日神ジャスティオージ~日向国風土記異伝~
(本小説は現在Amazonほか電子書籍配信サービスより販売中の内容の一部無料配信版となります。YouTubeより公開中のラジオドラマとあわせてお楽しみいただくとより本編の世界観をお楽しみいただけます。本編にて描かれなかったエピソードを多数収録していますので、ぜひとも未見のファンの方もお見逃しなく!)
(※「注意事項」本小説の中盤は妥協なく現実やリアリティを追及した演出があり一部戦闘シーンや心理描写などにリアルな描写があります。15歳以下のかたは保護者の方の指導説明と監督のもとお楽しみください。また本作品はフィクションであり、登場する架空の人物名内容などは現実のものとは一切関係がありません。なお一部除く地名や伝承は実在する物を紹介しています。)
~日向国風土記異伝~
遊びの時間は終わりだ。
すべての常識を覆す容赦のない怒涛の展開。
はたして“ヒーロー”とはなんだ?!迫る魔尊6柱の絶望的な猛攻と纏う人類社会そのものが抱える巨大すぎる闇の前に
オージは苦境に立たされる。生きることに絶望、あるいは自ら率先して悪を選択し魔界に魅入られた亡者どもが堕天(だてん)し
妖魔となって人間社会そのものに侵攻を始めた。
同時期に全国各地より集う地方の神々、常陸の夜刀神、美濃飛騨の両面宿儺(りょうめんすくな)、吉備の悪樓(あくる)、
天探女(あめのさぐめ)・・・。組織クロウを脅かしかねないこれら新勢力、崩れる善と悪のパワーバランス。
躊躇なき闇の深層を眼にして、問われる正義とは。
「どんなに絶望が世界を覆い尽くしても、俺は闘い続ける!」
さらに力を増す強敵たちに挑むべく、創聖せよ!
新種
「まだこいつ、息があるようだぞ」
地面にたたきつけられた正義の皇子(ジャスティオージ)の名を冠するその赤きヒーローは、もうろうとした
意識の中で、戦闘とは全く無縁のことを考えていた。「そういえばおれん家の庭先にもこんなのが咲いてたっけ。」
地面に咲いていた黄色い種類のよくわからない花がそこにはあった。
無意識の気づきである。自分の近くには強大すぎる六体の魔物の影がゆらゆらみえてくる。
「どれほどの力を持った男かと期待してたけど・・・言うほどじゃないわね~。」
得体の知れない女の魔物が余裕げにほくそ笑む。地面に伏せる戦士の意識は着実に薄れていた。
力を込めようともう二度と立つことはできない。できないのではないか。
これから先自分はどうなってしまうのか、考える気力さえもなかった。
現実は、物語のようにそうやすやすとは進みはしないのだ。
「(テルヒコ)俺は死ぬのか―」
事態は1週間前までさかのぼる。
異世界への接触(ファースト・コンタクト)
西暦2020年(令和2年)宮崎に住む青年リョウ(水騎竜)は、兄である水騎龍(リュウ)の研究している
竜宮消失譚(リューグ―・トリップ)の資料を彼のラボにて読んでいた。資料には何やら解読の困難な図形や
統計のようなものが膨大に記載されている。「兄貴・・・・・・・いったいどこにいっちゃったんだよ。」彼の兄リュウは、
数年前突如として大学の研究チームとの実験中姿を消してしまった。今残っている手がかりは彼の研究資料のみ。
だがそれらが何を指しているのかについて答えてくれるものなどこの世に存在しなかったのである。
リュウを始め研究メンバーは皆姿を消してしまっていたのだから。
「先輩、これは、俺の思っていることなんスけど・・・まだ、リュウさん・・・彼、生きてると思うんスよね。」
リョウを慕う後輩の田力優也(たぢからゆうや)が内心密かに思っていることを打ち明けた。
「俺も実はそう思うことがある。」
「兄貴は死んでない。」
「まだ・・・・・・・・・生きてる。」
生きていてほしい。そう思うことは自分の願望なのだろうか。いやそれだけではなく直観めいたものをリョウは
感じていた。離れていたとしても、なぜか確信に近い実感を感じている。
兄弟近くにいるようでお互い容姿も性格も大きく違った。気が付けばお互いに気が付かないうちに距離が大きく離れていってしまった。
実際にリュウが消失してしまってからの現在、彼の行方を探すことは弟であるリョウの行動目的の一つとなっている節があった。
天才的で傑出した頭脳を持っていた時代遅れのバンドマンかホストかと言わんばかりの長髪であったリュウ。
驚くべき若さ、驚異のスピードで博士号を取得しある日から自らのラボ(研究室)で数名のメンバーたちと研究に明け暮れていた。
対照的にリョウのほうはポジティブで明るく純粋に育ち表舞台で
多くのファンを抱える世界的な知名度を持つダンサーとして頭角を表し始めていた。
「ちょっと俺、用事があるから先帰っといて」
付近にある青島神社はトヨタマヒメ、山幸彦を祀る。
所謂浦島伝説のモデルがここ日向の青島にはあった。
浦島太郎のモデルは神話の山幸彦であり、竜宮城の乙姫様が
トヨタマヒメというわけだ。
「おっ・・・・・なんだここ?お堂かなあ?祠か?」
ひさしぶりに浜辺の裏側にまわると、得体の知れない岩窟のようなスペースがあった。
歩いてゆくと、次第に不思議なアルコールのような陶酔感がリョウの脳をおそった。
「なんか不思議な気分だな~。なんじゃここは」
歩いていった先に見えるものは青い世界。
はっとふりかえったら、襲う異質な感じ。
まるで水族館にやってきたかのように不思議な感覚。
次第にここが、普通の場所じゃないという妙な感じに気づいた時には
出口が分からなくなっていた。
すると目の前に自分の知っている姿が。
長髪で白衣のリュウ(兄)が迷路のようなトンネルの中でこちらを見ているように見えた。
「あっあれは・・・!」
スッとその人物は消え遠くへ歩いていってしまった。
その姿を見たくなって、無意識のうちに焦りリョウは早足になってしまう。
「えっやばいだろこれ・・・・・・・ここ、なんだよ・・・。」
だが不安に駆られる以前に謎の好奇心が心を突き動かしていることも正直な気持ちであった。
「なにこれ・・・すげー。」
たどりついたリョウの目の前にあったのは、巨大で神秘的な水中の空間だった。
母体の膜に囲まれているようで、水そのものは入ってこない。
水族館のようなトンネルのなかにいる状況であったから、苦しくて息ができないということにはならなかった。
「(兄リュウ)おい・・・・・・・・・・・・・リョウ・・・・・・・・・・・おい・・・・・・・・・聞こえるか・・・・。」
「(弟)あっ兄貴!どこにいるんだよ!」
「(兄)こっちにきてくれ・・・・」
「(弟)・・・・・・・・・・・・・これは」
リョウの目の前にあったのは膜から現れた卵らしきもの。
触れると同時に割れた卵からは、謎の機械音と共に煙に包まれた青銅の古びた銅剣が現れた。
「(兄)俺はもう、ダメだ。リョウ、俺の体は喰われちまったんだよ。そいつ(銅剣)にな。」
「(弟)どういうことだよ・・・。なにいってんのかぜんぜんわかんねえよ!はやく出てきてくれよ・・・。みんな心配してんだぞ。」
「(兄)お前さ、子供の時いっしょにヒーローごっこやったの覚えてるか?」
「(弟)なにいまさら言ってんだよ。ウソだろ・・・・。」
「(兄)いろいろ役を取り合ったりしてさ・・・・・・。よく喧嘩したりして、楽しかったよな。」
「(兄)おまえさ、子供んころ、俺がヒーローなんて大人の作りものだっていってたことあったじゃん?・・・・」
「(兄)あのときあんなこと言ったりして、ごめんな。」
「(弟)もうそんなことどうでもいいよ!それより早く帰ってきてくれよ!」
「(兄)なあ・・・・・・リョウ・・・・・お前さ、俺のかわりに、なってくれないか?」
俺のかわりにそのヒーローって奴に、なってくれないか・・・・・・・・・。
俺がなれなかった、いないとおもっていた”それ”に・・・・。
まるで兄の意志が剣に宿るかのように発光したと共に、さび付いた銅剣は青い煙と共に爆発し
その中からまったく新しい未知のテクノロジーが姿を現した。
「これは、兄貴が研究してたやつじゃん。」
「お前が俺のかわりに闘ってくれ。俺の意志を継いでくれ。」
青年は現代に再び出現し、新たな姿を現した三神器の一つ(水神召喚刀リューグレイザ―)
をこの時初めて握ったのである。
魔尊六柱
その女の名前は矢崎香といった。普段は大手人材派遣会社に勤める典型的な普通のOLである。
彼女は仕事のできる一般的な女性だが、ある一つの人々とは異なる大きな違いがあった。
渋谷の繁華街を歩いているとき小汚いホームレスの中年男性とすれ違い、顔をしかめ小さくこうつぶやく。
「汚らしい。まるで薄汚いゴミね・・・。」きたならしいものを見たという表情でそそくさと去ってゆく。
彼女はある夜小雨が降る中一人傘もささず瞬き一つせずに階段を下りた小さなバーに
入っていった。店のマスターは暗い寂しげな表情の紳士で、お客が一人来なすったかと言わんばかりに
営業スマイルもなしにため息をつき、カクテルを出した。「新たなお客がお1人・・・・・・。」
「あなたが呼んだのね?八竜院さんってハンドルネームの人は、あなたということでいいわね?」
「まあ、それはビジネス上の名前のようなもんです。今日お嬢さんがここに来てくださったのも、素晴らしい栄誉ある祝福の日を
祝うためのものだと教えて差し上げたくて連絡に上がりました。」
「もうだめ・・・・・・・・・からだの震えが止まらない。私どうしちゃったのかしら・・・・・・。ねえ、教えて!」
「お姉さん荒れてるようだねぇ、最近自分の周囲で変わったことはなかったかい?」
「俺がホントのことを教えてやろうか?」
薄い銀髪の軟派な格好の若者がからかいさそうように香の手を握ってきた。
「触らないで!汚らわしい!」
「お~っと、ごめんごめん!」
「心配ないですよお嬢さん。すこしお気が立っていらっしゃるようだ。」
黒いサングラスをかけたスーツの男が店の奥から現れる。
「いきなりで驚かれたでしょう。まあでも我々のメンバーの中に入れば、すぐに新たな爽快感に包まれ
新たなあなたの一生が始まる。」
「なっ・・・あなたたち、何を言っているの?!抑えがきかなくてたまらず来てみたけど、も、もう・・・いいわ、帰る!」
「まあそう焦ることは無い」
「ちょ、ちょっとはなして!人を呼ぶわよ!」
「天探女(あめのさぐめ)。・・・ってご存知ですか?」
「はあ?」
その次の瞬間、荒唐無稽な一言が飛びだす。
「あなたの精神は、占い託宣の神、天探女の分霊(分身)をうけたものです。」
「・・・・・・・・はっ!私を口説くつもり?もうちょっとましなこといってみたらどうなのよ!」
「これでも信じないですか」
「・・・・・・・あ、あなた・・・・・」
香は恐怖のあまり震えていた。店にいた男、八竜院を除き自分をからかってきた美青年は青黒い水生生物のような怪人に、
サングラスをかけたその男さえも甲殻類を思わせる臙脂色の怪人に変化していたからである。
「う・・・ふふ・・・・きゃはははははははははは!!!!!!!!!!」
「そうね、そう・・・・・・・なんて最高な連中なのかしら。」
香の口の中からけだもののような牙、もう一つの謎の生物の口がせり出したかと思うと
眼の血管は黄色くほとばしり、長い頭髪は触手状の有機的な鞭となって変質し
彼女もまたカンブリア紀の水生生物の如き妖獣、怪人へと変貌を遂げていたのである。
「ふっ・・・・くだらん女だ。欲望を抑えきれずこうもはやく正体を現すとは。そろいもそろって下衆な連中め・・・。」
八竜院はちいさくつぶやいた。
ビシッ!八竜院の背後に積まれたワインボトルなど陳列された棚を触手の力で破壊する香。
「口には気を付けなさい。ウフふふふふ」
「この勢いであれば初戦も問題ありませんね。」
「で、わたしをここに呼んだ理由は何なの?」
「あなたのご実家は既に戦後とりつぶしにあった廃寺、奈良にある神仏習合の寺だった。近くには古びた礼拝堂があった。
その裏は本当は神社だったんですよ。もう何もないけれどね。
そして、一族も無縁仏。苔むした墓石に枯れた花。あなたにも我々に似たような、言葉にできない黒い感情がある。
・・・・・・・・・恨めしいとは思わぬか?この国が」
「私の・・・たしかに奈良にあるわ。なぜそれを知ってるの?」
グラスをふきながら微笑み応える紳士、八竜院。
「それは私共の手にかかれば、造作もないことです。あなた方は私の言うミッションに従ってくださればいい。」
「そんなに偉い立場にあなたがあるわけ?私たちに命令できるような力が・・・・・・・。」
「彼もまあ馬鹿にはできないよ。おばさん。」
「オバサンですって?このガキ・・・・・・・・」
「冗談だよ冗談!アハハハハハ」
青年が変化した青黒い姿の怪人は、八竜院を指さし軽口をたたくのであった。
八竜院という男は話を続ける。
「私がお願いしたいことはただ一つです。この組織を潰して空中分解させてください。」
そこに描かれたマークは、まぎれもなくクロウのシンボルである笑顔のカラスであった。
「おいおいなかなか大穴を責めるねえ!と、いうわけだ。単純な仕事。
天探女。これでキミも、現世で新たな肉体を得たというわけだ。」
「無償でやれって言うわけ?」
「金銭よりも、あらゆる欲望よりも深い幸福をあなたがたに私たちは提供します。」
「いいわ。この姿になったときから私を包むこの強烈な感覚・・・・・・!はやく外に出たい!」
「しばらくのあいだは新しい姿を日光にさらさないほうがいい。本能を抑えきれず暴力衝動を発現させてしまうことは間違いありませんから。
あなたのご家族やお仕事に影響しませんようミッション時は私がカバーします。」
八竜院が処方したビタミン剤のようなモノを触手でつかみいぶかしげに元の姿に戻った香は、同じく人間体に戻った男たちと
席についた。「探してた・・・・・・退屈な日々を壊してくれる、そんなものが。」
「俺は単純に、日本を潰したいだけなんだよね。」
「まだいるの?私たちみたいなのが。」
「さあね?・・・ほら、来たようだぜ。もうひとり新メンバーが。」
「・・・っておっさんかよ。」
一人バーの扉を開いたのは、今日の日中香が路上で蔑み馬鹿にしたホームレス男だった。
夜刀神(妄執佐伯惟治)
宮崎ですでにヒーローとして多くの怪神と闘っていたテルヒコ(日神ジャスティオージ)は延岡の地において新たな敵と遭遇するのであった。
「な、なんだこの男は?!現代人なのか?!」
明らかに現代のそれではないいでたち。白目をむいて半狂乱となったその時代劇のごとき格好の男は、
手持ち刀を振り乱し多くの人々に襲い掛かった。
戦慄の光景にテルヒコは久々に震えた。
「と、とにかくこの事態を止めなければ・・・・・・・・・・・・・」
「創聖!」いつものように日神ジャスティオージへと姿を変え戦いへ向かう。
彼自身この時もそうであったが、使命感、義務でヒーローとして闘わなければいけないと思っている。
ご当地ヒーロー。全国各地にあるヒーロー、という名の名目で秘められた神の力を発動させ
邪神と闘っている。多くの人々のため闘う一種の存在意義、彼は社会においてヒーローという単位の一人でなければいけなかった。
仮に他者から見ていかにその様が滑稽なものであっても、正義と悪の価値転換に飲まれ民衆からあざけられ石を投げられることになっても、
自らを律し、自覚としてそうでなければいけないんだと己の中で言い聞かせていた。
ひなたらと共に立ち上げたプロジェクトにおいて、宮崎県のご当地ヒーローを名乗っている以上その覚悟をもって闘わなければいけない、と。
だが今回の敵はおそらく見るからにして人間の姿をしている。果たして自分は人間を相手にどう渡り合えばいいのだろうか?!
「いったいお前はどうして人々を苦しめるんだ?!」
その男は頭を激しく振り乱したかと思うと、強烈な刃物の如き角を出現させ凶悪な角の生えた蛇神に変貌したのであった。
「ぃいいひいいいいひゃあああああいいいいいいいい!!!!!!!」
大きく唸り声をあげたその蛇男は一種のトランス状態のようになり体を力の限りにけいれんさせ、着物をまくり上げて奇妙な踊りをやってのけた。
「春好殿~~~~!!!!!!しゅんこうどの~~~~~~~~~~!!!!!」
完全に恍惚の表情を浮かべたその蛇人間は、狂ったように暴れまわった後で一度動きを止め、付近の鉄柵をもぎ取り
こん棒のように振り回しながらオージに襲い掛かってきた。
「くそっ!動きが計算され、読まれている!ただの阿保じゃあないようだな!」
「アマツガジェット・アポロンソード!」
光とともに現れた剣を持ち得体の知れない着物姿の蛇男と日神オージは戦いを始めた。
「にひゃひゃひゃひゃああああ!!!!!!!!!!」
「くっ!お、お前のような魔物…何体も見てきたんだよおお!」
テルヒコは冷静に切り返したつもりであった。だが内心動揺が隠せなかった。
どういうことなのだろう。異様な蛇男のペースに空間そのものが干渉されそうなほどの異質さと呪術じみたものを感じたからである。
「佐伯の呪いは今でも終わることなく続いている。おっおっおまえもせいぜい生き地獄に落とされぬよう気をつけよ!」
謎の狂った男はそう言い残し、姿を消した。
「体が消えていく・・・・・・やはりこいつも、この世の生物ではないのか。」
「若いの。あんたもあれが見えるのかい?」
小さな背の丸まった老婆がテルヒコにやさしく話しかけてきた。
振り向いたときに現れた彼女に驚くテルヒコだった。さっきまで周囲に人間はいないはずだったのに。
「おばあさん・・・・。俺の姿を見ても驚かないのか。」
「もうあたしは何年もトウビョウ様を見てきたから。ちっとのことや驚かん。」
「トウビョウ様?」
「あれは佐伯惟治じゃ。気をつけい若い子や。ありゃに憑りつかれたら気が狂って
ぴょんこたんぴょんこたん、蛇んごつなってしまうかいね。」
テルヒコは驚いたその時、老婆は自分の腕をグイッとかおの近くまで見せてきた。
「うっわ・・・・これは・・・!」
「不気味じゃろう。これが佐伯の血じゃ。」
老婆の腕にはうっすら爬虫類の鱗のような皮膚組織が透けて出ていた。
「佐伯って・・・・・・・おばあさん、あなたは」
「あんたが聴きたいことは、なんとなくじゃが儂にもわかるぞえ。」
「大神(おおみわ)の・・・・姥母岳の話は知っとるかい?」
「いえ、詳しくは・・・・・。」
「そうかい。話せば長いことになるがね・・・・」
老婆はみずからの一族、大神一族にまつわる奇妙な伝承をテルヒコに教えて聞かせるのであった。
大神一族の霊異譚
「それはそれは・・・・・・・・・とうの昔のこと。
豊後いうたら大分あたりのことやけど、豊後と日向をまたいでおおきな姥母岳ちゅう山があったんよ。
そこに竜神様がすんどってね。美しい男に化けた竜が大神(おおみわ)の若い姫様と結ばれて、うまれた
その子らが九州で比類なき武士になると神様に言われた話があるとよ。」
「その類の伝承って、三輪山型伝承!」
「ああもうお兄ちゃんは知っとるね。そうそう。ほかにもまだある。
肥前は松浦佐用姫も。その三輪山のヤマトモモソヒメの伝説も。」
「箸墓古墳か、学会で卑弥呼の墓とかいわれたあの・・・。」
「そうした似たような話はいっぱいある。だいたいが似たもんで、若い男になったり綺麗な女になった蛇神さんが、自分の惚れた相手のところに行って
結ばれ子を成す話じゃ。」
「おばあさん、あなたもその子孫なんですか。」
「わしは代々佐伯家の後見人をまかされておるでの。佐伯もそうじゃ。」
「この話が一発でわかったということは、あんたもおなじ血が流れとるんやね?」
「俺の祖先は海族・・・・・鴨氏だ。日向の天孫神話の一種のモデルは、南方から来たこれらの一族に受け継がれたものだと思っていますが。」
「難しい話はワシも詳しくはよう知らんが、だいたい話は繋がってくるやろ?」
「ええ。俺がわかる限り、鴨の別姓は三輪、大神(おおみわ)でだいたい同じ血だ。でも俺のからだにそんな鱗は無い。」
「天から来た神さんの血じゃ・・・・・・。わたしらにはまったくわからんこともまたあるからな。
はっきり言えること、一つは星から来たんよ。」
星から、と言ったその時、老婆はゆっくり天へめがけ指をさした。
「星って・・・・・・・・・・宇宙から?」
こくりとうなずいてもう一言「おまえさんのその姿も人知では測れぬ力によるものであろうがな。」
「そしてもうひとつは、まことの天じゃ。」
「神さんいうのも八百万たくさんおる。偉い神さんも、神さんになりそこなった化けもんもいろんなもんがな。
このにっぽんじゃみ~んなそういうのも神さんなんよ。」
「祀られそこなった神さんいうのは、そりゃあもうひどい怒りようをさすもんもいるでのう。」
「祟るとか、そういう。」
「はあ・・・・・・・」
テルヒコはただ老婆の話に耳を傾け、うなずくほかなかった。
「でもとにかく、その佐伯なんとかって言うさっきの気狂いみたいな男は仲間だったってことなんですか?」
「あれは・・・・・・・・・・ありゃ不埒な男よ。あれはわたしらとは違う。怪しげな魔法に走って祖先の血を正しく守り切れなかったから
ああいうことになるんよ。」
怪しげな魔法?陰陽道的なもの、仏教を通してその正体が変質していった邪教、異教的なもの・・・
黒魔術のようなもののことかとテルヒコの脳裏には一つの予測が立った。
「魔法、ですか。」
「もとは力があり正しい傑物だった惟治も、春好坊という怪しげな僧のもとで奇妙な術を操るようになってから人が変わっていった。
最期は仲間であった大友家からあらぬ造反の疑いをかけられ自らの手で非業の死を遂げておる。
己に与えられた力や素養も正しく自制できねばすべての神がかりは惟治のようになるぞよ。」
「うっ・・・・・・・なんか気持ち悪いな。そのはなし。」
「この地域では佐伯惟治を祀る社は多くある。一説じゃトウビョウ様いう蛇の神になって人に憑くともいわれているからあんたも気をつけなさいね。」
「おばあさん、いろいろ俺に教えてくれてありがとう。」
「なあに、たいしたことも知らん年寄りの時間つぶしじゃよ。」
その老婆は微笑んでテルヒコを送りだしたが、どことなく心配そうな面持ちで彼を見送っていた。
「どうしたことか。あの青年、今にも死にに行く目をしておるが。」
それは彼女の感じた予兆なのか、それとも。
ヌエ(生殺与奪権)
「うっクサッ・・・・・・・・・・!あなたさっき私とすれ違った人よね?」
「・・・・・・・・・なあ、どうすればいい?俺はこれから。」
その激臭を放つホームレス中年。西野以蔵(にしのいぞう)。34歳は数か月前上司のミスを擦り付けられ会社を解雇され、妻が蒸発し息子は学校で生徒や教師らから嫌がらせにあい自ら命を絶ってしまうというまさに生き地獄のような状況にある男であった。
いじめの理由は自分が仕事を解雇され妻から逃げられたというふがいないものからであった。また息子も純朴な、それでいて優しく周囲へ気を配りすぎるきらいのある、ともすればうたれ弱い気性の子だったということもあった。だがそれではカバーできないほどの理不尽な現実があるのであった。それまでのいきさつを知らない親戚のおばたちは、自殺した息子と自分の育て方をののしった。「お前が甘やかすから、あの子はいじめられたんだ!」親戚たちの家にたまに息子を遊びに行かせることがよくあった。交流があったため、親のかわりをかってでるくらいの世話好きであるかに思えた、昔は・・・。だが現状は親戚の息子たちとの比較、非常に肩身の狭い思いをさせていることを知らなかった。知らなかった自分を責めた。親戚による暴力をともなう過剰なまでのスパルタ教育、「お前は男らしくない!お兄ちゃんたちと比較しても考え方もやることなすことすべてが悪い。学校でからかわれるのはお前が悪いすべてが悪い!全部が悪い!社会のクズになるぞ」仏壇の前で位牌に謝るよう頭をつかんで引きずる。せっかんなどが主な原因で息子は追い詰められていたことを親戚たちは知るよしもない。それほどに息子は優しい、すべてを受け入れる子であった。葬式の中で西野は泣き崩れ、親戚に数珠を投げつけ首を絞めた。「貴様らが俺の子を殺したんだ!」だが途中で涙があふれ、気絶し倒れてしまった。西野は神を憎悪した。憎み切ると、憎しみもわかない。動く気も失せていた。自らの最愛の息子が悪意ある人間たちの手により追い詰められ命を絶ってしまったことに、強烈な憎しみと悲しみの感情がわいた。妻も若い男と逃げた。また自らも度重なるストレスから胃にガンを抱えていることを医師に言い渡され、自暴自棄のまま酒浸りとなりホームレスの日々を送っていた。手持ちのお金は205円。すべてを失った自分、もうこの世に未練はなかった。だが同時に、自分からすべてを奪ったこの世界そのものの全部に、復讐をしてやりたいというエネルギッシュともいえるある意味で強固たる悪魔的感情が顔をのぞかせた。
ネットカフェで嫌そうに嫌遠する店員らの顔をよそに店を後にする。「これで完了だ・・・・・・・・・・あの男、待ち合わせ場所はバーMASON・・・」
「・・・看板にはカフェレスト福やってかいてあるが・・・・・ここで間違ってないよな?」
「いやまちがって・・・ないはずだぞお。」
西野がうつむいた顔を上げた途端看板の文字が変わっていた。看板を変えたのは店の入り口にいる美しい容姿のジャージ姿の健康的な青年だったからである。
「おじさんもこっちの世界の人なの?」
「キミは・・・・・・・」
「・・・ごくり」
「誰だ。」
「俺、星野博文(ほしのひろぶみ)。おじさんは?」
「そうか、元気でいいな。」
青年ににこっとほほ笑むと西野は激臭を漂わせ店内に入っていった。
西野はこの数日前、突然自分の携帯に届いたメールのアドレスいわゆる(ダークウェブ)に続く鍵のようなものを発見してしまった。
「なんじゃこのサイトは・・・・・・・・・・・」
このメールを受け取った人へ。あなたは選ばれている最高の人間だ。行き場を失った魂が集う場所。本当の自分を知りたい人へ。
などとそう赤字で書かれた文章と共に表示された店はどうやらバーのようだった。
バーというより、秘密クラブめいたその謎の店は日本の国家機密情報からあやしいオカルティックなものに至るまで
闇の取引のほとんどを行う最高権力者のみが関与できうる会員制サロンと書かれている。
なにより異常であったのは、西野の顔写真、数年前教習所へ自動車免許更新のためカメラ屋で撮ったそれがなぜかサイトにアップされていたから
驚いたのであった。「西野様、ぜひとも当店のサロンへお越しください。我々仲間があなたを待っています。」
「いきてええ・・・・・・生きてえ、いった後で死ぬのも悪くはないな。」
「いや、こんなところにでも行って、臓器売買や人身売買の憂き目にあったら・・・そうなりゃおれの体が恵まれない人の役に立ったと思えばいいか。」
ため息をつきつつも、自分を必要とする連中がこの世にいるのかという期待感もないまぜとなり、いや半分絶望で頭がおかしくなりかけていた廃人同然の西野は
もうろうとネットカフェを後にして、死に場所を求めるようにバーにやってきたのだった。
「あんた・・・・・・・・・八竜院って言うのは、あんたかい。」
「おおこれは、来られましたか西野さん。我々のゲームにご参加いただきどうもありがとうございます。」
「げえむ?」
「そうです、これはゲームなのです。この国の社会構造、国家システムのすべてを破壊する、ね。」
「あなたは天使に選ばれた神々の選ぶ最高傑作ですよ西野さん。」
「へへっいいぜおっさん。俺らの仲間にしてやってもよおッ!」
蒼黒い怪人となっていた若い男が徹底的に西野を殴りいたぶる。
それを見てうれしそうに腕を組む香(天探女)。「いい絵ね・・・。」
「うっ!おっさん・・・・・・・・・・期待どうり!こいつも俺たちの仲間ってことだなあ!」
変貌した西野の体は服を破り、ベージュ色のけだもの、サルとトラの融合したキメラの如き怪人(ヌエ)へと変わっていたのであった。
(ヌエ・日本神話や伝説に登場する猿のごとき妖怪。)
「俺は、俺から生きるすべてを奪ってきた奴ら全員に同じかそれ以上の苦しみを味あわせたい。
いや・・・・・・・人間が憎い。人間たちの醜く汚らしく、醜悪で、獣のような心が。
これからはこの世界すべてを俺の思うように傷つけ壊したい。それができればいい・・・。」
それはあなたの醜い本質の姿かもしれませんよ。と八竜院が答える。
「あなたは、でもそれ以上に人を愛したことがある人間だ。」
「壊せますかね?そんな人に。」
「俺は壊してやる!海も、山も川も自然も世界も街も言いる人間ども、すべてをこの手で」
「壊れるほどまでに人を愛してきた人間だからこそ、あえて道を外れるのですね?」
「私が言うのもなんですが、引き返せますよ。」
「あんた、おれに同情してるのか?ありがたいがもう遅い。おれは・・・・」
「そんなもんじゃあない。それほどまでに私たちが誘う世界の闇はもっと深いからです。あなたはまだ人間だ。」
「そんな生易しいあなたにそれができるでしょうか?西野さん。私にはあなたがとてもそういう人じゃないような気がしますが。」
「俺の気に食わないものがいなくなればいい。それからあとは好きに考えるよ。俺をあんたらのそのゲームとかいうのに使ってくれ。
もうそれ以外どうでもいいんだ。」
「承知しました。あと余談なことなのですが、あなたのもとからお逃げになった奥さん、身元がわかりましてね。
若い彼氏に捨てられ実家に戻っているところを保護させていただいているのですが。」
モニターに映し出されたのは、懐かしい妻そのものだった。
「おお、ナツミか。」
謎の緑色の培養液に入れられた西野の妻は、水中で静かにプカンと美しく浮かんでいる。
謎の芋虫のようなウミウシのような水生生物が妻の横に浮かんでいるように見えた。
「どうなさいますか?あなたが今後の人生でこの方と共に歩んでゆくことは・・・・・」
「俺にそれを選択しろと言ってるのか?」
「仮にも、あなたの人生です。」
八竜院がそう告げた時、西野は即答した。
「俺はもう以前の俺を殺した。心の中でナ・・・・・。あの女は目覚めたら真っ先に俺が手にかける。その日まで手は出さないでくれ」
「承知しました。」
狂乱の宴(カーニバル)
「俺はもう、人間であることは・・・・・・・・いやだ。」
「いっそ魔物でいいってことかしらあ?」
「お前も俺と同類だな。」
「調子に乗るんじゃないよ!下等生物!」
天探女の攻撃を受けてもまったく傷一つつかないヌエ(西野)。
それを見て微笑んでいたさわやかな青年、星野はすべてを締めくくるようにこう告げた。
「おじさんみたいな強そうな人が来てくれたから、俺も本気出さなくっちゃ!」
「星野くん、キミもたいがいにしなさいよ。いい寄ってくる女性たちの命を奪うなんて。」
「仕方ないじゃないか!僕は僕自身が一番好きだから!人間がいくら死のうが・・・。」
姿を変質させた星野もまた、禍々しい銀色の怪人へと姿を変えていく。
「なんと悪魔的。」
「お前、うちの息子が好きだった・・・・あの・・・なんだっけ・・・。どっかで見た顔だぞ。」
西野(ヌエ)が驚き星野を凝視する。
「ええ僕ってやっぱり有名人?!昔、新星シルファードっていうヒーロー番組に出てたから。」
「いまはルシファードだろ?!」
「まあ、そうだね☆」
爽やかに受け答えする青年を眼に八竜院はつぶやく。
「天若彦(あまわかひこ)彼がそうなのです。彼は女性の命が主食でしてね。」
親切そうに教えてくる八竜院を前に、西野の理性はとうに崩壊していた。
自分の息子が応援していたヒーローの正体が、自分と同じ魔界の化け物であったことを知った時、正常でいられる
ことは到底不可能であった。
「はは・・・・・・・はっはっはっははははは!!!!!!!!こりゃけっさくだ!ああ、そういうことだ。そうだそれでいい!」
「おおいおっさん・・はちりゅう・・・の・・・あんただよ!・・・メンバーはこれで一通りそろったってことでいいよね!」
「いいえ、まだもう・・・・2人。あとの二人はスペシャル待遇です。あなた方のような元人間。もっとも、この時代の人間じゃありませんが。」
「なんだ?佐伯・・・・・・」青黒い怪人である男が首をかしげる。
「敵にも味方にもなり得る。彼とは今は少し対話が難しい状況です。」
「ちからづくでどうにかならないの?」
「彼の背後にある神の力が欲しいのです。利害さえ合えばきっといいフェアな関係が築けるはずですよ。」
「そのへんはわたしにお任せを。」
臙脂色の怪人が八竜院に進言する。
「シュラ・・・・・・すみませんね。なかなかの逸材をリサーチしたつもりなのですが。」
「そしてもうお一方は彼です。」
ファイルに記載されたその姿を見て一同は驚いた。
「おお・・・・・仏教のナンカみたいだ。」
「どこが奴の顔なんだ。」
顔が表と裏二つ隣り合わせで存在する異形の怪人の写真がそこに載っていた。
腕も何本もある。シャム双生児のような、千手観音などのような独特の姿をしている風貌の存在である。
「りょうめんなんとか?」
「このお方は、美濃飛騨地方ではとても有名な伝説の英雄。両面宿儺(りょうめんすくな)です。」
「英雄ってそんなたいしたことをしでかしたのかよ」
「彼はメンバーの中ではおそらく最年長なのではないかと推測されます。くれぐれも無礼がないようお願いしますよ。あなた方はかりにもチームなのですから。」
「了解です。へへっ・・・・・・」
「あなた方の日常を、監視させてもらいます。」
八竜院がアタッシュケースから出した首輪のようなものを全員に配り終えると、瞬時にそれは各自の首に埋め込まれ
消えていった。「おおすげえ・・・・・・・・・・・」
「ああ嫌なかんじぃい・・・・」
蒼黒い怪人は満足げにメンバーたちを見てこういった。
「魔尊六人衆・・・・・・・・・・・六柱だな。」
「俺の名はシンノスケ。・・・・・・・・・・・・・ってのは嘘の名前で、本当の名前はアクル(悪樓)。俺も神だ、よろしくな。」
「魔尊六柱(まっそんろくちゅう)、ここに誕生ってことでいいかな。」
一人人間の姿をしている八竜院、店内で怪しい笑みに包まれる魔物どもの宴ははじまったばかりであった。
瀬戸の怪魚神(悪樓)
そこは深い海底だった。遭難した船や残留する材木、鉄などであふれかえる吉備国の穴海一帯において
かつて猛威を振るった悪しき大魚が棲んでいた。その名は悪樓(アクル)。巨大で凶暴な海の神である。
主に「日本書紀」や「古事記」などにその事績が見受けられる怪物で、英雄ヤマトタケルに熊襲征伐の帰還中
海の上で倒された悪魚の伝説としてその名が残っている。その他に日本武尊の子ともいう讃留霊王(さるれお・讃王(さんのう))という
人物が瀬戸内海でこのような悪魚を倒したという言い伝えが残っているのである。
だが岡山、讃岐(四国周辺)での悪魚退治伝説など、実際に人々の間で語り継がれてきたこの伝承の真相は
はっきりしていない部分が多い。特に記紀神話(日本書紀や古事記のこと)でハッキリと悪樓(アクル)という名称は見受けられないばかりか
絵巻物として語り継がれるその姿なども不明瞭な箇所がいくつもあるという。そんな謎の多い悪樓であるが、ヤマトタケルのほかにも
スサノヲに倒されたなどという逸話、説も残されるほどである。深海において深い眠りについていた伝説の悪神、悪樓(アクル)。
クロウの全国各地に急激なスピードで設立されていった地方支部建設の工程において、大量の汚染物質が四国周辺の海に流れてきたのは言うまでもない。
急速な発展とともに、人類社会の負の側面としてのすべてのしわ寄せは海や山川といった自然に向けられることが多い。
そしてその自然もいつしか人間たちの傲慢に自省を促すべくして牙をむく日が来るのである。
その日は突風、豪雨で防波堤に大きな波が押し寄せ四国地方は避難勧告が発令されていた。
「邪な人間ども・・・・・・・・・!俺の眠りを邪魔する奴は誰だ!」
やけに不味い大気。毒ガスのような汚らしい廃棄物の混じった不浄な海水を体に蓄え飲み干していたアクルは、
雨風の中灯台に来ていた海上保安庁の青年へと目をつけていた。
「誰でもよい・・・・私の意志を顕現できる肉身が欲しい・・・!」
黒い海坊主のように浮かぶ影法師。灯台のガラス窓には、黒い闇のなかでギラリと光る、空中に浮いたヒラメのような大魚の眼があった。
シュールレアリスム、ダリの絵画のような異様な光景がそこにはあった。空中に浮かぶ魚。「あわ・・・・・・あわわわ」
青年は恐怖のあまりその海坊主のような化け物の出現に、失禁してしまっていた。
パリーン!灯台のガラスがすべて割れ、海の水が一気に灯台をなぎ倒した。数か月後、海上をゆく護衛艦の甲板上にて
日中先日襲われたはずの行方不明の青年が一人立ち尽くしていた。「艦長!あの男はなんですか?!」「おい、キミ・・・!貴様、何者だ!」
「うちの船の乗員ではないと思うが、だとすればどうしてこんな海の上で・・・!」
「ひゃはは!戦争のおっぱじめがいがあるぜ!パーン!てね。」「こんな御大層な大砲があるのにねえ。国民の金、血と汗でよくモっているよな。」
「川本!・・・・・・白井!貴様、二人とも殺したのか!」
「生命が生きる上で他の命を奪うことは致し方ないことです。」
「何を言っている・・・・・・」
「俺に説教垂れるなんざ一億年はえーんだよ、オッサン。」
「ぐはああっ!」駆け付けた船員が一人、また一人男に殺されていく。
「こちら高崎!繰り返す。正体不明の生物により攻撃を受けている。至急救援を乞う!うわああああ!」
「高崎君、キミは栄誉ある死を遂げる。ご遺族には君はテロリストの奇襲攻撃を受け死んだと伝えておく。あの世で安らかに眠るといい。」
「ど、どういうことですか!」
「巻き込まれてしまったからには仕方ない。この国には、タブーというものがあってな・・・。諸民族の裏にある因習、すべて臭いものに蓋をしてきた歴史がある。奇祭や生贄の儀式。我々人間は進歩してきたかに見えて、やっていることは現代でもそうかわりはない。」
「あんた狂ってるんじゃないのか!ふざけるな!今おれたちはあんたたち上の命令に・・・おい、!クソおっ!」
「脳みそからいただいちゃおうかな。」
「ぎゃあああああ!!!!」
鮮血が艦内にほとばしる。甲板で戦闘を繰り広げていた男は、艦内のほとんどの人間たちを惨殺していた。
「は~生き返ったぜえ。今日はこの辺としとくか・・・・・・」
バシィイッ!
「まだいたのかァ?はははっ」
「この、バケモノ!」
足をへし折られ大量出血しその場に倒れていた船員の一人が、9mm拳銃の銃口に指をかけようとしたその時、得体の知れぬ力で指の爪が大きくはがされるのだった。
「まったくも~、人間の臓物ほどクセえものは無いんだよなあ。糞尿を垂らして泣いてたぜ?お前のお友達・・・。」
「人をいたぶる趣味は無いんだけどよお。お前ら人間に俺が殺せるわけゃねえだろうがよお!」
「ッゴルゥアア!!!・・・ゴキン!」謎の念力により船員は首をありえない角度に捻じ曲げられ床をつきやぶる強烈さで床面深く首をめり込ませた。
地にめり込んだ船員の逆立ちした両足を両手で持ち、ほほ笑んだ男の口元と冷めた目はあまりにアンバランスで
人形じみた不気味の谷現象のような醜悪さに満ちていた。「やっぱり人間は、糞人形だなあオイ。」
藁をいとも簡単にもみほぐすかの如く。船員の両足を持った腕で、その体を真っ二つに、唐竹のように勢いよく引き割った。
腸内に沈殿した糞、そして尿がはげしく男の周辺にほとばしる。
「・・・・あン?」
ドゴーン!男の乗った護衛艦は、縁距離からうち放たれたミサイルの直撃連射により、海底そこへ沈みだした。
「高崎君・・・・・・・。ほんとうに申し訳ない。だが私にも愛する家族が、妻が娘がいる。人は本当に追い詰められた時、自分あるいは最も大切なものを優先する生き物なのだよ。キミもそうするだろう、許してくれ・・・・。」
「おいクソ爺!てめえがこの国のてっぺんか!」
「き、キミは誰かね?!ここは君が来るような場所じゃない!」
護衛艦を撃墜した自衛隊の本部、ドアを木っ端みじんに破壊し部屋に侵入してきたその男は、血まみれの姿である戦慄の条件を要求した。
「俺がこの国を沈める。」
「貴様!手をあげろ!」
驚いてサブマシンガンを両手に室内に来た自衛隊員を待ち構えていたその存在は、異様な蒼黒い、”怪神(かいじん)”であった。
「ハアーッ・・・懲りないやつだ。」
「伊集院、下がっていろ。」
「あっあなたは・・・・・。」
「ば、金色の化け物・・・!」
「いや、あのお方は我々の味方だ!撃つな!」
襲撃された自衛隊の施設内部でその怪神の前に悠々と現れたその存在は、もうひとりの怪神であった。
「お前なんだ?!」
「・・・・・・お目覚めか、いんや~なかなかのポテンシャルを見せつけてくれた!」
「は~?!誰だか知らねえが、お前も殺しちまうぞ?」
「いやいや私は闘う気は~ない。キミのその活きのいい元気な活躍っぷりを、我々の側にスカウトしちゃいたくなっちゃってな~。」
「そんできたのよ~。」
「お前、ふざけてんのか?」
「怖いなァ~。田舎の不良じゃあるまいし。まあキミは大体そんなもんといえばそうなんだろうけどな~。」
「ころすっ!」
バシィッ!
「カ~~~~~~ッコイイィィーーーー!」
逆上した青い怪神の拳を微動だにしない動きで片手のみで受け止め不気味に笑う金の怪神は、改めて大きく息を吸い込み、一言こう言い放った。
「お前、この国そのものに復讐したくはないか?」
「どうして俺の欲望がわかる?」
「わかるのではな~い。わたしもにたよーなことを常日頃考えているからだ。」
「はっ、八竜院長官!この怪物は危険です!」
「こっこの化けもん、、、いや、これ(金の怪人)がハチリュウインなのか!え~~~~~???!!!」
「え~~~???!!!」
「現世への復活、おめでとう。ハッピブ~スデ~!!!怪魚神悪樓(アクル)!」
黄金色の怪神八竜院の高笑いが血まみれの施設内でこだました。
迫りくる闇のなか
八竜院の手引きにより集められた魔尊六柱。厳密にはまだ4人しか集まってはいない。
彼ら溢れんばかりの欲望をたぎらせる魔の精鋭部隊が真っ先に目をつけたもの、それが(日神ジャスティオージとの対決)であった。
「貴様ら・・・・・・・・・クロウの怪神か!」荒野においてアクルの前に身構えるオージ。
今回も普段と似たような勢いでカラス男がやってきて、おそらく自分に戦いを挑みにくるに違いないと思っていた。
「面白いわねえ。こんなたった一人に大組織クロウが手こずらされていただなんて。私たちが可愛がってあげるわ・・・!」
「きッ気色の悪いことを抜かすな怪神ども!いくぞ!」
「ふうん。今日は俺が先に殺るよ。アクルスプレッシャー!」
突如として出現した海神ポセイドンが持つモリのような武器で突進してくる怪魚神アクル。
「ぐおおおおお!!!!」すべてを振り切るかのように突っ込んでくるアクルとヌエ(西野)の迫力に
普段の勢いがうまく出し切れないテルヒコ。
「マガツテンタクル(触手)・・・!」気を許した隙に天探女の有機的な髪の毛が職種となりオージの腕と首を拘束する。
「ごっごは・・・っ!お、おまえら・・・」
首を絞めつけられているため技を自由に発動させることができないオージ。
「油断は命取りだぜ?!」
日神オージは言霊から得られる霊力、そしてその振動数(バイブレーション)によって妖魔を祓うことができる。
武器に力を与えるのも、技を発現させるのもいわゆる音声入力のようなシステムで行われる。
「言霊が命だってのは、わかってんだよお!声帯を潰せばどうということはない。なあ探女(オバサン)?!」
「あなたの声帯もつぶしてやるわよ?」
「なかなかみんな楽しくやってるみたいだね・・・。じゃあ最後は、僕ね。」
楽し気に笑顔で見ていた青年の姿が銀色に変化し天若彦が姿を現した。
「ヒーローがこんなんじゃ、夢もへったくれもないよね。死ねよゴミが。」
オージのすべてのエネルギーが宿る丹田にワカヒコの強い一撃が入った。
「その時を狙っていたんだ!かかったな怪神ども!」
雷のように強いスパークが、腹部に拳を突き立てたワカヒコの全身に走る。
「ぐ・・・・っ!な、なにをした!」
「奴の声帯は封じたはずじゃ・・・・・・・・・・」
「人の体には頭頂部から臀部にかけ数か所チャクラという器官がある。
人のタマシイを、見くびるんじゃないぜ!」
「な、なんなんだこいつ?!」
おもわずたじろいでしまっているワカヒコの姿があった。
「お前行け!お前だよ速くやれよ!」
ワカヒコがヌエを足で蹴りつけたたそのとき、ヌエは一瞬にして沸騰していた。
「若造、お前なんだ?お前が倒すんじゃなかったのか。」
「そんな・・・・なんてバカ力なの」
念力(PK能力)のような強制的な圧力で解かれてゆく探女の触手。
「いかに強くとも力と技だけ・・・。少なくともお前らじゃ俺を倒せない!」
「シャイニングフィールド!」
すべてを振り切ったオージの全身から放たれる光は4体の魔神を引きさがらせた。
「チャクラ・・・・・・・よく知っているな。この間の赤いヤツ。」
「おッお前は・・・・・・・・・佐伯惟治?!」
「ああそうだ。あのばあさんから聞いたか。あの老婆の次にお前を殺れば大神(おおみわ)の魂をすべて吸収できるというものだ。」
「まさか・・・・・佐伯惟治。お前、あのおばあさんに何をした?!」
佐伯惟治はこれまで命を奪ってきた人間たちの魂を糧とすることで自我と理性、そしてはるかに凡人を超越した知性を得始めていた。
「私も貴様らの闘いに興味がある。わが勢力の護った土地を解放するためにも、貴様のような存在は邪魔なのでな!」
「・・・お前らは神として幼すぎる暴れ馬だ。
チャクラ・・・・丹田に宿る魂と言霊の関係性、神は霊である、神は言葉であると聖書にも載っている、神話学の基礎知識だ。
そんなことも知らんとは・・。そんなようだから形勢を逆転されるのだ。
こんの・・・・・・・・・っバァアカめえ!」
ケタケタ赤子のように残酷な黒い笑みを浮かべる蛇男のようすは異常であった。
「いっ言わせておけば!この蛇やろう!」
ワカヒコは怒りに狂い蛇男に殴りかかろうとするが、ワカヒコ、ヌエ、探女共にオージもろとも謎の呪文、呪い込言霊のようなもので苦しめられてしまう。
「わが権能の前ではなす術もなし!よくよく相手をしてみれば・・・!たいしたことはないものたちだ・・・。」
「ここで全員つぶれたら俺だけ勝ちで、面白いのになあ。」
内心思っていることを無自覚にもつぶやいてしまうアクル。
「いついかなるときも用心しておかねば・・・。わが名は佐伯惟治。」
「お前佐伯って奴じゃあないだろ?」
「ほう、なぜそなたはそう思った?」
「そりゃわかるさ。顔に生粋の地主神だと書いてある。それもあまりにも場違い。宿主の魂を喰っちまったのかい?」
アクルが不思議そうににたりと笑い蛇男をのぞき込んでいるとき、攻撃がやまりオージたちは膝をつき倒れていた。
「いまは私が主人格なだけだ。私は私の目的を達成せんと動いている。」
「邪魔ものどもから自らの地をまもるために始めた戦いが、いつしかくだらぬ呪いと結びつくようになった。
そこに倒れている赤いのをいためつけぬことには、どうにも気が済まぬのだ。」
「そりゃ倒錯してんなあ。過去に倒された恨みは俺もあるけど・・・。まあそれで気が晴れるならいいわな。」
「我は常陸の夜刀神。」
「お前のことはある男から聞かされている。ここにいる全員がお前を知ってる。ようやく正気のおめざめときたか・・・・・。」
「お、おまえたち・・・・・・・・」
意識がもうろうとする中、オージは立ち上がろうと体に力を入れるがアクルに全力で踏みつけられていた。
「お、お前ら、なんのはなしだ・・・・・・・・・・!」
「お前をどう地獄へ落そうかって話さ。」
竜王伝(咆哮せよ!リューグランサー)
リョウは青島の浜辺でバイクを横に止め寝っ転がりながら空を見上げていた。
「兄貴・・・・・・・ほんとに逝っちまったのか・・・。」
なんともいえない気持ちで家に帰ろうかと腰を上げたその時、見たこともない白い仮面に黒いタイツ姿の怪人どもがわらわらと
銃を片手に黒塗りのヘリから降りてくるではないか。
「あれは一体なんだろう・・・」その光景のシュールさに絶句してしまう。
「きゃあたすけてー!」観光客であった子供たちや若い女性たちまでもが襲われ一人一人謎のトラックのようなものに収容されて走り去っていくことを目撃したリョウは、その事件性の香りしかしない状況に、慌ててバイクを走らせ車の後を追うことにした。
「こいつぁあやばいぞ!お、おい・・・優也!ちょっと来てくれ!誘拐だ!」
フェニックスロードを追いかけてゆくリョウのバイクと黒いトラック。車体にはなにやら不気味な笑顔の黒い鳶、カラスのようなマークがあしらわれていた。
接近してからというもの運転手の男とすれちがいざまに目が合った。「!」
全力のスピードで追い抜かれまるでカーチェイスのように追い抜いてはつきはなされてしまう状況。「気づかれたかな・・・!」
「!!!」
リョウは次の瞬間絶句した。トラックの積み荷の扉があいた瞬間、積み荷内にいた謎の白い仮面をかぶった不気味な黒い男たち(クロウ工作員部隊)による
銃撃が彼を待ち構えていたからである。
フェニックスロード(堀切峠近郊)の道路上にて、バランスを失ったリョウは大きくスリップしバイクからこけ落ちていた。
バイクは一応無傷であったがタイヤを支えるフレームが大きく歪んでいた。
「ワカヒコ様。追跡者1名、無事沈黙しました。」
「ご苦労様。キミたちけっこうつかえるね☆」
遠くにいるワカヒコ、そしてワカヒコ自身が内通していた組織クロウは、リョウの後輩であった田力優也も拉致していたのであった。
「あの八竜院っておじさん、油断ならないところがあるからこうでもしないとさ。・・・・で、正体はキミなんだろ?すっとぼけんじゃないよ。青のオージは!」
「え?!な、なにいってんだ・・・。お、俺じゃないっスよ!なんでそうなるんですか!」
ワカヒコはかつて赤のオージ(テルヒコ)の前に出現し幾多もの危機を救ってクロウを邪魔してきた青のオージの正体が
優也だと思い込んでいた。とんだ工作員部隊の手違いで、戸籍などのデータベースから間違って水騎龍(リュウ、かつての水神オージ)
の関係者だった田力優也の資料を選んでしまっていたのである。
「本当のことを言わないなら、こちらにもかんがえがあるよ・・・!」
「う、うわあああ!!!」
「そいつをはなせ。俺に用があんだろ?!」
そのつかの間に、車道で大事故をしてしまったはずの青年、水騎竜(ミズキ・リョウ)がトラックの上から見下ろしていた。
トラックのうしろには、大量に倒された工作員部隊の姿があった。
「きっキミは・・・・・なんなんだ~~~~い?!!!!!!」
「試させてもらうぜ・・・。これが俺のファーストステージだ。創聖(そうせい)!」
「せっ先輩!その剣は・・・・・・!」
驚いた優也はリョウの創聖した青い戦士の姿を見た瞬間に、叫んでしまった。
「あっあれは・・・・・・・・ジャスティオージじゃないか!」
「まさか先手を打たれるなんてな・・・・・その剣は僕が欲しかったやつなんだぞ!
倒して力づくでも取ってやる!」
「・・・・・・あれ?!いない!」
「ここだよっ!でやあああっ!」
瞬足で姿を消した青のオージはワカヒコの頭上にいた。
「はっ!」
「があああっ!」
青のオージの拳につかまれワカヒコは地面深くえぐり飛ばされていた。
「くっ・・・・なかなかやるじゃないか・・・マガツ・ソード!」
「リョウ!いきなりの実戦だが、キミの潜在能力でもってすればこいつはたおせるはずだ!」
「へーきへーき!俺さ、こういう方が燃えるっていうか。」
「説明書とか読まないでも勝てるタイプだから。」
「あっリョウ、その技は・・・・」
「わかるさ!ドラゴンウォーターミサイルキック。」
「おぶぶぶぶぶぶぶはっ!」
人間離れした身体能力で何回転にもわたり高速で繰り出される足技は終始敵を制圧していた。
「・・・へえ、音声入力とは兄貴も考えたな。こっちも武器はあるぜ。竜王剣!・・・・・・・・・ドラグブレイカ―!」
「なにを一人でしゃべってるんだ。」
「マリナーズスプラッシュ。」
竜の残像と共に全身のスラスターが解放され、リョウのドラグブレイカーによる回転斬撃は見事に決まった。
「ぐ・・・・・ぐはあっ・・・・・・も、もうだめだ・・・。すみません僕の負けです!許してくださぃいいいいいいい!」
瀕死のダメージを喰らいぼろぼろに傷ついたワカヒコは、リョウに対してまさかの全身全霊をかけた土下座と命乞いをするのであった。
「えええちょっと・・・・・どうしたんだよこいつ。」
「本当は僕は上からの命令で仕方なく行動させられていただけで、本当にすみませんでした~!」
「こいつ、なんなんだ・・・・・・。っておい待て!」
ひっひいいい!!!!「にっ逃げるぞお前ら!」と全力で這うように逃げ出したワカヒコは、駆け付けた工作員部隊と共にヘリで遠くに飛び去ってしまった。
「俺としたことが・・・ってやることきったねえなあ~。」
「みんな、大丈夫か?!」
トラックから誘拐された人々を助け出すリョウと優也であったが、自分が戦ったあの怪物は、間違いなく次もバトルを仕掛けてくるであろうことは
彼にも容易に予測できるのであった。
「あっあなたはオージじゃないか!あれ、今日は赤いやつじゃないの?」
「そうか。俺、ヒーローになっちゃったんだよな。兄貴、今日からは俺が・・・・・・・・」
「先輩!記念にインスタに上げときましょうか!」
「バカ!どういいわけすんだよそんなことして・・・。」
そんなこんな話しているうちに、周囲には大勢の人だかりができていた。
「ど、どうしたの?!すげえ近くで見るとブルーもカッコいい!って熱っ!体ロボット?金属でできてんのか?!」
「・・・あははっ、そうそう!俺がジャスティオージ!俺がっていうか、俺も?!」
「すごい順応してんなあ」
いとも数分でヒーローとして初戦の勝利を挙げられたことに対しあっけにとられる後輩の優也であったが
変わらないリョウの姿に内心では安堵するのであった。
「ほんとうに大丈夫なのか?!あいつは。」
遠くから意識体となった青い光、ウミヒコが心配そうに彼らの笑う姿を見つめていた。
「大丈夫さ。彼ならきっと俺たちの意志を継いでこの地を護ってくれる。僕の選択に狂いはない。」
穏やかな声でそう話す緑色のエネルギー体、ヤマヒコは兄であるウミヒコをそっと諭し
二つの力はリョウの持つリューグレイザ―の内部へと消えるのだった。
両面宿儺(異形の英雄)
(両面宿儺)とは。上古、仁徳天皇の時代に飛騨国に出現した異形の鬼神、あるいは人間である。かつての日本の歴史書と言われる「日本書紀」にも宿儺の伝説は載っているが古事記にはそれが見られない。
(六十五年、飛騨国に一人の人がいた。名前を宿儺といった。一つの胴に二面の顔があり、それぞれが全くの反対側を向いている。頭頂は合わさりうなじはなく、胴のそれぞれに手足がある。膝はあるがひかがみ、踵がなかった。力強くまた軽捷で、左右に剣を持ち、四つの手で二張りもの弓矢を用いた。宿儺は皇命に従わず人々から略奪することを楽しんでいる存在だった。それゆえに和珥臣の祖、難波根子武振熊を遣わしてこれを誅したのである。「日本書紀※翻訳」)
その青年はあるとき、岐阜県の高山市の旅館にいた。「おじさんは見たことがあるんですか。その怪人を・・・。」
「もうそりゃ僕が幼いときのことだったよ。この地方にはねえ、宿儺という二つの顔、8本も手がある、足が四脚ある人物の伝説があって。千光寺というお寺を開いたのも彼だというんだ。彼は救世観音の化身ともいわれているんだよ。あまりに小さなときのことだったからねえ。でも、僕はあの時のことだけははっきりと記憶に残ってる。」
初老の在野の研究家という高野氏(59歳)の話を聞くべく、青年海照彦(あまてるひこ)はフィールドワークに宮崎から遠く離れたここ岐阜県にやってきていたのだった。「ほんとうにいるのかなあ。でも世界には生まれつき体がつながって生まれている人はかなりいるというし。現実にそんな人が武芸の修練をして強くなっていたのだと考えたらありえることかもしれない・・・。どうなんだろう。」
「そういうことでいうと、僕が見たものはキミが考えているような人間の姿とは少し違うものかもしれないね。」
高野さんは思いだすようにお茶をすすり話を続ける。「怪異って、思ってもないような近くにあったりするものだよね。」
「・・・・・」テルヒコは帰りのバスを見ながら、少し時間つぶしの観光、お土産を見てまわろうと考えた。「しかしじいちゃん、鏡の研究に異様なまでに憑りつかれている・・・。それもなにかに憑りつかれたかのように。こないだは大神氏の伝承、その前は日下部氏伝承で都萬神社(コノハナサクヤヒメを祀る)へ行った。次は、両面宿儺の伝説を調べに行けって・・・これらの話にどんなつながりがあるんだろう。じいちゃんが研究していることって・・・。」
テルヒコは自らの祖父、海大善(あまだいぜん)教授の研究を大学において手伝うことが多かった。自らの祖父ということもあり、同じ研究室の同期、那須野岬という女性や多くの友人たちと共に日本の神話伝承についての調査解明、その研究に明け暮れていたのである。だが、その実体はかなり非現実的という批判もあるような突拍子もないSFじみたものが多かった。「天から、宇宙から神々がやってきたとか、神や妖怪はいたとか、三神器がどうとか・・・。そんな話学会で堂々と公表するもんなのか・・・。誰にも相手にされるわけないじゃないか。」最初はもちろん半分惰性で付き合っていたのであった。だが仲間たちと研究に明け暮れていると、どうしても不可解な出来事が遺跡や古文書、人々の口伝や地域のフィールドワークで見えてきてしまい戦慄を覚えることが多い。逆に怪しくなってくる。「どうして俺たちが知ったことを、学会は黙殺し続けるんだろう。たしかに常識でいえば非科学的だ。でも、あきらかに証拠としか言いようのないモノたちばかりが出てくる。」テルヒコは一つその疑問の先に、ある一つの予測を思い浮かべた。「隠ぺいされてる―?!」「多額の調査における資金提供や学会での社会的地位を保証される代わりに、本当のことを言おうとする連中は・・・。」そんなことを高山市の旅館で考えている折に、女性の声がした。
「テルヒコくん!なに思い詰めてるの?」背後から缶ジュースを手渡してきたのは、友人であった那須野(なすの)さんだった。「那須野さん、来ていたんだ。」「いや~ちょっと私も興味があってね。こんなコアなネタを探しに旅するなんて私たちぐらいかもね~。」「でも高野さんという方の話以外詳しいことはわからなかった。」「そのお寺とか神社とか、まだ行ってないんでしょ?そこに行ってみたらなんかわかるかもよ。」「おいおい俺抜きでいくのかよ~!都市伝説といえば俺だろ~?!」テルヒコのかつての友人、一宮(いちのみや)も那須野についてきていた。「今回の調査はあんたのようなオカルトオタクの出る幕じゃないの!」「いでででったじげでおダイカン様!この怪力女~!」「は~~?!」「も~、ま、俺一人よりはにぎやかで面白そうだな。」二人の友人が来たことに、なぜかテルヒコは安堵していた。それがこれから先おこる悲劇を暗示していた直観めいたものかはいまとなっては彼自身にとって謎である。結局後日高野さんの行った千光寺というお寺に行くことになった3人だったが、乗り継いだローカルバスが途中で急停車してしまう。「ど、どうしたの?!まだ人けのない山道じゃ・・・・・・・・」「おいおいもしかしてパンクしたのか?!運転手さん!大丈夫ですか?」一宮と那須野さんが席を立とうとした瞬間、テルヒコは驚きの景色を見てしまう。「お・・・・おい、どういうことだよ」
確信
「なにこれ・・・・自然現象かしら。」「オーロラか?!」テルヒコらを乗せたバスが行き止まりになっていたのも、急に山道において目の前のすべてを遮断するかのようにおおきなパールカラーの不思議な膜がそこから先の世界を覆い尽くしていたからである。山や大気そのものを覆い尽くし、まるで巨大な世界の壁のように出現したその膜の先には、道路が崩れ去り、異空間の奈落におっこち、山も削られている光景が見えた。「や、やばい。これはかつてないやばいことになるんじゃないの?!」一宮が奇妙な日本語で動揺しているとき、なぜか冷静に那須野さんは手持ちの一眼レフカメラでその光景を記録していた。テルヒコがバスの外の景色を見ると、謎の生物が何体も徘徊しているのを目撃した。「こっこれは・・・・・・・!」「きゃああああ!!!!なにこの蜘蛛!」「み、岬ちゃんしっかりして、おいテルヒコ・・・運転手さん!Uターン!おい!」一宮が驚き運転手を揺さぶろうとするも、なぜか運転手は気力を失いぼーっと宙を見つめたままだ。「う、うわあああ!!!!!」バスは大きく回転、転倒し自然現象ではない何者かの力により動かされ、山道の下の林の中に落下した。「お・・・・おれは・・・・・・」朦朧とする意識。体を引きずるテルヒコに、幻聴のような思念による声がこだまする。
「日神の王子よ。かつてのように私と闘え。闘うのではなかったのか?」見上げるとそこにはそれがいた。湾曲したガードレールのはざまに見えるその異様な生物は、まさしく高野氏が幼少期に見たというそれであった。「あれが、両面宿儺・・・・・・・・・・・。」「これはお前が何度も昔に体験した世界。そしてここが・・・次の場所だ。」頭から血を流しその怪人の言う話を聞くテルヒコ。那須野さん、一宮は無事か。
そんなことを考えているうちに目の前には6体もの魔神らしきものたちの姿があった。魔尊6柱。夜刀神とアクルが倒れた日神オージの上に立ち、つぶやく。「さて、八竜院とかいう男のもとへお前さんを案内しよう。」「ぐ・・・・・」意識がかすれ消えそうなオージの手には、かすかに生命力がともっていた。「・・・・・・・なるほどな。だが、私を貴様らと同じように扱うな!」”この世界”にアクルたちによって召喚された両面宿儺があらぶる力のすべてを使い5柱の魔神に対抗する。
「なっおめえ、裏切るのか?!」「きゃあ!」
「呼ばれてやってきてはみたが・・・。とんだ怪物どもの集会ではないか。一緒にされては困る。私は貴様らのような道理で行動しているわけではない。味方になるとは言っておらん。」
「オージ・・・・・・・お前は確かに見たはずだ。これまでのこと。かような魔物どもの生まれた過程を。私の姿を。」
「怪神は、闇は・・・・人間たちの心から産まれる。それは八竜院がかつて言っていたことだ・・・。」
「その通り。人間の心の奥底に宿る凶暴性、憎しみ、悲しみ、自分のみを中心にものを考える心。一人の人間風情にそれら人間の心に沁みついた業を変えることは不可能に思えるであろう。」
「お前は人間たちの心の闇そのものと闘っているのだ。そしてそれらを産みだす魔の力そのものと。」
「あ・・・・・あんたはたしか那須野さんと、バスで・・・・・。」
「かつての世界においてその時お前には戦う力はなかった。だがいまは、ある。」
「お前は闘える」
「幾多の世において、様々な時間を歩ゆみし男よ。お前は死に、新たに生まれる。」
「お前のいのちはほかの世を生きるお前の闘いにより生かされていることを知るがよい!」
「俺は、別の世界から来たのか・・・・・・・。」
「闘え!お前が護るべきものたちのために・・・・・・・。」
「あんたは敵なのか・・・・・・・。それとも・・・・・。」
「それは時の流れに聞くがよい。」
その時、時空の裂け目が突如としてガラスのように粉砕され、異空間の中から蒼きオージが舞い降りてきた。
「ぉいおい!どうしたんだよテルヒコ!大丈夫かよ!一人で無茶しやがって・・・!」
自分を心配する声。憔悴した意識の中で、一つ日神オージは確信する。
―勝てる!-
「テルヒコ、こんな弱っちい奴ら相手に手こずってたのかよ?!冗談じゃないぜ!こっちも忙しいんだ、こんなのはやく片づけて帰るぞ!」
「俺も油断した。心配させてすまない・・・。俺たちが負けたらホントに終わりだからな。」
「本気の戦いはここからだぜ?!」
水神オージに肩を貸されどうにかたちあがった日神オージは
残った5柱の魔物たちを前に、再び闘いを始めるのだった。
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製作(地方創生プロジェクト)
日神ジャスティオージ~日向国風土記異伝~