自選歌集 2020年4~6月
晴れるたび汚れたシャツは洗ってもふいに砕ける洗濯バサミ
帰省した実家の部屋の電灯がやけに待たせたあとやっと点く
わたしからはみ出すことのないように答えの1と5は選ばない
尖らせた鉛筆で書く細い字が消しゴムで消えずに塗りつぶす
逆立ちは一瞬のこと背中から芝生に落ちて空を見ていた
月曜の朝の体は退化して重い尻尾をひきずっている
僕たちは疲れて空気人間になることにして無視しあうのだ
さっきまで共に嵐と戦った傘は壊れて分別ごみへ
弔辞では省略されていましたがわたし楽しくやってましたよ
伊勢海老の食べるところを食べたあと食べないところだけの伊勢海老
初めての小さな駅で潮風があまり好きではないとわかった
今何も置かれていない棚がある何も置かずにいたい気もする
誰も手を出せない檻に入れてくれ俺はFREEなままで死にたい
負けるためリングに上がり五寸釘みたいなものを額へと刺す
住む街の再開発で描かれた近未来図のタッチが古い
リニューアルオープンとなり地下街はキラキラと共犯者の笑顔
軽やかにすり抜けることに集中し歩行者天国の先へいく
天国の入口がまだ見つからない陸橋の上の紋白蝶
毒薬のマークの瓶に飴玉をいっぱい詰めて当たりはひとつ
銀漢は流れを止めず地球(テラ)はまだ生まれる前の夢を見ている
緑から深緑へと進むうち戻らなくてもよいと誰かが
千年をそっとしといてくれたならひとつに混じったふたりで見つかる
もし君を頭蓋骨から作っても黒子がなくてきっと哀しい
六月の終わりの風は生ぬるく夏が来るのは仕方ないこと
まっすぐに風に向かって歩くときわたしも楽器になって鳴りだす
自選歌集 2020年4~6月