行ったこともない富士の樹海について

行ったこともない富士の樹海について

学校図書館の本がいつかは全部腐るんじゃないかって考えていた。生徒を巻き込みながら腐っていくわけで、たいしてかわいくない女子生徒から腐臭がするっていう、失礼な妄想。年頃の女の子なのにね。わたしだけはなぜか生き延びて、男子生徒だからっていう理由で図書館の見取り図を描いていたきみを恨んだりもするけど、結局図書館に行ったことない女の子は生きてるからこの感覚はフィクションってことになるのかな。岩手に行ったことはないけど宮沢賢治は好きになれた。
どこかよくわからないところから人生を間違えているような気がして、どこなのかは探せばすぐわかるんだけど、見つけてしまうと漠然とした「かなしい」になる。行ったことがない富士の樹海について考えているような、そんな感じ。高校生にもなって、爪を噛む癖が治らないからきみの背中はなさけない。スポーツは苦手なのに背ばかり高いから、デクノボーって感じを演出してるみたいでうざかった背中。なさけないきみと、なさけないわたしを、行ったこともない富士の樹海が取り巻いている。歴史を感じたいなら感じればいいし、森だ、ってぼやきたいならぼやけばいい。富士の樹海にとってはそんなことどうでもよくて、きみの汚い爪だろうがアホ丸出しの背中だろうが何だって肯定してくれるよ。ほんとうにばかだ。みんなピンボケみたいな「かなしい」に期待して、富士の樹海を見ているんじゃないかな。枯れたものを数えているうちに、やがて倒木から芽が出てくる悲劇、その一瞬。きみはカメラを取り出さないし、わたしは目をつむっているでしょう。

行ったこともない富士の樹海について

行ったこともない富士の樹海について

僕も宮沢賢治が好きで、富士の樹海に行ったことないです。そこだけノンフィクション。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-25

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