まどろみ

 またあした、をかぞえる。かずにはおわりがないから、それがこわいのだが、かんけいないと残酷にやってくるおわり。永遠を誓っても、どうせおわりがくるならって、つめたいひとみが去っていく。
 ばかみたいだし、ゆびはたりないし、おぼえていたくっても細胞が死んで忘れていくし、この絶望が真だと、でも、証明するすべはない。きみは心臓にこころがあると考えている派のにんげんであるから、心臓をさしだしてみせれば、いいのだろうか。ぼくの死骸を、きみはどうするだろうか。
 ぼくはこころは肺にあると考えている派で、だからよくきみのさまざまに呼吸を支配されることになる。ほら、脳みそが、酸素酸素とさけんでる。きみのことを考えて、ぼんやりして、脳みそがきゅうっと縮んでいるような気になるが、動物的な仕組みと合致しているのかは、忘れてしまった。
 この細胞ぜんぶが死んで、あたらしい細胞たちがうまれても、ぼくはきみを忘れられない。なぜ? ぼくはきみを、いったいどこで覚えているのだろう。
 忘れまいとする不条理を壊す理屈が欲しい。組み立てられる理屈はすてきだ。構成物を把握できるから、あんしんできる。
 またあした。積み重なって、膨れあがって、でもかぞえることはやめられない。
 つめたいひとみに溺れて、でもぼくは泳ぎがへたくそ。証明が先に完成するか、えら呼吸に進化するか、いや、溺れたままでも、いいのかもしれない。

まどろみ

まどろみ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-29

CC BY-NC-ND
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