えんとつのみえる町

 えんとつのみえる町で、ひとびとのにくしみが、泡のようにきえて、みんな、フラットなきもちでいるので、起伏がなく、揃って平坦な感じが、すこしだけきもちわるいのだと、きみはいった。凹したり、凸ったりしているひとがいないのって、なんだか、さみしい。コンビニで買ったどら焼きを、もそもそたべながら、きみはいって、わたしは、そういうものなのかね、などと、他人事のように思っていた。事実、他人事であるのだけれど。えんとつのみえる町は、わたしの生まれ住んでいる町ではなく、きみの町なので。きみ曰く、コンビニのものだけれど、ふつうにおいしいどら焼きを、わたしたちはひとつずつ買って、えんとつがみえる町のなかでも、とくにえんとつがよくみえるという、町の西にある公園の、小高い丘のベンチにすわって、わたしたちはえんとつをながめながら、どら焼きをたべた。正確には、えんとつだけではなく、えんとつをふくめた町の景観というのを、もちろん、なんらかの専門知識も、アートを感じる才能やセンスも皆無で、ただ、町に、なじめているのか、浮いているのか、いまいちわからない、そのえんとつを中心とした、町の姿、表面というのを、これといった感想を抱くこともなく、みていた。おそらく、いま、わたしたちは、せかいでいちばん、むだな時間をすごしているのかもしれない。そうつぶやくと、きみは、こういう時間だってたいせつだよと反論して、どら焼きのさいごのひとくちを、ぽいっとほうりこんだ。この時間、実にフラットで、まっすぐで、波打つことも、浮き沈みすることもなくて、きみがきもちわるいと思っているそれに、等しいのだけれど。きみは、すこしばかり、じぶんのことを、棚に上げるタイプなのだった。空は灰色で、もうすぐ雨が降り出しそうだ。
 えんとつが、なんの目的で町にそびえたっているのかを、わたしはしらない。

えんとつのみえる町

えんとつのみえる町

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-13

CC BY-NC-ND
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