ぴよの大空

よしの かい

─時には、小さな生命の物語を─

「ぴよの 大空」



 ぴよは、セキセイインコです。
飼い主は、ひなちゃんという
優しい女の子です。

ひなちゃんとは、ペットショップで出会いました。

「─お父さん、わたしこの水色の子がいい─」ひなちゃんが、わたしを指差して言いました。

「─うん。1980円かあ。安いなあ。─うん。じゃあ、これにしようか─」お父さんが、応えました。

「─お父さんお父さん。あのね、いのちにねだんは、つけられませんよ。ぴよぴよ─」お父さんに言いました。
「─元気いいなあ。まだちび助のくせに─」お父さんが笑いました。
「─お父さんお父さん。わたしのおはなしを、きいてますか。ぴよぴよ─」ちょっと不満げにお父さんを見上げました。

「─お名前はね、─ぴよがいい─」とてもありがちな名前を、ひなちゃんがその場でつけてくれました。

ひなちゃんの家族は、十歳のひなちゃんとお父さん、お母さんの三人です。

お母さんははじめ、
「─鳥って、あまり好きじゃないのよね─」と言っていましたが、一番最初にお母さんの指に乗ってあげて小首を傾げて見せたら、その思惑どおりにぴよを気に入ってくれました。

家族は、時々ドライブにお出かけします。
たまにぴよも連れて行ってくれます。
お父さんの握ってるハンドルに乗って、見る外の景色にはとても興奮します。
回るハンドルに乗って危うく滑り落ちそうになったり、そのスリルがもう楽しくて楽しくて。
思わずたくさん歌いすぎて、お家に帰るとグッタリしました。

お母さんはオッパイが大きくて乗り心地が気持ちよく、肩から降りながら遊ぶのが大好きでした。
わざとなのか、お母さんはお洋服に良く食べ物をつけていて、ぴよはそれを拾い食いするのが楽しみでした。特に、ご飯の粒が大好きでした。

「─ねえ、ぴよのお母さんとお父さんは、どこにいるんだろうね─」ひなちゃんが言いました。
そう言えば、自分の家族について考えたことはありませんでした。
「─お母さん─お父さん─ぴよぴよ─」ぴよは、ちょっぴり淋しげに鳴きました。
「─いいよね。ぴよの家族は、わたしたちだもんね─」ひなちゃんが優しく笑い、ぴよも嬉しくて高くさえずりました。

ある春の日、うたた寝していると開け放った窓からチュンチュン、と雀たちの鳴き声が聞こえてきました。
「─ぴ、びよぴよ、ぴよよよッ」と懸命に鳴き返すと、一羽の雀が窓際に止まり、
「─何だ。飼い鳥かあ。可哀想に。自由に大空も飛べないなんて─」と言いました。
「─え?大空─?それは、どんななの─?」そう訊き返すと、
「─んだよ。空も知らないのか。ほれ、窓の外を見てみなよ」雀が促す外を見ると、真っ青に広がる空と綺麗な雲が見えました。
懸命に首を伸ばし回しても、どこまでも空が続いています。
「─俺たちはさ、あの雲まで飛んで行けるんだぜ」雀が得意げにいいました。

 その晩、ぴよは青空を自由に飛び回る夢を見ました。

歳月は流れ、段々眠る時間が多くなりました。
「─ぴよ?だいじょうぶ?─元気ないわねえ─」ひなちゃんが心配そうに声を掛けてくれます。
何だかひなちゃんは、最近良い匂いがします。
綺麗にお化粧して、お耳に光るものをつけています。
「─綺麗だなぁ。いいなあ。ぴよも欲しいなあ─」そう思いました。
籠から出され指に乗りお耳のところを撫でられながら、うっとり眼を閉じるとまた眠ってしまいそうです。
「わたし、これからお出かけだからね─」ひなちゃんが言いました。
「─行ってらっしゃい。気をつけてね。ぴよぴよ」そう言って送り出すと、止まり木でまた眠りにつきました。

止まり木につかまりながら、ぴよは最近、自分の力が弱まっていることに気づいていました。

その時も、力が弱まりうっかり足を滑らせて下の網にまで落下してしまったのでした。

「─ぴよ!ぴよ─!─どうしたの!ぴよ─」ひなちゃんの声で目覚めました。
ひなちゃんは、泣いていました。
お父さんと、お母さんもいます。
「─ぴよ!ぴよ─だめだ─首の骨が─折れてる─」お父さんが言葉を詰まらせながら言いました。
「─ぴよ─」お母さんも泣いていました。
ぴよは、首をあげようとしましたが上がりません。
渾身の力を込めましたが、だめでした。
何だか、目の前がぼんやりしてきて身体中が痺れたように動かせなくなって来ました。
「─ぴよ。お前は、本当に可愛かったよ。─家族だった─ありがとう─」お父さんが言いました。
撫でてくれる指が、みんなの指が心地良かった。
「─ぴよ、ありがとう─」お母さんが言いました。
『─ありがとう─』今まで何ども聞いた言葉です。ぴよには意味は分かりませんでしたが、とても温かに感じました。
「─あ、─いや─ぴよ!─ぴよ─死んじゃ─いや─!」ひなちゃんの目から零れ落ちた大粒の涙が、ぴよの羽を濡らしました。次の瞬間、
「─ありがとう─」ぴよは小さくさえずり同時に、初めてその言葉の意味が分かった気がしました。
温かい気持ちが溢れそうな時の言葉だと思いました。
「─ありがとう。ひなちゃん─」ぴよは、ぴよ─と鳴きました。
「─優しくしてくれて、ありがとう─お父さん、ドライブ、楽しかったです─ありがとう。─お母さん、大きなおっぱいが、大好きでした─ありがとう─。みんな、ありがとう─。家族にしてくれて─
本当に、ありがとう─」朦朧とする意識の中、ぴよは最後の力を振り絞り鳴きました。

次に気づくと、ぴよはお母さんのおっぱいの上にいました。
涙を流しているみんなの顔を不思議な思いで見回していると、
「─ぴよ。迎えにきたよ。─さあ、帰るよ─」と声が聞こえてきました。
見ると、開け放った窓の桟に二羽のセキセイインコが止まっていました。
一羽が青で、一羽が黄色です。
とても綺麗な色でした。
自分の色だと思いました。
「─あ。─お父さん─?お母さん─」瞬間、まだ見たことのない父母であることを悟りました。
「─さあ。行くよ─」お母さんが優しく言いました。
「─おいで─」お父さんがそう言うと、身体がフワッと浮きました。
ぴよは、泣いているみんなを見ながら、
「─ありがとう」もう一度そう言って、窓の外に羽ばたきました。

青空は、どこまでも高く広く気持ちの良い風が吹いていました。
「─迷わないように、ちゃんとついてくるんだよ─」お父さんが優しく、ぴよを振り返りました─。




         ─了─

ぴよの大空

ぴよの大空

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-08-03

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