壊れやすいもの

沙季。

名前もない人かどうかもわからない君に向けて書いているこの手紙は溜まっていく一方だった。引き出しに入り切らないほど分厚く重なった手紙はもう、どこにも出せずに捨てられる運命にあるのかもしれない。一緒に連れて死ねればいいけど、手紙を僕の中に取り込むことは不可能であるから、やはり処分するしかないのだろう。存在していないかもしれない君に、この手紙をすべて渡すことができたらいいのに。僕の気持ちの行く末にも終わりを迎えられて、思い残すことなく僕は歩き出すことができる。返却しなきゃいけない僕の意識はそろそろ限界を迎えている。貴方から借りただけの、一時的な体験だったけどとても楽しい思いをさせてもらった。書き留めておける分は全部書いたつもりだった。狭量な言葉のタンクから引き出したものの集合ではあるけれど。溺れるほどの量はこの手紙には入っていないけど、一つ、僕のたしかな気持ちは込めた。心から愛する君へ、僕からの贈り物だと思ってほしい。この痛烈に消耗した、眩むほど明るい光の日々に別れを告げよう。

壊れやすいもの

壊れやすいもの

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-07-30

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