音叉について

音叉について

単純であることは決して悪いことじゃない。漢字の角に収まるだけの思考は、わかりやすくて、つまらないのはつまらないけど、語彙力のない人間はそういうことしか考えられないんだって。きみの背筋はいつも曲がっていて、漢字よりもひらがなが似合いそうだ。
一つ覚えの言葉はだれも感動させないけど、よく響く。
ストレートな言葉がいっぱいで、ぼくは困っている。つみのいしき。今日いちにちに、しあわせもふしあわせも感じなかった。作者が十五歳なのか五十歳なのかわからないけど、音叉みたいに、ほかの思考を遮断していた。きみは音楽が好きだったね。その事実だけが、きみを輝かせてみせるんだよ。いつかきっと、どこかできみもそれを聞くことになる、音叉の出す音によく似ていて、きみの頭蓋骨をはっきり振動させる。ああ、音だ。きみはそう言うわけで、でもそれは音ではなく音楽、なんです。音叉のU字の曲がったところをきみは指でなぞる、その仕草には何の意味もなくて、きれいな波形を取り除きたい、まっすぐで、いつか消えることがもったいないけど、摂理だったよ。何万年も前から知っていた。ああ、音だという認識は、つまらないけど正しい認識。

音叉について

音叉について

ああ、音だ。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-28

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