魔法の粉

ごとうやゆうき

僕は小さな町に母さんと2人で住んでいる。
母さんは町の老人ホームで働いている。
すごく忙しそうで、家に帰ると僕のご飯を作ったらすぐに寝てしまう。
このところ家での母さんの笑顔を見ていない。
「あぁ。母さんの笑ってるところ見たいな。」
そんなことをつぶやいている僕の足は、ある場所を目指している。
そこは町から少し離れたところにある、小さな古ぼけたお菓子屋さんだ。
看板には【お菓子工房 ブーリビ】と書いてあるが、子供たちは「魔女のお菓子屋さん」と呼んでいる。
お菓子を作っているのはヨボヨボのお婆ちゃんだからということもあるが、お菓子に秘密があった。
ここで作られたお菓子は願いを叶えてくれるのだ。
最近僕はそのお菓子が欲しくて、何度もこの魔女のお菓子屋さんを訪れては、窓から中を覗いている。
しかし、中は薄暗く良く見えない。
中からふわふわ流れてくる、マドレーヌやチョコレートやクッキーやケーキなど様々なお菓子の匂いをかいでは、中の素敵な様子を想像している。
「ずずっ」
僕はこぼれそうになったヨダレをすすった。
「あぁあ。これを母さんに食べさせてあげられたらな」
母さんはお菓子が大好きなのだ。それに魔法のお菓子だから、笑顔になること間違えない。
だけど僕はおこずかいなんて貰ってないから、買うことはできない。
「いっそ、盗もうかな」
僕の頭の中で悪魔が囁く。
「だけど盗んでお菓子を母さんに渡したら『お金はどうしたの?』って聞かれるに決まってる」
とすぐに現実に戻る。
僕は悔しくて、今まさに母親に手を引かれながらスキップしながら入って行く子を睨みつけた。
ーーリリリリりんーー
と鳴るドアを開閉する音が僕をからかっているように感じた。
「くそっ」
僕はこの日も匂いだけを抱えて帰った。


それからしばらくして僕はある噂を耳にした。
「ねぇねぇ。知ってる?魔女のお菓子屋さんの秘密」
「何々?」
「あのおばあちゃんが座っている椅子の隣にある、机の上の小瓶のこと」
「小瓶がどうかしたの? 」
「あれ、魔法の粉が入ってるんだって」
「あ、私それ知ってる。その粉が願いを叶える元なんだよね? 」
「そぉそぉ。あぁ、あの粉欲しいな」
女の子たちは噂話が好きらしく、あちらこちらでそんな話をしている。
僕は最初は聞き流していたが、何度も聞いているうちに、その魔法の粉が欲しくなった。
「あの魔法の粉があれば、母さん笑ってくれるかな」
僕はそんなことを考えながら歩いていた。
すると頭上から
ーーリリリリりんーー
といつか僕をからかってきた音がしてきた。
そこで僕はハッと我に返った。
気がつくと僕は、魔女のお菓子屋さんの中にいたのだ。
いつも外まで流れてきた甘い匂いがそこらじゅうに漂い、それらの主人たちが僕の前に色鮮やかに並んでいる。
僕は肩の力が抜け、満ち足りた気分になった。
しばらく幸せな夢を見ていた僕だったが、自分がここに入った理由を考え、一気に胸が高鳴った。
夕方と言うこともあり、店には僕しかいない。
店の奥では、おばあちゃんが椅子に座り、窓から射し込む夕陽に照らされウトウトと眠っている。
そして、その隣の机の上には小瓶が1つ置いてある。
「あれだっ! 」
僕の心臓は更に高鳴る。
その時の僕は、もう善悪の見境がなくなっていた。
そっと忍び寄り、小瓶を手に取ると、一目散にかけ出していた。
僕の後ろの方で小さく
ーーリリリリりんーー
と音が響いていた。


家についたから、僕は罪悪感に襲われた。
僕はその罪悪感に「母さんのため」と理由をつけた。
翌日クッキーのレシピを引っ張り出し、早速作ることにした。
小瓶は割れないように、少し離れたお皿の横においた。
クッキーを作り始めると、母さんの喜ぶ顔が頭の中に広がり罪悪感をすっかり忘れていた。
レシピ通り作り上げ焼く。
焼きあがってくると、クッキーの甘い香りがキッチンに広がり始める。
ピーとオーブンが焼き上がりを知らせてくれたので取り出すと、クッキーはこんがりと綺麗に焼けていた。
1つ試しに食べてみると口いっぱいに、焼きたてのクッキーの甘さと香ばしさが広がり幸せな気分にさせられた。
「あぁ。母さん喜ぶかな。笑顔になるかな」
僕はクッキーをお皿に並べながら呟いた。
お皿にクッキーを並べている時にふと何かが目に飛び込んできた。
それは小瓶だった。
「し、しまったっ!魔法の粉を入れ忘れた!」
クッキーをレシピ通り作ることに夢中になっていて、すっかり忘れていたのだ。
「どうしよう。これじゃぁ、願いが叶わないよ。母さん笑わないよ」
僕が半べそをかいていると家のチャイムがなった。
出ると母さんが仕事から帰ってきていた。
「ただいまぁ。はぁー、つか・・・」
と言いかけて母さんは、鼻をクンクンと動かした。
「あらっ。いいにおい」
そういうと母さんは靴を脱いで真っ直ぐキッチンへ向った。
「あらっ。クッキーじゃない!タツミが作ったの!? 」
僕は魔法の粉のことを引きずっていたので控えめに
「母さんのために作ったんだけど。食べてくれる? 」
と聞いた。
母さんはクッキーを両手に取って方張りながら言った。
「美味しぃ。幸せぇ」
そして満面の笑みを浮かべながら涙を流していた。
僕はびっくりして
「か、悲しいの? 」
って聞いたら、母さんは
「嬉しくてね、幸せすぎると涙が出るんだよ」
と教えてくれた。
魔法の粉が入っていないのに何故か僕の願いは叶ったのだ。
僕は誇らしくなって、嬉しくなって、でも少し後悔した。

僕は母さんに袋を一枚貰ってクッキーを詰めた。
そしてそのクッキーと小瓶をポケットに入れて、魔女のお菓子屋さんへと向った。
涙を流すくらい幸せになるために。

魔法の粉

魔法の粉

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-08-04

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