幸せは天から降る

ごとうやゆうき

「あ、今日もいた」
 子どもたちが、公園のベンチに腰かけている老人を見て、ささやき合いました。
 子どもたちが遊ぶ公園には、いつも1人の老人がいました。
 子どもたちが、遊ぶ時間から遊び終わるまでずっとベンチに腰をかけ、ピタリとも動きません。
「死んでるんじゃないのか」
 誰かが、冗談半分に言いました。
 こう君は、そうかもしれないと思いました。
 だって、老人はいつも同じ格好で、目を閉じそこにじっと座っているからです。
 こう君は、この老人が、少し怖かった。いや、こう君だけではありません。友達も、気味悪がっていました。
 ある日のこと、いつものように公園で、サッカーをしていると、運悪く、老人の元へボールが転がって行きました。
「どうしよう」
 子どもたちは考えた末、じゃんけんで負けた人が、ボールを取りに行こうということになりました。
 じゃんけんの結果、こう君が、ボールを取りに行くことになりました。
 こう君は意を決して、ボールへそろりそろりと近づいて行きました。
 こう君は、老人に目をやりました。老人は、静かに目をつむっていました。
 ごくりっ
と、唾を飲み込み、こう君は、老人の足元にあるボールに手を伸ばしました。
 その瞬間でした。老人の目が開きました。
こう君はびっくりして、その場に腰を下ろしてしまいました。
 老人は、そんなこう君をじっと見つめて、
「サッカーは楽しいかね? 」
と尋ねて来ました。
 こう君は、その突拍子もない質問に
「ええ、まあ」
と恐る恐る答えました。すると老人は顔がしわくちゃになるくらいの笑顔を作り、ボールをこう君に手渡し、2回大きくうなずきました。
 その笑顔は、とても優しい笑顔でした。
 こう君は、ボールを受け取ると、一目散に駈け出し友達の元へ戻り、サッカーを続けました。
 こう君は、その日の夜寝る前に、あの老人の笑顔を思い出しました。すると何だか、心がぽかぽかしてきました。
そして、何故か老人と話をしてみたくなったのです。
 次の日こう君は、公園へ1人で向かいました。やはり、今日も老人は、ベンチで目をつむって座っていました。
 こう君は、怖々近づいて行き、そっと老人の横に座りました。
 こう君が、ベンチに座ったことに気づいた老人は、ゆっくり顔をこう君に向けました。そして、やはり顔をしわくちゃにして微笑みかけて来ました。
 好君は思い切って老人に聞きました。
「何でいつも、ここに1人でいるの? 」
 老人は、空を見上げて答えました。
「妻との思い出の場所だから」
「妻? 今は、どこにいるの? 」
 老人は空を指さしました。
「あの雲より高いところにいるんだよ」
 こう君は、申し訳ないことを聞いた気分になって、下を見つめました。
 老人は言いました。
「妻はね、子どもが大好きだったんだよ。ここで遊んでいる子どもたちの姿を見るのが。だからたまに、2人でこうしてベンチに座って、みんなを見ていたんだよ」
 それから、老人は胸に手を当ててこう続けました。
「今日は、良い日だ。声をかけてもらえるなんて。ここにいると、妻に会えるんだ。だけど、声に出して話す事はできない。君が、こうして声をかけてくれたおかげで、何とも幸福な日になったよ。ありがとう」
 こう君は、今まで怖がっていたことが、後ろめたくなりました。
「妻のお陰かな」
 こう君は、思い切って言いました。
「あ、あの。誰かと話すだけで幸福になれるなら、僕毎日ここに来ます」
 老人は、小さな目を大きくして、それからまたくしゃりと笑って言いました。
「こりゃたまげた。私は、何て幸せ者なんだ」
「ぼく、こうって言います。お爺さんのお名前は? 」
「こりゃたまげた。私もこうだよ。きっと君は、妻のプレゼントだ」
 2人は、空を見上げてくしゃりと顔いっぱいの笑顔を作った。

幸せは天から降る

幸せは天から降る

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-08-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted