虹のたもと
子供のころ、虹のたもとに宝物をつめて、皆で誓った『10年後にまた』
大まかな場所は覚えていた。けれど、今ではわからないまま。
皆近所にすんでいて、近くの公園の裏山、中腹のある地点。その地図を
もっていた奴が、地図のありかを隠したまま、別世界にいってしまった。
いいだしっぺのやんちゃ君は、御国をとびだし、ホストクラブへ。
不思議ちゃんの女の子は、インチキ霊媒師に騙されたあと、不動産業に
転職し、NPOを立ち上げ、霊能力のインチキを恨んでばかり。
虹のたもと、その話に僕がのったのは、不思議な思いでがその裏山に
あったから。
あのとき、不思議な『5人目』がいた事を僕だけが覚えている。
あれは、何だっただろう。この三人の誰でもない何か。それは少年のころの
奇妙な高揚感から見た幻だろうか、いつか、陽炎がさすほど昼の熱いひに
トンボの目玉をくるくるまわしてあそんでいた。丁度夏の中頃の自分、
小学4年生のころだった。
ふと猿の顔をしたいわ、小学生の中での相性、通称さるさまの巨大な岩陰に小さな影をみた。
その影は、横に間延びして、わらっている獣の姿を映した、そのとがった二つの
耳には、図鑑で見覚えがあった。いや、おとぎ話でも、見た事があった。
『あれはきつね』
書籍によっては、妖怪的存在であったり、人をだますという話しもある。奇妙な
存在。
『ほ、ほんものだ』
感動と裏腹に、その傍らで目を引いたのは、奴ではなく、着物の女性。今ではめずらし
ぱっつんのヘアスタイルに、綺麗な、なんだか昔ながらの和服をきている。
その夏の日からだった。彼女がたびたびその岩の隙間から顔を出し、いつのまにか
裏山の探検隊に加わっていたのは、裏山の探検隊――それが小さなころ、この4人組の事。
その山に住み着いた小さなキツネの話は聞いたことがあったが、それは
本当にいるかさえ、子供のころにはわからなかった。けれどそのとき、彼女は
たしかに僕らの間にいた。
その狐、小さな子供と思えるその狐がその裏山にすんでいて、だから近寄るなと
もっぱら、この片田舎に移り住んできた移住民の大人の間で噂だった。実際、神社の廃屋があり
もともと住んでいた人々の中でも、大人さえも近寄っている印象はなかったし、子供はもってのほか
そういう浦山だった。
“うわさと噂の間、あいつは現れた、時に女性の姿、それも若かったり、ご
年配だったり、何にでもなれる人で、けれどその時々で、僕らの前に現れて
は消えて、そのときどきにおもしろい話しをもって、提供しては去っていく”
あれは奇妙な人、あれは幻想、そうならば、どれほど僕の心が休まることだろう。
インチキ霊媒師に騙された少女は、僕の話を疑うばかり。いいだしっぺは、ふるさとの
こととなると、人がかわったようになる。最後のアイツは、大学にあがるまでは僕の話を
“僕も体験した”といっていたが、今ではもう……。
虹のたもとに埋まる宝ものが、何なのか、今はまだわからないまま。
思い出せない思い出と、掘り起こせない若き日の才能。
虹のたもと