傷物
傷物
男はここに来た目的をあやうく忘れるところだった。目の前に、シャツだけを羽織った少年。丸みを帯びて切りそろえられた金髪はそれだけで純金と同じ価値があるだろう。
いや、男はその純金、財宝、金目のもの。そういったものを奪いにこの屋敷に侵入した。罪を犯す恐怖に震えていた足は止まり、ただ、眠りにつく少年に見惚れていた。どんな財宝よりも。生活のためでなくても、この少年が、ほしい。
白いダッグフェザーのベッドに覆いかぶさると少年はぱちりと目をさました。男は不思議に思う。少年に恐怖の色がなかったからだ。
「お前、俺が何しようとしてるかわかってるのか?」
少年は長いまつげをひとつ上下させ、
「わたくしと、まぐわいたい、と?」
男はしばらく動けなかった。なんだこの少年は。
もともとこの屋敷の宝は端の塔にあるだろうとここにきた。しかしあったのは金銀財宝ではなく少年だった。
宝のような少年だと言われているようなものじゃないか。
「しないのですか? わたくしは眠いのですが」
自らのことを「わたくし」と呼ぶ少年の肩を男は沈めた。ひどく薄い肩だった。
唇には触れず首筋、肩、鎖骨と唇をおろした。膨らみのない胸の先は砂浜に水をたらしたようなほどの薄い色をしていた。
少年は喘ぐことを知らないのかただ声にならない声で熱い息を繰り返した。
「お前、セックスしたことないだろ」
少年は頬を染めて頷く。
「じゃあこの先どうするかは知らないんだな」
俺が親指をアヌスにねじ込むと少年は悲鳴をあげた。
「やめないからな」
少年は頷いた。
俺のものが出入りを繰り返す間、少年は枕を噛んで泣き続けた。
俺の自惚れでなければ、嬉し泣きのように聞こえた。
シーツの真っ赤な血だまりの上で少年は言った。
「わたくしはここに囚われの身でした。でもこうして傷物になった今、晴れて自由のみになれるのです。本当にありがとうございます」
翌朝、教会の鐘が鳴った。
自由ってなんだ。
男はあふれる涙を袖で拭い続けた。
傷物