ここちよい劇薬
楽園のゆめをみたよって、きみがいうので、いったいどんなにすてきなんだろうって、期待するこころがまだ残っていたことが、衝撃。
ほら、きみの刺すような、非難ごうごうのことばたち。わかってるよぼくもきみも、その対象。お参りしたでしょ、あの夜、一瞬を信じて星に祈ったでしょ、ハッピーバースデーは祝福だって、信じてたでしょ。
動物園がこわいから、遠足は地獄だった。動物園のなかには、ちいさな遊園地もあって、そこでかかっている音楽が掠れていて、笑顔で駆けていくクラスメートたちが、もう帰ってこないんじゃないかとひとりで震えた。動物園のすみのベンチにすわって、檻のむこうのゾウを眺めていた。いちど耳にこびりついた音楽は、どんなに遊園地から離れても、ずうっとずうっと響いていて、耳をふさいでもどうにもならないことのしずかな絶望を、はじめて知った。ゾウが、こちらを時折、眺める、あの、切ないひとみが、どうして感情をもっていないって、言い切れるのか、わからなくって、こわい。わからないものは、こわいから、きめつけたいのだろうな。そうやって納得しようとするじぶんが、もうすっかりだめになっているって、気づいた。
証明できないだろうといわれた。先生。だいきらいな先生。動物を閉じこめるなんてって、大人に泣きついたのは、あれがさいご。
かみさまに会ったことがあるひとはぜひ、連れてきてほしい。お会いしたい、そうしたら、信じるも信じないもなく、ただ、あるものと、思えるのに。祈るために絡めた指の、解きかたばかりが、からだに染みついている。
わかってるよ。思いこんでいるのは、ぼくもおなじだって。動物に感情があったらいいのに。かみさまがいたらいいのに。どちらも、おなじじゃないか。
都合のよいことばっかり信じてられるか。それでも、きみの、その強いことばひとつを、コップに注いだなまぬるい水といっしょにのみこんで、そうしたらすこし、ねむれる。
ここちよい劇薬