テレパシーについて

テレパシーについて

どこかのきれいな海で、真珠が養殖されている風景。貝の涙が核にまとわりついて光るのか、吐瀉物がそうなるのかは知らないけれど、とりあえず高価だからありがたい。貝の知らないところで知らない人の指輪になる。肉が動かなくなったときには肉だけ食べられて、貝殻は誰か魂の安息のための場所になるんだろう。貝殻そのものには意味がない。真珠を生む肉こそがアイデンティティだけど、価値は真珠にしかない。人間もそうであればいいのに。個性とか体とかのそのものには意味がないって断言できれば、超合金のボディーを買いに行って、もう傷なんてつけられないようにするのに。
しあわせもふしあわせも、全部きみの体から離れない。だから、頑張って医師免許をとって、きみをストーカーすれば、いつか言葉がなくなってもテレパシーでつながれる気がした。むしろそっちの方がいいかな。ねえ、聞いて。ぼくにとってきみは大して重要な人じゃないけど、ね。きみもこないだぼくの妄想の中で、ひとりで何度も壁に頭をうちつけていたから、薄っぺらいともだちになりたいって思った。今まだ十五歳、だから薄っぺらいともだちでいいの。「きみも苦労してるんだ」とか、共感ごっこで夜を乗り越えたいの。手のひらに真珠の山がほしいだけ。髪の毛が一本一本ともだちたちの夢に侵入して、巻きつく。そういうつまらないともだちになろう、きみの個性とかはどうでもいいから、そういうつまらないともだちになろう。

テレパシーについて

テレパシーについて

いつか手のひらに真珠の山ができる。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-09

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