サヨナラ世界

竹戸莉乃

サヨナラ世界
  1. 残すためのこと
  2. 残したもの
  3. 残せなかったこと
  4. 残さなかったこと

残すためのこと

「ハルちゃん、危ない!」
ホノカの声は、ハルにはもう届いていなかった。届かないよう、遮断した。
ハルは強い風を感じながら落ちていく自分の体が、もう普通の人間のものとは違うもののような気がして、可笑しくてたまらない。
「ふふっ……」
こんなに綺麗な死に方をした自分が素敵で素敵で仕方ないと、息を漏らしながらそんなことを考えていた。

6月24日、荻原ハルは自殺した。

残したもの

みんなへ

何から書けば良いんだろ。遺書なんて初めて書くから分かんないや(笑)
まぁとりあえず、感謝を伝えます。私が生きてきたこの16年間支えてくれたみんな、ありがとうございました。私は普通に楽しく過ごしてたし、多分死ぬ1秒前まで皆に自殺のことはバレてなかったと思います。そうなるように頑張って死にます(笑)そんなことができたのは、皆が居てくれたからです。ありがとう。
だから、この自殺は私の問題。
ここからは、自殺の理由を書きたいと思います。めちゃくちゃざっくり言うと、私、自分のこと大好きなんだよね。だから正直今、自殺する私ってカッコいい!なんてことを考えてます。常に自分をかっこいいと思っていたいから、頑張ってかっこいい人になりきって、悪口とか暴力とかに対するペラッペラの正義感をいつでも持ってて、でもそれはかっこいい人になるために作った気持ちだから本当は自分の中にも、どす黒い気持ちがあって……そうやって自分の中に矛盾が生まれて、そんな自分がかっこ悪くて、でもそんな事考える自分はかっこよくて…………
気付いたらかっこよくなるために、周りにぐちぐち言いまくって、正しいことをしようってことだけ考えるようになってて、なんかこんなことしてる私、いなくなった方が世界が気楽に回ってくのかなって思ったから、死ぬことにしました。
こんな感じで全部書き終わったかな…?
これでついにお別れです。
最後にもっかい言っとくね、みんなありがとう!

サヨナラ世界、もっと楽しく、幸せに回れよ!

残せなかったこと

ハルの葬儀は、哀傷と猜疑心に満ちていた。
その場にいる全員、ハルの部屋から見つかった遺書を読んだことがあった。しかし遺書に残された誤魔化しともとれる自殺の理由を、信じる者は居なかった。ハルの両親はいじめがあったのではとクラスメイトに疑いの目を向け、親友のホノカは、ハルの理解者は私だけだったのだと、ハルの心に傷をつけたのであろう周囲の人々を、きつく睨み付けていた。
皆がそれぞれの正義感を振り回しながら表面だけの言葉をつらつら吐いて嘘の結束が形成されていく。
ハルの遺書の言葉を無視した見えないナイフがそこらじゅうに撒かれ、グロテスクな空気が場を包んでいた。

残さなかったこと

ハルもまた、嘘をついていた。

遺書に散りばめられたありきたりな感謝の言葉は社交辞令、本当は周りへの思いなど芽生えたことすらないし、自殺の理由に微かに混ぜた自分の本当の思いは、はなからあんな人達に伝わるとは思っていない。
気軽に生きようとしているくせに全速力で後ろへ逃げて、近づいて来る嫌なこととも、戦うフリをして必死で逃げて。そんなジメジメした世の中が、不快で不快で吐き気がする。私は今、そんな世界と繋がるロープを切った。自分の意思で、たった一人で。
でもきっと皆は今、自分が1番私のことを分かってあげられていると思い込んで、優越感に浸っている。そうやって自分に酔ってる人のことをずっと馬鹿にしてきたけど、今日くらいは私も酔ってみようかな。
身の回りのかっこ悪い人に煙たがられないよう演じて生きてきた16年間の人生の終幕は、最高にかっこいいものだった。
あぁ、私だけの世界はこんなにも美しいよ。

サヨナラ世界、君たちはその汚い世界で、せいぜい自分は綺麗だと思い込んで生きろよ。

サヨナラ世界

サヨナラ世界

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-08-02

Copyrighted
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