しこり

父が死んだ
昨日見舞いをしたときには元気に笑っていたのに
容態が急変しあっけなくいき
電話があった

私は父が嫌いかと言えば
どうなのだろうか
ただわだかまりはあった
父は昭和の人間
家族など顧みないで働く男だった
父になど月に数回会うだけだった
いないのが当たり前で
何時しかいると不快にすら感じるようになった

やがて私が大学を出て
父が定年退職し
私が実家に帰ったときにだけ会うようになった

大人になっても父に対する痼りは残ったままであった
別に憎んでいるわけでは無い
態度も普通に接していた
ただ何となく打ち解けないでいた

時は流れ父も衰え
何時か父に対するわだかまりを無くそうとは思っていた
 愛すればいいのか
 許せばいいのか
どうすればいいのか分からないままに時は過ぎ
何処かギクシャクしたままに
いつか 無くなると思い
いつか
いつか
ある日いつかはもう来なくなった

別に父が可哀想とそういう事は無い
父は死ぬ寸前まで昭和の男らしく
酒にゴルフに楽しんでいた
大往生と言ってもいい
人生を楽しみきったと断言できる
父は人生の勝者なのだろう
父に悔いはあるまい

ただ私の胸の中に痼りが残っただけ
この胸の痼り
どうすれば消えるのか

しこり

しこり

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-19

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