一匹の羊 何かしらの罪で 断頭台へ

 荷車は山の斜面を昇り それを引く痩せこけた馬は浮かない顔をして
 寝不足の処刑人はうつらうつら舟を漕ぎ 空は龍が尻尾を巻くようで

 羊は何も知らない 銀の価値も春の嘘も裁縫のやり方も
 羊は何もわからない 川のほとりの木の芽が摘み取られる日
 羊は何も理解しない 何よりも眠ることが大切だから

 山頂の断頭台 周囲に無関係な人々の群れ
 毛を求める人は、額に皺を寄せて俯き
 肉を求める人は、ぬめった瞳を蠢かせ
 血を求める人は、夕飯に好物が出たように

 羊は気にもかえずに草を食み 最期になっても草を食み

 血飛沫 飛び立つ雀 慟哭・怒声・歓声 兎のあくび

 すべてが一瞬光り輝き 失われ
 残った羊の首は 草を食んだまま静止し
 木々の歌声ばかり よく聞こえ

 羊の血の微かな香りは、ミルクの風に乗って運ばれ
 遠くへ 遠くへ 国境も海も越えたどこかへ

 そのうちどこかの狭い国で、窓辺にて詩を書く少女のもとに流れ着き
 少女は顔を上げ 目いっぱいにそれを嗅ぎ 嬉しそうに微笑み
 そうやって再び顔を落とし 詩を書き 明るい朝の詩を書き

 羊は今日もどこまでも 永遠の鈴の音になって どこまでも

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-28

Copyrighted
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