シャンパンでおめでとう

「お父さん、これ一本○○万円のシャンパンだよ、僕の結婚祝いに友達からプレゼントされたものだ」と誇らしげに言って息子が我が家にやって来た。今日は彼の息子、つまり私の孫が生まれた日である。パパは早速栓を抜いて一年前のシャンパンを口に含んだ。私も勧められたが飲むのはたぶん無理だから、シャンパングラスでスプーンを濡らしてそれを舌で舐めた。味は絶妙だった。すごくおいしいので味蕾の数と働きが変ったのかと思ったくらいだ。
乾杯が済むとみんなで一歳になった孫に「おめでとう」と言って、それぞれ飲み物や食べ物を取った。私も「はぴばすでーとうゆう、はぴばすでーとうゆう」と歌った。あと
は声を発するのを止めた。これ以上私が歌っても、声とメロディーは既に誰にも分からない代物となっているので黙っている方がいいと思ったからだ。、孫のニコニコ顔を見ると気持は晴れて、私もニコニコ顔になる。
シャンパンでいち早く楽しそうになって来たのはパパ、ママそしておばあちゃまだ。アルコールの力も加わって、孫を中心に皆陽気な気分になった。孫もみんなの様子を見ながら喜んでいた。全員で記念写真を撮った時までは良かった。だが次の写真撮影では孫の表情が緊張していた。私の顔も曇った。私は見当が付いていた。孫もきっと嫌な予感を感じたのだろう。
私は風習や慣わし、伝統文化に殆ど関心もたずに子育てして来た。だから一歳の誕生日を迎えたばかりで孫のリュックに餅を入れて歩かせる事など考えつかなかった。パパが本気なのを知った時は不安だった。出来上がったもちは一升餅約2㎏、それを背負う一歳児の体重は約10㎏。よろよろと2,3歩も歩けたら大成功だ。やはり私の孫は歩くか歩かないうちに倒れた。そして泣いた。パパは笑った。私は腹が立った。そして孫の背骨が折れなかったかを心配した。だが責任者(パパとママ)が二人共いて、私がアレコレ言う必要はなかったのだが、つい、口に出てしまった。
「まだ骨も固まらないのに、パパは危ないことをさせるね」と。
「面白い風習があるね。」とも言ったようだ。
するとパパから
「大人になってもしっかり働いて行けるように強くならないとね。貧乏になったら親も助けてもらわないとならないし」、「無理な事は勿論させてないよ」と返ってきた。
「しまった」やはり私は余計なことを言わないで、あたたかい目で孫の一家のすることを見てれば良かったのだ。
2020/6/10

シャンパンでおめでとう

シャンパンでおめでとう

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-12

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