ドッペルゲンガーについて

ドッペルゲンガーについて

念仏を唱えながらテディベアを解体する夢を見た。今日もまた、放課後の教室に、あるのかないのかわからないような影がぼんやり伸びていて、夕方になったのか、なっていないのか、これもまたいつかの中学生たちの話でしかない。一年後には地球がふたたび同じ場所に戻ってくる、らしい。だから正月がきらいです。
放課後の教室にしかきみはいない、そんな気がして仕方ない。
ふわり。またそこにシミになっただれかの影が、ひとつ、ふたつ。ぼくときみの間、影が、もしくはテディの内臓が、幻燈みたいで、いくつも、いくつも増えたり減ったり、そうやって時間が、昨日が繰り返されては急に明後日の話になって、20世紀が巻き戻されたり、ぼくらが小学生だったころになったり、パパと、ママが、出会ったころとか、つまり時間がすなおに落ちていかない。引きちぎられたすみっこのほうに引きちぎられた心霊写真があった。きみはそれを見てほほえんだ。きみの髪をつまむ影。きみの頬に触れる影。きみの首に巻きつく影。それを見てぼくもほほえんだ。目を細めながらいくつもの影がほほえんだ。固形物はテディの臓物だけだった。教室のすみで心霊写真になった、前髪の長い男の子の幽霊がぼくらに手をふっている。やさしい、かなしいさびしいくらいにやさしいだけの放課後だった。

ドッペルゲンガーについて

ドッペルゲンガーについて

テディベアの内臓に関する話です。うそです。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-17

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