5人声劇台本「さよなら、流星都市。」

にょすけ

《配役》
夏海:女性。JK。マインドあり。
落合:ヤクザ。41歳。男性。マインドあり。
本郷:警察。39歳。男性。一部兼任あり。
朱里:女性。元バレリーナ。マインドあり。
朱里母:マインドおおし。女性。比較的セリフ量少ない。


夏海M:見上げても星のひとつも掴めない
夏海M:そんな夜空じゃ。
夏海M:部屋の中に閉じこもってるのとなんら変わりない。
夏海M:誰かに蓋をされて、
夏海M:身動きも、叫ぶ事も許されず。
夏海M:そんな、暗い部屋にいるのとなんら変わりない。
夏海M:そう言って、はにかむ貴方は吸いかけの煙草を爪弾き(つまはじき)、
夏海M:何かを覚悟したかのように、すく、と立ち上がると
夏海M:振り向きもしないまま、私に告げるのだ。
演出:(少しの間をあけて)
本郷:無駄な抵抗はやめて出てこい!落合(おちあい)!
落合:うるせえ!!そっちが要求を飲むならすぐに人質は解放するって言ってんだろうが!!!
夏海M:今朝は、なんとなくベッドから出るのが気だるくて。
夏海M:いつもは点けない朝のニュース番組を見ながら
夏海M:布団の中で着替えをするという怠惰(たいだ)をぶちかました私は。
夏海M:大物演歌歌手の不倫騒動や、今日の夜に2万年に一度の流星群が降る話、くだらないファッションチェックのコーナーや、今話題の家電の紹介。
夏海M:なにもかもスッキリしない頭で、ぼーっと情報だけを流し聞きしていく。
夏海M:ああ、あとは一番印象に残ったのは3年前にとんでもない事件で捕まった、暴力団の組長が明日の朝、死刑になるってこと。
本郷:くっそが……こちら現場の本郷!!
本郷:あいつの出してきてる要求はなんとかなんのか!
本郷:なに!?難しい!?
本郷:ふざけんなよまじで!
本郷:いま目の前で!人が一人殺されそうになってんだぞ!
本郷:相手はあの、草腹(くさはら)組、狂犬と名を馳せた若頭(わかがしら)の落合だぞ!?
本郷:やつはやるときはやる!!
本郷:上層部の頭でっかちの無能な老害どもが首を縦に振らねえんなら
本郷:ぶん殴ってでも首を振らせろ!!!
落合M:(一呼吸、間を置き)
落合M:もう、やってやるしか無いと思った。
落合M:この機会を逃せばもうどうにもできない。
落合M:俺は、今、動くしかなかったのだ。
落合M:それからの行動は早かった。
落合M:車とエモノを用意し、一番目立つ駅前通りで女を人質にとった。
夏海M:そういえばこの、私に拳銃を突きつけてるこの人も、なんとなくヤクザっぽい。
落合M:思いのほか大人しく着いて来たこの女を、大立ち回りしながら逃げ続けること二時間半。
夏海M:そろそろ日も暮れて来る頃だ。
落合M:たどり着いたこの発電所で、籠城(ろうじょう)をしている。
夏海M:私は無事に帰れるんだろうか。
落合M:そう簡単にこいつを解放してやるわけに行かない。
本郷:落合ぃ!!!!その女性を早く解放しろ!!!!!
夏海M:私はここで死ぬのだろうか。
落合M:絶対に。要求を飲ませてやる。
夏海M:まぁ、そうなったとしても構わない。
夏海M:私はもう、どうでもいいんだ。
演出:(少しの間をあけ)
朱里M:このアルコール臭くて、天井の低い、狭い病室の小窓からは
朱里M:嫌味ったらしく、街の賑わいがすべて一望できて。
朱里M:このまま日が落ち、夜になればイルミネーションやネオンのひとつひとつが、私のことを笑っているかのように、煌々(こうこう)とこの空を照らすのだ。
朱里母:……朱里。
朱里母:本当に、受けないの?……手術。
朱里:……しつこいな。もういいんだよ。
朱里:成功率だってそんなに高いわけじゃない。
朱里:もし成功して、この足が治ったところで、私に何があるっていうの?
朱里母:……朱里。
朱里:ほっといてよ。もうそもそも生きる気力なんて無いんだから。
朱里母:……。(声を押し殺しながら静かに泣く)
朱里:やめて、ここで泣かないでよ。
朱里:そんな事されても私の気持ちは変わらないし。
朱里:……正直、もううんざり。
朱里母:う……うぅ……。
朱里母:私の、私のせいよね……。
朱里母:あなたが苦しんでるとき、私は貴女を更に追い詰めてしまった……。
朱里:やめてって言ってるじゃない!
朱里:そうやって同情を買おうとしたって無駄!
朱里:もう私はこの腐りかけた足じゃ、うまく踊れない!あの時みたいに、高く跳ぶこともできない!
朱里:それを今更?なに?手術?
朱里:もう飛べなくなったあの日から、私は死んでるんだよ、お母さん。
朱里M:そう、もう私には何も無い。
朱里M:幼少期から厳しく指導を受け、ようやく様になってきた私のバレエは。
朱里M:私の細胞によって奪われ、私自身によってその息の根を止められた。
朱里M:足にずっと違和感を抱えたまま、何度母に相談をしたことだろう。
朱里M:聞く耳を持たない母は、練習を怠けたい私のわがままなのだと、その声を一蹴した。
朱里母:女手ひとつで、貴女と向き合ってきた……。
朱里母:厳しくしすぎてきたのも、わかってる……。
朱里母:でも……何度だって立ち上がる事はできるはずじゃない……。
朱里母:その為にも、生きて欲しいのよ……私は……私は……だって、たったひとりの娘なんだもの。
朱里:……出てって。
朱里母:朱里……。
朱里:出てってよ!!!
朱里M:きっと、この足をそのままにしておけば
朱里M:いずれ私は死ぬのだろう。
朱里M:まぁ、そうなったとしても構わない。
朱里M:私はもう、どうでもいいんだ。
演出:(少しの間をあけ)
本郷:くそが……本部は何してんだ!!!
本郷:やつの要求のタイムリミットまで、もう時間がねぇんだぞ!!!
本郷M:この、今まさに発電所に盾籠っている落合という男は。
本郷M:俺が長年追いかけていた、いわば因縁の相手だった。
本郷M:血溜まりの跡を辿れば、必ずそこに落合がいる。
本郷M:3年前の、草腹組と真淵(まぶち)組の抗争では、多くの構成員を殺(や)り、組を壊滅にまで追いやった。
本郷M:あまりにも大きくなってしまったその争いに、遂には組の長(おさ)まで引きずり出され、結果逮捕にまで至っている。
本郷M:しかし、この落合だけは、捕まえる事が出来なかった。
本郷M:どうやって逃げたのか、隠れていたのか、全く分からない。
本郷M:とにかく、奴は鼻がきくのだ。
本郷M:その落合が、今、目の前で、一人の女性を人質に盾籠って(たてこもって)いる。
本郷M:……やつは、やる時はやる。
本郷M:絶対に、殺させはしない。
演出:(少しの間をあけ)
落合:……なあ。あんた。
夏海:……はい?私ですか?
落合:あんた以外いないだろう。
夏海:ああ、まぁたしかに。
落合:やけに落ち着いてるな。怖くないのか、あんた。
夏海:うーん……非現実的すぎて、あまりピンと来ていないのかも知れません。
落合:そういうもんなのか。
夏海:わかりません。こんな状況のときどう反応すればいいかなんて、知恵袋にも載ってないでしょうし。
落合:……まぁ、たしかに。ちげえねえ。
夏海:……やっぱりヤクザの方です?
落合:……まあな。
夏海:……要求、飲んでくれるんですかね、警察は。
落合:……飲んでもらわねえと、困る。
夏海:……それはやっぱり、タイムリミットがある、的な。
落合:ああ、そうだ。
夏海:……やっぱり、ヤクザって義理人情の塊、なんですね。
落合:……?まぁ、義理堅いとは言われるな。
夏海M:私は今朝聞き流していたニュースの言葉を思い出していた。
夏海M:この落合という男、ヤクザの割になかなかどうして話が通じる男で。
夏海M:凶悪犯と人質、という異質なこの関係のなかで、何故か私たちは落ち着いてる話をしていた。
落合:ほう。それで嬢ちゃんは、学校のいじめが嫌になっちまって、今日死のうとしていた、と。
夏海:そうなんですよ。なんかふと「あ、今日は死ぬにはいい日だなー」って起きがけに思いまして。
夏海:どうやって死のうかなー?なんて考えながら歩いてたら……
落合:俺に拉致された、と。
夏海:ええ、その通りです。
落合:ついてないな、嬢ちゃん。
夏海:あなたがそれ言います?
落合:……ぷっ。
夏海:……くっ……ぷふふ。
落合:ちげぇねえわ、ははっ。
演出:(少しの間をあけ)
朱里:……なんにもない。
朱里M:何度、自分の人生というページをめくろうと
朱里M:そこに価値なんてものはなく。
朱里M:ただ母の傀儡(くぐつ)となり、がむしゃらに跳び続けた。
朱里M:ただそれだけの日々だった。
朱里M:時折、小さい頃に別れた父からは新品のシューズや、花束が贈られてくる。
朱里M:母はそれを見る度に、苦虫を噛み潰したような顔で、父の悪行を述べるのだ。
朱里母:あの人はね、朱里。
朱里母:私たちのことなんてこれっぽっちも考えてなかった。
朱里母:それもそうよね、あの人は堅気じゃないもの。
朱里母:あんだけ大きな組織、担いだまま
朱里母:私たちを大切にすることなんて出来やしないもの。
朱里母:いいの、いいのよもう。
朱里母:ね、朱里。母さんと二人で頑張ろ。
朱里母:大丈夫、一緒に暮らしていける。
朱里母:ね、朱里。
朱里M:その父からのプレゼントも、三年前からぴたりと止まった。
朱里M:母は一時、とても荒れたが、そもそもが毎日荒れているような印象であったために。
朱里M:さほど、変わりがないようにも思えた。
朱里母:朱里。父さんのことは忘れなさい。
朱里母:最初から居なかったのよ。
朱里母:最初から……あんなやつ。
朱里M:どうやら私たちの暮らしは、そのほとんど顔も覚えていない父からの振込により
朱里M:成り立っていたようだった。
朱里M:それから、一層母は厳しくなっていった。
朱里M:ぼんやりと点けた病院のテレビでは、今日の流星群のニュースと
朱里M:明日ついに、刑が執行される死刑囚の話で番組が盛り上がっている。
司会(本郷役の兼任):専門家の植松さんをお招きしての解説となりました。さあ、三年前に大きな反響を読んだ、草腹組事件。鹿骨町(ししぼねちょう)の住民の方々にもインタビューをしました。VTRをご覧ください。
朱里M:名前や声をフィルターに掛けられた匿名の「怖い」だの「はやく死ね」だのの感想が、スピーカーから止まない。
司会(本郷役の兼任):……え、あ、はい。わかりました。VTRの途中でしたが臨時ニュースです。現在、鹿骨町中央発電所にて立て篭もり事件が発生しているようです。現場との中継が繋がっております。現場の内田さん、お願いいたします。
朱里M:くだらない。
朱里M:私はテレビの電源を消すと、いやらしく光始めた街の灯りを睨みつけ、布団に潜り込んだ。
演出:(少しの間をあけ)
落合:くそ……人が集まりはじめたな。
夏海:なんかすごいですね。警察以外にもマスコミとかも集まってるんですよね、きっと。
落合:……くそ。
夏海:……どうせ要求が叶えられないならさ、おじさん。
落合:……なんだよ。
夏海:捕まる前に私の事、殺してよ。
落合:あ?
夏海:いいじゃん、なんか、悲劇のヒロインみたいでさ。かっこいい。
落合:(夏海をなぐりつける)
落合:ふざけんな。
夏海:いてて……殴らなくてもいいじゃん……。
落合:何があったか知らねえ。
落合:今日会ったばかりのお前が、どんな人生を歩んできたかなんて知りもしねえし、知りたくもねえ。
夏海:……。
落合:だけどな、いいか、嬢ちゃん。
落合:死ぬってのはな、そう簡単にいかねえんだよ。
落合:殺すってのはな。そう簡単じゃねえんだ。
落合:誰かの手で楽に死のうなんて、思うな。口に出すな。
落合:自分の落とし前は、自分でつけんだよ。
落合:生きるとしても、死ぬとしても。
落合:その重大な責任を、誰かの手に委ねんな。
夏海:……おじさんが言えたことなの?それ。
落合:俺はいいんだ。堅気じゃねえからな。
夏海:ずるくない?そんなの。
落合:うるせえ。自分で死ぬことも出来ねえならな、今は少なからず死ぬ時じゃねえんだよ。
夏海:……。
落合:いずれ、嫌だと思ってたって人は死ぬんだ。俺も、お前もな。
夏海:……うん。
落合:ならよ、人生なんてもんはそもそもおまけみてえなもんなんだよ。
夏海:おまけ?
落合:そう、おまけ。
夏海:おまけ……か。
落合:そんな、お菓子のおまけみてえなくっだらない物のために、今、死ぬことはねえんだよ。
落合:生きても死んでもくっだらねえんだ。
落合:なら、生きてることが、その、なんだ、いじめてきた奴らへの仕返しにもなんじゃねえか。
夏海:……おじさん、なんかそういうの、下手だね。
落合:うるせえ!人が一生懸命慰めてやろうと思ったのに!
夏海:あ。慰めだったのか。
落合:もう、絶対いわねえ。
夏海:ごめんって!!
夏海:でも、そっか、おまけか。
夏海:おまけだってんなら、せめてさ。
落合:ん?
夏海:なんか、良いおまけだったなーって、思いたいかもね。確かに。
落合:……そうだな。
夏海:ヤクザもさ、いいこと言うじゃーん。
落合:うるっせえ。
夏海:……おじさんもさ、おなじ?
落合:あ?
夏海:そのおまけの人生を、良いものにしようとしてるから、こんな事してるの?
落合:……まあ、そうだな。
夏海:それで誰かを傷つけることになっても?
落合:それが、覚悟だからな。
夏海:覚悟って?
落合:たった一つの為に、それ以外のすべてを捨てること、だ。
夏海:……おじさんだってさ、死んでもいいって思ってるでしょ。
落合:……目的のためならな。
夏海:全然言ってること矛盾じゃん!
落合:俺はもう、沢山殺して、奪ってきたからよ。
夏海:……。
落合:ここらで終止符は、打たんとな。
夏海:……だからって、だからってさ!
落合:なんだよ。
夏海:おじさんが身を呈して、あんなやつを助けなくてもいいじゃん!
落合:あんなやつとはなんだ。
夏海:だって、ヤクザの組長でしょ!?
夏海:明日死刑になる、あの組長を助けようとしてるんでしょ!?
夏海:確かにヤクザは義理人情っていうけどさ
夏海:あんなクソ親父助けることないじゃん!!!今更解放させようなんてさ!
夏海:あんな人のこと人とも思わず、最低な人間をさ!!!おじさんのがよっぽど善人だよ!!!!
落合:……は?なんの話だ、それ。
夏海:え???
落合:俺が?あの組長の解放を?なんで?
夏海:え???違うの???
落合:あのなあ。明日処刑されるのは真淵組。
落合:敵対する組の組長をなんで助ける。
落合:俺は草腹組の若頭だぞ。
夏海:え……?
落合:うちの親父はとっくに死んだよ。
落合:まあ俺も相当殺った。捕まれば刑は免れねえな。
夏海:は……?じゃあなんでこんな事……
落合:ん?それはな……
演出:(少しの間をあけ)
本郷:……もうタイムリミットまで1時間ねえぞ。
本郷:……はい、こちら本郷。
本郷:いい。要求が飲めない、という連絡ならもう飽きた。
本郷:あの落合が、だぞ。
本郷:あの狂犬と、恐れられた
本郷:誰にも捕まえることのできなかった
本郷:あの落合が。
本郷:たかだか「街の灯りを消せ」という要求で
本郷:投降すると言ってるんだぞ!!!
本郷:ただそれだけで、人質の命が助かるってのに
本郷:警察という組織は、そこまで体裁を気にするのか。
本郷:嘆かわしい……。もう切るぞ。
本郷:仕方ない。強行突破しかあるまい。
本郷:第一隊から第三隊……突入の準備をしろ。
本郷:リミットギリギリで……突入する。
演出:(少しの間をあけ)
夏海M:見上げても星のひとつも掴めない
夏海M:そんな夜空じゃ。
夏海M:部屋の中に閉じこもってるのとなんら変わりない。
夏海M:誰かに蓋をされて、
夏海M:身動きも、叫ぶ事も許されず。
夏海M:そんな、暗い部屋にいるのとなんら変わりない。
夏海M:そう言って、はにかむ貴方は吸いかけの煙草を爪弾き(つまはじき)、
夏海M:何かを覚悟したかのように、すく、と立ち上がると
夏海M:振り向きもしないまま、私に告げた。
落合:よし、もうだめだ。時間がない。
夏海:ど、どうすんの……。
落合:夏海。お前さっき言ったな。
夏海:え?
落合:おまけの人生をよいものにしたいって。
夏海:い、言ったけど。
落合:ひとつ、頼まれちゃくれねえか?
夏海:え……?
演出:(少しの間をあけ)
本郷:合図を待て!
本郷:……いいか、さん!に!いち!
本郷:突入!!!!
本郷:落合!!!そこまでだ!!!!!
本郷:人質を解放……し……ろ……?え?
落合:本郷。すまねえな。もう人質は解放したんだよ。
落合:言わなくて悪かったな。
本郷:お、おまえ……なにをしようとしている……?
落合:おお。後できちんと捕まってやるからよ。悪いけど、これだけはやらせてもらうぜ。
本郷:ど、どういうことだ……?
演出:(少しの間をあけ)
朱里M:最低の夜空だ。
朱里M:最低の人生だ。
朱里M:私はこれから、感動することもなく。
朱里M:誰かを感動させることもなく。
朱里M:身も心も腐ってゆく。腐っていこう。
朱里M:消したはずのテレビから、誰かの笑い声が響いてきているような気がする。
朱里M:街のネオンは着々と電源が入り、
朱里M:私のことなんて関係ないみたいに。
朱里母:ちょ。ちょっと、貴女なに?なんなの?!いきなり!警察呼ぶわよ!
夏海:いいから退いて!!そこを通してください!!!
朱里母:か、看護師さん!!警備員さん!!きて!!変な女が!!!
夏海:朱里ちゃん!!!!朱里ちゃん!!!いるんでしょ!!!そこに!!!
朱里:な、なに……?
朱里母:きゃあっ。
夏海M:私は走った。そりゃもうとてつもない距離を走った。
夏海M:肺が膨らむのがわかった。
夏海M:足が痙攣(けいれん)するのがわかった。
落合M:見上げても星のひとつも掴めない
落合M:そんな夜空じゃ。
落合M:部屋の中に閉じこもってるのとなんら変わりない。
落合M:誰かに蓋をされて、
落合M:身動きも、叫ぶ事も許されず。
落合M:そんな、暗い部屋にいるのとなんら変わりない。
夏海M:だから。
落合M:だから。
夏海M:今日しかないんだって。
落合M:今日しかないんだ。
夏海M:私は走った、おじさんの最後の為に。
落合M:くだらない事ばかりの連続だった、俺の人生は産まれた時が最上で。
夏海M:おまけみたいな人生だった。
落合M:あとは全部おまけみたいなもんだった。
夏海M:そのおまけみたいな人生を。
落合M:その、おまけみたいな人生を。
夏海M:少しでも、
落合M:少しでも。
落合:ましなもんにしてぇんだよ!!!なあ、本郷!!!!!!
本郷:や、やめろ落合!!!!!
夏海:朱里ちゃん!!!落合朱里ちゃんだよね!!!
朱里:だ、誰ですか!?あなた!!
朱里母:な、なんなのもう!!!
落合:朱里!!!!夏海!!!!きちんと見とけ!!!!!!!
本郷:総員、退避!!!!退避!!!!!!
夏海M:ぼん、と小さく。
夏海M:発電所の方から小さな破裂音が聞こえた。
夏海:朱里ちゃん!!早く!!窓!外!!見て!!!
朱里M:言われるがまま、私は外に目をやる。
朱里M:そこには、大嫌いだった街のネオン、イルミネーションはすべて消え失せ。
夏海M:ただただ、真っ黒になったこの街と
朱里M:その代わりに、まるで宝石箱をひっくり返したみたいな
夏海M:満天の星空が。
朱里M:どこまでもどこまでも続いていて。
夏海M:手を伸ばしたら、届いてしまうかもしれない。
朱里M:そんな光景が、目の前には広がっていた。
夏海:……はじまるよ、朱里ちゃん。
朱里:……え?
夏海:流星群。二万年に一度なんだって。
朱里:……どうして。
夏海:見せたかったんだってさ。
夏海:あなたに。
夏海:最高の流星群。
朱里:……お父さん?
夏海:……うん。
朱里M:たった一分五十秒の奇跡だった。
夏海M:降り注ぐその流れ星達は、淡く光りはじめ、燃え尽きながら強く発光し
朱里M:この街を、青白く、ゆるやかに、照らした。
夏海M:それは、
朱里M:それは、
夏海M:まるで火の粉みたいに
朱里M:まるで世界のはじまりみたいに
夏海M:燃え続け
朱里M:産まれつづけ
夏海M:天井を消してしまった。
朱里M:そのたった一分五十秒の奇跡を
夏海M:私は、
朱里M:私は、
夏海M:忘れない。
朱里M:……忘れない。
演出:(少しの間をあけ)
夏海:……東京の、鹿骨町から来ました。
夏海:真淵、夏海と言います。
夏海:分からないことだらけで、迷惑をかけるかも知れないですが、よろしくお願いします。
夏海M:私は、生きてみることにした。
夏海M:いや、生きてやることにした。
夏海M:この、おまけみたいな人生を。
夏海M:産まれた瞬間が最上で、あとはおまけみたいな
夏海M:そう、まるで流れ星が光って、消える時みたいに。
朱里:……うん、お母さん?
朱里:大丈夫、ちょっと、怖いけど。
朱里:うん。頑張れるよ、わたし。
朱里:仕事、忙しいでしょ。いいの。
朱里:うん、頑張ってくるね。大丈夫。
朱里M:私は、生きてみることにした。
朱里M:ううん、生きてあげることにした。
朱里M:それにしても、とんでもない体験をしたものだ。
夏海M:もし、このおまけの人生にタイトルを付けるなら
朱里M:それは、間違いなく。
演出:(少しの間をあけ)
夏海:「さよなら、流星都市。」
朱里:「さよなら、流星都市。」
演出:(最後の夏海と朱里のセリフは、合わなくてもいいので同時に話し始めてください。)

5人声劇台本「さよなら、流星都市。」

5人声劇台本「さよなら、流星都市。」

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