バカ仕合
キツネのコンが森で迷っていた。さまよっているうちに、今まで来たことがない、隣森とを繋ぐ広場に出た。
「まいったなぁ。オイラこんな場所知らないや」
コンは頭をかいた。コンが辺りを見渡してあいると、タヌキのポンタが通りかかった。
コンとポンタは目が合うと、驚いてそれぞれ化けた。
コンはイノシシに、ポンタはオオカミに化けた。その姿にまた驚いて、コンはワニに、ポンタはクマに化けた。
しばらくそのままにらみ合ったったが、同時に元の姿に戻った。
コンが言った。
「オイラはキツネのコン。化けるのが上手なキツネだい」
ポンタが威勢よく言った。
「俺様はタヌキのポンタ。俺様はこの森で一番凄い。なぜなら、どんなモノにだって化けられるから」
「オイラだって化けられるやい」
コンはにらみつけた。
ポンタはたじろいた。いつも化けるとポンタを恐れて、みんな逃げていくのにコンは逃げなかった。それどころか、喰いついてきた。
「でも俺様よりは上手くないさ」
ポンタは負けじと言った。
「よしっ。ならオイラと化かし合いをしよう。勝った方が、一番だい」
「受けて立とう」
二人は決闘をすることになった。でもどうやって化かし合いをするのか、考えつかなかった。
するとその様子を恐る恐る見ていた、ウサギのピョンコが出ていって言った。
「私たちの代表がお題を出して、それに化けられた方が勝ちっていうのはどうですか? 」
二人が辺りを見渡すと、それぞれの森に住む動物たちが、2人を囲んでいた。
コンにいつも小バカにされている動物たちや、ポンタに威張られている動物たちが意気陽々と、二人を見つめている。
二人は戸惑ったが決闘のためならと、お願いをした。
「分かった。それじゃあ、よろしく頼んだ」
ポンタが偉そうに言った。
「よしっ。それでは始めます。司会進行は、私ウサギ、ピョンコがいたします。最初お題です」
拍手が起こった。
「拍手ありがとうございます。えぇ、では早速お題を。最初のお題は『シロ』です」
「そんなの朝飯前さ。そりゃ」
ポンタが威勢よく日本風の城へ化けた。
「オ、オイラだって、えいっ」
ポンタが続いて西洋風の城へ化けた。
二人とも甲乙付け難い、見事な城へ化けた。
これには見ている動物たちも、関心した。
「さぁ、結果はどっちだ」
ポンタが叫んだ。
「……。二人とも、ダメです」
ピョンコはバッテンポーズを取って言った。
二人とも驚き、怒った。
「オイラ、こんなに綺麗な城になったのに。何でだい」
「俺様の方が、ずっと素敵な城に化けたのになんてことだ」
「私は色の『白』になってと言ったけど、建物の『城』になってなんて言ってないからです」
ピョンコがはねながら言った。
「二人とも残念でした。どちらもお城はとても立派だったんですけどね。さて、気を取り直して、次のお題です。『タコ』になって下さい」
「よしきた。八本足の蛸だい」
そういって今度は先にコンが化けた。
「負けてられないね。それ」
涼しい顔をして、ポンタがコンより大きな蛸に化けた。
「さぁ今度こそ、俺様の勝ちだろ」
ポンタはピョンコを見た。ピョンコは首を横に振り残念そうに言った。
「二人とも、違います。私が言ったのはお正月に飛ばす『凧』です。二人が化けたのは海にいる『蛸』ですよ」
動物たちは黙って、行くへを見守っている。
「またまた残念。お二人さんどうしましたか。化けるのが得意なのに。非常に惜しいです。気を取り直して次の問題です。『ハシ』になって下さい」
二人は様子をみながら慎重に化けた。
「えい」
「それ」
コンはピンクの、ポンタは緑の箸に化けた。
同時にピョンコのへこんだ声がした。
「お二人さん。私は『橋』になってて言ったのに『箸』になってどうするんですか」
ポンタは少しむっとして言った。
「次だ、次のお題をよこせ」
「かしこまりました。次のお題は『カネ』です」
今度は二人ともうぅんと、考えてからそれぞれ化けた。二人とも大きな鐘になった。
ピョンコは額に手を当てて言った。
「ダメ、ダメです。私が言ったのはお買い物で使う『金』のことです。また早とちりをしてお寺で使う『鐘』に化けてしまいましたね。実に惜しいです」
二人は遂に、ピョンコを怒った。
「オイラ、ちゃんと化けているのに、変なお題ばっかり出すからいけないんじゃないか」
「ちゃんとしたお題出しな」
ピョンコは怖がるふりをして言った。
「そ、そんなこと言わないで下さい。そうだ、では次のお題を最終問題として、ちゃんと化けられた方を勝者とします。いいですか? 」
ポンタは少し考えていたが、コンが何も考えずに
「いいよ。分かった」
と言った。ポンタはたじろいだが、直ぐに何か閃いて言った。
「俺様も合意だ。よろしく頼む」
ピョンコは嬉しそうな顔をして言った。
「分かりました。それでは最終問題です。みなさんいいですか? 」
動物たちはいつもコケにされたり、おごった態度を取られたりしている二人が、悪戦苦闘している様子を見て少し、気持ちがすっとしていた。
「よし、かかってこい」
「いつでも、いいぞ」
二人はお題に耳を傾けた。
「最終問題です。『カミ』に化けて下さい」
「よしきた。オイラから行くぞ」
そう言うとコンは、長い長い髪に化けた。
「どうだ。こんな立派な髪に化けられるわけないやい」
ポンタは鼻で笑った。
「ふんっ。では化けよう。それ」
ポンタが化けると、ひらひらと空から紙が落ちてきた。
「これでどうだ。さぁどっちが勝ったか言ってくれ」
コンはポンタの姿を見て
「オイラが化けてから化けるなんてずるいやい」
と怒りながら言った。
「これも作戦のうち」
元の姿に戻り、ポンタは勝ち誇った顔をした。
「勝負これまで」
ピョンコが言った。
みんなが固唾を飲んで見守った。
「勝者……なし」
「なんでだ」
ポンタが言葉を失い、コンが目を白黒させた。
「コンさんが化けたものは、頭に生えている『髪』ですよね。そしてポンタさんが化けたものは、字が書けたりする『紙』です。私が言ったのは、この世を創造した『神』のことです。従って、残念なことに勝者なし。誠に残念です」
ピョンコはオーバーに頭を振って見せた。
「ふざけやがって、俺様こそ森一、いや、世界一の化かし屋だ」
ポンタがピョンコを睨みつけながら叫んだ。
「まてまて、オイラこそ世界一の化かし屋だい」
コンが飛び上がりながら言うと、二人はピョンコに詰め寄った。その時だった。
「往生際が悪いぞ」
誰かかが言った。すると次から次へと、二人目がけて言葉が飛んできた。
「化かし屋じゃないと認めろ」
「どっちも凄くないぞ」
「お題を理解できないなんて、化かし屋じゃない」
「そうだそうだ。せっかくお題を出してくれたのに」
二人は浴びせられる言葉と、迫力に押されて後ずさった。
「でも良いもの見せてもらった。ありとう」
「そうだな。お疲れ様」
労う言葉があがると、拍手が起こった。
照れくさくて二人は顔を見合わせ、引きつった笑顔を浮かべた。それからそそくさと、お互いの森へ帰っていった。
残された動物たちは口々に言った。
「二人が化かし屋じゃなかったらいったい誰が化かし屋なんだろう」
しばらく沈黙あり、誰かだ叫んだ。
「そうか、一番の化かし屋は、二人を上手く化かした、ピョンコだ」
それを聞いた動物たちは頷きあい、ピョンコに向かって割れんばかりの拍手を送った。
ピョンコは耳ををかいて、照れながら言った。
「二人がバカし合いしてくれただけです」
バカ仕合