ミゲルと夢の霧町。オークと少女。

yumiei

 火星の小さな少女、ミゲル。現在中学二年生。
小さなころの記憶に、小さな粘土のオークをつくりだし、人前で動かしたという記憶がある。
オークといえば怪物。ファンタジー小説などで扱われることも多い醜い怪物。
それに反するように、ミゲルはかわいらしい花かざりを頭につけた、そして手に握っているものは、花束という
奇妙なオークをつくった。材料はこのあとで話すことにする。

 どうしてこんなひねくれたオークをつくったのかをまず話そう。ミゲルはそもそも、小さなころから、
本心を言わず、本心を隠し、その事によって、自分の危険を避けているような節があった。というのも、
精神にちょっと障害をもった父親のためだった。彼はいつでもミゲルをじっくりみて、ミゲルのいうことを
疑ったりする。だから気が滅入ることが多々あった。だからミゲルは、本心を隠し、ひねくれた、例えば
愛情でも友情でも変わった形で表現しようとしたのだ。

 そんなおり、丁度、ミゲルは自分自身の中のエウゲの不思議な力に興味を持ち始めていたのだ。それも学校で、大人の目を盗んで
である。それは隣の席の中の良いAちゃんが、忘れ物をして教師にしかられた後の時間だった。落ち込んでいる
Aちゃんをみて、ちょっと楽しませてみようと、ミゲルは考えた。けれど同時に不安があった。
 (私が本心を形にすることで、私の大事なものに迷惑がかからないだろうか)
 けれど同時にわくわくしていた。
 (私はエウゲで、私の能力が特別であることは、大人たちにつきとめられているのだ)
 待遇、そして、ひいきにされるようなところからみるとそれは明らかだった。 

 それは図画工作の授業、小学生の低学年、あまった粘土をこっそり机の中にしまい、休み時間に隣の席の
よく話の合う友達にみせたのだった。

 「どうして動くの?」
 「わからない、“エウゲ”だから、ってお母さんはいってたけど、大人に見せると嫌がるって、私も初めてよ
 この力をつかったのは」

 オークはミゲルの机の上で、きびきびと動きだす。まるで学校の授業や体操を模倣するような動きにぴょんぴょん跳ねたり、
土の花束をふりまわして、雄々しくみせたり、クオーンと小さく吠えたりした、隣の席の子も不思議層にミゲルとミゲルの手品を見て喜んだ。
 「そう“エウゲ”っていうのは、手品師の集まりのことなのね?大道芸人かしら」

 それを、何もしらない彼女は机の上で動かして遊んだ。
当時といえば小学生低学年、2年生頃のことだったか。
あまり判別や記憶がしっかりとしていたわけでもなく、
ただ、ぼんやりと図画工作の授業中に、それを操作して、遊んでいた。その日の夕方まで、
先生の目を盗み、まずその特殊技能を隣の子にみせた。するとそのたび、落ち込んでいたはずのその子はよろこんで、もっとみせてといった。

 その一週間後、その子はまた改めて、そのオークを見せてくれといってきた。
ついでに友達をひきつれて、その友達というのがあまり、そのクラス、というより
学年できらわれているほどの粗雑な女の子で、自分が欲しいものをこれときめたら
てこでも動かせないほどにつっぱるのだった。

案の定、ミゲルがオークを動かしてみせると、その子は喜び、私にほしいといった。
けれど、エウゲであるミゲルは懸命に説明したのだ。

「そのオークは、私の手元、最低でも私の机の上でしか、跳ね回ることも斧を振り回すこともない、そんな乱暴なものではない」

けれど何度言ってもその子は聞かない。相手も、身の回りのどういう人に影響を受けたのかわからないが、ともかく
何があってもものをほしがる。仕方がないから、といった、ミゲルはオークをその子に渡した。するとオークは、不思議な事に
ミゲルの手元を離れても1時間ほどは動きつづけたという。

 それからミゲルは、一か月くらいの間、ミゲルは例のオークどころか、エウゲ固有のテレキネシス能力を人前で発揮することを
恐れるようになった。恐れや、不安、そして恨みは、悪いものだとエウゲの教えにあるのだが。けれど或日、いつかと同じように
忘れ物をして教師に怒られたその隣のAちゃんが、全ての授業がおわった放課後、ミゲルのところへきて、こういった。

「ごめんね、私は動くオークがすきだったのに」

 そのときはじめてミゲルは、オークは自分のためにやったのではなく、人のためにやったのだとわかった。
そういえば、もう一度見せてと頼まれたとき、オークをつくっていて、魔法の力をこめたのは、間違いなくこの頼まれたAちゃんの
ためだった、そのころミゲルは気づいたのだった。それこそが魔力の源泉なのだと。

 それがたとえ、くしゃくしゃにもてあそばれても、オークはそのために存在したのだ。
厳密に存在するのは、自分がそれをしなかったとしても他のエウゲがそれをして、人々を
楽しませたのだろう。それでよかったのだ。なぜなら、間違いを起こして、ミゲルはそのオークを間違った扱われ方をするためにつくったのでは
なかったのだから。
 そしてミゲルはそのとき、誰かのために何かをすること、自分の本心をその物語の白紙に移すこと、を覚えたのだから。

ミゲルと夢の霧町。オークと少女。

ミゲルと夢の霧町。オークと少女。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-07-28

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