七月の夜、星が溺れる

 かわいそうをよせあつめて、なんだか、あくしゅみだって、おもっている。その、感情に、罪はないのだけれど、だれかのかわいそうを、ただ、かわいそうなだけのまま、展示ケースに飾るみたいな行為が、ぼくには、りかいできないだけ。七月の夜の星が、微かに震えたとき、すこしだけ、じぶんが、泣いているのだとわかった。とくに、これといった理由もなく、なみだがにじんださいに、だいすきな、きみは、ぼくのかたわらにはいない。あの夏の日に、みんなで帰ってしまった、北へ。しろくま、といういきものゆえに、交われない、きみ。
 ペンギンが、シャーベットを売り歩く町がある。おじさんが、むかし、買ってくれた記憶があるのだけれど、まわりのひとは、だれも、そんな町はしらないというし、そもそも、ぼくには、おじさん、なる存在が、いないらしい。おとうさんのところも、おかあさんのところも、みんなおんなきょうだいよ。はっきりとそう言った、おかあさんのかおを、ぼくは、ぼんやりとみていたっけ。じゃあ、あれは、ぜんぶ、夢だ、と思うことにしたら、よのなか、いきやすくなった気がする、なんて話をしたら、きみは、そんなのはかなしいと、さみしそうにうつむいていた。きみは、パンがすきで、いちばんすきなパンが、クリームパン、あの、グローブみたいなかたちの、と言ったとき、ぼくは、きみのことがすきだと思った。
 ねむるとき、本を読みながら、明日か、明後日か、いや、一週間後、一か月後、一年後でもいいから、きみに逢いたいと、いつも、ひそかに祈っている。
 それから、いるか、いないかもわからない、でも、きっといるはずの、おじさんにも。ひそかに。

七月の夜、星が溺れる

七月の夜、星が溺れる

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-16

CC BY-NC-ND
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