プールサイド

 底まで沈めば、解像度の低いゆめのようなせかい。
 これはよくあることかもしれないけれど、皮膚の白さがまぶしくって、それで、まるでそのひとが輝いてるみたいに感じたりして、かみさまなんていないけれど、いるならきみのかたちをしていてほしいとか、きみにすごく失礼なことを考えたりなんか、する。
 底に沈んだ碁石をひろう遊びをした、小学生のころ。ときどき、先生が投げ入れた薬剤に触れて、つるりとした感触を期待したゆびさきが、ざらり、という反応におどろいて、おびえた。黒い碁石だけにすればそんなことにはならないのに。あの、不快とまではいかない、けれど肺のあたりをなぞられたような一瞬の鳥肌が、成長するごと、背後から忍び寄る。気がする、だけ。
 塩素のにおいが充満している。逃げたくなるわけを、もう、知っている。
 さきに飛びこんだきみが、手招きする。コンタクトを受け入れなかった0.01のひとみが、きみを正確に、的確に、探しあてる。きみに焦点をしぼれば、けっきょく、なにもかもぼやけるせかい。じゆうじかん。じゆう、ということのおそろしさをすこしずつ知って、こども、をおさえて、ちょっとずつ、おとなになる。
 水面が波うって、いきてるみたいにうねって、きみを知らせる。つめたい水が、目の前にひろがって、まるで鋭く痛む足をかかえて、戻れなくなった故郷を想う人魚の気分。潜水ごっこ。溺れられないくらいには、泳ぎ方を知ってしまった。
 あがくのは醜いって、刷りこむためのプールサイド。視力のよわさを、いつだってきみを直視できない言い訳にする。

プールサイド

プールサイド

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-25

CC BY-NC-ND
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