シーサイド

 貝殻のなかには海の残響。しゃわしゃわと海の鳴る音に耳をすますと、肺呼吸もわるくないなって、ちょっと思える。
 100円ショップの貝殻がほんものだって信じてたころ、本気でいつか人魚になると思っていて、足をきれいにそろえて泳ぐ練習をしたものだった。人魚症になりたいとおそろしいことを考えたものだった。陽光が散る窓辺や、浴槽で。水槽のなかでねむりたかったし、金魚すくいは、できなかった。
 つめを青く塗る。海色をうたうものはぜんぜん海色じゃなくって、だから、おとなしくいちばんいいと思う青色に、塗る。せいいっぱいの抵抗。うつくしいとはいえないかたちの足が、浴槽でゆらゆらゆれて、ゆれているのはお湯なのだけど、それでもちょっと、いい気分。
 まだ、ゆめをみてみる。みている、とは、もういえないって、わかってるから、みてみる。プラスチックの貝殻を耳にあて、海の残響を聴くふりをする。

シーサイド

シーサイド

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-20

CC BY-NC-ND
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