自己紹介

よろしくお願いします。

 書きたいテーマもなければ、大衆に好かれるような要素もない。小説家、村上龍が最も嫌うような人間であり、書き手だろう。
 それでも僕は書くことをやめられなかった。落ち込んでいるとき、楽しいとき、幸せなとき、死にたいとき、それぞれのシーンに自分の筆が動く。もう、自分と筆が一心同体であるように、僕は書くことを忘れられない。
 『それはただ、縋っているだけではないのか?』
 諦めがつけられず、かといって打ち込むこともできない。だからゴマをすって書くことに甘えている。
 それでも、やりたければ好きにやればいい。
 世間に迷惑をかけなければ、誰も僕の書くことを止めたりしないが、称賛し、応援することもない。
 当然のことを最もらしく言ったって、鼻で笑われるだけだ。
 自分の身分も弁えずに偉そうに語っている。いつか、夢が叶うように、または呪うように、誰にも届かない文章を書いていた。
 
 僕が好きだったのは、単純にハッピーエンドだった。男女が恋して家族になって、そのうち子どもができて、幸せな家庭を築く。自分でつくったキャラクターたちを笑わせるのが好きだった。
 だが、それがいつからかできなくなってしまった。具体的なきっかけは憶えていなくとも、たしかに、どこかで、僕は人を嫌いになった。それには自分自身も含まれ、日々自分と周りの人達を憎み、突き放した。
 しかし現実では数少ない友達に迎合し、自分を変える努力をした。
 嫌わないで、一緒にいさせて、僕を普通に仲間にいれて。
 そんな安っぽい願いが原動力となり、僕は変わった。
 以前より明るくなり、声が大きくなり、何にでも笑った。みんなに嫌われないような像をつねにイメージして、僕はそれを真似た。
 数年で壊れてしまうはりぼてを被り続けて、僕は人並みに生きることができた。
 
 スターバックスで本を読みながら休憩していると、ガラスを一枚挟んだ通路を歩く人間たちがみんな、目が死んでいることに気がついた。むしろ、何で今まで気づかなかったんだろう。
 学生、サラリーマン、マダム、ボロを着たホームレス、目を見張るような美人すらも、みんな目に光がない。
 物理的に光が灯っている人間はいないが、それとなく見ていれば気付くことができる。
 本当、何で今までわからなかったんだろう。目が死んでいるのは僕じゃなくて、みんながそうだからだ。たぶん、これは伝染病で、一人がそれに気づけば、目から光を失っていく。そしてまた一人と、広く蔓延していく病気なんだ。
 
 海の底で、今か今かと深海の化け物に食われないかと怯えながら、早く食えと化け物たちをせっついている。僕が天井の人だったら、みんなのことをそう考察するだろう。つまりみんな、早く死んでしまいたいのだ。未知の世界に安堵して、心落ち着かせて息をしたいはずだ。現のなかではまともな呼吸は一度もできていないから、きっとみんなそれを夢見ている。
 そんなことを誰にも言えずに、記録だけに留めて次の瞬間には僕はもう別人になっている。ランタンを片手に、明るい顔を浮かべているから。

自己紹介

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-07

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