印象が消えた日

野良猫ハミル

あの日、私の中の印象が消えた

カブト虫のいる土みたいなにおいがした

ずっと気にはなっていたのだけど、私の中で暴走していた印象の渦は、静かに、細く、小さな炎みたいに揺れるきりだった

本当に消えてしまうの?
そんなふうに思った夜が続いた


誰かが描いた絵を見た

緑とかピンクがごちゃごちゃと殴りつけられたように描かれた、「ある印象」の絵だった

以前の私を感化して、衝撃を与えるには十分な色合いと激しいほどの丁寧さだったのに、私は驚くほど無感情だった

こういった絵が、かつて鮮烈に私の眼を打った記憶だけが思い出されて私は、なんだか取り残されたような気になった

目を閉じても、風のにおいが鼻に当たった日も、きっともう私は何も感じない
実際に、何も感じられなかった


この日、私の印象は消えた

私は、きっと別人になったのだと思った

新しい私の送る日々とはどんなものだろう
そう思った時、私は自分の下品さを恥じた

込められた思い出も曖昧にしか思い出せなくなってしまった私の絵を眺めて、何が私の手を突き動かしていたんだろうと思った 
寂しさだろうか

なんか、さようならも言えなかったんだなと思った


「あたしはバカ」

久しぶりの言葉が頭をよぎった

何も思わなかった

もう、悲しくないんだもの

少し憂鬱なだけ、たまに陰鬱なだけ

私は、自分を傷つけることもなくなっていた

「誰かの友達」になっただけなんだよ

そんなことが、そんなことが、私から私の印象を消し去ってしまったのかなと思った


その夜、私は酔っ払った

何が私の足を運んだのかわからない

私は、田んぼ道にただ立っていた

さようなら
私の印象

さようなら、私の印象を知るみんな

さようなら

もう私は、私でないんだよ

君の見る私は、なんだかヘラヘラしてこれまでのことなんか語りもしない、ただのいち常人だよ

だけど、この世が灰色でなくなることはきっとないんだと思う

そのことを、私はどうすれば良いのかもまだわからないまま、印象がなくなってしまったこの世界で、また人の理不尽さに怯えて生きるだけなのだろうと思った

印象が消えた日

印象が消えた日

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-07-13

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