妄想写真エッセイ『桑名駅』

妄想写真エッセイ『桑名駅』

撮影場所:桑名駅

 
 名古屋からJR関西本線に乗って桑名駅に着いた。夕方六時頃だったので仕事帰りの人も多く、改札は混み合っていた。
 改札から出ていく利用客に対する駅員さんの「ありがとうございます!」という声が聞こえる。最初は「律儀だなあ」と感心していたのだが、なんだか少し妙に感じた。声が無駄に大きくて、そして無駄に「ありがとうございます!」の回数が多いのだ。駅員さんの気合いが入りすぎているのだろうか。あるいは何か良いことでもあったのかもしれない。
 けれどもこれは何かがおかしいと思いながら僕はマナカをタッチして改札を出た。改札を出るとベンチがあって、そこには片手に缶ビールを持った顔の赤らんだ金髪の三十代後半くらいの男が座っていた。そしてその男が「ありがとうございます!」の発信源であった。目が開きすぎているようにも見えた。改札から出てくる人たちに彼はただひたすら大声で「ありがとうございます!」を言い続けていた。もしかしたら彼は誰かからの「どういたしまして!」を待っていたのかもしれない。

妄想写真エッセイ『桑名駅』

妄想写真エッセイ『桑名駅』

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-13

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