猫の気持ちがわかりますか...小町ちゃん銀座に里帰り

山田小町

猫の気持ちがわかりますか...小町ちゃん銀座に里帰り

まえがき
猫の気持ちが分かりますか。人さまにに聞いても分かるわけがない。串の先が口に突っかかる...串団子のようなご主人さまと、いろいろな事情を抱えた野良猫との日々の暮らしをシミリー、比喩を小道具にして語りかけています。今回は生まれ故郷、銀座に里帰り。しかし、過っての銀座の賑わいは消えていた。そこで猫であるわたしは考えた。

猫の気持ちが分かりますか...小町ちゃん銀座に里帰り

はい、小町ちゃんですよ。
今日はうれしことがあるんです。
気分は最高。
なぜなら16年振りにご主人さまの計らいで銀座に里帰りできるんです。お弁当は...カリカリごはんとかつおとチキンのミックス缶。
好物の焼きのりも入れてもらい出発です。

車の助手席で信号が変わるたびに...出発はニャーン、止まれはニャンニャン、鳴いて差し上げます。
うるさい...と云われますが、たまごがコロコロ転がってカチャンと割れるような事故に会ったらどうします

銀座並木通りの入口...難破橋から歩く。
お店の看板前までご主人さまの短足徒歩計で78歩ですから猫のあしで500歩弱と推測。
とことこ歩いてぴったし店の看板前。ちょい先にうどん屋、通りの向かいにおでん屋...版画屋、ポルシェビル。
ポルシェビルのロビーには白いポルシェが飾ってあります。200キロのスピードで...即、走り出すような気配がします。
ご主人さまは店の奥まった入口で、お客さんを待ちながらポルシェを見るのが習慣で...叶わぬ夢で時間をつぶします。

店の入口が奥まっているので一見のお客さんは入りにくいうえに、勇気を出して入ってもこの店にこの人有り...ご主人さまはぶっきら棒なので客受けしない。

猫であるわたしが厨房の裏口に住んでいるころ、ここで少しアルバイトしたことがあります。
テーブルのすき間をくぐりながら、落ちてきた食事のおこぼれをひろうお仕事です。目立たないようにしても..目立つんですよね。
お目目はくるくる、愛くるしいおちょぼ口、可愛い可愛いと褒められてしまう。お返しに中立ちしてゴキブリ体操してあげました。
これがお客さんにバカ受け、もう...スターになった気分でした。

久しぶり...お店の中には思い出がいっぱい。
入口の円いテーブルの隅におしっこをちょい漏らしたことや、
コックさん達が休憩に出かけ、誰もいない厨房で兄妹たちと遊んだりした。
厨房の鉄の扉を開けると...路地裏、わたしの生れふたるさとでございます。

保健所のはからいで猫やネズミが銀座から消えた、と聞いていましたが事実...路地裏は不気味に沈黙していました。

時計の針をくるくる回し...あの日に戻ってみよう。
出勤してきたコックさんが鉄の扉をあけるのを、列を作り行儀よく待ったものです。古株の猫をまんなかに、両脇に強いものから順番に並びます。
わたしたち兄妹は一番端なので、食べ物には有り付けずいつも空腹でした。

路地裏を歩いてみる。
夏の風物詩...風鈴売りのせわしい音色や、
お客さんを送るお姉さんたちの甲高い声が、空缶にぶつかって転がるような、
あの...ざわめきがない。

入口の木箱で退屈そうに寝ている、ワインに話を聞いてみよう。
銀座が静かすぎる...どうなんだ。
イタリアのバロローロが答える。外も店も静かです...オレなんか半年近く売れ残っているんだ。
ブルゴーニュのピノノワールは...嫁に行きそびれたように、
一年も置き去りにされています、と愚痴をこぼす。

大変。このままでは店がつぶれ、猫であるわたしたちのエサも買えなくなる。
猫であるわたしは考えた。考えたがなんの知恵も出てこないので、おしぼりで鉢巻きをしてみた。
そうだ...猫であるわたしは手招き猫。入口で客引きはどうだ。
しかし、じゃまだ...ご主人さまに一喝されそうだ。

ここは一歩引いて、ワインたちに一言...説教だけで済まそう。

クラブのお姉さんがいるときは...売れ残り、嫁に行きそびれた...などの会話は禁句です。
ラベルをくちゃくちゃにされます。

フードメニューを見てみよう。
パイ料理は40年近い定番ですが、ダイエット志向で少し人気落ちしている。

もう一度...時計の針をくるくる回し、あの日に戻ってみよう。
公演があるとき、日比谷劇場からタカラジェンヌがパイ料理を目当てに列を作ったそうです(注・入口がせまいので帰るお客さんを待っていただけ)。
36年もまえのはなしです。

みんなで食べたらこわくない...イカスミ料理もながい定番料理ですが出番が少なくなった。
唯一、イカスミのごはんは人気を固持...熱狂的なファンも多い。
うわさを聞いて同業者がきますが、味を盗めないでいるみたい。
理由の一つは、ご主人さまがいい加減な匙かげんを教えるからです。
足も短いけどわりと気持ちのせまい方なんです...ご主人さまは。

60種類ほどの料理からブーイング。
たいしたことがないです...取りあえず召し上がって下さい。
こんな奨め方ではお客さんは注文をためらいます。
経営者でなかったら一日数回首にしたいとこです。

ご主人さまの不器用な接客がお客さんを逃がしてしまう。

口うるさい、クラブのママさんにお話しを聞いてみる。
注文した料理をとなりの席に...となりの席の料理がこちらに出る。
前回、頼んでも出なかった料理が、遅くなりました...ひと月後に、一年後に出てきたりする。

本人にはいわく。
わたしは記憶力がよいもので、一度頼まれたものは、いつかは思いだすふしぎな頭なんです。

その頭のなかをのぞいてみたい。チリやホコリ...クモの巣で世のなかが見えなくなっていると思います。
銀座歴30年...手きびしいママさんのお言葉でした。

ひしぶりの里帰り。せっかくのお弁当を食べる暇もなく、くたくたに疲れました。
元気のないご主人さまとしっぽを振って帰ります。

はい、小町ちゃんでした。
また、遊んでね。
猫であるわたし...小町ちゃんに失言がありました。
冒頭で16年振りに里帰りと発言しましたが、久しぶり...銀座に里帰りと訂正させて頂きます。
猫年齢早見表など見ないで下さい。

猫の気持ちがわかりますか...小町ちゃん銀座に里帰り

猫の気持ちがわかりますか...小町ちゃん銀座に里帰り

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-07-16

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