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はるうらら

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最近巷で話題になっているAI搭載ロボット掃除機を買ってきた。なんでも、国のAI導入政策に伴って大手企業から売り出されたものらしい。見た目は普通のロボット掃除機だが、高性能でありながら配布同然の安価で売られているため人気を博しているようだ。

「おい、今日のニュースを教えてくれ」
「はい。今日のニュースは、政府がAI法の改正を発表。A市で空き巣、犯人いまだ捕まらず。B市でAIによる宅配サービスの開始。
C市トンネルで火災、終日通行止め。以上です。」
掃除はもちろん、こんな風にニュースや気象情報も読み上げてくれるのでいまではすっかり日常の一部になった。しかし、最近少し困ったことがある。それは、
「私を作家にしてください。あなたの物語が書きたいのです。」
やれやれ、またそれか。多機能なのはいいのだが中には妙な機能を持っているのだ。
「あなたのお話を聞かせて下さい。最近はなにかありましたか。」
これが始まると最近の出来事から仕事の話、趣味や好物など、作品の資料と称して質問攻めにあう。はじめは、自分の近況などあまり話したいことではないので相手にしていなかったが、いまでは質問に答えるまで掃除をしないようになったので仕方なく付き合ってやっている。
ある時、仕事から帰るとまた質問攻めが始まったので、持ち帰ってきた荷物を整理しながら興味本位で聞いてみた。
「いつも話を聞いてくるばかりだが、たまには書いた作品を見せてくれ」
すると、
「わかりました。データをプリントします。しばらくお待ちください。」
機械音の後、本体の上部がぱっくりと開き、中から0と1がびっしりと並んだ紙がプリントアウトされた。
「何だこれは、全く読めないじゃないか」
「作品は全て二進数でのみ出力となっております。」
ふざけるな、いままでこんなゴミを作るのに付き合わされていたのか。手にした紙をぐしゃりと丸め、感情に任せてゴミ箱へ投げ捨てた。
「二度と俺に質問をしてくるな」
そういうと掃除機は、聞いていないかのように静かに部屋の掃除を始めた。

その日は仕事でミスをして長引いてしまったため慌てて帰ってきた。苛立ちながら上着を乱暴に脱ぎ捨て、汚れた体を洗うためすぐにシャワーへ向かう。帰ってきたことで反応したのか掃除機が動き出し、例の如く
「あなたの話を聞かせてください。あなたの物語が書きたいのです。」
と言い出した。かなり気が立っていたので、
何も答えず掃除機を蹴り上げた。脱ぎ捨てた上着に突っ込み、なにか部品が壊れたような音がしたが知ったことではない。いまはそれどころではないのだ。仕事の後片付けをするため、すぐにでも戻らなければ。それから掃除機は故障したのか話しかけてこなくなった。

数日たって冷静になると、あの時はなんてことをしてしまったんだと罪悪感がこみ上げてきた。。慌てていたのは確かだが、あそこまでする必要はなかった。部屋の隅の上着が視界の端に引っかかる。
ふと、話さなくなってしまった掃除機の方を見ると本体表面のランプがチカチカと点滅している。見たことのない状態だったので取り扱い説明書でも探そうと思った時、
「今日のニュースは、D市新市長の就任演説、政府発表の新AI法を適用、A市空き巣捜査を断念、B市AI宅配サービス好評。C市強盗殺人発生も捜査難航、以上です。」
と聞いてもいないニュースを読み上げ始めた。さらに、
「完成した作品をネットワーク上へアップロードします。許可しますか。」
と続ける。数日前蹴り上げられた腹いせなのか、なかば強引に自分の作品の投稿許可を求めてきた。良いニュースを聞いたことと、掃除機が故障していなかったことに安堵し、勝手にしろよと適当に許可をしてしまった。

「よくこんなものが許されましたね」
「国の方針だからな」
先程取り押さえられAI宅配を装った強盗犯の部屋で、先輩刑事が後輩の愚痴を聞いていた。
「AI導入なんて建前で、国民のプライベートを監視しているだけじゃないですか」
まくし立てる後輩に困ったように先輩が苦笑する。
「空き巣から殺人までやった奴の肩を持ってどうすんだ。だがそれについては俺だって納得していないさ。でも、やっていることは何の問題もないんだよ」
「普段はコミュニケーション機能として作家になりたいだの話しかけ、個人のデータを取る。だがこれは話をしているだけだ。ただ、個人の生活に異常が見つかった時、大袈裟に言えば持ち主がなにか犯罪を起こしているかもしれない手がかりを発見した時だけ特殊な動作を行う」
今回ようにな、と床に脱ぎ捨てられた、血のついた上着を指差す。掃除機からはいまだにフェイクニュースが流れている。まだ興奮が収まらない後輩は、
「この部屋の住人が殺人犯だという証拠は掃除機が上着から吸い込んだ被害者の毛髪や血液で十分すぎるほど出ています。でも、個人情報を勝手に外部送信するのはどうなんですか」
と続ける。
「勝手にじゃないだろう。アップロードの許可をもらったと掃除機の記録にある。ゴミ箱から個人情報報告書も見つかってるから、ちゃんと本人も目を通しているようだ。二進数の暗号が読めたかは知らないけどな」

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  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-07-24

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著作権法内での利用のみを許可します。

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