やさしいレモネード

 レモネードのきいろが、やさしい色をしていたから、この星がまるいのも、うらがわがあるのも、朝と夜がはんたいであるのも、なんとなくゆるせた。だれもいないあいだに、教室のつくえが、深海になげこまれて、わたしたちはすこしだけ、存在意義、というものをなくした気がした。さびれた街のはしっこに、ひっそりとたたずんでいる喫茶店で、きみと、つめたいレモネードでかんぱいした夏に、わたしはひまわりの葬列をみた。もう、そろそろ、ひだりあしから、透けているけれど、きみがすくいあげた、やさしさ、というものだけで、わたしは、わたしでいられると思った。途方もなく遠い朝にむかって、わたしたちいきものは祈り、浅い眠りのなかで、夢のつづきがぶつ切りとなって、上映される。虫食いのフィルム。うれしいこととかなしいことと、たのしいこととむなしいことが、いっぺんにきたときの、あの、やるせなさ。忘れらんないよ。

やさしいレモネード

やさしいレモネード

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-08

CC BY-NC-ND
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