人魚姫と海の雪/溺れる
8/1の300字SSの作品です。「終わりへ向かう始まりの歌」の二人で、「泳ぐ」がテーマです。
人魚姫と海の雪
王子様を殺せなかった人魚姫は、海の泡となって消えてしまいました。
それで死んでしまえるのだからまだ幸せじゃないか。そんなことを言ったら誰かに咎められてしまいそうだから、その言葉はしまっておく。
これは愛ではないと言い聞かせながら、君の首を絞めた。いつもの儀式。死んでしまえばお互い楽になるとわかっていても、僕はその一線を越えられない。
それならいっそこのまま海に身を投げてしまおうか。きっと僕は泡にもなれず、君のいない海の中で泳ぎ続けるのだろう。
溺れる
人間は生まれる前、胎内で泳いでいるんだと誰かが言っていた。だとしたらこれは胎内回帰願望とか言うやつなのだろうか。生まれてきたはずの場所は今は冷たくて、代わりに深い青色の海の中で俺は泳いでいる。
「――姉さん」
その海は暖かく体を包み込んでくれる。ここが還る場所のような、本当はこの海の中を泳ぐべきだったのではないかと、そんなことを考える。
泳いでいるのか溺れているのか、今はもうわからない。
人魚姫と海の雪/溺れる