毒の住処
気持ち悪いと誰かが僕を罵った。辺りを見ても人一人いないが、あれは誰が言ったんだろう。知らない声に傷つけられ、今日が始まっていく。生きたくもない朝に目蓋をのし上げられては、脳を稼働させる。すでに手遅れの自我が起動していく感覚は気持ち悪かった。できれば捨てたいこの自我に、いつまで身体を操られるのだろう。それでも育ってしまった自我をなかったことにはできないから、どうしようもない。なす術がないのだ。変わりばえのない日々にしか思えなくなった、変わりばえのしない自我が先導して僕を生かすだけだ。
生活の音が絶えず聴こえてくる。
人の声、足音、衣擦れ、排ガス、鳥の囀り。昨日と何ら変わらない五月蝿い音が今日もやってきた。断絶できるならこの光景を音ごとかっさらって踏みつけてやりたい。ぼろぼろになるまで、無音になるまで。想像のなかでしか僕は自分を表現できない。凄惨な僕であろうと、それがなければ僕はコレを維持できないのだから。好きに心臓を鳴らしておけばいいのに、自分でそれを止めたくなるのは何故なんだろう。全身を通う温かい血の流れを止めたいと思う本当の理由は、いつわかるのだろう。この煮え切らない司令塔をぶっ壊して、跡形もなくなった土地に新たな命を設けたいのだ。設けるのは僕じゃないけど。
一日中起きてることも寝ることもできないなら、途中で目が覚めてしまうくらいなら、いっそ殺してくれ。人に委ねるのは無責任だろう!自分で死にやがれ。虚空の中心から降りてきた誰かの声が僕の鼓膜を揺らす。そしてまた消えていく。彼奴は意地悪な奴だ。言うだけ言って、自死する勇気もくれないくせに。
逃げ惑う僕を笑え。みんな笑ってどうでもよくなってしまえ。人は人の円蓋の下で生きているだけで、その突き抜けた先の世界になんか興味を持っちゃいない。お互い様。僕だってあんたらの世界に興味はないよ。
毒の住処