【一人芝居台本】顔のないヒーロー

メイロラ

僕はヒーロー

でも僕には顔がない。

僕の顔はおいしいパンでできていた。

お腹をすいた人に、そのパンを与えるのが僕の役目。

お腹をすいた人たちは、おいしそうに僕の顔を食べる。

僕はそれがとてもうれしかった。

「ありがとう」と言ってくれる笑顔

「もっとちょうだい」と言って手を出す無邪気な瞳。

僕はどんどん与え続けた。

目が無くなり、鼻が無くなり、口もなくなった。

最後の一切れを与えた相手を僕は今も覚えている。

その人はぼろ雑巾のように横たわっていた。

親に売られ、汚い大人の欲望をいっぱい受けて、

最後は病気で動けなくなって、道端に捨てられた女の人だった。

僕は、その女性に最後の一切れを与えようとした。

しかし、その人は最後の力を振り絞ってこう言った。

「それを私が食べてしまったら、あなたの顔がなくなってしまうじゃない」

おかしなことをいう女の人だと思った。

僕の顔なんてとっくにないのに。

僕が困っていると、僕の手に野良犬が飛びついて、最後のパンを食べてしまった。

おいしそうに。満足そうに。

女の人は死んだ。

その唇は少し笑っているように見えた。

犬はどこかに行ってしまった。

僕には顔がない。

空がどんな色なのか、花がどんな匂いなのか、小鳥がどんな声で鳴くのか僕にはわからない。

もしも、僕にもう一度人生があるのなら。

僕はもうきっと

きっと

ヒーローになんてならない。

【一人芝居台本】顔のないヒーロー

【一人芝居台本】顔のないヒーロー

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-08-02

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