夏の抱擁

川島 海

きっとあの子は
例えば未だ見ぬ街が流れ行く
冷えた車窓に張り付いた
頬をそっと剥がすとき

きっとあの子は
例えば川の底から飛び上がる
黄金色の岩魚が撒き散らす
飛沫の粒を拭うとき

きっとあの子は
例えば図書の海を渡っていく
緑の匂いを運ぶ風に
擽られた鼻を擦るとき

知らずに
柔らかな肌を
ほんの少しずつ、脱ぎ捨てる

最後の夕涼みはどこか寂しく
日焼けた部屋はよそよそしく
温もりがやがて懐かしくなる頃
秋の紅葉を美しく思うのだろう

夏の抱擁

夏の抱擁

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-08-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted