君の幻

一目惚れだったのは事実だ。
けれど、遅過ぎた。ほんの数年。それとも数ヶ月。
時折、誰かの側にいるのを垣間見るだけ。
無理なのは解っているから。
初めから、解っていたから。
手に入らないが故に尚更、魅力的に見えているのだろうと思っていた。
外見だけで好きになったのだから、手に入れてしまえばきっと、それだけで気が済んで慈しみもしないだろうと。だから。
このまま、この距離のまま、触れずにいるべきだ。
縁がなかったのだ。
さっさと忘れようと。諦めようと。
視界の片隅に姿が映る度、言い聞かせて。
それなのに。
何故、今。
目の前で艶やかに佇んでいるのか。
逡巡は一瞬だった。
もう、今しかない。
どうしても。
欲しい、と。

君の幻

(初出・2014/08/19)
限定生産商品に巡り遭った話。

君の幻

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-07

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