本なんて大っ嫌い
僕は本が大っ嫌いだぁ。
まずあの臭い。
ページを開いた瞬間、ふぅって僕に臭い息を吹きかけてくる。だから実は本は、スカンクが化けているんだと、僕は思う。
みんなが寝静まった頃、スカンクたちは宴会をしているに違いない。そう思って僕はいつも布団を被って寝たふりをしながら、隙間からみているのさ。
だけど僕は子どもだから、スカンクが宴会を始める前に寝ちゃうんだ。
本が嫌いな理由なら他にもあるよ。
あの、ページいっぱいに書かれた真っ黒な文字。
みんなだまされているけれど、あれはミミズに違いない。
だってあんなに、複雑な形をして、一列に並んでいる。
僕はあの形を見ているうちに、頭が混乱してくるんだ。たまに昨日と今日とでは、違う位置に文字があるきがしてならない。
みんなが本棚に返したそのすきに文字はミミズたちになって自由に動き回っているんだ。あぁ気持ちが悪い。
もっともっとあるんだよ嫌いな理由。
絵本。こいつは厄介なんだ。なんでかって。
だって、絵本の表紙に僕の好きなキャラクターが描かれていたら、無意識に手にとってしまう。
絵に見とれ、じっくり見たくて布団の中に招き入れたことが数回ある。
朝になって枕の横で、ページが開かれていて、スカンクとミミズの不意打ち攻撃に合ってしまたんだ。
絵本の表紙は悪魔が変装しているに違いない。
お母さんに言ったけれど、信じてもらえなかった。
お父さんなんて本や絵本より恐ろしい、新聞を読みながら笑ったんだ。
だから僕は決めたんだ。もし悪魔が、姿を現したら捕まえて2人の前に突き出すのさ。
怖いかだって。怖くなんかないさ。
それから、絵本にはもう1つ恐ろしいことがあるんだ。
ページをめくるたび、美味しそうなおやつが飛び込んできて、僕のお腹にぐぅって音を出させる。
お母さんにお菓子をおねだりしても、そう簡単にもらえないんだ。
表紙の悪魔は、絵本の中に悪い魔法を、かけているのさ。
魔法で作るものは食べ物だけじゃない。
色々なおもちゃや動物が悪魔の魔法によって作り出される。
そのたびに僕は、おもちゃが欲しくなるし、動物園にだって行きたくなる。
この前思い切って、お父さんに、
「動物園に連れて行って」
て、言ったけど相変わらず、新聞を読みながら、僕の頭をポンポンと触っただけだった。
くそ、にっくき新聞め。
僕は頭にきて、前日の新聞の隅っこを破いてやった。
僕が本を嫌いな理由は、それだけだと思っただろう。まだあるんだよ。
絵本も一緒だ。ページを開いたら最後。
僕をどこか知らない未知の世界へ送り込むんだ。
一回飛ばされると、中々元の場所へ戻ってくることができない。
半日砂漠をさ迷ったことや、まだ誰も行ったことのない星に行って探索したこともある。
夏に火を吹くドラゴンと戦い、お姫様を救おうとしたこともある。お母さんに呼ばれて、ドラゴンを倒した後、お姫様に会えなかったけど。
ドラゴンと戦ったせいで、前身汗だくだった。もう嫌になっちゃう。
真冬のクリスマスには、僕がプレゼントをもらうはずが、赤鼻のトナカイになってサンタさんのお手伝いをしたこともある。
僕は疲れて途中で寝ちゃったんだけどね。
起きたら僕の横に手伝ったお礼だろう、サンタさんからのプレゼントが置いてあった。
本もたまにはいいかもと思って、包みを開けたら僕もうため息。
だってプレゼントは、本だったんだもん。それも2冊も。
あれけっこう本読んでいるじゃないって思った人いる。
ここだけの話、僕は好きで読んでいるのではなく、本の正体を暴くために、読んでいるのさ。全世界の子どものために。
それに僕の家に来るサンタさんは本好きらしくて、毎年本を置いていくんだ。
僕は優しいからさ、もらったものはたとえ本でも大事にするんだ。
まぁ色々言ってきたけど、実は僕にも好きな本がある。
僕は水曜日の本だけは、大好きなんだ。
水曜日の本はバラの匂いがするし、きれいな音のする音符が並んでる。
それに表紙は悪魔じゃなくて天使で、本の中は天使の不思議な息で満たされている。
本から生まれるお話は僕を優しく包み込んで、くれるんだ。
今日はその水曜日。僕の部屋の本棚の中では、きっとたくさんある本たちが今晩こそは自分が、天使になるんだと言い争っているに違いないと、僕はニッコリしながら思った。
僕はパジャマに着替えて、ゆっくり布団に入り横になった。
しばらくすると、部屋をノックする音がした。
「きたっ」
僕が返事をすると、お母さんがニコニコしながら、部屋へ入ってきた。
お母さんは僕の本棚お開けて、一冊一冊確認している。僕はお母さんの背中を追う。
お母さんは頷いて、本を一冊持ってくると、僕の枕の横に腰掛けた。
それからお母さんは、僕に表紙を見せ、題名を言うと、優しい声で本を読み始めた。
僕はとてもわくわく、ドキドキしながら本に書かれたお話を夢中になって聞いた。
お母さんは悪魔を追い払い、天使を呼ぶことができるんだ。お母さんに読まれている本も何だか嬉しそうに見える。
水曜日の夜、お母さんの本を読む声を聞きながら、僕はいつも眠りにつく。そしていつも心地のいい不思議な夢を見る。
「本、だぁい好き」
夢の中の僕が言う。
翌日目を覚ますと、そこにお母さんの姿はない。昨日お母さんが読んでくれた本が、机の上にのっていた。僕は近づき本を開いた。
するとあの臭いがして、ミミズが並んでいた。
「本なんて、大ッ嫌いだぁ」
本なんて大っ嫌い