絹枝の魔性1️⃣
絹枝の魔性 1️⃣
-絹枝の供述-
一九四三年の盛夏の茨城である。
老舗の醤油製造会社の若女将の衣絵が外出中に、夫と義父母の三人が惨殺された。そして多額の現金と貴金属の全てが奪われた。戦時下とはいえ、古色蒼然の小さな町では、かってない程の大事件である。
ただ一人助かって遺産の全てを相続する嫁は、浮気で出かけていたという、どこまでも尾ひれが連なる風聞が瞬く間に広まった。遂には、町議会議長でもある大株主の一族の長老が、郎党の疑念と確執を決済した。衣絵は取締役常務を非常勤相談役に退き、経営には参加しないというものだ。長老が新設の会長に就任した。絹枝はこの男の女になるのを既に密約していた。
実際は衣絵は現場にいたのだ。通報を受けて駆けつけた警察官に納戸で発見された。破れた黒い下穿きだけの豊潤な裸体を縛り上げられ、目隠しをされ猿ぐつわを噛まされた、異様な姿態であった。
性交の痕跡が明らかに認められた。陰毛が剃りあげられ膣には大量の精液が残っていた。そして首には手で絞められた痕があった。夫婦の寝室の派手な布団の周囲には、フィルムが抜き取られたカメラ、看護婦の制服、性具、様々な交合の写真が散乱していた。布団は濡れていた。 夫の死体は押し入れで、裸で発見された。別の寝室で発見された舅と姑の死体も裸で、性交の痕跡があった。枕元に写真と性具が転がっていた。警察は、医師の判断や衣絵の供述と声涙の懇願を、申告通りに認めた。
それにしても絹枝の供述は衝撃的だった。
「夫と一一時頃から性交を始めた。看護服を着て写真を見たり性具も使った。夫が縛った。目隠しも猿ぐつわも夫がした。下穿きを破ったのも夫だ。首を絞めたのも。射精されて悶絶していた。
気がついたら夫のとは違う男根が挿入されていた。巨根だった。そのうちに、また朦朧としてきて。ところどころしか記憶にない。何度も射精されたような気がする。次の男にも何度も射精された。やはり巨根で男根に大きなイボが幾つもあった。二人とも若い男だと思うが、すべて闇の中の出来事で、男根としか接していない。乳房を握った手は硬くてごつごつしていた。二人ともにんにくのきつい臭いがした。朝鮮人のような気がする。二人目の男が、最後に男根を舐めさせるために猿ぐつわを外したので、し終わったら殺されるかも知れないと思い、助けてくれたらあなたの女になると、咄嗟の命乞いをした。そして、二人の男に、女陰と肛門に同時に挿入されて気絶した。納戸に引きずられていた時はかすかに白んでいたと思う。
見つけてくれた従業員に教えられるまで、三人が殺されているのは知らなかった。夫は看護婦姿の写真を何枚か撮った。男達が撮ったかどうかはわからない。毛を剃っていたのは夫だ。布団が濡れていたのは私の小便だ。法悦の時の性癖だ。写真も性具も夫の楽しみで慣らされた。毎晩のように交わっていた。子供がいなかったせいかそれほど睦まじかった。姑ともうまくいっていた。離婚などためにする噂だ。いろいろ言う人もいるらしいが商売上の妬みだと思う」と、絹枝は自らの恥も包み隠さずに、全容を申し立てたのである。土蔵の隅の現像室で、数台のカメラと膨大な写真や性具、セーラー服も発見された。老舗の名家の二組の夫婦の寝間の秘密が、余すことなく散乱した。
警察は、絹枝の悲惨な暴行と故人の特異な性癖、この家の秘密の一切を秘匿するために、妻は親戚への外泊で不在だったとしたのである。夫と舅は頚椎を折られて絶命し、姑は窒息死だった。顔に濡れたタオルが放置されていた。警察は、犯人は二人組であり、中肉中背で二十歳前後、少なくとも一人は余程の怪力の持ち主で、強盗が目的であり強姦は成り行きの駄賃か、と予断した。怨恨か流しの朝鮮人説も有力だ。 その頃、町に近い隣県の鉱山で徴用朝鮮人の騒動や脱走が相次いでいたのである。女だけが殺されずに残った疑問を漏らす者もいたが、黙殺された。閨房と強姦の恥辱もかなぐり捨てた絹枝の詳細な供述は、信憑性があると判断されたのだ。絹枝と町の実権者の町議会議長の関係は誰も知らない。
-殺意-
四九日法要が済むと、衣絵は追われるように、しかし町を離れるといそいそと、県境の温泉宿に入り、待ちわびていた新会長の長老と爛れた情欲に溺れながら、速やかな復帰を確約させた。
全てを為し終えて、岩手の地主の実家に戻った女は、後妻に逃げられてからは独り身の病床の父親と兄に短い挨拶を済ますと、兄嫁が差配する生家を辞した。すでに隣村に兄が借家を手配している。故人の供養をし、しばらく辛酸を癒すという口実だった。
村の荒れ寺には、地主の尽力でつい最近に住職についたばかりの僧がいた。 絹枝とこの怪僧、二人は果てるとも知らない、凄まじい性交をした。絶頂の最中に首を絞め合うのだ。絹枝の、尋常ではない性癖である。教えたのは樽川だ。
-墓石の下-
一九三一年。戦争に向かう高揚と不安が錯綜する、北国のある町の盛夏である。
陰惨なその事件は、盆踊りの広場から女を呼び寄せ、耳許で囁いた男の一言で幕を切った。浴衣の放埒な若い身体に言い寄ったのは、夜店の河童の面をつけた頑健な若者だ。やがて、盆踊りを抜け出た、放埒な尻を振る二十がらみの二人の女と、愚連隊仲間の若い二人の男が、鎮守の森の月明かりの石段を上って行く。やや遅れて、少し年下の青年が後をつけているのを女達は知らない。
たちまちに、神社の縁の端と端で、二組の男女が代わる代わる性交した。脅迫の上の強姦だったのか、情欲の合意だったのか。何れにしても三人目のその青年は境内の月明かりに佇ずんで、その光景の一切を目撃していた。饗宴を満喫した樽川が、「お前はしないのか。地主の娘を犯したくないか」と、極貧の小作人の息子をそそのかした。ただ黙し続ける青年を残して、不良の兄貴分の二人は石段を降りた。神社の縁に、乱れた身体をふしだらに投げ出した二人の女と青年が黄金色の月明かりに残された。
絹枝は地主の娘であり、もう一人は後に教師になる女で校長の娘だ。宮実という。二人とも県の師範学校の学生である。帰省した絹枝の家で、飽いた女同士の身体をまさぐり合いながら、怠惰で長い夏休みを過ごしていた。
-樽川の殺人-
神社の縁の片端で絹枝は浴衣を脱ぎ払い、樽川も真裸になった。二人は抱き合って互いの口を吸う。女陰と男根をまさぐる。「本当に見てたの?」「見た。お前の継母と一緒に」「あの女と何をしてたの?」「べっちょだ。お前の父親と結婚する前から、あれは俺の女だ。あの女が言ってたぞ。お前たちは女同士でやってるんだってな?」「女なんか好きじゃないわ。あの女がやりたがるんだもの」「男とはやったのか。初めてやったのはいつだ?」「異人の、あの男よ」「良かったか?」「とっても。気が遠くなったわ」「大きかったか?」「凄く。太かった」「これと、どっちがいい?」「この国の男は異人には敵わないわよ。何もかもよ。勇ましいことを言ってるだけ」「でも、嵌めてみなければ判らないわ。べっちょで測ってあげる」「その前に前戯をいっぱいして。濡れたら、入れて」
縁の向こう端では、樽川の兄弟分の不良が、青いスカートを脱ぎ捨てた、やはり豊満な宮実の全裸に背後からせわしなく挿入している。甲高く喘ぎながら、嵌まった男根を撫で回して、宮実がこちらの二人を見ている。
「見せつけけけてやろう」「そうね」「あいつは、ただ嵌めるだけの、とんま野郎だ。味も素っ気もない。俺は違う」「あの女も、嵌めたがりだけのバカ女よ」
黙ったままで指図する男に従って、青いスカートを脱ぎ払うと、黒い下穿きがはち切れる女の肉を窮屈そうに隠しているばかりだ。男がそれをむしり取った。女は命じられるままに、勃起した男根に口でコンドームを被せてから横たわり、真裸の股を広げた。たちまち、すっかり濡れた女陰が男根を根本まで呑み込んだ。激しく吸いあって、息が苦しくなった唇を離して、宮実が初めて口を開いた。「さっき、突然に絹枝に言われたんだわ」「あの事を見られたから、あの二人にやらせるしかないって。あなたも見てたの?」「俺は見てない。あの男から聞いただけだ」「あなた達は私達を選ぶのをじゃんけんで決めたわね」「俺が勝った」「何で私に決めたの?」「初めて見た時から、お前とやりたかった」「どこで見たの?」「街の百貨店だ。そんな事より、あの二人を見てみろ」「絹枝が舐め始めたわ」
「やっぱり、生でやるぞ」「私もその方がいいわ」「いいのか」「今日は安全日よ」男がコンドームを取り払って再び侵入させた。「どうだ?」「やっぱり、こっちがいいわ。形がはっきりわかるもの」「俺のはどうだ?」「大きい。私のは?」「凄く濡れてる。いつからだ?」「盆踊りで会った時からよ」「俺とやりたかったのか?」「すぐに嵌められると思ってたわ。あなた。見て。絹枝が口でコンドームを被せてるわ」「お前がやったのを見て真似たんだろ」「きっとそうだわ。あの女は何でも私を真似るのよ」男の動きが激しくなった。「射精したいの?」「嵌めっぱなしで何発も出してやる」放出の後も、法悦を漂う腟を男根が間断なく蹂躙し続ける。「凄いわ。絹枝とも、こんなこと、やるの?」「悪いか」「私もあの男に嵌められるの?」「やりたくないのか」「これがいい。ずうっとこのままでいたい」「俺が好きか?」「とっても」「あいつとどっちがいい?」「あなたに決まってるわ」「あの男は俺の手下だ。みんな、俺の思いのままだ。俺はこの国の者じゃない」「何処なの?」「半島だ。俺の女になるか?」「なるわ」「これは誰のだ?」「あなたのよ」二人は明日の約束を交わした。「あなた。また、いく。これで、3発目よ」
朦朧と心を放った宮実の芳醇な乳房を樽川が愛撫した。膨れた紫の大きな乳首を噛む。女の紅潮した桃色の肌が汗にまみれて、月明かりに艶めいている。一陣の風が吹き渡った後に、宮実が口を開いた。「あの女より肥ってるでしょ?」「お前の方がいい」「絹枝のはどうだった?射精してきたんでしょ?気持ち良かった?何発出したの?」「一回だ」「未だ、やらないの?嵌めてもいいわよ」「あいつ、生でやらなかったか?」「そうよ」「出したんだろ?」「いっぱい」「コンドームを渡したろ?」「だって、生は嫌だって言っても。気持ちいいからって。言うこと聞かないんだもの」「良かったか?俺とやりたくなかったのか?」「やりたかったわ」「あなたの方が好きなんだもの」「だったら、何で?」「だって。無理矢理に犯されたんだもの。仕方なかったんだわ」「あんな奴が出した汚いのには嵌めない」
宮実が男の股間を探りながら、「小便したいの。すればみんな流れるわ。小便するの、見てていいわよ」
神社の裏手で一部始終を見届けても、男は挿入しない。「あなたのを舐めさせて」女がしゃぶりついた。「そうよ。あの男のより凄いわ。あの女の臭いがするわ」「ほんとは先にお前と嵌めたかった」「本当なのね?」「じゃんけんで負けたから仕方なかった」「嬉しい」「明日、二人っきりなら、填めてやる」
「私もやりたい。口に出して。みんな呑みたい」樽川が女の口に射精した。宮実が寸分残らず飲み干した。
「金玉見せて。舐めておっきくしてあげるから」絹枝が樽川の男根を含んだ。「随分おっきくなるのね。驚いた。あの異人と同じくらいだわ。硬い」
女が口でコンドームを被せた。射精の最中に、翌日に二人きりで会う約束をした。
樽川が離れて、今まで宮実と交わっていた男と入れ替わった。絹枝は、その女の臭いのする巨根を吸いながら、次の日にも身体を与える秘密の睦言を交わした。
翌日の真昼の神社の縁で、真裸の男の下で、真裸の絹枝は、予想外の長い性戯に溺れている。男は絹枝の女陰を解放せずに、三度目の射精に励んでいる。 「俺のと樽川のと、どっちがいい?」「これよ」「生がいいだろ?」「剥れてる形がはっきりわかるもの。熱さも。生がいいに決まってるわ。妊娠しない日だもの」「あいつはバカだ。律儀にコンドームなんかして」「夕べ、宮実にも生でやったの?」「始めは被せてたけど。あの女が生がいいって。妊娠しない日だから大丈夫だって」「何発出したの?」「三発」「あの女の中はどうだった?」「イボイボがいっぱいあって。締まりが良かった」「憎らしい。私のは?」「やっぱりイボイボが絡み付いてる。吸いつかれてるみたいだ」「あの女のと、どっちがいい?」「これだ」「嬉しい。もっとふぐりをぶつけて」「何回も出して欲しいか?」「何発もやりたい。いっぱい出して」「この後にあいつともやるのか」「やらないわ。あなたとだけよ」「樽川とはもうやらないか?」「絶対に嵌めないわ」「俺の女になるか」「して」「こ
れは誰のだ」「あなたのに決まってるでしょ」。女は朦朧とする意識の中で、もし樽川が来てしまったら、昨夜のように三人で交合すればいいのだなどと、淫乱な身勝手を決め込んで、何度めかの淫埒の境地を漂い始めた。
「太いあなたの金玉が最高よ。また、いきそう。出して。いっぱい奥に出して」
時間より早く来て、ある瞬間から二人の交合を見おろしていた樽川が、日頃から持ち歩いているナイフを取り出した。虚ろな目でそのただならぬ殺気を捉えた女が、射精を終えて腹の上でだらしなく弛緩している男を、やにわにはね飛ばした。咄嗟に、「犯されてたのよ」「あなた。助けて」と叫び泣きわめいた。樽川がナイフを構えた。
「殺して」女の叫声が破裂した。濡れてふやけた男根を茫然と晒している不良仲間の男に、樽川が飛びかかり、やにわにナイフを突き刺した。一撃で刺殺してしまったのである。
裸の女が茫然とする樽川の腰にしがみついた。「嘘をつかれて呼び出されたの。さんざん抵抗したんだけど、無理矢理犯されたの。許して。でも、私はあなたの女よ。夕べ約束したでしょ。このべっちょはあなたのものよ」
二人は神社の古い墓石の下に、爛れた絆を確かめるようにして、男を埋めたのだ。
それから三日間、狂気のあの瞬間を、もっと激しい情念で忘却させるが如くに、二人は獣の有様で交わり続けた。
殺人という途方もない契機で縁を結んでしまった二人は、その業の扱いに煩悶しているのだ。
その時も、劣情をあからさまにして、巨根を突き上げていた樽川が、何かの調子に女の首を絞めた。怪訝な面持ちの女が、「殺すの?口封じ?いいわよ。殺したいなら、殺していいわよ。生きてたって大して面白くもないんだわ」さらに強く絞める。たちまち、男根に膣の肉の全てが絡み付いた。女陰に似た半開きの唇が、享楽の戯れ言を繰り出す。男は、初めて感じる悦楽に浸浸りりながら、さらに強く首を絞めた。もはや、性の戯れなのか、殺意の兆しなのかさえ判然としないのだ。
やがて、股がった絹枝も、命じられるままに男の首を絞め始めた。「もっと?殺したい位に強く絞めるの?こう?もっと?」「こう?」男も女の首を締め上げている。女が喘ぎ続ける。 「私のが、変わったの?」「締め付けてるの?」「初めてなの?」「あなたのも凄いわ。どんどん変わってる。太くなってる。硬くなってる」
男も女も互いの首を限界まで絞め合いながら、激しく痙攣して男根に絡み付く女陰の奥深くに、決して結ばれはしない絶望を放出したのである。
そして、二人が互いの秘密を明かすことは、決してなかった。自己本意の権化の女は、最後の嘘を真実だと思い込むのが性癖なのだ。吐いた嘘は直に忘れて、真実が何かさえ知ろうとしないのだ。
樽川は殺した男との腐れ縁を決して漏らしはしない。男は樽川の母や姉ともずいぶん前から性交していたのだ。ふしだらな絹枝を取り合う、突発的な事件ではなかった。殺意はじわじわと発酵していたのである。
絹枝の魔性1️⃣