パウンドケーキ日和

 ゆうびんきょくのまえで、まちあわせた。しろくまから、パウンドケーキを焼いたからたべてよ、と連絡がきて、ぼくは、ぼくのいえと、しろくまのいえのあいだの、ゆうびんきょくに、むかった。車が、きょうは、みんなゆるやかにはしっている日で、うんてんしているひとたちの表情が、にこやかにみえた。赤信号をまっているときも、いらいらして待っているひとはいなかったし、歩いているひとも、自転車のひとも、なんだかたのしそうに、やわらかくて、おだやかだった。パウンドケーキ日和だなぁと思いながら、ぼくは、ゆうびんきょくのまえの、あかいポストのところで、しろくまをまっていた。暑くもなくて、寒くもなくて、湿気はすくないし、くもが、たいようのひかりをほどよくやわらいで、すごしやすい午後だった。しろくまは、ぼくが到着してから、三分も経たないうちにやってきて、やぁ、と片手をあげた。ぼくも、やぁ、と言って、片手をあげた。しろくまの、あげなかった方の手には、ケーキやさんみたいなしろい箱があって、しろくまは、きょうはお天気もよくてきもちがいいから、パウンドケーキをつくるのに最適だったよ、とほほえんだ。ぼくらのよこを、ひとびとも、自転車も、車も、すべるようにいきかい、つまりは、ちいさなわだかまりも、いざこざもおこらず、街は、へいわそのものだった。こんな日が、まいにちつづけばいいのに。しろくまのパウンドケーキも、できたら、まいにちたべたいとひそかに思いながら、ぼくは、しろくまとならんで歩きだした。

パウンドケーキ日和

パウンドケーキ日和

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-01

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND