【風のルウリィ】七話

マチミサキ

スタートから
数秒を経過し
なお後続を引き離し続ける万智

その光景に
驚愕の表情を浮かべる周囲以上に
先行する万智を追う二人の眼は
驚き、そして歓喜の光に満ちていた。

真純はおそらく
己の過去ベスト以上の走りをしながら
感じていた。

・・・【あの時】と同じ!?
いや、比べものにならない!!
【あの(フォーム)り】のまま
走力、加速レベルは桁違いに
跳ね上がっている!!!
まさかこんな!


佐助も考えていた
━━━昔のままだ、
からこそ
そのままでは万智は持たない
あの身体であの走りでは
この距離を保てる訳がないんだ!
追い付ける!!!

万智と真純との距離は少しづつ
開き始めるものの
走る程に
佐助とはその差が詰まり始めていく

その差はもはや
ほんの半身程にまで迫っている

ここで
万智はその手にしていたバトンを
高々と上げると
遥か一点をまるで
ホームラン予告でもするかの様に指し
間もなく差し掛かるテント内にある
トラック横で実況をしていた
アナウンス係でもある和美に
放り投げた。

その場にいた誰もが
この緊迫した場面での
突然の万智の奇行の意味が解らなかったが
和美だけは理解していた。

そして
響き渡る和美の絶叫するアナウンス

『第二コ□ナーの観△のひとっ!…:○!)』

繰り返すように叫ばれる
その言葉は運悪く
ハウリングしてしまい良く聞き取れない

それはきっと
このレースに熱が入り過ぎた
アナウンス嬢の実況であろう、

と、しか皆は捉えなかった。

いよいよ
佐助がトップスピードに入り
万智に並んだ時

万智は突然
上体を沈めた。

転倒?!

そのくらいの突然の出来事

万智は間もなく差し掛かる
第二コーナーを曲がることなく
そのまま
なお加速し直進していく

その奇行に隠れているが
この瞬間
一番万智の近くに居た
佐助は信じられないものを見る

走りながら

転倒と見間違うほどに倒れ込み
まるで地面スレスレのような前傾から
片手をチョン、と地面に付ける

まるで走行中に再度
クラウチングを切るかのようだ!

そして
初めのスタート以上の爆発的な加速

あり得ない

追い付けない

そして何より
当然コーナーを曲がる自分から
離れていくように
猛然と加速し直進を続ける万智

コースから外れた万智をそのままに
三番手でもある真純に続き
他の走者は次々にコーナーをクリアしていく

しかし
一番理解が出来なかったのは
この第二コーナーにいた観客達だ

和美の必死なアナウンスは
おそらく
自分でも止められないかもしれぬ
万智の何かしらの故障か異常を
示すものであろう、

まして
側で見ていた佐助以外には
そのコーナー直前の万智の姿勢は
転倒をなんとか持ちなおしたようにしか
見えなかったという事もある

その第二コーナーに居たほとんどの
観客は突っ込んでくる走者を
避けるにしても
最早、間に合わず

未だ極端な前傾で突っ込んでくる
万智の姿勢を見て
転倒直前と勘違いし

大ケガをさせぬよう

ならいっそ受け止めてやろう、
そんな状態にさえなっていた。

そして万智と観客が交錯する!

万智を受け止めようと
差し出される幾つもの腕を

万智はスピードを弛めることなく
いや、
勢いを殺す素振りさえみせず
次々と掻い潜っては
そして
ジャンプしては躱していく

まるで
その光景は
亡者の手をすり抜けていく
何かしらの神話のようでさえあった。

そして
観客の大部分をすり抜けた所で
勢いはそのままに
砂煙を猛然と上げスライディングする万智

その砂煙が
風に吹かれ消えた瞬間

万智のその両腕には
幼女が抱えられていた。

開会式で
真純に花束を渡したあの幼女だ。


□□□


時はほんの少し前
第二コーナーに差し掛かる場面へ戻る

この第二コーナー観客席の
さらに後方には
今回の撮影用の櫓が組まれていたのだが

レース直前突然の出走順変更により
変更された
ディレクターの指示により
この櫓上に控えていた撮影クルーが
待機場を変更し
そこは空の櫓となっていた。

そこに
この幼女が登り
入り込んでしまったのだ。

幼女の思いとしては
背伸びしても
そのトラックの様子はまったく
見えないし
是が非でも
生で走る真純の勇姿はみたい。

ふと
周囲を見渡すと
まさしく
お誂え向き、とばかりに
良く見えそうな高い場所から
忙しそうに去っていく大人たち
特別席が空いた!
あそこなら!!

そう
考えて入り込んでしまったのだが
その櫓上は
思っていたよりもずっと高く
しかも
なにやらたくさんのコードが
絡み合うように足元に散らばっている

突然
怖くなり
身体がすくみ
足を滑らせてしまった

━━━━━お ち ちゃ っ た

しかし
幸運にも
その足に不安定ながらも
一本のコードが絡まり
落下を食い止めていたのだ。

が、

この幼女のピンチに気付く者は
誰も居なかった。

何しろ
注目の最終リレー

それも
今まさに繰り広げられる
デッドヒート

これでは
無理もない。

ブラブラと逆さまのまま
細いコードに揺られ

まるで振り子のように
揺れる幼女

いま
外れて落下してもおかしくはない。

その高さは
地面から数メートルはある

土とはいえ
この固いグラウンドに叩きつけられては
大ケガは…

いや

下手をすれば……


万智はこのピンチに
この会場で唯ひとり
気がついたのだ。


そして
和美に指示をだした。

しかし
それでも
誰も気付かない

ならば

直接向かうのみ!



これが
奇行の真相であった。

【風のルウリィ】七話

【風のルウリィ】七話

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-07-05

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