恋した瞬間、世界が終わる -第4部 早川真知子編-

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恋した瞬間、世界が終わる -第4部 早川真知子編-
  1. 第21話「カーテンの向こう側」
  2. 第22話「わたしを機械の下(もと)へ」
  3. 第23話「ハンドメイド」

第4部 早川真知子編

第21話「カーテンの向こう側」

第21話「カーテンの向こう側」

あの時と同じ、カーテンの向こう側

わたしは、小説を書いている



せんぱいの姿を見たとき、わたしは嬉しかった
「きっと、せんぱいは生きているだろう」
そう心に強く思い、信じて、生きてきた

わたしは漫画を描くのを辞めた
理由は「健康に悪いから」
あの頃は、夜遅くまで座ったまま
何時間も
向き合い続けた
わたしの筆は遅かった
でも、情熱があった


わたしは自分が「クローン」なのではないかと思っていた



2番目の幸せを選ぼう


借りたまま返さずに、しかも、読まずに
友達から借りた本
友達が「カロドポタリクル」で安楽死を選び
死に、手元に残った。そこから…

手始めに思って、
たまたま図書館で借りた本に挟まっていた髪の毛から
クローン技術を試し初めて…そして産まれた
、娘。
誰かの面影に気づかず、成長した姿に…
非道な別れをしてしまったあの娘の髪の毛だった事に気づいた時ーー
それは報いのための作業か…
あの娘も読んだというその本の内容…その重なりは…



わたしが「カロドポタリクル」を使用しなかったのは、
この人生で果たすべき何かを終えていなかったから


充実した人生が欲しかった
自分が満たされるものが欲しかった

自分が向かうべき先にあるものが



「本」がわたしを変えた

わたしには、パソコンは必要なかった

第22話「わたしを機械の下(もと)へ」

第22話「わたしを機械の下(もと)へ」

「メトロポリス」
という映画が好きでした

古い昔の白黒の映画です
無声映画なので、コミカルなパントマイムが印象に残っていました
それ以上に、人間と機械
白黒映画だったからか、そのどちらもが儚く脆いものに映り
それが最後に手を取り合い
儚いもの同士が共に助け合っていくだろうことが
とても印象に残っていました

まるで夢の中、カーテンの仕切りの向こう側で、
現実化しない物事と、手と手を取り合ったみたいに


昔、借りた覚えのあるレンタルショップへ行き
「メトロポリス」を探してみました
奇跡的にビデオテープのコーナーが僅かに居残り
そこにまだ残っていました
ただ、誰かが借りていたので
その日は借りることが出来ませんでした



祭りの時期でした


自然が好きでした
子供の頃から

田んぼを見るのが好きでした
少し離れた近所は、町の郊外にあたり
子供の頃、夏の夜、窓を開けるとカエルの声
今は住宅地が広がりました
わたしは、そう
静かなものに耳を澄ませたり
鎮かな時間を過ごすことが大好きで
それが必要な人でした

「遠くの景色を視るようにしなさい」
子供の頃、母親に視力のことを心配されてなのか
家族で車に乗るたびに、助手席から後部座席のわたしに
何度も、何度も諭していました

わたしには子供は授からないだろうと思っていました
なぜか

わたしの肉体は精密さを欠いていました



わたしの友人のことを話さなければなりません

友人の名前は言えません
彼女との間には秘密があります

彼女がわたしに話してくれたことがあります



 夜道を歩いていた
 うつむき、一人で歩き、一日に疲れた表情で

 道路を挟んだ向こうにいる、一人歩く男性が眼に入った

 彼もまた、
 うつむき、暗がりだが、一日に、いや、日々に疲れた様子で

 道路の街灯が、優しい色合いで道を照らしていた
 疲れた人を安心させる色
 視界の中には
 次第に遠ざかる車と、向こうから近づいてゆく車、それが

 すれ違ってゆく

 一人歩いていた男性の孤独なシルエットが
 なぜだか、わたしの心に触れたーー

 その孤独が、わたしの傷を癒すかもしれない

 わたしの明日の歩みを助けるかもしれない

 わたしのへたっぴな人生を認めてくれるかもしれない

 今とは違う夜が、そこにあるかもしれない

 すぐ近くに

 暗がりの街路
 信号機は赤くなり、わたしは立ち止まる
 視界をかすめる車の遠ざかりを眼で追うこともなく
 地面のアスファルトから顔をだす小さなタンポポを
 何故か視ていた

 でも、これは多分
 タンポポではない、別の何かであること
 それだけが暗がりの中で分かったこと



その話しを彼女から聞いたあと
わたしは夢をよく視るようになりました


 移行が出来ない。いや、移ろいのなかで、何かを拾えてない。
 いつも夢に現われるその人は、何かの仕切り越しでその姿を認識する。
 決して、顔をーー面と向かった対話をすることなく。
 それが、その人との隔たりを物語るように思えた。

 その夢の中の男は同じ話しを繰り返す

「僕が迷っているのは、自分のこれまでを引き摺って進めてゆくのか…それとも、これまでの自分とは関係なしの急転換で仕切り直すのか…ということなんだ。」
「…そう、あなたは自分を前に進めることに拘っているのね」


ある時、その夢は僅かな距離感に変わりました
 
その人の姿は、カーテンのような仕切りで隔てられた先にあり、
そして、その人が自分と対面していることへの自覚を持ち、
何かの表情がそこに浮かんでいるーきっとー恋の色のような
なぜ、手を伸ばさなかったのでしょう?

夢から覚めたあと、わたしは残念さを引き摺り
そのたびに悔やんでいます

第23話「ハンドメイド」

第23話「ハンドメイド」

編み物を編む


「メトロポリス」が返却されているか
またレンタルショップに行きました
札が掛かっており、まだ返却されていませんでした
また後日になるようです


せんぱいのことを好きになったのは
わたしの独特な声を「良い声だね」と発見して
好んでくれたからでした

子供の頃の自分の「声」を覚えていません
わたしはずっと無自覚に子供の頃を過ごしていました
「声」だけではなく、成長して「生活・生存」に必要なスキル
それらを自覚することがなかったのです
例えば、「どうすれば人に好かれるのか」
    「誰に気を遣えば良いのか」
    「誰に注意すれば良いのか」
    「誰と話してはいけないのか」
    「どこで気を抜き、どこに力を注ぐのか」
    「要領の良い学び方(ショートカット)」
(周りの子たちはわたしよりもずっと、考えて生きていたのでしょうか?)
わたしは無邪気に、近所の行動範囲を大切にして
自然を、虫や花を
鏡のような田んぼに映える太陽、カエルの合唱隊
夕方の報せ、電柱に灯る明かり、家の台所に灯る母のシルエット
何よりもずっと大切なことでした
何を自分の武器にするのか? どんなわたしなのか?
そんなことを考える必要性を感じて生きていませんでした


思春期を迎えた頃、ある女子から言われた言葉がずっとわたしを傷つけました
「真知子って、大した顔じゃないよね」
見た目に関して自信があったわけではありませんが
それまで周りの子と何も困らず接していました
思春期だったわたしにその言葉は重く、
そう、その時、心に黒い種子を蒔かれたのです
(黒い種子を蒔く人から身を守る術を知っていれば良かったのですが、
思春期の子供には、あまりにも高度な技術で不可能だと言いたいです)

それからのわたしは、必要以上に自分の顔を気にしてしまい
周りの子と不自由なく接していたことが、ぎこちない動作になり
髪を伸ばし、自分の顔を前髪で隠そうともしました
(例のホラー映画を知ってからは、ほどほどにしましたが)
わたしは、「自分」という存在を隠すことに必死になったわけです

そして引きこもりました

漫画は一時期のわたしの背中をさすってくれる友達でした


そんな時に、せんぱいと会いました

もともと、せんぱいは近所に住んでいました
わたしが小学5年生の頃に少し離れた場所に引っ越し
それからは中学生になるまで会うことがありませんでした

場所は図書館でした
わたしは漫画をよく借りに行っていました
子供の頃から漫画が好きで、小学校では漫画クラブにも入っていました
ただその時は、いつも眺めるはずの漫画の棚ではなく
たまたま気が向いて、小説を読んでみようと思いました
それまでのわたしは小説を読んだことがありませんでした
本当になぜか、たまたま気が向いたのです

小説の棚を眺めながら、何を手にとって良いのか分からず
棚から棚へと横歩きに横断していました
立ち止まる場所が分からないという不安がありました
諦めて通り過ぎようとしたそのときーー
 棚と棚との隙間に何かが挟まっているのが見えました

「ひゃっっ!」
わたしが思わず上げた声に
せんぱいはわたしを読み取って、気づいてくれた
「マイマイガだね」
不自然な軌道で天井へと羽ばたいてゆく蛾を見上げながら
「真知子の声は蝶のようだね」
天井から窓へと軌道を敷いて、消え入ろうとする蛾の姿
「すぐわかった」
その時、わたしの声が何か特別なものであるように思えました
「良い声だね、真知子の声」

蛾が消え入り、蝶が顔を出す
わたしは自分の「声」に対して無自覚でした

「声」そのものが、わたしに蒔かれた黒い種子をきっと取り除いてくれるものになるだろうと、何となく思いもしました


それからのわたしは、意識して声を出してみようと思いました

せんぱいに会いに行くために図書館へと通いました
(わたしとせんぱいを導いたのが蛾の姿だったのは皮肉ですが)
せんぱいが借りた小説をわたしも読みました
会うたびに感想を伝えました
会うたび、会うたび、声を
たくさん、意識して

いつの間にか、少しばかり話しすぎる性格になったのかもしれません
せんぱいはわたしの声に耳を傾けてくれました
ただ、ただ、せんぱいの前では考えていることを言葉にしようと
うまく結ばれない言葉を補うために
パントマイムのように身振り手振りも交えながら
羽を広げた姿を見てほしかったのです

一年続き
せんぱいと同じ高校へと通いました
高校生活は辛かったです
校舎の異なるせんぱいの姿を追いかけていたかったです
でも、周りの人たちとうまく馴染むことができなかったわたしは
高校を中退しました


わたしにとって、声は大切なものになりました

でも、高校生活で傷ついた羽を広げる場所がなく
声を出す場所を求めて
文字に表された言葉ならと、漫画の吹き出しに見つけて
平面な紙の上で無声映画のように、パントマイムで
自分の気持ちを
自分の内面を
自分の人生を現わすものを
羽を広げるための手段がほしかったのです


わたしの「生存戦略」として必要なことを
少しずつの手作業のように、機械任せではなく
手作業の職人技のように、心に、編んでゆく作業を始めたのです

そこに、パソコンやコンピュータは必要ありませんでした


※第24話へと続く(10月中にアップロード予定)

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夢の中のひと

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  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-07-22

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