攫い波
細い線の中では、わたし達はどうすることもできなくて...
暗さ、儚さ、頼りなさ...惹きつけられては突き放される、寄せては返す白波、はた途方もない駆け引きのように与えては奪い、与えられては奪われ、呑みこまれる錯覚に服従するしかなく、無意識にみずからの身を滅ぼしていく...
いつしか不規則なリズムで踊らされている、正常の皮を被った狂気が本望と不本意の境界線を暈して曖昧にしていく...
言葉にした先からするすると意味が抜け落ちていく。確かにそこに込めたはずの密度が、あるいはそれ以上のなにかが、瞬時に攫われてしまう。ふたたび手にしたときには物の見事に風化していて、気がつけばまた失わなくてよかったものを失っている。いつもいつも、からっぽなことしか言えない...いや、からっぽにしてしまうことに怯んでいる。廃墟にすらならなかった、わたしの中身みたいな巨大な空洞、巨大な喪失感の中心にひとり取り残されていて、そうして今も依然として、理想に最も近い幻聴、そして幻覚を、諦めの本質すら解らなくなってしまった頭で、静かに待ちつづけている...
攫い波