさらに刺激するのである。

 「アブクマよ。お前こそが恐れを知らぬ蒼き狼と讃えられた、決して、まつろわぬ民、私を讃えぬ民、エミシ一の勇者だというのだな?」「エミシの高貴な血を引く、猛る頭領だと言うのだな?」「さもあらん。これ程の見事な鋼の身体は見たことがない」
 「皆のもの。勇者を讃えよ。勇者を讃えよ」と、その後は呪文を唱えながら、アブクマに酒を振りかけた。

 「敵将ながら、その戦い、若武者りは見事、あっぱれ。誉めてとらす。ならば、お前にも私の秘奥を見せてやろう」と、女帝が錦の着物の帯を自ら解き、はだけると、真裸だ。
 真っ白い豊潤な肉の塊である。睥睨するばかりの豊満な乳房、桃色の腹に縦長の臍。
 女帝が放埒な太股を大胆に開き、男の眼前に陰湿な女陰を晒した。赤い陰毛に覆われた外陰唇がありありと広がる。鬱蒼とした森の裾野に葡萄色の熟した肉の本質を誇る、両開きの秘密の扉だ。豊かに厚く盛り上がり鬱勃と火照っている。
 女帝がそれを指で開くのである。やがて、内陰唇も暴露するばかりか、深奥の深紅の肉を全て曝して、扉が開き切った。
 「どうだ?」自らの人指し指を入れた。熱い淫液がまといつく。さらに中指を参入させる。閉じようとする外陰唇が絡み付く。指を性器と対話させる様に緩慢に出し入れする。潤沢に湧き出る淫液を陰毛に擦りつける。歴史の勝者が敗者の獲物を迎え入れ様としていた。

 「さあ、これを舐めるのだ」女帝が命じた。
女帝の指示に、真実は躊躇いながらも、終には隷属する奴婢をしたたかに装いながら、アブクマが女帝の股間に頭を埋めた。 女帝は死地に臨んだ若者の、覚悟の動きに驚きながらも、直に陶酔に誘われていく。そして、いつの間にか男の視線などはとうに忘れ、もはや女の意識は、単純で淫靡な自らの行為にのみ隔絶されていく。
 白日の下に、絶対に隠蔽すべき陰湿で醜悪な痴態をまざまざと露見させて、その妖しい解放がもたらす被虐の言い知れぬ痙攣する快感が、鬱勃と、まるで発情した肉食獣の襲撃の様に、次第に毛細神経まで陶酔させ麻痺させる。

 「今度は私がいたぶってやる」と、アブクマの最後に残された武器をくわえた。やがて、亀頭から唇を離した女帝は、はだけた尻を揺らしながら、深々と挿入したのである。

 女帝がアブクマの手鎖を解いた。口を吸う。「そう。そこよ」絡めていた紅い舌を離した女帝が、男の耳朶を濡らしながら、「そこに嵌めて」と、途切れ途切れに呻いた。
 しかし、異国の女の野卑な言葉は異民族の若者には通じ様もない。雌と雄の本能だけが二人の触媒だ。
 若者は北の国の勇猛な武将だが、今や俘虜である。ニ〇歳も年の違う異民族の青年を組み敷いて、女帝は太股を大きく開き両膝を折って腰を浮かせる。
 女の段々に膨れた下腹が火照っている。

 「貴方のよ」と、女帝の女が虚空をさまよいながら叫んだ。
 盛夏の最中なのに、晩秋の哀歌の一節の様な掠れた声音であてどもなく応えるのである。

 「あなたの犬になって射精されたい」と、女が男根を弄びながら媚びた。
 「女帝?違いはないけど。権力と権威の衣を脱ぎ払ったら、私は女。盛りのついた、ただの雌犬なのよ」と、さらに、喘ぐ。眉間に深くシワを刻み、情念を淫らにほとばしらせて切れ切れに喘ぐ。

 女帝が異人の男の前では四つん這いになるのは初めてだった。
 アブクマが立ち膝で挿入した。原始のヒトの雄はこうして雌を征服し受胎させたのだ。女も雌と化し、真昼の豊潤な尻をゆらゆらとくゆらして、熾烈に反応する。しかし、女は決して受胎しないだろう身体だ。ただ快楽に耽溺しているのだ。
 「ぶって」と、女帝がせがむ。女は再び深奥の特異な秘密を暴露したのだ。そうした性癖を持たない男が尻を叩くと、喜悦の悲鳴なのか、狂ったように悶絶する。そして叩き方の強弱を指示するのだった。
 「お前は私の何が好きなの、それとも私の身体だけを求めているの」「それはそれでもいいんだけど」「私の心は放置されたままじゃないの」若者に女の言葉は通じないのだ。
「お前が望むならこの国をあげるわ」
 やがて、悶絶する女陰から抜き出した、異人の英傑、アブクマの男根が女帝の後門を貫いた。


-終-

闇の女帝

闇の女帝

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 冒険
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-07

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