一匹の蟻 その後

佐々木良

この小説は「一匹の蟻」の続編です。「一匹の蟻」同様、フィクションですが真実も含まれています。本文中の何がフィクションで何が真実なのかを読み取っていただければ幸いです。

愛用の椅子に座り、カレンダーをチラッと見てからバーナードは奇声を発した。
「もう2週間を過ぎているのにMr,TOMOKAZUは何故帰って来ないのだ」
とシルルは、バーナードの奇声をいつものように英語にして言った。この時、奇声の読み取りが間違っていれば、バーナードが首を横に振るのだが、半年ほど前からその動作は見られなくなっていた。
シルルもカレンダーを見ながら言った。
「帰りの航空券は確か昨日到着予定だったはずです、、、到着名簿を調べてみましょうか?」
バーナードが頷いたのでシルルは部屋から出ていった。
その後ろ姿を愛おしそうに見送ってからバーナードはもの思いにふけった。

(シルルとの結婚を御支配様がお許しくださればな、、、
この想いは数年前から抱いていたのだが、自分はシルルに嫌われていると思い込んでいたために告白しなかった。それがMr,TOMOKAZUに拉致された時、初めてシルルの本心を知り、自分の想いを告白した。シルルは『ロスマイルド家御世継ぎの妻にはなりたくありません。私は、バーナード様の傍に居て一生御身のお世話をしたいだけなのです』と言ってくれた。
自分は、両手がなくズボンを脱ぐことさえできず、お下の世話までしてもらっているのだから、いっそ妻になってもらった方がわだかまりが無くなって良いと思うのだが、、、
御支配様に御話しするにも、シルルを介してでは話し辛い。Mr,TOMOKAZUが居てくれたら御支配様へ)
その時シルルが帰ってきた。

「到着名簿にMr,TOMOKAZUの名はありませんでした」
シルルはそう言ってからバーナードの向かいの椅子に座った。そしていつものようにバーナードの顔を注視し、奇声が発せられるのを待った。
少し間をおいてから発せられた奇声は「日本人は義理堅いと聞いている。Mr,TOMOKAZUも約束を破ったりはしないと思うが、、、」と言っていた。
「はい、私もそう思います、、、連絡もないということは、もしかしてMr,TOMOKAZUに何か不幸事が、、、」
シルルがそう言うとバーナードも心配気にシルルの顔を見つめた。

それから1週間ほど経ち、バーナードはMr,TOMOKAZUを心配してシルルを介して御支配様に聞いた。
すると御支配様は素っ気なく言った。
「昨日分かったのだがMr,TOMOKAZUは1週間ほど前、日本で交通事故で亡くなったそうだ」
それを聞いてバーナードとシルルは顔を見合わせ絶句した。
自室に帰るとバーナードは崩れるように椅子に座り、無言のまま宙を見上げた。シルルも座ることさえ忘れたようにバーナードの横に立ち尽くしていた。
それからどれほどの時が経ったのか突然バーナードは奇声を発した。
「嘘だ。Mr,TOMOKAZUが死ぬはずがない、、、」
シルルが何も言えずバーナードを見つめていると、バーナードは低く奇声を発した。
「御支配様に内密にMr,TOMOKAZUの事を調べる事はできないか、、、そうだエドワードに日本へ行っていただこう。シルル、すぐ手配してくれ」



ちょうどそのころ西田は、御老と今後の事について話し合っていた。
「偽装事故は完璧じゃった。警察も役所も貴殿は死亡した事になっておる。あとは松平家の方々が上手く世間を欺いてくれれば良いがの。特に和子殿はまだまだ貴殿が恋しかろう。会うなとは言わぬが決して誰にも知られぬようにな」
「心配要りません。和子には十分説明してあります」と西田は答えた。
「そうか、、、」
と御老は頷いたが心の中で(西田殿はああ言うたが、若いころは頭で分かっていても体が求めてしまうものじゃ、、、暇そうじゃし陰に早苗を付けておくか、、、)と考えていた。

「さて御老、私は影の総理の一員として昨日ここへ来ましたが、これから何をすれば良いでしょうか?」
「、、、具体的にはまだ何もする事はない。じゃが、何もする事がない時こそやっておかねばならん事がある。ついて来なさい」
そう言うと御老は部屋を出て薄暗い廊下を歩きだした。西田も後に続いた。
長い廊下だった。
西田は昨日この新潟の屋敷に来て、高さ百メートルはありそうな岩山と3方を長い塀に囲まれた屋敷の広さに驚かされたが、今また廊下の長さに驚かされた。
その廊下は10メートル間隔ほどに4本立て襖が閉められてあったが、それも10か所以上ありそうだった。
廊下の端まで来て曲がるとすぐ御老は立ち止まって壁の一点を見た。
数秒後、壁から光が射し御老の顔を照らすと壁が左右に開きエレベーターの扉が開いた。

「西田殿の顔も後で認証させねばならんが、、、後日にするか」と御老は独り言のように言ってからエレベーター内に入った。西田が続いて入ると御老は7まであるボタンの3を押した。
西田は一瞬(地下室があるのか)と思ったがエレベーターは上昇した。
(ん、上へ、、、屋敷は2階建てだったと思うが、、、そうか廊下は岩山の中まで続いていたのだ。と言う事はここは岩山の中、しかも7階まで、、、)
「西田殿はもう御気づきじゃな、そう岩山の中じゃ。じゃが、驚くのはこれからじゃ」
3階でエレベーターから出ると、向かい側にもエレベーターの扉があった。だが扉の上の番号は地上7階地下5階となっていた。
西田の視線に気づいた御老が言った。
「こちらのエレベーターでは地下へは行けぬが、向かいのエレベーターでは地下5階まで行ける。地下5階は日本海に繋がっていて潜水艦で出入できる。世界中の要人が出入する要人専用エレベーターじゃ。ワシらは滅多に使用できぬ」
(地下5階から潜水艦で出入する、、、軍事衛星による監視対策か、、、まるでSF漫画のようだ)
「地下にこんな大きい施設を作るとは、、、」
「、、、東京の地下にはもっと大きい物がある。どこの国でもそれなりに地下施設を作ってある。一般人には知らされていないだけじゃ」

3階は、研究所のようだった。
多くの白衣をまとった者や防塵服の上にマスクを装着した者たちが忙し気に歩いたり、研究机の上でPC画面と試験体とを見比べたりしていた。西田はそこの人の多さに驚いた。
「人が多い」と西田が呟くと御老は言った。
「生粋の日本人の最高峰の頭脳明晰者を集めておる。
ここでの研究や武器開発は世界のトップクラスじゃが、外部に漏れないように細心の注意を払っておる。
外部に出れるのは年に数度じゃが、誰も不満を言わん。皆の者、日本の為じゃと理解しておるのじゃ」
そう言うと御老はエレベーター前の通路を歩き出した。

この通路も長かった。エレベーター出口の方向から考えて、屋敷の反対側に進んでいるようだった。
500メートルは歩いたと思ったころ、急に明るく広い広間に着いた。
ガラス張りの天井から空が見えたと思ったが、よく見ると投影されているようだった。
「皆の者の休息場じゃ。食事もここでとれる。奥の食堂で何でも好きな物を食するがよい。寝室も食堂の者に名前を言えば教えてくれる」
そう言ってから御老は広間の隣の部屋のドアを明けた。ここは2畳ほどに仕切られた各スペースにリクライニングシートとデスク上に大きめのノートパソコンがあり、既に数十人が過ごしていた。
「しばらく、ここの空いている所でいろいろ調べると良い。
昨日教えた暗証番号を入力してここで調べられる事は、外界社会で報じられている事よりも、より真実に近い事が調べられるのじゃ。
暗証番号を入力すれば、政府高官しか知らないような極秘事項も調べられる。
手始めに西田殿が知っている東日本大震災の事を調べてみると良い。
西田殿は今後の為に真実を知っておくべきじゃからの」そう言ってかから御老は去っていった。

西田はさっそく空いている椅子に座り、PCに暗証番号を入力してから「東日本大震災」を検索した。
画面上に東日本大震災に関するいろいろな項目が出てきたが、普通のネット検索項目と同じ内容のようだった。しかし何気なく2ページ目を開くと、項目名の冒頭に㊙印がついているのがあった。
その㊙印項目を開くと、東日本大震災がハメリカとデスラエルによる人工地震によって引き起こされた事が、様々な資料と共に載せられていた。

読み進むにつれて西田の顔色が変わった。
(何という事だ、俺がロスマイルド家で聞いた、地震を起こす日時を決めた会話の録音データさえも載っている、、、)
西田は腕組みをして宙を睨んだ。
(こんな確かな証拠があっても、日本政府も影の総理も奴らに対して何もできないのか)
西田の心の中に激しい憤りがこみ上げてきた。
(こんな日本ではダメだ、、、奴らに何をされても泣き寝入りする事しかできない日本では、、、
いつまでも、こんな日本のままではダメだ、、、)

ふと気がつくと仕切りの入口に女性が立って、何か言いたげな顔で西田を見ていた。
「何か?」と西田が聞くと、女性は「ちょっと失礼」と言って近づきデスクの引き出しからノート類を取り出して行こうとした。
西田は一瞬慌てて立ち上がり「失礼、貴女の席でしたか」と言った。
女性は「構いませんわ、空いている所は誰が使っても良いことになっていますから。私が私物を置き忘れていたのが悪いんです。お邪魔してすみません」と言い出て行こうとしながら画面の音声データの文字起こしの文面を見て動きを止め「数秘術を調べられているのですか?」と聞いた。
「いえ、数秘術自体には興味はありません。この音声データが、東日本大震災が人工地震によって引き起こされた証拠になるため調べていたのです」と西田は答えた。
「えっ、東日本大震災が人工地震によって引き起こされた、、、」

「貴女はまだご存知なかったのですか、、、ちょうど良かった、私が出て行きますから貴女はここでこの証拠資料等を読まれれば良い」
「ありがとうございます。でも私、今すぐ研究室に帰らないといけません、、、そうだ、3時間後食堂でお会いしません。で、よろしかったらその時、人工地震の事などお聞かせ下さいませんか」
「いいですよ、、、私は西田友一と言いますが貴女は」
「遺伝子研究科の小野寺春子と言います。すみません、では3時間後に食堂で」
そう言ってから小野寺春子はせわし気に去って行った。

その後、西田はいろいろな事件等を調べた。㊙印のついている事件はどれも一般人が知っている内容とは違っていて、事件によっては驚くべき内容のものもあった。
西田が以前から気になっていた「日本航空123便墜落事故」は「当時ハメリカよりも高性能な日本独自のコンピューターが開発され、その資料を持った開発責任者が搭乗していた事も原因の一つとして考えられる」となっていた。
(けっ、やはりそうか。あのコンピューターが世に出ればハメリカのコンピューター産業は壊滅的な打撃を受ける。何としてでも阻止しろ、との指示があったのだろう。そのために何の罪もない520人の方々が、、、
だが、ハメリカそしてその陰に潜む奴らにすれば日本人520人の命など何とも思わないだろう)

(特別会計の使途不明金を調べていた国会議員が殺された事件も、やはり奴らの仕業だったか、、、
なに「秋葉原通り魔事件」の、、、真実は、、、なんということだ、ナイフで刺したのは別人、しかもその別人の逃走を私服警官が手助けしている、、、。
こんな事が許されて良いのか、だが警察も政治家も上からの、つまり奴らの命令に従うしかない、、、
これでは日本人は奴らの奴隷じゃあないか、、、このままでは日本は滅びてしまう、否滅ぼされてしまう)
西田は液晶画面を睨んだまま考え込んだ。

(日本の政治家は奴らの言いなり、国家公安委員長さえも、、、当然その下の警察も上の言うことに逆らえない。逆らえば自分の未来は不幸なものになる、、、刑事だった俺にはその事がよく分かる、、、
誰しも自らの幸福を一番に望む、自らを不幸にしてまで他人を助けようとはしない、、、
そして警察がそうしたからといって、その警察を批判する事が俺にできるだろうか、、、
だが、それでは正義はどうなる、、、警察官としての正義は、政治家としての正義は、、、
自らの未来の幸福は正義よりも大切なことなのか、、、
しかし誰しも幸福になる権利がある、警察官も同じだ、そしてその権利を、他人が正義と言う言葉を使って奪うことはできない、、、)

ふと時計を見ると小野寺との約束の時間が近づいていた。
西田は急いで観覧遍歴の消去をして食堂に行った。
食堂には既に多くの人が来ていて50ほどのテーブルはもうほぼ埋まっていた。
その中のテーブルから中腰になって手を振っている小野寺の姿が見えた。西田は軽くお辞儀をして近づくと小野寺が言った。
「注文しましたか」
「いえまだ何も、、、来たばかりで分からないですが、どこで注文すればよいのですか」
「あそこのパネルに今日のメニューがありますので選んでボタンを押して番号券を持って来てください。お茶やコーヒーはセルフであそこから持って来て」と小野寺は指差しながら言った。

西田が言われた通りに注文して帰ってきて小野寺の対面に座ると小野寺はまた指差して言った。
「料理が出来たらあそこに番号が表示されますので、でも少し待たされますよ、一人で待っているとウンザリするほど」
「そうですか、では時間つぶしに東日本大震災の話をしましょう。
さっきも言ったようにあれは人工地震で引き起こされたのです」
「人工地震であんな大地震を起こせるんですか」
「はい、、、その証拠などはネットで「東日本大震災 人工地震」で調べればいろいろ出てきますので後ほど御自身で調べてみてください」
「分かりました、後で調べてみます、、、
でも人工地震ということは誰かが起こしたということですよね、いったい誰が?」
「それも調べれば分かりますが、この世界には悪い人がいっぱい居るのですよ、そして日本はその悪い人たちに支配されているのです」

小野寺は驚きの表情で言った「日本は悪い人たちに支配されているのですか」
「はい、戦後75年ずっと支配され続けているのです、日本はハメリカの植民地のようなものですし日本人は奴らの奴隷のようなものなのです、しかし残念ながらその事に気づいている日本人は少ないですが」
「ええっ日本人は奴隷ですか」
「そうです奴隷と同じです、東日本大震災で15893人もの方々が殺されたにもかかわらず、日本人はそれを訴える事も許されません、奴隷と同じです。
私は以前、訴えようとしましたが『そのような事をすると、もっと酷い目にあわされる』と止められました。
奴らは大地震だけでなく富士山を噴火させることもできるんです、仮にいま富士山を噴火させられたら東京はどうなりますか、日本はどうなりますか、、、
それを考えたら奴らを訴える事もできないんです。悲しい事ですが、奴らの言いなりになるしかないんです」

「そんな、、、」小野寺の顔は青ざめていた。
「、、、日本が植民地、、、そんなこと私は今まで考えたこともありませんでした、、、
私は小さい頃から科学が好きで、夢中で勉強していたらいつの間にか生物物理学の研究員になっていました。
ある時、研究所所長から密かにSTAP細胞の再現実験をするようにと言われ実験したら再現できて、所長と一緒に小0方さんに報告に行こうとしたら、ここの使いの人に『小0方さんの二の舞いになる、今は行かない方がいい』と止められ、その後私だけここへ来らされました。
それから6年、STAP細胞を使って万能細胞も完成しましたが、ここでは発表する機会もなく、まあ私はノーベル賞など興味がありませんし研究できることが何よりも嬉しくて、今は次の段階の万能細胞から実際の筋肉細胞作りの研究をしていますが、、、そうですか、今わかりましたわ、私がここへ来らされた理由が、、、」

「なんと貴女は天才科学者だったのですか、御見それしました」
「とんでもない、私はただの研究員ですわ。しかも科学以外は何も知らない井の中の蛙です。
日本がハメリカの植民地だと今初めて知ったのですから。
でも貴方の御話しで、日本で研究成果を発表してもダメだという理由が解りました、、、
そうですか、、、日本はハメリカの植民地ですか、、、小0方さんがあのようになったのも、、、」
「そうです、あの国は昔から、自国や自分の利益の為なら平気で他国を潰します。
科学の面でも、どんなに素晴らしい発明があっても自分たちに不利益になる時は潰しました。
水を燃料としたエンジンが既に開発されているのにハメリカの石油王によって製造販売が止められているのが良い例です」

「水を燃料にしたエンジン、、、各階に発電設備があると聞きましたが、排気ガスの匂いがしません。ここでも既に使われているのでしょうか」
「恐らくそうでしょう、聞いた話では有害な排気ガスも出ず音も静かだと、しかもエンジンが高温にならないので冷却設備も不要とか。
もし日本の発電所などで実用化されたなら、高い原油購入費と輸送費が不要になり一気に富裕国になれるのです。そうすれば消費税増税も必要なくなり、年金も健康保険も財源ができるのです。
そんな夢のような物が発明されていながら、特定の国の特定の者の利益確保のために日本だけでなく世界中が損をしているのです、こんな不条理な事が許されて良いのでしょうか。

そればかりではありません、ハメリカは日本が上納金を出し渋るとすぐに恫喝するのです。東日本大震災も恫喝以外の何ものでもありません。
多くの方々を殺され甚大な被害を被らされた上に、多額の上納金を奪い取られました。
当時の日本政府は、ハメリカの実体を知らなかったのか、それとも政権を取って慢心していたのか、ハメリカの言いなりになろうとしませんでした。怒ったハメリカは、人工地震と津波を起こして多くの日本人を殺した上に、仲間のデスラエルの企業がデスラエル国内からネット回線を使って福一原発を爆破させたのです。
これは正しく奴らの恫喝なのです『言うことを聞かなければ日本などいつでも潰せる。何なら富士山を噴火させようか』と。
当時の日本政府もその後の日本政府も仕方なく上納金を納め続いているのです。だから日本という国と日本国民は正に奴隷としか言いようがないのです」

「、、、そうだったんですか、、、日本という国は何と、、、惨めな、、、」
「惨め、、、その通りです、、、日本は惨めな国です
戦争に負けた後日本はハメリカの植民地に、そして日本国民はハメリカの奴隷にされているのです。
しかし狡猾なハメリカは、その事実をずっと日本国民に隠してきたのです。
同時に日本国民に自虐史観を植え付けさせ、無気力で従順なだけの人間にしたのです。

今の大多数の日本国民を見てください。
日本の未来やハメリカの悪事などのような、自分の日常生活にあまり関係のない事には全く関心を持たない無気力な人ばかりです。
いまだに3Sやスマホに夢中の事なかれ主義の、そしてどんなに生活が苦しくとも必死で働いて血税を納めている温厚な日本人。
このような日本人は正に、ハメリカに都合の良いハメリカの奴隷としか言いようがない人々です。
日本人の血税をピンハネしているようなハメリカにとっては、こんな日本人は正に理想的な奴隷と言えます。
ハメリカはさぞかし喜び、そして「愚かな日本国民」と侮蔑している事でしょう」
いつしか西田の両目には涙が滲んでいた。それに気づいた小野寺はさり気なく視線を外した。
その小野寺の目に掲示板に表されている自分の食券番号が見えた。
小野寺は何故かホッとし、努めて明るい声で「料理ができましたわ」と言い立ち上がってから「西田さんの料理は何番ですか」と聞いた。
西田が番号を言う前に見て取った小野寺は「よかった西田さんの料理もできていますわよ」と言って歩きだした。西田も後に続いた。

料理を運んできて食事が終わるまで二人は無言だった。
食事しながらでも会話はできたはずだが何故か二人ともそれ以上なにも話したくなかった。
西田が言った「日本は惨めな国です」と言う言葉が、西田自身にもそして小野寺にも強く心に残り、この事についてもっと深く考えなければならないように思えた。
西田がコーヒーを飲み干すのを見届けてから小野寺は言った。
「明日もこの時間にお会いしません、私もっと西田さんの御話を聞きたいですわ」
「いいですよ、私でよろしければ幾らでもお相手します」と西田は答えた。
小野寺は立ち上がり笑顔で「ではまた明日」と言い、西田の食器も自分のお盆に乗せて運んで言った。

西田は、自分の食器まで運んで行こうとするか細い身体の小野寺を制止しょうと思ったが瞬時に声が出ず、何やら後ろめたい気がした。
(いいや、明日は俺が運ぼう、、、
小野寺春子、凄い科学者のようだが、そのような雰囲気が感じられない、不思議な人だ、、、)
西田はもう一杯コーヒーを飲みながら色々考えようと思ったが、席が空くのを待っている人が居ることに気づき立ち上がった。
食堂の人に名前を言って寝室を聞き、食堂の前の通路を奥に進んだ。

この通路も長かった。地下にあるとは思えないほどの長さだ。しかも天井に等間隔に照明機器があり自然光のような光を照射していて、まるで薄曇り時の野外通路を歩いているような錯覚さえ覚えた。
しばらく進むと、通路の両側に数メートル間隔にドアが並んでいた。
食堂で渡された鍵の番号と同じ番号のドアを開けて部屋の中に入るとまた驚いた。
高級ホテルの部屋のような調度品とベッドの向かいには広い窓があり左右にはカーテンもあった。
(ここは地下室のはず、、、)と思いよく見ると液晶画面に映し出されている景色だった。
日本海だろうか、高波が打ち付ける荒々しい海岸と海の彼方に太陽が映し出され、しかもどこからか微かに潮の香りまでするのだ。
西田は思わずその景色に見とれた。まるで窓ガラスを通して見える本物の景色のようだった。

しばらく立ち尽くして景色を眺めていたが、ふと我に返りベッドに腰を掛けた。その時ベッド上に置かれていたリモコンに気づき、そのリモコンを見ても驚いた。
室内の温度調節はもとより世界の主だった国のテレビ番組やネットニュース、窓の外の景色の切り替えや香りの強さの調整ボタンまでもあった。
西田は試しにバラの公園の景色に替えてみた。すると直ぐにバラの甘い香りが漂ってきた。
西田は唸った(日本の技術、、、恐らく世界一の技術力だろう、、、
日本独自のコンピューターもそうだが、日本はいろいろな面で世界の最先端の技術がある。しかし奴らの不利益に繋がる新製品などは直ぐに潰されてしまう、、、
ここはまだ奴らに知られていない施設なのだろうか、、、恐らく知られていないのだろう、だからこんな素晴らしい物が部屋に取り付けてあるのだ。
もしこれと同じ物が街中にあったら、とっくにハメリカに奪い取られていただろう)

西田は冷蔵庫を開けてみた。西田の好みのビールやナッツ類のつまみ、新鮮な果物も入っていた。
浴室も少し小さいが洒落たバスタブがあり、スライドカーテンを隔ててトイレ、その脇には乾燥機付きの洗濯機もあった。
(まるで高級ホテルのスイートルームだ、俺にはもったいないくらいだ)
西田はバスタブに入ってぼんやりと考えた。
(この施設の全室同じような設備なのだろうか、、、高額費用だな、、、その金はどこからか、、、いや、部屋の設備費用などより、この施設全体の費用は、、、数千億円だろうか、、、その金は、、、まさか日本国民の血税から、、、この地下施設の費用が血税からだとすると、しかし、そうなるとハメリカはもとより日本国民にも全く知られないように特別会計の使途不明金から、とは言え、使途不明金からはハメリカへの上納金を納めて、尚かつこの施設の費用もとなると、、、使途不明金だけで足りるのだろうか、、、
まあ、今の俺が考えても仕方がない事か、、、

だが、金の出どころは気になる、この世の全ては金で動いているのだからな、、、
金、金、金、、、金のために多くの貧しい日本国民は、ハメリカの奴隷にされている。
数十年前、まだバブルが崩壊していなかったころの日本国民は今よりも豊だった。終身雇用のおかげで毎年の昇給が見込め、将来の計画を立てる事ができた。だから若者も安心して結婚することができたんだ。
しかし今の日本は、多くの会社が派遣社員を使っている。派遣社員では昇給が望めないだけでなく、会社の都合でいつでも解雇される不安さえある。とてもじゃないが結婚して家族を養うゆとりなどない、、、
こんな状態では当然のこと少子化が問題になる。
生粋の日本国民は減る一方だが、これも奴らが企てた事だろう。
生粋の日本国民を減らし外国人を入れ、日本国内の治安や保険制度を悪化させ日本を弱体化させる、、、
それにしても派遣社員を広めた竹0平0は奴らの手下か、正に売国奴としか言いようがない奴だ、、、
おっと、いかん、またのぼせてしまう、出なければ、、、)
西田はやっとバスタブから出た。時計を見たら1時間を超えていた。苦笑いをしながらベッドに入った。

西田は翌日も朝からコンピュータールームでいろいろな事を調べた。そして夕食時はまた小野寺と会った。
今日は西田が先に行って小野寺を待っていた。
食券を持って西田の向かいに座った小野寺は開口一番に言った。
「今日は西田さんの事について御話していただけません、私の事は昨日お話しましたから」
「え、俺のこと、いや私の事、、、私の事など話すような事は何もありません、私はありふれた男ですよ」
「アハハ、御冗談を、、、この施設にありふれた男性など一人も居られませんわ。皆さん何らかの特殊能力とか経歴等をお持ちですわ。西田さんも恐らく超人的な何かの持ち主なんでしょう」
そう言われて西田は言葉に詰まった。
(俺の事と言われても、、、何を話せばいいのか、、、俺は、もと刑事だしもと探偵だしもと人殺しだし、、、)

西田が口ごもっていると小野寺は畳み掛けて言った。
「そう、、、御話いただけないのですね、では失礼しますわ、御自身の事を御話できないような方とは信頼関係を築けませんから」
そう言って小野寺は立ち上がり笑ってまた座って言った。
「アハハ、冗談ですわ、ここに居る方々の多くは自身の事について話しません。それぞれに秘密を御持ちですから。でも私は秘密にする事が何もないので御話したのです。
でも、差し支えない事でしたら御話していただけません、私は西田さんの事をもう少し知りたいですわ」
西田は苦笑し少し考えてから言った「私は一匹の蟻です」

「え、一匹の蟻、ですか」
「そう、私は一匹の蟻です。
昨日も少し御話しましたが、この世界には悪い人がいっぱい居るのです。そしてその悪い奴らは巨大な力を持っています。
富士山を噴火させる事など朝飯前、策をめぐらし国と国に戦争をさせる事も、ハメリカを操って戦争に引きずり込んで滅ぼす事もできるんです。
そのような巨大な力を持った奴らに比べたら、私なんぞ正に一匹の蟻でしかない。近づこうとすれば即座に踏み潰されてしまいます。しかし私は、そんな一匹の蟻でも何かできる事があるのではないかと考えたのです。そんな私をここの影の総理が拾ってくれたのです」

「そうでしたか、、、それで一匹の蟻でもできる事というのは考えついたのですか?」
「いえ、まだです、今はまだネットでいろいろ下調べしているところです」
西田は、各国でデモを起こさせた事やロスマイルド家との関係などは話す気にならなかった。
「一匹の蟻、、、おもしろいたとえですね、私もお仲間に入れていただけません」
「いいですよ、仲間は多い方がいい、、、貴女は頭を使う蟻、しかし私は今のところうだつが上がらない蟻」
「アハハ、うだつが上がらない蟻、おもしろいですわ、その名前私にくださいません、その名前気に入りましたわ」
「いえ、これは私のもの、貴女にはうだつが上がる蟻という御名前を進呈します」
「うだつが上がる蟻、、、うだつが上がらない蟻の方がおもしろいですけど、仕方ないですわ、私はうだつが上がる蟻にします。ところで、、、」と言って一瞬掲示板を見てから続けて言った。
「まだ料理できていませんね。もう少し何か御話を聞かせてください。西田さんの御話おもしろいですわ」

「話を聞かせてと言われてもすぐには思いつきませんが、、、」と言った後で少し考えてから話し始めた。
「では放射能汚染について御話しましょう、、、その前に貴女の部屋にもあの窓がありますか、いろいろな景色が映し出される」
「はい、ありますよ、最初見た時は驚きました。潮の香りまでするのですから。
聞いた話では、人類は今後地下での生活やロケット内での生活を強いられるようになるかも知れないが、そんな時せめて窓から見える景色だけでも自然の景色を楽しめるようにと考えて作られたそうです。
海岸の景色などは現地で写された景色をリアルタイムで映し出しているそうで朝日も日没も見えますし雨の日の景色もあります。日本だけでなく世界各地の景勝地映像含め100ヶ所あるそうですよ」

「え、100ヶ所もあるんですか、、、凄いですね、今度いろいろ見てみます。
それにしても日本の技術には驚かされますね。
ところで小野寺さんは、放射能が人体に及ぼす影響などは御研究されたことはないですか?」
「放射能が人体に及ぼす影響ですか?いいえ、ないです」
「実はですね、ある日本の研究者が福一原発周辺や立ち入り禁止区域内に監視カメラを設置して、野生動物の生息状況等を調べたのです。すると、ハイレベル放射能汚染があるとされている原発建屋周辺でさえ猪や鹿などの野生動物が何年も住んでいる事が分かったのです。
同じような事がチェルノブイリでも言われていますし、汚染の種類が違うかも知れませんが広島長崎でも原爆投下数年後から人が住みましたが、残留放射能汚染は問題にならなかったようです。
これらのことを考えると、現在も続けられている除染作業などは過剰なあるいは無意味な行為のようにも思えるのですが、小野寺さんはどう思われますか?」

「福一原発周辺に野生動物が住んでいる、、、
私は分野が違いますので詳しくは分かりませんが、体内被曝などは蓄積されると聞いています。
そうすると汚染地域に住んでいる期間が大きな要因になるかも知れませんね。
野生動物が原発事故直後から住んでいたとしても9年、まだ被曝による病気等が発症していないのかも知れませんし、広島長崎での被曝は種類が違いますので単純に比較できないのかもしれません」
「なるほど、いま野生動物が住んでいるからといって安全だと判断する事はできないのですね、、、
どうも私は短絡的過ぎるようです、お恥ずかしい」西田はそう言って頭を掻いてから話を続けた。

「ということは除染作業はまだまだ続くということですね、膨大な出費、血税の損失ですね、、、
そしてこの事故もまた奴らによって起こされたものだとしたら、税を納めている日本人の端くれとして、到底奴らを許すことができませんね。
地震と津波で15893人の方々を殺され、多くの財産を奪い取られ、その上、何年も除染の費用を納めさせられる日本国民。しかもおおよその犯人が分かっていながら訴える事もできない。
正に惨めな国としか言いようがないですね」

「私も本当にそう思います。でもその前に本当に人工地震だったのかどうか、私も昨夜ネットで調べてみました。そして、西田さんと同じ結論に達しました。
ネット上には人工地震を否定する方々もいますが、否定する方々の御意見はどこか感情的で根拠の乏しいものが多いようでした。反対に人工地震だと言い切る方々の方は、科学的なデーター等を示されていて証拠能力十分という感じを受けました。しかも、誰が何の為に起こしたのかまでも提示されていました。
犯人は正しく、西田さんが言われている「奴ら」世界を陰から操る富豪集団でしょう」
「一夜でそこまで調べられるとは、さすがは大物科学者ですね、御見それしました」
「恐れ入ります、ですが、訴える事は本当にできないのでしょうか?。だとしたら本当に惨め過ぎます」

「奴らは血も涙もない、正義はなおさらない鬼畜です、もし訴えたなら更なる攻撃を受けることになるでしょう。奴らは、日本人など家畜同然としか認識していないのですから」
「奴らにとっては日本人は家畜ですか、、、」
「はい、家畜であり奴隷です。殺すも生かすも意のままです。そしてその状態が75年も続いているのです」
「、、、何とかなりませんか、、、このままではいくら何でも惨め過ぎます、、、」

「強くなる以外に方法はないでしょう。日本が奴らに対抗できるくらい強くなるしかない。
どんなに綺麗ごとを言っても、人類はいまだに弱肉強食なのです。弱い者は強い者に従わされる、奴隷にされ富を収奪される。反抗すれば当然のように容赦なく打ちのめされる。
まあそれは日本に限ったことではなく他の弱い国も同じ目にあわされているのです。
奴らによって、どれだけ多くの国が経済破城させられているか、奴らによって、どれほど多くの人びとが悲惨な目にあわされているか、、、世界の現状を調べれば、その事が嫌というほど見えてきます、、、
強くなるしかないのです。奴らに対抗できるほど強くなるしかないのです、、、
R国やC国が膨大な予算を使って軍備増強するのも強くなるため以外の何ものでもないのです。
日本も強くなるしかないのです、しかしそうしょうとすると奴らに止められる。だから決して奴らに知られる事なく強くなるしかない。こうやって地下に潜んで力を蓄えるしかないのです」

その時、小野寺の携帯電話が鳴った。小野寺は耳に当て少しして立ち上がって言った。
「緊急会議があるので行きます、また明日お会いしましょう」
小野寺が去った後、西田は一瞬肩透かしを食らったような気がしたが、すぐに気持ちを切り替えて考えた。
(こんな所でも緊急会議があるのか、、、細胞などの科学者の緊急会議、、、いったいどんな内容だろう)
と少し興味が湧いたが掲示板に自分の食券番号が表示されているのを見て立ち上がった時には緊急会議の事は忘れていた。

西田は翌日も同じ時間に食堂に行ったが、小野寺はなかなか来なかった。
一人で食事を終えて立ち上がると、白衣姿の小野寺が気忙し気な表情で小走りで近づいて来て言った。
「遅くなってすみません。ウイルス研究科の応援で忙しくてご一緒に食事できません。事前に連絡したかったのですが、まだ西田さんの携帯電話番号を聞いていませんでした。番号を教えてください」
西田が番号を教えると小野寺は「ありがとうございます。で今後ご一緒に食事できるようであれば私の方から電話しますので。すみませんが今日はこれで失礼します」と言って去って行った。

西田はつまらなさそうに自分の寝室に帰るとベッドの上に大の字になった。
(話し相手がいないのがこんなにつまらないとは、、、)
西田は気晴らしに窓の景色を替えてみた。
雪が降りしきる川辺の寒々とした景色が出て、せせらぎの微かな音と温度調節していないのにフッと冷たい風が吹いてきた。
西田は身震いしながら思った(けっ、賽の河原でもあるまいに冷たい風まで吹かさなくても、、、)
すぐに次の景色に替えた。今度は、砂漠に三日月が冷たく光っている景色だった。
西田は部屋の明かりを消した。すると三日月だけでなく空一面に星が輝いているのが見えた。
(ううむ、素晴らしい景色だ、、一度砂漠で星空を見たいと思っていたが、部屋に居ながら見れるとは、、、)
西田はそのまま眠りについた。


小野寺から電話がないまま2週間が過ぎた。
いつの間にか話し相手が居ない事にも慣れていた西田は、毎日ネットでの調べ事に没頭していた。
寝室とコンピューター室と食堂を回るだけの短調な日々だったが苦にはならなかった。
今日も朝食後コンピューター室でネット検索していると、ひょっこり御老が現れて言った。
「西田殿、調べ事ははかどっておるかの」
「あ、御老、、、ええ、まあ、、、」
「少し話をしたいんじゃが良いかの」と言って御老は歩き出した。西田は後に続いた。
二人は食堂でそれぞれ茶とコーヒーを運んできて丸テーブルを隔てて座った。
御老は茶を音を立てて一口すすると話し始めた。

「厄介な事になりそうじゃ、、、C国でコロナウイルスによる肺炎が流行っておるが日本国内でも感染者が出始めた。じゃが、このコロナウイルスにはまだワクチンがない。
ここでもウイルス研究科でワクチン研究しているがまだできておらんのじゃ。
まあ感染しても日本の医療レベルなら滅多に死ぬことはないじゃろうが、ワクチン研究はしておいた方が良いんじゃ。
それとな、このウイルスを広げたのがどうも奴らのようなんじゃ。
しかも今回は予行練習で、今回の状態を分析して次回本格的に広めるつもりらしいんじゃ」
「、、、奴らがウイルスを、、、」
「いよいよ奴らの『人類削減計画』が始まるようじゃ。まあ今回のウイルスは試運転みたいなものらしいがの」

「御老『人類削減計画』が始まるということは奴らは一つにまとまったのですか」
「いや、そうではないロットフェラーの単独犯行のようじゃ。じゃが、他の奴らも共犯ということにして引きずり込む魂胆らしい。奴らの中で一番ずる賢いロットフェラーの考えそうな事じゃ。
何にしても、ウイルスが世界中に広まれば大変なことになる。
C国では既に、東京と同じ規模の都市が閉鎖されておるが、感染拡大を恐れて食料の搬入もままならず餓死者も出ておるそうじゃ。
このような状態では当然会社も工場も休止じゃが『世界の生産工場』と言われているC国の生産が止まれば、世界中の製造工場が影響を受け世界経済が低迷するじゃろう。
奴らの狙いは恐らくこの世界経済の低迷じゃろうが、予行練習のつもりのウイルス拡散でさえ世界経済を破滅させかねん。
奴らが数年後本腰を入れて、もっと強力なウイルスを拡散させれば、恐らく人類は終わりじゃ、奴らの『人類削減計画』通り、人類は5億人くらいに減らされてしまうじゃろう」

「、、、何とかなりませんか、、、現在の人口75億人を5億人にするということは70億人を殺すということです。
奴らにそんなことをされてよいのですか。奴らにそんなことをされるくらいなら、いっそのこと先に奴らを抹殺したらどうですか。
幸い現在のハメリカ大統領は奴らと対立しています。ハメリカ大統領と手を組んで、奴らの本拠地に核ミサイルでも打ち込んで抹殺するべきです」
「、、、ワシもそのようにした方が良いように思うが、核ミサイルを使えば一歩間違えれば核戦争になり兼ねんのじゃ。ハメリカ大統領が決断できるとは思えん」
「では、どうすれば、、、」
「それを貴殿に教えてもらいに来たのじゃ。ハメリカやデスラエルでデモを起こさせ、奴らを恐れさせた貴殿なら、きっと名案を思いつくじゃろうと影の総理が申されたんじゃ。期待しておるぞ」
そう言って御老はさっさと行ってしまった。

(けっ、糞ジジイ、言いたい放題言って行きやがった、、、)
西田は憮然として宙を睨んだ。
(くそっ、俺に70億人を救う方法を考えろと言うのか、、、言うだけなら簡単な事だ、、、だが、俺のような凡人にそんな事が考えられるはずがない)
西田は心の中でそう怒鳴りながらも何かを考えていた。そしてふと三島のことを思い出した。
(三島、、、あいつはもう地獄に落ちているのだろうか、、、
あれほど憎んでいた三島を俺はこの手で殺した、、、だが今は何故か懐かしい、、、
会えるものなら会ってみたい、、、そうか死ねば会えるか、、、俺も人殺しだ、地獄行きだろう、、、
俺は地獄行きで良いが、世界中で生きている何の罪もない人びと、そんな人びとを奴らは虫けらのように殺そうとしている、、、既に今C国ではウイルスだけでなく飢えて死ぬ人びとさえ居る、、、
何とか止める方法はないか、、、三島、教えてくれ、、、奴らを倒す方法を教えてくれ)

西田は考え続けた。寝食を忘れたように考え続けた。しかし良い考えは思い浮かばなかった。
そして、いつの間にか1ヶ月が過ぎた。
西田の顔は髭も髪も伸び放題、食事も満足にとっていなかったのか頬もこけ別人のような風貌になっていた。しかしそれでも良い考えは思い浮かばなかった。


ちょうどそのころロベルトとバーナードは二人だけで話し合っていた。
話し合っていたとは言ってもシルルが居なければ、バーナードは誰にも言いたい事を伝えられないのだが、ロベルトから極秘情報を聞くだけの時はシルルといえども同席させなかった。
「ハメリカのロットフェラーが抜け駆けしおった。例のウイルスをC国で拡散させたのだ。1ヶ月経って世界中に広がりユーロッパ各国にも既に感染者が出ておる。この国に広がるのも時間の問題だろう。
だが我がロスマイルド家はまだワクチンができてない。
じゃがあ奴らは恐らくワクチンができたのじゃ。だから協定を破って拡散しおったのだ。
ロットフェラーの石油成金めらが、、、」
デスクの上に置いた左手がグッと握り締められていた。
ロベルトが怒った時の癖を知っているバーナードは怯えた小動物のようにじっとしていた。

「あのウイルスは感染力は強いが致死率は高くない。せいぜい弱った老人か免疫力の落ちた重病人くらいが死ぬだけだ。しかしその中にはワシらも含まれる。
我が家の者は先祖代々みな免疫力が弱い。そのため抗生物質を常飲せなければならなかった。その副作用のせいでワシもお前も若い頃からアバタ顔だ。まあアバタ顔くらいはどうでも良いが、免疫力の弱いワシやお前は要注意じゃ。あ奴らはそれも知っていて広めたのじゃろう。
我が家に決してウイルスが入り込まぬようにせねばならん。
我が家のお抱え医師どもにウイルス対策を指示しておいたが、お前も気をつけるようにな。
お前は何が何でも長生きして我がロスマイルド家を存続させなければならんのじゃからの。

それにしても石油成金め、叩き潰してやりたい、お前に何か良い考えはないか、、、
おお、そうだったシルルが居なければお前の考えは聞けんのじゃった、シルルを呼ぼう。だがウイルスの件はシルルにも黙っておれ」
やがてシルルが部屋に入ってきた。
シルルが居たところでバーナードには、ロットフェラーを潰す良い考えはなかったのだが、、、。

シルルがバーナードの横に座るとロベルトが言った。
「最近のロットフェラーどもの傍若無人な行動は目に余るが、特にお前の命を狙った薬物投与は許し難い。報復措置をとって当然のことだが、どのような報復措置が良いか」
バーナードは少し考えてから奇声を発し、その奇声をシルルが通訳した。
「目には目を歯には歯を、と言う言葉があります。奴らに何か毒物でも、、、」
「ふむ、毒物か、、、」そう呟いた後ロベルトは考え込んだ。バーナードも考えた。
数分後バーナードが奇声を発した。
「ドローンで奴らの屋敷の上空から薬物をばらまきます。薬物がダメなら何かの病原菌を、、、」
「うう~む、、、病原菌か、、、シルル、医師長を呼べ」
数分後、医師長が来た。その後ドローンに詳しい者も来た。
数時間後、綿密にねられた計画が実行に移された。


数週間後ニューヨークのロットフェラー家の番犬数十頭が死んだのに続き、住人が危篤状態で入院した。
季節がらインフルエンザが流行していたため初期症状の似ている肺炭疽患者を特定できず、医師が肺炭疽症だと診断した時には既に数十人が死亡した後だった。
その死亡者の中にロットフェラ家の次期後継者と目されていたダニエルがいた。
ダニエルは犬が好きで、毎朝犬と共にランニングしていたが、ある朝インフルエンザの症状で緊急入院し、医師たちの懸命な治療にもかかわらず3日後にあっけなく死んだ。そしてその後、肺炭疽と分かった。
ロットフェラ家の支配者ダイバットは、ドイツの親族の葬儀に参列中だったが葬儀場から空港に向かった。

ニューヨークへの機内でダイバットは秘書の一人に怒鳴った。
「もう一度経緯を話せ」
秘書が恐るおそる経緯を説明するとダイバットは、乗客全てに聞こえるような大声で喚いた。
「それは医師の誤診だ、医師を殴り殺せ、、、まて、俺が直接殴り殺してやる、監禁しておけ」
しかしダイバットがどんなに喚こうとダニエルは生き返らなかった。

数日後ダイバットの打ちひしがれた姿をニュースで見たロベルトは満足気に顔を歪めてバーナードに言った。「お前の仇は討ったぞ」
バーナードは何と答えて良いか分からず複雑な表情で奇声を発した。
シルルも何と訳して良いか分からず少し考えてから言った「御支配様の御威光に感謝いたします」
ロベルトはバーナードから「御威光」と言う言葉を聞いて更に満足気な表情になった。

シルルと共に自分の部屋に帰ったバーナードは、愛用の椅子に座り小さなため息をついてから奇声を発した。シルルが確認するように声に出した。
「自分は、ロットフェラー家の人とは言え他人の死を喜ぶ気にはなれない」
シルルは笑みをたたえた眼差しでバーナードを見つめながら言った。
「そのような優しい御心を持たれているバーナード様が好きです」
バーナードが低く奇声を発すると、シルルは近づき恥ずかし気に唇を重ねた。
数秒後唇を離すとバーナードが不満気に奇声を発した。それを聞き取ったシルルは顔を赤らめて再度唇を合わせた。そして数分後唇を離してから言った。

「満足しましたか?」
その後のバーナードの奇声は「この自分の身体が恨めしい。両手があれば一日中でも抱きしめているものを」と言っていた。シルルが恥ずかしそうにうつむくとまた奇声がした。
「今の自分の一番の望みは、シルルに我が子を宿して欲しいのだ、、、いつになったら自分の願いを叶えてくれるのだ、、、」
(これ以上は拒めない)と悟ったシルルは頬を染めながらバーナードを抱きかかえて立ち上がらせベッドにいざなった。


二人にとって初めての愛の嵐が過ぎ去った後、二人は枕を並べて心地よい眠りに落ちていた。
バーナードは夢を見ていた。
温かい水の中でバーナードは身体を丸めウトウトしながら思っていた。
(なんと安らかなところだろう、、、ここは母の子宮の中だろうか、、、ずっとずっとここに居たい)
だが、そう思ったすぐ後でバーナードは、温かい水と共に強い力で圧せられているのを感じた。
(誰だ、なにをする、やめろ、自分はここに居たいのだ、この中に居たいのだ、やめろ、、、)
必死の叫びも虚しくバーナードは、肌寒い暗闇の中に押し出されていた。
バーナードはよろよろと立ち上がり四方を見たが何も見えず、ただ不快な冷たい風が吹いているだけだった。バーナードは不安に押し潰されそうになり叫んだ。
「だれか、、、誰か居ないか、、、誰かここへ来てくれ、、、自分を明るい所へ連れていってくれ」
その叫び声に答えるように、闇の彼方の一点にほのかな光が灯った。
(マッチの炎だ、、、誰かがいる、、、)
その炎がゆっくり動いてタバコの先端を燃やした時、懐かしい顔が見えた。
バーナードは安堵し思わず叫んでいた「Mr,TOMOKAZU」
その時バーナードの首に温かい腕がからみつき目が覚めた。
バーナードが横を見ると、シルルがバーナードの首に腕をからめたままスヤスヤと眠っているのが見えた。
その寝顔のなんと安らかなこと、なんと愛しいこと、、、。バーナードは無言のまま見つめ続けた。
(なんと良い寝顔だ、、、まるで天女のようだ、、、自分は、、、一生お前を、、、一生お前を離さない)

やがて天女のような顔の愛くるしい目が開かれ、慈愛のこもった眼差しがバーナードに注がれた。
自分がいつの間にかバーナードの首に腕を回して寝ていて、しかもバーナードに見つめられていた事に気づき、シルルは顔を真っ赤にした。その上、愛の嵐の行為も自分が導いた事を思い出し羞恥心で居ても立っても居られない気持ちになった。すぐに腕を離し横を向いた。
すると直ぐバーナードの奇声が聞こえた。
「シルルの腕枕はとても良い。どんなに高価な枕よりもシルルの腕枕の方が良い、、、シルル、もう一度腕枕をしてくれないか」
シルルはこわごわと顔をバーナードの方へ向け真っ赤な顔のまま言った。
「恥ずかしい、、、私、なんとはしたない事を、、、」
「とんでもない、シルルは素晴らしい。シルルは天女だ。シルルは自分の宝物だ。一生離したくない。どうか自分の妻になってくれ。シルル、自分の願いを叶えてくれ」
その時シルルの目から大粒の涙があふれ出た。シルルは両腕をバーナードの首に回し唇を重ねた。

長い抱擁の後、シルルは言った。
「私の全てをバーナード様に捧げます。どうかバーナード様、私を貴方の両腕だと思って使ってくださいませ」
「ありがとうシルル。自分は一生お前を離さない、、、。
今日は最良の日だ。今日、自分とシルルは結婚したのだ。正に今、結婚したのだ、、、。
自分はシルルを抱きしめたい、代わりにシルル、自分を力いっぱい抱きしめてくれ」

しばらく経って、シルルの腕枕のままバーナードが「Mr,TOMOKAZUの夢を見た」と低い奇声を発した。
シルルがバーナードの顔を覗き込んで言った「まあ、Mr,TOMOKAZUの夢を、、、」
「ああ、、、。 Mr,TOMOKAZUは既に死んでいる、、、エドワードさんがわざわざ日本へ行って確認された結果も間違いなく事故死だった、、、。
しかし夢の中のMr,TOMOKAZUは、ここに居たころのMr,TOMOKAZUのままだった。ただ、とても懐かしかった、、、顔を見ただけで何故か安心した、、、自分には今なおMr,TOMOKAZUの死が信じられない。

自分はずっと前からシルルが好きだった。しかしシルルに嫌われていると思い込んでいた。 
だがMr,TOMOKAZUに拉致されたあの夜、奇しくも自分はシルルの真心を知った、、、。
そして今こうして二人は結ばれた、、、Mr,TOMOKAZUは二人にとってキューピットだったのかも知れない」
その時ドアを叩く音と「バーナード様、御支配様が御呼びです」と言う声が聞こえた。
「さっき会っていたばかりなのに」と不満たらたらのバーナードが奇声を発した。
シルルも同感だった。シルルも(このまま時が止まれば良いのに)と思っていたのだった。


下着まで取り替えてシルルに着替えさせてもらい、急いでロベルトの部屋に行くと、既にロスマイルド家の主だった者たちも集まっていた。何事かと思いながらロベルトの横の椅子に座るとロベルトが話し始めた。
「ロットフェラー家から宣戦布告が送られてきた。どうやらドローンによる炭疽菌散布がばれたようだ、、、
さて諸君、ロスマイルド家はどう対応したら良いか、おのおのの意見を聞きたい」
ガヤガヤと話し声が始まったが、すぐに中の一人が大声で言った。
「徹底抗戦だロスマイルド家の力を思い知らせてやるべきだ」
「そうだそうだ、徹底抗戦だ、成り上がり者の石油成金を叩き潰してやれ」「そうだそうだ、、、」
徹底抗戦ということがすぐに決まった。
「分かった、皆の者、静まれ、では徹底抗戦するが、では、どのように戦う、奴らの大豪邸アイカットに核ミサイルでも打ち込むのか。しかしそうしたら国と国の戦争になってしまうぞ。そうなってはハメリカの軍事力にはとても適わん、この国全てが廃墟になるぞ、、、
皆の者、よく考えてくれ、二日間各自で考えてくれ。二日後に会議を行う、その時に考えを聞かせてくれ」

自室に帰ってきたバーナードは愛用の椅子に座り大きなため息をついた。すぐにシルルが怪訝そうな顔をしながら隣に座りバーナードの顔を注視した。
一呼吸おいてバーナードが奇声を発した。
「自分とシルルにとって最良の日に、、、何と不吉な知らせだろう、、、
ロットフェラー家との戦争が始まる、、、ドローンでの炭疽菌散布がばれたそうだ、、、自分の発案が原因になってしまった。自分があんな事を言い出さなければ、、、自分がまた不幸の種をまいてしまった、、、」
シルルは何も言えずバーナードの顔を注視し続けていた。


それから1週間ほど経ったある夜、むさ苦しい顔の西田が食堂で遅い食事をしていると、いつの間にかテーブルの向かいに立って驚きの表情で自分を見ている小野寺に気づいた。
「久しぶりにお会いしたら西田さん、どうしたのですかそのお顔、別人かと思いましたわ」
そう言いながら小野寺は向かいの椅子に座った。
考えれば考えるほど自分の無力さを思い知らされていた西田は心細気に言った。
「御老に難題を押し付けられましてね、、、いくら考えても俺のような凡人には妙案が思いつかない、、、
そうだ、大科学者の貴女なら良い御考えがあるでしょう。お願いします御智慧を貸してください」

その後、西田は小野寺に経緯を話し考えを聞こうとしたが小野寺ににべもなくあしらわれた。
「研究室で細胞やウイルスばかり見ている私に、そんな難題の答えが分かるはずがありませんわ。
70億人を救うですって、アハハ私は自分自身さえ救えるかどうかも分かりませんわ。
西田さん、今日本や世界がどうなっているかご存知ないのですか?。
強力なウイルスが蔓延していて、いつ発病するか分からない状態なんですよ。しかも発病してからウイルスが変異して急に危篤状態になる人が多いのです。
最初言われていた、重体患者になるのは老人だけと言うのは間違いで、今は若い人まですぐに重体になるんです。一刻も早くワクチン開発しなければならず、及ばずながら私も寝る間も惜しんでウイルス解析のお手伝いをしていますが、いまだにワクチン開発に至っていません。
こんな状態の時、西田さんは70億人を救う事を御考えになっている、、、私は何ともお答えできませんわ」

「、、、久しぶりに御会いできたというのに、冷たい御言葉、寂しい限りです」
「では何と言えば満足されるのでしょうか、科学者の私にどこかの教祖様のような救いの言葉でも言えと」
小野寺の言葉は更に手厳しかった。西田は、科学者という人たちの実体を見たような気がした。
その時、いつの間に現れたのか二人の横に御老が立っていた。
「ほう、珍しいカップルじゃ、御二方はいつからそのような仲になられたのじゃ。まるで新婚夫婦の痴話げんかのようじゃがの」
「こ、これは御老、、、なにを言われます、痴話げんかなどではありませんわ、私は西田さんがあまりにも」
「ご、御老、痴話げんかとは、あ、あまりにも的外れな形容の御言葉、御老らしからぬ、、、」
「ふふふ、戯言はこのくらいにして本題に入ろうかの」そう言って御老は二人の横の椅子に座った。

「西田殿、新しい情報が入った。
ロットフェラー家の身うちや協力企業の主だった者たちが次々と逮捕されておる。
どうもロスマイルド家が密告しているようじゃ。もしかしたらロスマイルド家とロットフェラー家が争っているのかも知れん。この間ロットフェラー家の世継ぎが病気で亡くなったのがきっかけになったとの噂じゃ」
「えっ、ロスマイルド家とロットフェラー家が争っているのですか?それにロットフェラー家の世継ぎが病気で亡くなった、、、知らなかった、俺は毎日ニュースを見ているがそんなニュースはなかった」
「知らなくて当然じゃ、この国ではロスマイルド家やロットフェラー家の事は何も報じん。今回の情報はハメリカに潜んでいるうちの者が命がけで入手したものじゃ。
ところで70億人を救う良い手だては思いつかれたかの。何やら悲愴な風貌になられておるが」

不意に話を振られて西田は返答に詰まった。口ごもっていると御老は続けて言った。
「ロスマイルド家やロットフェラー家を恐れおののかせた西田殿とて、このような難題はすぐには解けぬようじゃの。まあ、焦る必要はないのじゃ、我が国が仕掛けずとも奴らが仲間割れして共倒れしてくれたら、それに越したことはないのじゃからの、、、
おおそうじゃ、小野寺殿、ワクチン開発のめどはついたかの。ウイルス研究科の方で何やら進展があったとか聞いたのじゃがの」
「えっ本当ですか?、細胞研究科では何も進展はありません。それにウイルス研究科で何か新発見があっても、まあすぐにはうちの方へは知らせてくれませんので、、、」

「そうじゃった、細胞研究科とウイルス研究科は以前から不仲じゃからの。じゃがこの度はそういう事を言うておれん、協力し合って一日も早くワクチンを作ってくれとの影の総理の御言葉じゃたからの、、、
じゃが、そのうち細胞研究科の方にも情報が伝わるじゃろうて。ワクチンの細胞への影響等どうしても細胞研究科の知識が必要になるじょろうからの。まあできるだけ仲良うしてくれ」
そう言うと御老は去っていった。するとすぐ小野寺が興味ありげに聞いた。
「御老が『ロスマイルド家やロットフェラー家を恐れおののかせた西田殿』と言われていましたが、西田さん何をなさったのですか?興味ありますわ」

(ついさっきまで批判的態度だった人が、、、)
と、面白半分に自分の事を聞かれるのも煩わしかった西田はぶっきらぼうに答えた。
「俺は『うだつが上がらない蟻』ですので」
「まあ、お見事な逃げ口上ですこと。でもおかげで私はますます興味が湧きましたわ。
御老の口ぶりからすると、西田さんは世界動向の分析官、それとももしかして世界をまたにかけた大物スパイでしょうか」
「何とでもお好きなように御想像ください。では、おやすみなさい」と言って西田はお盆を持って立ち上がった。すると小野寺は下から見上げながら言った。

「私、いま無性にお酒が飲みたい気分なの、よかったら付き合ってくださらない」
「、、、お忙しいんでしょう」
「いえ、1ヶ月ぶりに休暇をもらえたの、でもこんな時間じゃ飲む以外にできる事は何もないでしょ」
西田は少し考えて言った「わかりました、俺もたまには気分転換した方が良いかもしれない」
「では私の部屋に行きましょう。ご心配なく、私は肉体的な面での異性には興味がありませんので、、、
そうだわ、友人も誘って良いかしら、私と同じ女科学者ですけど聖書にものめり込んでいるおかしな人ですわ。西田さんもきっと気に入ると思いますわ」
「ご随意に、俺は酒が飲めれば良いですので」
小野寺たちと飲むことになった。西田は食器を片付けてから小野寺の後に続いた。

小野寺の部屋も基本的には西田の部屋と同じだった。しかし女性の部屋だけあって小奇麗だった。
小野寺はすぐに小さなテーブルと椅子をベッド向かいに持って来て西田を座らせ、テーブルの上にウイスキーやらつまみを並べた。それからベッドに腰掛け携帯電話をかけた。
二人が乾杯し一口飲むとチャイム音がして、小野寺がドアを開けると、まだ30歳そこそこと見える女性が入ってきた。西田が座ったまま小さくお辞儀をすると小野寺が紹介した。
「こちら、西田さん、謎多き一匹の蟻だそうです。で、こちらは宇宙工学の天才科学者、糸川一二三さん」
紹介されて糸川はちょっとお辞儀をしてから小野寺と並んでベッドに座った。
すぐに小野寺がグラスにビールをなみなみと注いで糸川に手渡した。3人は改めて乾杯した。

乾杯の後すぐに小野寺が言った「一二三ちゃんと飲むの久しぶりね」
「私は夜通し研究なんてまずないから毎晩一人で飲んでますけど、小野寺先輩はずっと忙しかったんでしょう、例のウイルスのせいで」
「そう、あのウイルスのおかげで連日遅くまで、もう本当に疲れて今夜は休ませていただいたわ」
「そんなにお疲れで、飲んでも大丈夫ですか?」
「平気、少し酔って寝た方が疲れがとれて良いわ。今夜は久しぶりに飲みましょう。つまみが足りなくなったら目の前の人を肴にしましょう」そう言って小野寺は冗談ぽく西田を見た。
小野寺の視線につられたように糸川も西田を見た。一瞬西田と目が合った。

西田は愛想笑いを浮かべながら言った。
「こんなに若くて綺麗な方が宇宙工学の天才科学者とは驚きました」
「ありがとうございます。でも若くて綺麗な方というのは要りませんわ。私は一科学者というだけで満足していますから」
「これこれ、褒め言葉は素直に受け止めなさい、そんなことだから彼氏に逃げられるのよ」
「あは、彼氏なんて要りません。私も小野寺先輩と同じで研究できるだけで幸せですから。それにあの男の人が勝手に彼氏気取りでいただけで私は何とも思ってませんでしたわ。研究中に電話かけてきたりして、常識のない最低の人でしたわ。手が切れてせいせいしてます」

「西田さん、こんなふつつかな娘ですがよろしくお願いします」と小野寺が言うと、真に受けたのか西田は「俺の方こそよろしくお願いいたします」と軽く頭を下げながら丁重に言った。
「まっ、西田さん、お見合いの席じゃありませんのでお気軽に」
「あは、お見合いの席だなんて小野寺先輩、今夜は言うことが冴えてますね」と糸川は楽しげに笑った。
その笑い声を遮るように「さて糸川さん、宇宙工学というと、どんな御研究をされているんですか?俺は無学な凡人で宇宙の事など何も知りませんので、よろしかったらいろいろ教えてください」と西田が硬い表情で聞いた。その表情を見て小野寺も糸川も内心(何この堅物)と思った。一瞬、場が白けた。
だがこれは西田の話術の布石だったのだ。

数分間の沈黙のあと糸川が、正に科学者の見本のような口ぶりで言った。
「宇宙工学と言ってもいろいろな分野がありますが、私が研究していますのはスペースデブリの除去に関してです。現在地球の周りには数え切れないほどのデブリが存在していますが、このデブリは高速で周回しており大変危険で、ロケットや人工衛星に衝突すれば大事故を起こしかねません。ですので世界各国が協力し合ってこのスペースデブリを一日も早く除去しなければなりません。はい、ここまでで何かご質問は?」
西田が低学年生徒のように一瞬手を挙げてから言った「スペースデブリって何ですか?」
呆れ顔で糸川が言った「宇宙空間にあるゴミの事です」
「そのゴミは何かに使えないでしょうか?日本ではゴミを燃料にしている発電所もあるそうですが」

(この人、馬鹿なのか賢いのか、、、)糸川はそう思いながら言った「今のところ利用価値はありません」
「スペースデブリの大きい物に小型の推進装置を取り付けて、設定された地上の一点に落下させる事は可能でしょうか?俺の記憶では確か『はやぶさ』が月の軌道からオーストラリアにカプセルを落下させたと思うのですが、その技術があれば可能だと思うのですが」
「技術的には可能です。しかし膨大なコストがかかります」
「やはりそうですか、、、何故俺がこんな質問をしたかと言うと、俺は以前からロスマイルドやロットフェラーの本拠地を破壊したいと考えていたのです。しかし通常の兵器でやればすぐに犯人がバレて戦争になります。しかし、隕石がたまたまそこへ落下したのであれば自然災害と同じで犯人に報復できませんし戦争になりません。秘密裏にこの研究をする事はできないでしょうか」

糸川は驚き言葉を失って西田を見た。しばらく間をおいて小野寺が言った。
「西田さんは大物テロリストだったのですね、御老があのように言われた意味が今わかりましたわ」
「いえ、テロリストと言えるほど立派な男ではありません、何せ俺はうだつが上がらない蟻ですから。
しかし、一日も早く奴らを倒すべきだと考えています。奴らは70億人を殺す計画を立てているのです。今回のウイルス拡散も奴らの犯行です。まあ今回は予行練習のようですが、数年後は必ず実行するでしょう」
「70億人を殺す計画、、、」と言って小野寺は信じられないという表情をした。

糸川が口を開いた「世界革命行動計画の中の人類削減計画は本当だったのですね、、、いよいよ終末が始まるのですね、聖書に記載されている通りに、、、聖書に書かれている事は正しかった、、、」
「ほう、聖書にまで奴らの行動計画が載っているのですか」
「いえ、行動計画まで載っているわけではありませんが、その計画が実行に移され多くの人びとが亡くなられる様が載っているのです」
それを聞いて、聖書など読みたいと思ったこともない西田だったが、一瞬その部分だけでも読んでみたいと思った。その事を言うと、糸川は急に親し気に言った。

「今度聖書を御貸ししますわ。聖書は素晴らしいです。大いなる神が地球を創られた事から始まり、人類の終末まで載っているのですから。そして終末のあと、神と子と精霊を信じた人びとが天国へ昇ることまで、数千年前既に記載されていたのです。本当に神によって書かれたとしか考えられませんわ」
「はいはい、また始まった一二三ちゃんの盲信信仰が、、、これで大科学者と言われているのだから信じられなくなるわ。一二三ちゃん、そろそろ科学者かキリスト教徒かどちらか一つにしたら」
「とんでもない事ですわ、敬虔なキリスト教徒の科学者はいっぱい居られますし、現在は世界中で創造論者が急増しています。そして多くの創造論者によって聖書に書かれていることが事実だったと証明されています。恐らく近い未来に終末が起きるのでしょう。聖書に書かれている事がきっと成就されますわ」

西田は意地悪な質問を試みた。
「奴らの計画通りにいくと人類は5億人にされてしまいますが、その5億人がつまり天国へ昇る人びとなのですか?」
「いえ違います。天国へ昇られる方がたは神と子と精霊を信じた心清い人びとだけです。週末の時、既に亡くなっていた人びとの中からや、その時、生きている人びとの中からでも心清い人なら天国へ昇れるのです。しかし5億人の人びとは、恐らく支配欲に捕らわれた心汚れた人びとで、たとえ生きていても真実の幸福を得られない哀れな人びとだと思います。とても天国へは昇れないでしょう」

「ちょっと納得いかない点があるのですが、聞いて良いですか、、、心清い人びとなら日本にもたくさん居ますがキリスト教徒ではないです。天国へ昇れるのはキリスト教徒限定なのですか?」
「キリスト教徒限定ではありません。宗教に関係なく心清い人なら誰でも天国へ昇れると思います。実は私もキリスト教徒ではありません」
「え、貴女はキリスト教徒ではないのですか?。しかし聖書を、、、」
「私は一科学者として、聖書に書かれている事が正しいのか確かめたくなったのです。そして調べていくうちに、科学的な面から見ても正しい内容が多い事に気づいて驚いていたのです。その上、西田さんが今言われた事柄は正に聖書中の終末に関する内容と一致するので私は、、、
この先の事はどう言って良いかわかりませんわ」

西田は腕を組んで宙を睨んだ。小野寺も糸川も無言でグラスを口に運んでいたが、何かを考えているようだった。西田は残っていた水割りを飲み干してから言った。
「聖書に書かれてあるからと言って、必ず起きるかは誰にも分からないだろうし、いつ起きるのかも分からない。しかし奴らは今現在既に悪事を行っているのは確かな事です。
だから俺は一日も早く奴らの本拠地を破壊したい。その結果、終末が起きるかどうかまでは今は考える気になれない、、、さて、そろそろおいとましょう。ごちそうさまでした」そう言って西田は立ち上がった。
「お粗末様でした」と小野寺が言い、糸川は軽く頭を下げた。西田は出て行った。


自分の部屋に帰りベッドに大の字になると、久しぶりに飲んだせいか急に眠くなってきた。
しかし何かどうしても考えなければならない事があるようで、それでいて何を考えれば良いのか分からず、混沌とした思いのまま眠ってしまっていた。
翌日目覚めても西田はベッドから出なかった。今どうしても考えねばならない事があるように思えた。

(終末か、、、ふん、聖書に書かれている通り本当に終末が訪れるなら、俺が何を考えたところで無駄ではないか、、、この1ヶ月俺は、奴らから人類70億人を救う方法を必死に考えた。結局いまだに良い考えは思いついていないが、よくよく考えたら無駄な事をしたのだ、、、くそっ、)
西田は窓の景色を、雪の降る寒々とした川辺の景色に替えた。最初見た時は「なんだこの景色は」と思ったが、荒んだ気持ちの時に見ると何故か心が鎮まり、いつの間にかこの景色を見ることが多くなっていた。
(まあ、聖書に終末のことが書かれているからと言って本当にそのようになるとは限らない。しかし70億人が奴らによって抹殺される可能性は高い。ということは、俺はやはり70億人を救う方法を考えるべきなのか、、、ふん、考えたところで俺なんぞに妙案が浮かぶはずもないか、、、馬鹿馬鹿しい、考えるのを止めた)

西田はベッドから出ると浴室に入り数十日ぶりに髭を剃り髪を整えた。
(さて、これからどうするか、、、またネット調べでもするか、、、その前に、腹ごしらえ)
西田は食堂で朝食を済ませるとコンピューター室に入った。久しぶりのコンピューター室だ。
(俺は1ヶ月以上も考え事をしていたのか、、、正に「下手の考え休みに似たり」だな、、、
先ずは極秘ニュースでも見るか、、、なになに、ロットフェラー家長ダイバットの右腕、ピエールが児童虐待防止法違反で逮捕だと、、、ピエールと言えばハメリカ最大の銀行の頭取でハメリカ金融機関を裏で操っていると噂されていたが、そんな権力者が児童虐待防止法違反くらいで逮捕とは、、、
そういえば御老がロスマイルドの密告だとか言っていたな、ロスマイルド家とロットフェラー家が争っているかもしれないとも、、、)

西田はリクライニング椅子を少し傾け身体をあずけると腕を組んで宙を睨んだ。考え事をしている時の西田のお馴染みの姿勢だった。
(バーナードが薬殺されかけた事に激怒したロベルトが、ロットフェラー家に報復したとしてもおかしくはない、、、もしかしたらロットフェラー家の世継ぎが病気で死んだのもロベルトの仕業かも知れんな。
その上、ロットフェラー家の主だった者を逮捕させれば、、、
ロスマイルド家もそうだがロットフェラー家も、叩けば埃が出る者ばかりだろうから、手堅い証拠を添えて密告されれば逮捕者続出は当然だろう。まあ、保釈金を積んですぐ釈放だろうがな、、、
だが待てよ、殺人となると保釈金では釈放されまい。奴らは児童虐待死も多いと聞いたことがある。
それどころか例の儀式は正に殺人、、、
だが、それを言えばロスマイルド家でも、、、まあ、バーナードが反対して数年前から止めていたそうだから、、、ロスマイルド家ロベルトが勝負に出たか、、、皮を切らせ骨を断つつもりか、、、)


ハメリカでもウイルスが蔓延していて多くの国民が発症していた。医療費の高いハメリカでは、保険がなく病院へ行けない貧困層の国民が自宅や路上でバタバタと倒れそのまま死亡していた。
しかし、こんな状態でもロットフェラー家の者はマスクもせず平気で人混みの中に入っていた。ロットフェラー家の者や同系列関係者は事前にワクチンを施していたのだ。
「薄汚い乞食どもは、どんどん死ねばいい。我々が開発したワクチンは完璧だ。我が一族の者は一人として死なせん。我が一族だけが生き残って全世界を支配するのだ」とダイバットは豪語していた。
だが、そんなダイバットが悔やんでも悔み切れないのが最愛の息子ダニエルの死だった。
「おのれロスマイルド家め、必ず滅ぼしてやる」
ダイバットはロスマイルド家への復習を誓った。しかし、そんなダイバットにも少しずつ不安が広がっていた。

ロットフェラー家の者や同系列関係者の中からの逮捕者が増えているのだ。しかも保釈金ですぐ釈放されそうな軽犯罪で逮捕された者までもがなかなか釈放されなかった。検察官は軽犯罪の裏に潜んでいる重大犯罪をあぶり出していたのだ。
今まではお抱えの弁護士がすぐに対応していたのだが、今回は難くせをつけられ近づけなくされ、しかも無理やり州選弁護士をつけさされた。
怒ったロットフェラー家はお抱えの政治家に働かさせようとしたが、これも封じられた。大統領が動いたのだ。
実はこの集団逮捕の前に、ロベルトはハメリカ大統領と「ウイルス拡散が奴らの仕業であること、ロットフェラー家の悪事を密告するから大統領直属で逮捕する事」等の密約を結んでいたのだった。

その密約を知らなかったダイバットは次第に窮地に追い詰められていった。
そして追い詰められた人間は時としてとんでもない行動をすることがある。
ダイバットは、ハメリカの大都市数ヶ所にウイルスの空中散布を命じたのだ。
風のない日にセスナ機が大都市を何度も低く旋回した。それから2週間後、肺炎患者が急増した。
大統領は保健機関からロックダウンを要請された。しかし大統領はロックダウンには消極的だった。その代わりに医療機関に大々的に資金援助する事を表明した。
するとすぐにイギリス政府から高額な緊急寄付金の申し出があった。



その記事を読んで西田は唸った。
(イギリス国内でも感染者が多くて医療費負担のため国家財政が苦しいと報じられたばかりなのに、自国の国家予算の4割という高額寄付金をハメリカの医療機関に、、、待てよ、この寄付金は、もしかしたらロスマイルド家から、、、あり得るな、ロックダウンさせればその都市は崩壊する。それよりも医療費をつぎ込んで何とか感染拡大を食い止める。資金源がありさえすればの話だが、資金源がロスマイルド家なら可能か、、、
ロスマイルド家がイギリス政府を通してハメリカ大統領と手を組んで、ロットフェラー家を滅ぼそうとしているのだろうか、、、もしそうなら願ってもない事だが、、、そしてもしロットフェラー家が滅びたら、、、

日露戦争のためにロスマイルド家から金を借りたこともあり、戦前戦中までの日本はロスマイルド家の支配下にあった。日銀までもロスマイルド家に従うしかなかった。その関係で33階級者等が日本政府を操っていたのだが、戦後はそれにロットフェラー家が加わった。ロットフェラー家はジャパンハンドラーを使って強引に日本の利潤を奪い取った。その見本のような悪事が、日本の隠れていた富である郵便貯金を郵政民営化して奪い取った件や計画的バブル崩壊、そして日本国民にとって最悪の改悪である派遣法改正。

ロスマイルド家とロットフェラー家の両方から搾取されたのでは日本経済は堪ったものではない。日本経済は年を追うごとに衰退して今では日本の若者は結婚さえもできない状況に追い込まれている、、、。
どう考えても、、、日本経済を好転させるためにはロスマイルド家ロットフェラー家の支配下から逃れる以外にない、、、やはり両家を滅ぼすしかない、、、だからその方法は?、、、
ちぇ、結局、奴らを滅ぼす方法を考えるしかないのか、、、)

いつの間にか昼になっていた。まだ空腹ではなかったが、気分転換にコーヒーでも飲もうと食堂に行った。
椅子に座りコーヒーを一口飲むと後ろから「西田さん」と呼ばれた。
西田が驚いて振り向くと糸川が分厚い本を抱えて立っていた。
そしてすぐ「はいこれ聖書、読んでください」と言って聖書を手渡された。
西田が何か言おうとする前にまた糸川が言った。
「昨夜は良い話を聞かせていただきありがとうございました。また聞かせてくださいね、、、
そうそう電話番号と部屋番号を教えてください。暇な時連絡しますので、またご一緒に飲みましょう」
西田が口頭で教えると、一度聞いただけで記憶できたのかメモもとらずに行ってしまった。

その後テーブルの上の聖書を見て西田はため息をついた。
昨夜は一瞬読んでみたいと思ったから糸川に言ったが、今は読む気がしなくなっていた。
(借りた以上は部屋に持って行くしかないか、、、それにしても分厚い本だな、見ただけでうんざりする)
コーヒーを飲みながらよく見ると1ページ目あたりに紙が挟まれてあった。
抜き出して見ると「分からない内容がありましたら言ってくださいね。私の解釈を御教えしますから。今後、毎夕食時に食堂で御会いしましょう」と書いてあった。
西田はげんなりした(おいおい、まさか連日食堂で聖書勉強会でもする気かい、、、)

食堂を出ると西田は一度部屋に入ってベッドの上に聖書を放り投げてからまたコンピューター室に行った。
(のんびり聖書など読んでいられるか、、、とにかく奴らを滅ぼす方法を考えなくては、、、
世界情勢等調べて何かヒントでも見つけなければ、、、)
西田はニュースの見出しを読んで思わず驚きの声を上げた。
「なんだと、、、『日本政府ハメリカへ医療機器等緊急輸出を表明』だと、、、」
(日本もこれから感染者急増が懸念されているのに医療機器を輸出とは、、、ハメリカのいや、ロスマイルド家からの命令か、、、
くそっ、日本にとってはハメリカもロスマイルド家も滅びて欲しい国であり一族なのだ。それなのに自国を犠牲にしてまで協力させられるとは、、、日本は正にハメリカの植民地だ)

西田は、考えれば考えるほど腹が立ってきた。
(どうにかしてハメリカやロスマイルド家、ロットフェラー家を滅ぼしたい、、、妙案はないか、、、
ハメリカのこの混乱に乗じて、、、まてよ、、、今もしハメリカでデモが起きたら、、、だが今のハメリカ人の心理状態として、人混みの中に入って行こうとするだろうか?ウイルス感染を恐れて集団になろうとはしないのではないか、、、だが、ウイルス感染の恐怖よりも政府への不満が勝れば、暴動に、、、
だが、まて、今はハメリカで暴動を起こすべきではないのではないか。ロスマイルド家とロットフェラー家が戦っているなら今は放っておいて両家がもっと傷つくのを待った方が良いではないか、、、
デモいや暴動を起こすなら、今はむしろC国。C国もまた日本にとって脅威となりつつある国だ。先ずはC国で暴動を起こさせ一党独裁政権を崩壊させる、、、しかし俺はC国語はできない、翻訳ソフトを使うか)

考えがまとまると西田は、日本語からC国語への翻訳ソフトを調べた。そして驚いた。
暗証番号を打ち込んで現れた翻訳ソフトは、恐ろしいほど正確に翻訳されていたのだ。
日本語の文章をC国語にしてから再び日本語に変換すると、無料の翻訳ソフトでは意味不明の文章になる事が多いのだが、この翻訳ソフトでは日本語原文とほぼ同じになったのだ。
西田は喜んだ。これなら一人でデモの呼びかけができる。だが、出来上がったデモ呼びかけ文章をC国のどこへメール送信するのかと考えた時、西田はつまずいた。

以前ユーロッパ諸国やハメリカでデモを起こさせた時は、各国国民の交流サイトや人権団体、はたまた反政府団体等にいくらでもメール送信できた。しかしC国では、外国からC国へのメール送信は簡単ではなかった。C国国家による防衛網をくぐり抜けてC国民利用のサイトへ投稿するには不正侵入専門のハッカー並みのプログラミング能力が必要なのだ。しかしもちろん西田にそんな能力はない。
西田はC国へのメール送信をあきらめた。
結局また振り出しに戻った。西田はため息をついてから腕を組んで宙を睨んだ。
しばらく経って西田は時計を見た。夕食時間が始まっていた。糸川のメモ内容を思い出した。
西田は、聖書勉強会をする気はなかったが、気分転換を兼ね糸川と話すのも良いかとも考えた。

食堂に行くと糸川は既に食事中だった。
西田がテーブルに近づくと糸川は気づいて「聖書はどうしましたか」と言った。
「聖書よりも糸川さんに相談したい事がありまして、、、ここで御一緒に食事して良いですか?」
糸川が当然のことという風に頷いたので西田は料理を注文して、コーヒーを持って帰ってきた。
コーヒーを一口飲むと西田は、糸川に先手を取られないように先に言った。
「昨夜少し御話ししました、スペースデブリを地上の一点に落下させる方法、これができたら良い武器になると思うのですが、可能性はどうでしょうか」

「またその御話ですか、その御話の結論は昨夜既に御話してあります。それより私は聖書についてのご感想を聞きたいですわ、何ページまで読まれましたか?」
返事に困った。1ページも読んでいない西田は、何とか聖書以外の話に持っていきたかったのだが、、、。
まあ読んでいなくても聖書の最初は、神様が出てきて地球や動物を創り6日目にアダムとイブを創ったことぐらいは知っていたので「ページは覚えていませんが、神がアダムとイブを創ったあたりまで読んで眠ってしまいました」と、宿題を忘れた生徒が先生へ言い訳するような言い方をした。
「たったそれくらいしか読んでいないのですか。そんな事では終末のページまでに10年はかかりますわ」
と、糸川は正に先生が生徒をしかるような口調で言った。

西田はうんざりしてきた(小野寺といい糸川といい何でこんな可愛げのない言い方をするのだ、これでは昔の教育ママと同じだ。それとも科学者という人たちは皆このようなのか、、、)
西田は聖書の話を打ち切りたくて言った。
「俺は聖書を信じる気にはなれませんし読みたくもないです。ただ終末についてどのように書いてあるのか、それだけがちょっと知りたかっただけです」

「わかりました、では終末の部分だけ御話しします、、、
聖書には終末の時が近づくと『人びとは互いに殺し合い』これは第一次世界大戦第二次世界大戦を指します。そして世界に『疫病が蔓延し』つまり現在流行っているコロナウイルスです。『蝗害』つまりバッタの大群による災害も起きるとも書かれています。正に聖書に書かれている事が現在起きているのです。
聖書は数千年前に書かれました。つまり数千年前に既に、現在何が起きるかが分かっていたのです。このような予言ができるのは神以外には存在しませんわ」
「、、、なるほど、、、」と言ったきり西田は黙って考え込んだ。

(確かに、現在世界で起きている事は聖書に書かれている事と同じだ、、、では、やがて終末が訪れるという事も確実なのか、、、それなら、俺なんぞが何かを成したとしても無駄ではないか、、、
例え俺が仕組んでロスマイルド家やロットフェラー家を滅ぼしても、結局人類も滅びてしまうのであれば何の意味もない。それならば、今を楽しんで生きる方が良いではないか。終末までの人生を好き勝手に生きれば良いではないか、、、
はっ、、、もしかして奴らも、終末が来ることを既に知っていて世界を好き勝手に操っているのか、、、
どうせ終末が来て自分たちも死ぬ、ならば今は面白おかしく生きた方が良い、と考えて、、、
まるで死刑囚と同じ心理で、どうせ死ぬなら一人殺すも二人殺すも、、、戦争を起こさせ1千万人殺すのも同じだと、、、
どうせ自分たちは地獄に落ちるんだ。それならその前に、、、そうだ、俺も奴ら同様地獄に落ちる、、、)

不意に糸川の声が聞こえた「何を考えているのですか?、、、料理もできましたわよ」
そう言われて西田は一瞬掲示板を見てから立ち上がった。料理を持って来て糸川の前で食べながらも西田はまだいろいろ考えていた。西田はいま面前に糸川が座っていることさえも忘れているようだった。
やがて西田が箸を置くと食事が終わるまで待っていたかのように糸川が言った。
「まるで夢遊病者のようでしたけど何を考えていたのですか?」
西田は「何を考えて」と聞かれ何と答えるか少し考えてから言った。

「貴女は本当に終末が来ると考えているのですか」
「はい、聖書に書かれている事がこれほど現実に起きているのですから終末も必ず来ると思っています。でも、いつ来るかまでは分かりません」
「では、貴女が今研究している事など無意味ではありませんか。どうせ終末が来たら皆死ぬんでしょ」
「あは、子どものような質問ですわ。終末が来るのは確実でもいつ来るかは分かりません。今年来るのか来年来るのかそれとも10年後か100年後か。じゃ西田さんは終末が来るまで何もしないのですか?
私は例え明日終末が来たとしても、今は精一杯研究していたいと思ってますわ」
「なるほどね、、、」そう言うと西田はまた腕を組んで宙を睨んだまま考え込んだ。
西田のその姿は、周りの誰も声をかけられないような雰囲気があった。
糸川も「これはダメだわ」と感じ去って行ったが、西田はそれさえも関知していないかのようだった。

糸川が去った後も西田はその姿勢のままだった。御老が横に来てもなおそのままだった。
御老は以前も西田のその姿勢を見かけていて、その姿勢の時は声をかけても無駄だと知っていたが今回は何故か声を掛けた。
「西田殿、考えごとかの」
西田は御老の方へ顔を向けたがまだ焦点が合っていないような目だった。だが考え事が終わったのか数秒後には平常の目になり「あ、御老、良いところへ、、、少し御話が、、、」と言った。
御老が(西田殿から話しがしたいとは珍しい)と思いながら向かいの椅子に座ると、気迫のこもった眼差しで御老を見ながら西田は言った。

「御老、今こそロットフェラー家とロスマイルド家を滅ぼす好機ではないかと思うのですが」
「ほう、ロットフェラー家とロスマイルド家を滅ぼす好機」
「はい、今ロットフェラー家とロスマイルド家は戦っています。しかも現在のハメリカはウイルスのために混乱しています。いま我々が攻撃しても奴らは我々の仕業だとは思わないはずです。必ず戦っている相手の仕業だと考えるでしょう。そして更に戦い合う。正に今が最大のチャンスです」
「、、、貴殿の言わんとすることは分かった。しかし我々がどうやって攻撃するのじゃ、我々にはまだ武器らしい武器はないぞ」

「スペースデブリを奴らの本拠地に落とします。直径1メートルほどのデブリでも宇宙から落とせば奴らの大豪邸といえど破壊できます」
「ほう、面白いアイデアじゃがスペースデブリを地上の一点に落とすことは可能なのかの」
「はい、宇宙工学の大科学者糸川女史によると理論的には可能だと」
「なに糸川殿が可能じゃと、、、ふむ、、、面白い、影の総理殿に進言してみよう」
そう言つて御老は去って行った。

西田は数日後また御老と話し合った。
まず御老が言った「スペースデブリはダメじゃった」
「えっ、でも糸川女史が」
「その糸川女史に確認したんじゃよ、女史の言うにはスペースデブリでも形状の単純な物で材質が均一な物なら何とか目的地に落とせるかも知れぬが、普通のスペースデブリは形状も材質も不均一で、落下中に空中分解して広範囲に落ちてしまうし、形状が変われば目的地に落とすことはまず不可能との事じゃ。

それに兵器として考えるなら、タングステン弾頭の小型弾道ミサイルを人工衛星内に隠して衛星軌道に乗せ、秘密裏に人工衛星から分離発射させる方が良いとの事じゃった。
しかもそのタングステン砲弾の小型弾道ミサイルは、ここの下で既に開発中での、これが完成すれば日本は無敵になる。何故なら敵国の弾道ミサイルさえも撃ち落とせるようになるからじゃ。
じゃが、完成はまだ数年先じゃ、、、完成すれば貴殿の言う通り奴らの本拠地を破壊するのも可能じゃろう。じゃが、それまでに日本を滅ぼされるかも知れん。じゃからミサイルが完成するまでは何が何でも日本を守らねばならんのじゃ、じゃから貴殿をここに来てもろうたのじゃ、、、
西田殿、どうか日本を守ってくれ、、、日本を守れたら恐らく世界をも守れるじゃろう、、、期待しておるぞ」
そう言って御老は去っていった。
その後西田はまた宙を睨んで考え込んだ(くそっ、また振り出しに戻ってしまった)


数日後の夕食時、西田の向かいに糸川が座って言った「また考えごとですか?」
「えっ、ええ、まあ、、、」西田は我に返ったような顔をしてそう言った。
「お食事の時くらいは考え事を止められた方がよろしいんじゃないですか、カレーのついたスプーンで味噌汁、おいしいですか」
そう言われて西田はスプーンをカレーの皿に置き、味噌汁の椀を口に運びながら思った。
(ちぇ、口うるさい人だ、、、それにしてもカレーに味噌汁は合わないな、卵スープと間違えて入れたのがそもそもの失敗だった、、、この人の言うように、考え事をしていると失敗ばかりする、、、)

「さて、小野寺さんからの伝言ですが、ワクチン開発の研究で使いたいので10ミリリットルほど血液をいただけないでしょうか。いただけるなら明朝9時に部屋に来てくださいとの事です。ウイルスに感染しても血液型によって発症する人としない人がいるので、それを研究すればワクチン開発の手がかりになるそうです」
「分かりました、俺の血液で役立つならいくらでも、、、明朝9時ですね」
「はい、」

翌日9時、西田は小野寺の部屋の前で採血された。
採血が終わると小野寺は言った。
「ありがとうございました、、、ウイルス研究科の依頼で私はこんな事までさせられますわ。
まあそれも、もう少しの辛抱かも知れません。なにゃらウイルスを死滅させる特殊なマスクがもうすぐできるそうで、それができたら感染拡大を防げるそうです」
「ほう、特殊なマスクができるのですか」
「はい、銅繊維を使うとか、私はその方面には疎いのでよくわかりませんが、それでウイルス感染拡大を防げたら東京などの非常事態宣言も解除されるでしょう」
「え、東京が非常事態宣言」

「ええっ!西田さん知らなかったのですか、2週間前に非常事態宣言が出された事。
国際的テロリストの西田さんが、、、御仲間からも知らされなかったんですか」
「俺はテロリストじゃないです、それに俺には仲間はいません、いつも一人です。だから一匹の蟻なんです」
「仲間がいない、いつも一人、、、一人で何ができますか、仲間を増やされた方が良いんじゃないですか」
「いえ、俺は一人で良いです、だから一匹の蟻ですし、うだつが上がらない蟻なんです」
「アハハ、わかりました、でもたまには御一緒に飲みましょうね」
「こんなうだつが上がらない蟻で良ければ喜んで」
それで二人は別れ、西田はいつものようにコンピューター室に行った。

コンピューターをスタートアップさせたが、西田は腕を組んで宙を睨んだままだった。
小野寺の言った「仲間を増やす」と言う言葉が何故か西田の頭の中に残っていた。
(仲間、、、一匹の蟻に仲間など、、、それに仲間とは、共通な思いが必要だろう、、、共通な思い、、、
俺は何故いまここに居るのだ、、、それは奴らを倒したいからだ、、、まてよ、奴らを倒したいと思っている人間は決して俺だけじゃないはずだ、、、奴らの悪事によって不幸にされた人間、そして奴らによって不幸にされた事に気づいた人間が世界にはいっぱい居るはずだ、、、
一匹の蟻ではどうすることもできない場合でも、蟻が集まれば、、、とは言え10匹や20匹集まったところで、、、いや違う、それは作戦次第だ。一匹ではだめでも10匹ならいろいろな作戦を立てられる。
いずれにしてもたかだか10匹では奴らの弱点を突くしかないが、奴らの弱点とは、、、)

西田は、奴らの弱点について考え続けた。そして単純だが気になることに気づいた。
(奴らはみな白人だ、ロスマイルド家もロットフェラー家も、、、白人、白人、、、)
西田は以前、大東亜戦争について調べていた時、ハメリカやイギリスなどの残虐行為に激怒した事を思い出した。南方戦線や沖縄での日本兵捕虜や日本女性への残虐行為、正に鬼畜米英と言える行為の数々について思い出した。

(大東亜戦争での残虐行為、、、しかし米英はそれ以前の植民地支配でも残虐だった。
米英だけでない、多くの白人国家がアジアアフリカ諸国を植民地支配して残虐行為を繰り返していた。
ハメリカ先住民インディアンの虐殺も南ハメリカ諸国のインディオ虐殺や目を背けたくなるような拷問の数々。キンドやキンドネシアでの現地住民虐殺虐待。植民地国民を人間として扱わなかった行為。
トーストラリアやシュージーランドでも先住民を虐殺していた。先住民を決して人間とは認めず、獣同様にハンティングして面白半分に殺したり、先住民女性は見つけ次第に犯して性交奴隷にしていた。その結果トーストラリアやシュージーランドでは先住民が激減しタスマニア先住民は完全に絶滅させられた、、、
白人は数百年にわたって有色人種を虐殺し女性を強姦し富を収奪し続けてきた。この事を恨んでいる人びとも当然存在しているだろう、、、白人は正に諸悪の根源だ、、、)

「白人は諸悪の根源」その事に思い至った時、西田の頭の中に一筋の光が差した。
(白人は有色人種に呪われるべき存在だ、、、白人は有色人種の共通の敵だ、、、)
それから西田は精力的にネット検索を始めた。そして数時間後「思った通りだ、、、」と一言呟いた。
自分がロスマイルドやロットフェラーを憎むように、自国に居る白人を憎んでいる人びとが様々な国に居る事が分かった。そしてその人びとの中には既に行動を起こしている人も居た。
ある人は一人でプラカードを持って白人の不当な扱いに抗議していたり、数人で人混みの中でビラ配りをしていた。またネットで、今なお差別されている事を写真や動画を交えて訴えている人もいた。

その中で西田が注目したのが「白人至上主義ダメ白人絶滅主義」と英語で書かれたプラカードを持っているアボリジニの老人だった。西田はその写真の説明文を読んだ。
『白人は数百年前から我々アボリジニを殺してきた。現在、殺害はなくなったが今なお白人至上主義が横行しアボリジニに対しての不当な扱いが続けている。
もうたくさんだ、トーストラリアに白人は要らない。白人は我々に土地を返してトーストラリアから出ていけ』
(現在トーストラリア人口の2%しかいないアボリジニの老人が、こんな過激なプラカードを掲げている、、、
こんな事をしても現状を変える事などできないだろうに、、、この老人もまた一匹の蟻か、、、)

西田はその老人の記事をコピー保存してなおも調べた。次は南ハメリカインディオの記事だった。
多少裕福な家庭で育った青年が、ネットで自分たちインディオの歴史を調べていて、490年ほど前のフランシスコ、ピサロによるインカ帝国侵略とインディオ虐殺の事実を知り、以来この青年は白人を憎むようになった。そして現在、白人が犯した数々の犯罪をネット配信している。
(俺も以前ピサロの悪事について調べたことがあるが、ピサロどもの残虐行為を知れば誰でも白人を憎悪するようになるだろう。それほどピサロどもは残虐な行為をした、当時の絵などもあるが目を覆いたくなるような惨い物ばかりだ。ピサロどもは人間ではない正に人の皮を被った悪魔だ。
しかしそんなピサロが本国ルンペインでは、国に莫大な財宝を献上した英雄として紙幣にまで肖像が載せられていたというのだから、インディオの青年にとっては憎んでも憎み切れない存在だろう)

西田はその青年の記事もコピー保存してから次を読み始めた。
それはハメリカインディアン女性の記事だったが、この女性もネットでインディアンの過去を調べていて、ハメリカ白人によるインディアン虐殺の事実を知りショックを受けたようだった。
しかも調べるきっかけになったのが、白人男性からの求婚に怒った兄に見せられた、頭の皮を剝がされたインディアン老人の写真だった。

(終戦後、日本はハメリカによって西部劇映画を何本も見せられたが、その映画内容はどれも白人正義インディアン悪人という設定だった。おかげで日本人の多くはインディアン悪人のイメージを抱いてしまった。
だが真実は真逆だ、インディアンに非はなく、ハメリカ白人の方こそ悪人だったのだ。
ハメリカ白人のやった事は『開拓』と言う言葉を言い訳にしたハメリカ大陸侵略とインディアン大虐殺だった。
その虐殺時にインディアンの頭の皮をはぎ取ってその数を自慢し合ったのだ。
ハメリカ白人は、インディアン男性は殺して頭の皮をはいだが、女性は当然の如く犯した。その結果、推定1000万人いた人口が現在は50万人になり純血インディアンはいなくなった。つまり現在インディアンと呼ばれている人びとのDNAには白人のDNAが混ざっていない人は一人も居ないのだ。

ハメリカ白人もまた鬼畜としか言いようがないが、その真実を知ってこのインディアン女性は、、、
現在ワカング族の祈禱師の下で呪詛を学んでいると、、、マニトウを操り白人に呪いをかけ復讐する、、、
うぅ~む、、、呪いをかけ復讐か、、、俺は、呪詛とか呪いとかは信じられんが、奴らのような巨大な力を持った相手に対してはもはや呪詛や呪いに頼るしか術がないのかもしれない。まして女性では、、、)
西田は腕を組み宙を睨んで考え込んだ。
(呪詛か、、、日本では何か災害が起きると『00様の祟りじゃ』などと噂されたが、、、呪って相手を殺したり不幸にしたりできるなら戦争など起こす必要はないだろう。同じことだが、神に祈って幸福になれるなら、この世に不幸な人は一人も居ないはずだ、、、そう考えると呪詛も祈りも無意味か、、、)

西田は、このインディアン女性に呪詛は無意味だと伝えたくなった。
記事をよく見ると下段にコメント欄があった。西田は、自動翻訳を使って英語でコメントした。
それからまた検索を続けた。

次の記事は、ガザ地区から逃げ出し現在はヨーダン在住のパレス人男性が論集したものだった。
『パレス人は何故このような不当な扱いを受けなければならないのか、パレス人にどんな罪があると言うのか』と記された抗議文には、男性がガザ地区で隠し撮りした多くの写真が載せられていた。
男性は、写真を入力したメモリースティックをプラスチックカプセルに入れ密封して飲み込み、ガザ地区を脱出した。そしてヨーダンの仲間の家に着くとすぐ下剤を飲みカプセルを排出したのだった。
幸いメモリースティックは無傷だった。
苦心して運び出された写真は、ガザ地区でのパレス人の生々しい現状が写されていたが、空爆で負傷した者や空腹にあえぐ多くの孤児など悲惨なものばかりだった。

以前、パレスやデスラエルの歴史を調べたことのある西田は(全ての原因はユーヤ人どもが勝手にデスラエルという国を創ったからだが、ユーヤ人をそのようにさせたのはイギリス人の3枚舌外交のせいなのだ。
ここでも諸悪の根源は白人であるイギリス人、、、
パレス人に罪はない。しかしその罪のないパレス人をデスラエル人は容赦なく殺している、子どもさえも、、、こんな事が許されて良いはずがない、、、)
そのような事を考えていた時、画面上の通知ランプが点灯した。西田が開いて見ると先ほどのインディアン女性からの返信だった。

『日本人ですよね?。コメントありがとうございます。しかし不要なコメントです。私はハメリカ白人を呪い続けます。ハメリカ白人はインディアンに対して残忍で惨たらしい事をしました。決して許されない迫害をしました。私は、ハメリカ白人を許せません。呪い続けます』
という返信コメントを読んで西田はすぐに再度コメントした。
「貴女の御気持ちは痛いほど分かります。しかし呪っても無駄です。呪って相手を殺したり不幸にできるなら、この世に戦争は起きません。貴重な時間を無駄にしないでください」

またすぐ返信が来た。
『私は、時間を無駄にしてはいません。呪って必ずハメリカ白人を不幸にしてやります。私は、私の呪いの力を信じています。
それと、私の気持ちが分かると言いましたが日本人の貴方にインディアンの憎みの何が分かるのですか。
出しゃばらないでください』

西田は少し考えてから返信を打った。
「私は、貴女がたインディアンの不幸な歴史を学びました。ハメリカ白人どもによって虐殺され強姦されて現在は絶滅寸前の状態にまで追い込まれている事も知っています。
しかし実は日本人もハメリカ白人によって虐殺され強姦された過去があります。
先の大戦で日本は負けました。負けが確実になってもなおハメリカ白人は東京大空襲や広島長崎の原爆投下で数十万人の日本人を虐殺しましたし、戦後は日本女性を散々強姦しました。『占領期日本における強姦』でネット検索すればハメリカ白人による日本女性強姦の残忍な実態が分かります。
しかも日本人は今もハメリカ白人の奴隷状態なのです。終戦後75年経った今でも植民地状態なのです。

日本は9年前、大地震と津波で15893人の方々が亡くなられましたが、その地震と津波を起こしたのもハメリカ白人とデスラエル白人の偽ユーヤ人どもなのです。
当時の日本政府がハメリカ白人の言うことを聞かなかったという理由で人工地震を起こされたのです。
そして15893人の方々が殺されたのです。私も多くの日本人も白人を憎んでいますし呪っています。
白人を呪いたい気持ちは貴女以上かも知れませんし、呪って白人どもを殺せるなら私も寝食を忘れて呪いたいです。
しかしいくら呪っても効き目はありません。呪いもそして祈りも無意味なのです。単なる時間の浪費なのです。
私は貴女にそんな無意味な時間の浪費をして欲しくないのです。呪う時間があるならその時間を他のことに使っていただきたい。もっと有意義な時間の使い方をしていただきたいのです。

私は今、どうにかして白人支配を終わらせたい、白人どもを滅ぼしたい、そのためには何をどうしたらいいのか必死で考えています。
人類にとっての諸悪の根源である白人を滅ぼす方法を必死に考えているのです。
もしよろしければ貴女も一緒に考えませんか。
このような内容はコメント欄に載せない方が良いと思いますので、今後は下記メールアドレスにお願いします。メールアドレスを保存されたらすぐにコメントともども削除してください」

10分ほどすると西田のコメントやインディアン女性の返信が消えた。それから数十分してメールが届いた。
『多くの日本人女性が終戦後でもハメリカ白人に強姦されたということを初めて知りました。しかし、そのような理不尽な目にあわされて日本人は何故復讐しないのですか?何故、呪いをかけないのですか?
私ならハメリカ白人に呪いをかけ根絶やしにしてやります。日本人には闘争心も反抗心もないのですか?』
西田はすぐに返信メールを送った。

「日本人にも闘争心も反抗心も、そしてハメリカ白人を呪う心もありますが、戦後の住む家やその日の食糧さえもないような状態で、どうやってハメリカ白人に反抗できますか?餓死寸前の状態の時、たとえ身うちの女性が強姦されたとして、どうやって復讐するというのですか?
当時の日本人は、どんな理不尽な目にあわされても耐えるしかなかったのです。泣き寝入りするしか術がなかったのです。反抗心はあっても反抗できる力がなかったのです。
逆に日本人に反抗する力がないことを知っていたからこそ卑怯で卑劣なハメリカ白人は、日本人を虐待し日本人女性を強姦したのです。
これは戦後シベリア抑留して強制労働させ数十万人の日本人を殺したR国白人も同じですが、弱い者は強い者に蹂躙されるしかないのです。どんなに綺麗ごとを言っても人間社会もまた弱肉強食なのですよ。
まあ当然弱者にも呪う心はあります。しかし呪いで何ができますか?呪いは無力です呪いには何の効果もありません。呪いに掛けた時間と労力が無駄になるだけです」

インディアン女性からすぐに返信メールが届いた。
『それは貴方がた日本人の呪いに霊力がなかったからです。呪いの心が弱かったからです。
しかし私は違います。数千年前からずっとインディアンに受け継がれてきたマニトウの呪いを私は身につけました。私の呪いの力は強力です。今後必ずハメリカ白人を根絶やしにしてやります。
貴方がた日本人の仇も討ってやりますので楽しみにしていてください』

西田は(そんなに強力な呪いの力があったなら何故インディアンが絶滅寸前になったのか、その理由をこの女性は考えないのだろうか。それとも自分の呪いは過去のインディアンの呪いよりも強いと思い込んでいるのだろうか、、、)と考え、もう一度メールしょうかと迷ったが(思い込んでいる時には何を言っても無駄だろう。自分で自分の無力さに気づいてからにするか)とも考え止めにした。
(しかし、まあ、彼女のように白人を憎んでいる人間は、世界各地にそれなりに居るようだ、、、
で、そのような人たちと協力し合えたとして、俺はどうやって白人どもを滅ぼす。どうやって奴らを倒す、、、)
西田はまた腕を組んで宙を睨んだ。


そのころロットフェラー家のダイバットは、部下にロスマイルド家殲滅を命じていた。
ダイバットもまたドローンを使って炭疽菌とウイルスをロスマイルド家の豪邸上空から散布する計画を立てた。
数キロ先から遠隔操作できるテレビカメラを装着した大型のドローンを乗せた車4台が、ロスマイルド家豪邸のある広い森の中に潜んでいた。しかしその車の動きは、数百キロ上空の軍事衛星によって監視されロスマイルド家の情報部に画像入りで伝えられていた。

「御支配様、森の中に不審な車が停まっています」と情報部の責任者から電話がかかってきた。
バーナードとシルルの3人で歓談していたロベルトは、携帯電話を耳に当てすぐに顔色を変えて言った。
「なに不審な車、何台だ」
「3台、いえ、今また1台加わりました、、、赤外線映像ではっきりしませんがトランクから何かを取り出しています、、、ドローンかも知れません」
「なに、ドローンだと、、、警護班の者20人ほどで道を閉鎖し、その者たちを生け捕りにしろ」
「あ、やはりドローンです、浮上し屋敷に向かっています。ドローン4台です」
「ドローン対策班の1班をマシンガンを持たせて所定配置につけろ、マスクを忘れるな。2班にウイルス防護服と防毒マスクを装着させて待機させろ。1班がドローンを撃ち落としたら2班はすぐにドローン回収しろ。小さな破片も全て回収し、その周りは消毒だ。その後、1班は全員隔離病棟に入れろ」
とロベルトは指示してから電話をデスクの上に置き、顔に薄笑いを浮かべてバーナードに言った。
「ロットフェラー家の者どもだろう、、、ふん、手はずは整っておるわ、、、
お前の言う通りドローン対策ウイルス対策をしておいて正解だったのう」

15分ほどして情報部から電話が入った。
「1班がドローン4台を撃ち落としました。2班をドローン回収と消毒に行かせます」
数分後また電話が鳴った「車4台と銃撃戦です、、、あ、終わったようです」
「生存者は居ないのか、一人でも生かして依頼主を吐かせろ、、、警護班全員と死体も全て隔離病棟へ入れろ。その後2班に車も全て消毒させろ、、、」
それからロベルトはくつろいだ表情でバーナードに言った。
「夜更けに騒がしい事よ、、、だがもう粗方片付いた、お前たちはもう休め」
バーナードとシルルは一礼して部屋を出ていった。

寝室の愛用の椅子に座るとバーナードは低く奇声を発した。
その奇声はシルルには「さすがは御支配様、御見事な指示のなされ方、、、自分には到底できない、、、」と聞き取れた。シルルはバーナードの脇に座り笑みを浮かべて言った。
「大丈夫です、バーナード様もきっと立派な御支配様になれますわ。何故なら1ヶ月も前に今夜の出来事を予測し、全ての対応策を御支配様に進言したのはバーナード様なのですから」
「ありがとう、、、シルルはいつもそうやって自分を慰めてくれる、、、しかし自分の声を聞き取ってくれるのはシルルただ一人だけだ。他の者にどうやって指示を出せばよいのやら、、、」
シルルがはにかみながら言った「私の肉体の全てをバーナード様に捧げていますわ。私の口はバーナード様の御口、指示される時はどうぞ私の口を使ってくださいませ」
短く奇声を発してからバーナードは醜く顔をゆがめた。しかしその顔は、バーナードが喜びを表した表情だった。世界中でただ一人、その表情の意味を理解しているシルルは、そっと唇を重ねた。


数日後ドローンを飛ばせた者たちの正体がわかった。やはりロットフェラー家の者だった。4台の車の中の者はみな死んでいたが、銃撃戦直後に逃げ出していた2人が森の中で相次いで警護班に捕まったのだ。
先に捕まった男は、散々拷問されたあげく「ダイバット」と叫んで息絶えた。その映像を見せつけられ男の断末魔の悲鳴を聞かされたもう一人の男は、ロベルトの前で床に頭を押し付けて言った。
「なんでも話すから、その後は一思いに殺してくれ」
情け深いロベルトは男の言う通りにした。

その夜ロスマイルド家で緊急会議が開かれた。その席でロベルトは恐ろしい事を話した。
「ドローンで襲ってきたのは、やはりロットフェラー家だった。だが今から話すことは違う内容だ。
まあ、あの男の言ったことだから真実かどうかわからんが、ロットフェラー大学で極秘に作られていた例の麻薬の事をハメリカ大統領が知って、その証拠品の数々を押収したそうだ。
つまり、あの麻薬の原材料と製造方法が大統領に知られてしまったのだ。
この事をもし大統領が世界に公表したらどうなるか、、、我が一族だけでなく正に『御上』の存続に関わる。

このままではロットフェラー家は滅亡すると考えたダイバットは、その前に我が一族を滅ぼすと宣言した。
今回のドローン攻撃は恐らく序の口だろう。今後も手を変え品を変えて攻撃してくるはずだ。その事を皆の者は心に留めおいて欲しい。
それと例の麻薬、一族の者は使ったことはないと思うが、麻薬について知っている事があったら何でも聞かせてくれ。あれの現状を把握しておきたいのじゃ」
しばらく場は静まっていたが、やがてひそひそ話声が聞こえだした。しかし発言する者はいなかった。
みな事の重大さが分かっているのだ、そしてうかつな事は言えないことも。
「皆の前では言い辛いじゃろう。知っている事があったら後で個別に知らせてくれ、、、解散する」

寝室に帰ってきたバーナードは愛用の椅子に座るとすぐシルルに言ってモーガンを来させた。
モーガンは遠い親戚であり頭脳明晰でロベルトの相談役だった。だが、高齢のせいか最近は健忘症が現れはじめていた。
モーガンは寝室に入ってくるなり言った「御呼びいただき感謝します御世継ぎ様」
バーナードは立ち上がって、ロベルトに対するように丁重に頭を下げた。それから自分の向かいに座らせると奇声を発した。シルルが低い声で訳して言った。
「夜更けにお呼びしてすみません。先ほどの麻薬について教えてください」

モーガンはバーナードから視線をそらし、遠くの一点を見ているかのような表情でぼそぼそと言った。
「、、、お人払いを、、、」
そこには3人しか居なかった。つまりシルルに出ていけと言っていたのだ。
バーナードは(シルルにも聞かせられないほどの重大事か)といぶかったが、目で合図した。
シルルが出ていくとモーガンはゆっくりと話し始めた。
「、、、あの麻薬は世界最高の幻覚作用があります。ヘロインに飽きた者でも数時間は天国で過ごせます。しかも依存症がない、、、正に究極の麻薬です、、、
しかし、それを作るには、、、生きた子どもの松果体が必要です。しかもストレスのために異常増大したアドレナリンを多量に含んだ松果体が、、、」

そこまで聞いてバーナードは奇声を発した。「どういうことだ」と言ったつもりだったがモーガンには奇声でしかなかった。モーガンは表情も変えず続けた。
「松果体は10歳を過ぎたころから変化して無用の器官になります。だからそれ以下の子供が、、、
しかも拷問され泣き叫びストレスのため髪が抜けだしたような子どもの松果体でなければ、あの麻薬は作れないのです、、、当然、松果体を取り出せば子どもは死にます、、、
この麻薬は、、、ヘロインの千倍の価格です、、、膨大な金が動きます、、、
難民の子どもを含めるとハメリカで行方不明になる子どもは数え切れません、、、
イギリスでも日本でも行方不明になる子どもが増えています、、、しかし、ニュースになるのは僅かです、、、大手メディアは金で抑えられる、、、警察も、、、そして気弱な歴代大統領も、、、
しかしあの大統領は、、、今のハメリカ大統領は何を考えているのやら、、、公表しょうものなら世界は、、、
私の知っている事はここまでです、、、では御いとましてよろしいでしょうかな、、、」

バーナードが死人のような顔で頷くと、モーガンは無表情のまま一礼してよろよろと出て行った。
一人残ったバーナードはしばらく放心状態だったが、モーガンの話を頭の中でもう一度最初から思い返すすと次第に冷静になってきた。同時に人間に対する絶望感が芽生えてきた。
(何という事だ、、、幼い子どもを殺して麻薬を作っていたのか、、、どんなに金があるからといって、、、
人間のする事ではない、、、だが自分のためにも数人の子どもが殺された、、、自分は、、、生きる資格がない人間かも知れない、、、だが、快感を得るために子どもを殺して麻薬を作る、、、そんな人間を、、、)
バーナードはふらふらと立ち上がるとベッドに倒れ込んだ。そしてなおも考えた。
(自分は生きる資格がない人間だろう。地獄に落ちるべき人間だろう。しかし自分よりも先に地獄に落とさなければならない人間がいる、、、)

バーナードは寝室隣の書斎に入り、足指でキーボードを押し、シルルを介さずにロベルトに進言する文章を作った。最後に文章を印刷し、用紙を口と足を使って器用に半分に折り大きめの封筒に入れ、翌朝シルルに届けさせた。それから1時間ほどしてロベルトに呼ばれたバーナードは、一人でロベルトの部屋に入った。
ロベルトはバーナードを向かいの椅子に座らせると、ジッとバーナードの目を見つめてから聞いた。
「本気なのか」
バーナードは大きく頭を下げた。

「、、、お前はあの中で『神をも恐れぬ悪魔たちを滅ぼすべきだ』と書いてあったが、奴らを悪魔と言うならワシもお前も悪魔なのだぞ、ワシもお前も、まあお前はまだ自ら人を殺してはいないが、ワシは命令して何人も殺させている。つまりワシも悪魔じゃが、お前はワシまで滅べと言うのか」
バーナードは力なく頭を左右に振りうなだれた。その仕草を慈愛のこもった眼差しで見ていたロベルトは、腕を組みしばらく考えてから言った。
「、、、純な心を備えておるのう、、、ワシの孫とは思えん、、、生みの親に似たのかのう、、、
お前の気持ちは分かった。子どもを殺して麻薬を作ることに激怒したのじゃろう。
しかしこのような事をしているのはロットフェラー家だけではないぞ、C国も生きた人間から臓器を取り出して売っておる、イリヤでもそうだ。
ロットフェラー家の者を悪魔と言うならC国人もイリヤ人も悪魔だ。しかもちょっと見かたをかえて考えれば、牛や豚から見れば人間はみな悪魔だ、喰うためだけに太らせ殺す、こんな残酷なことはない、、、

のうバーナード、お前やワシは、世界中でただ一人選ばれた人類の支配者なのだ。
そして支配者にとっては下の者は奴隷であり、もっと下の者は家畜と同じなのだ。
言い換えるなら牛や豚と同じなのだ。お前は牛や豚を殺す人間まで悪魔だと言うのか、、、
あまり馬鹿馬鹿しい事を考えるな、自分の立場をよく考えろ、、、
それよりゲルマンロスマイルド家のナターシャとはどうなっている、テレビ電話の結果、先方はお前の容姿のことは了解済みじゃ。そろそろ婚約発表しないと先方に失礼じゃぞ。
、、、おう、そうじゃた、お前に返事は聞けんのじゃった、、、それで思い出したが、お前のその声を解読して人の声に変える機械を製作中じゃ、義手よりも早く完成するとの事じゃが、それが完成すれば自由に会話ができるようになるぞ。
さてワシはこれから出かけねばならん。お前も部屋に帰れ」

自分の部屋に帰って愛用の椅子に座るとバーナードは大きくため息をついた。すぐにシルルが近づいて来て怪訝そうな顔でバーナードを見つめて言った。
「どうされたのですか?」
わずかな時間、優しい眼差しでシルルを見つめた後バーナードは奇声を発した。
その奇声は「、、、何でもない、、、少し考え事がある、一人にしてくれ」とシルルには聞き取れた。
シルルは一瞬驚いた表情をしたが「わかりました、隣部屋にいますので御用の時は御呼びくださいませ」と言って去っていった。

一人になったバーナードはロベルトに言われた事を思い返した。
(『牛や豚から見れば人間はみな悪魔だ』か、、、草食動物以外の動物はみな他の生き物を殺して食べないと生きて行かれない。その事で悪魔と言うなら確かに人間はみな悪魔だし、他の肉食動物も悪魔だ、、、
しかし子どもを殺して麻薬を作る行為はそれとは次元が違う、、、生きている人間から臓器を取り出す行為と同様、人間として決して許されない行為だ、、、)
そう考えるとバーナードは、ロベルトに御支配様にうまくはぐらかされたような気がした。

(もしかして我が一族の中にもあの麻薬を使っている人がいるのだろうか、、、
子供を拷問して苦しめたあげく殺して松果体を取り出しそれで麻薬を作る、そしてその麻薬で快感を得る人たち、、、どう考えても許されない、、、
臓器摘出も、、、ロットフェラー家の先代は3度も心臓移植したと聞いたが、その心臓はどうやって、、、
他人の心臓を移植してまで長生きしたいのだろうか、、、今の自分はとてもそんな気持ちにはなれないが、自分も老いると心臓移植してでも長生きしたくなるのだろうか、、、
それにその時の心臓が、生きている人間から無理やり摘出した、、、他人を殺して奪い取った心臓でなければまだしも、、、)

バーナードは書斎に入り、足指でキーボードを押して「尊敬の念を禁じえないハメリカ大統領閣下、子供の松果体から作る麻薬に関与した者すべてに厳罰をもって臨まれますよう謹んでお願い申し上げます。
尚、これは私個人の意思による請願であり、ロスマイルド家支配者ロベルトのあずかり知らぬ事柄です」という内容のメール文章を作った。そしてそのメールを、以前ロベルトがハメリカ大統領にメール送信した際に立ち会って記憶していたメールアドレスに送信した。そしてその後すぐに送信記録を削除した。


数時間後、個人用メールアドレスに届いていたバーナードからのメールを読んでハメリカ大統領は呟いた。
「ふん、ロスマイルドの若造が、、、あの麻薬に関与した者を厳罰にしろだと、、、
そんな事をすればロットフェラー家の者だけでなくロスマイルド家の主だった者の大半は死刑か終身刑だ。あの若造はロスマイルド一族の現状さえも把握していないのか。これでは今の老いぼれ支配者が死ねばロスマイルド家は潰れるな。
、、、まあその前にロットフェラー家を潰さねばならん、、、
外堀は埋まった、いよいよ本丸ダイバットを締め上げるか」
大統領は執務室に入ると、取り巻きに手渡された書類の中からダイバット逮捕に関する書類に署名した。


そのダイバットは、ドローン攻撃に失敗した事を知って激怒していた。
「どいつもこいつも役立たずめが!、我が一族にはもっと頭の切れる奴はいないのか!、、、
ピエールが居ないと皆な糸の切れた凧だ、使い物にならん、ピエールはまだ釈放されんのか」
部下の一人が恐る恐る言った「ピエール様は児童虐待死容疑で裁判中です。釈放は無理かと、、、」
「なに、釈放は無理だと!お抱え弁護士はどうした、弁護士まで役立たずなのか!」

「いつの間にか州法が変わっていて、殺人容疑者の弁護士は州選弁護士だけとなっています。
どうやら今回の一連の逮捕は、大統領直属によるずっと以前からの計画的逮捕のようです。
それと我が一族配下の者で大統領側近内に入り込んでいるスパイからの『ピエール様逮捕準備中』という事前の密告をピエール様は何故か無視されたのです」
「おのれピエールめ、ボケたか、、、それより、あの老いぼれ大統領め、、、
大統領側近内スパイは今どうしている、気づかれずに居るなら、そいつを使って大統領を暗殺させろ」

「今はそれどころではありません、そのスパイからの連絡で、ダイバットさま逮捕の書類に大統領が署名したそうです、ここは危険です、お逃げされますよう」
「なに!、俺を捕まえるだと、、、あの老いぼれ大統領め、、、
だが、どこに逃げる、ここより安全な所が他にあるか。ここの地下には核シェルターも避難トンネルもある。
トンネルの総距離は100キロ以上あってどこにでも逃げられる。奴らが来たら秘密エレベーターで地下に逃げれば捕まりようがない」

部下の一人は、そのトンネルの出口全てを大統領側に知られているとスパイから聞いていたが、ダイバットの剣幕に押されて言えなかった。そんな部下の心配をよそにダイバットは続けた。
「大統領を暗殺しろ。今、大統領が死ねば国は大混乱になる、その時、配下のミサイル開発工場で発射実験をしろ。そのミサイルは間違ってロスマイルド家に落ちることになる、よいな!
、、、俺はこれから楽園で気分転換してくる、緊急以外は電話もするな」
そう言ってダイバットは立ち上がり一人で地下の秘密の部屋に入って行った。その部屋には足首を鎖でつながれた少女が十数人居たが、ダイバットに気づくとみな恐怖でひきつった顔になった。



大統領側近内スパイのマーガレットは、大統領の遠い親戚の娘として、執務室等での大統領の身の回りの世話をしていたが、本当の親戚の娘はロットフェラー家の者によって拉致後殺害されていた。
マーガレットはその娘になりすまして大統領の側近になりスパイ活動をしていたのだ。
そんな事など眼中にない大統領は、大統領就任時からハメリカにとって最良の政治を心掛けていた。
実は大統領は就任以前から、ハメリカの寄生虫であるロットフェラー家を潰さない事にはハメリカは良くならないと考えていたのだ。しかしその事は大統領になっても誰にも言わず、ただ「児童虐待死の犯人を捕まえろ」と指示しただけだった。

大統領は、ロットフェラー家や富豪の者が児童虐待死させている事も、子供の松果体から作った麻薬を使っている事もずっと以前から知っていた。そしてその事を公にすればロットフェラー家を潰せると言う事も知っていた。だが、すぐには逮捕を命じなかった。
大統領は先ず、ロットフェラー家と繫がりのある司法長官の刷新や弁護士に関する州法の改変、悪徳警官の追放等を敢行して、自分の指示通りに動いてくれる組織を作ったのだ。
このやり方が功を奏して大量逮捕に繋がったのだった。

そんな大統領の陰でスパイ活動をしていたマーガレットは、いつしか大統領に畏敬の念を抱くようになっていた。しかしスパイ活動を止めるわけにはいかなかった。ロットフェラー家の命令に背けば、自分だけでなく自分の家族全てが拷問の末に殺される事を知っていたのだ。
そのマーガレットに大統領暗殺命令が伝えられ、劇薬が届けられた。

無警戒の大統領のコーヒーに劇薬を入れるのは今のマーガレットには造作のない事だった。しかしマーガレットはすぐに実行することができなかった。マーガレットは悩んでいたのだ。
(大統領は心底からハメリカの幸福を望んでおられる、、、自身がどうなろうと無関心で、ただただハメリカの未来の繁栄を望まれている、そしてハメリカをそうする事が、敷いては世界の安泰と繁栄に繋がると確信されている、、、このような立派な大統領を私は、、、)

翌日の午後、執務室に珍しく一人だけで座っている大統領のデスク上に、マーガレットは震える手でコーヒーを運んだ。大統領はすぐに無造作にコーヒーカップを持ち上げ口に近づけた。マーガレットはとっさに大統領の手を抑えた。コーヒーがこぼれ落ちた。
大統領が驚いた顔でマーガレットを見上げた。マーガレットの目から涙があふれ落ち、その場に泣き崩れた。
この期に及んでもまだ事の次第を悟っていない大統領は、立ち上がって怪訝そうな顔でマーガレットを見つめて言った。「どうしたのかね、、、」
マーガレットは大統領に全てを話し最後に「私を死刑にしてください、しかし私の家族は助けてください。私がロットフェラー家を裏切った事が分かると、私の家族は皆殺しにされます。どうか家族だけは御助けください」と付け加えた。

マーガレットの話を聞いてやっと現状を理解した大統領は少し考えてから言った。
「スパイは君だったのかね、、、だが、よく話してくれた、、、分かった、君と君の家族の命はこの大統領が必ず守る。君は今まで通りに行動して、もしロットフェラー家から連絡があったなら、もう少し待って、必ず実行するからと伝えなさい。いいね。、、、決して早まった行動をしないように、、、あ、コーヒーをもう一杯頼む」
マーガレットは顔を上げ、こわごわと大統領の顔を見た。自信に満ちた大統領の顔がそこにあり、その顔を見てマーガレットは大統領の言う通りにする決心をした。
マーガレットは放心状態から脱し毅然と立ち上がり、大統領に一礼するとデスク上のコーヒーをかたずけて出て行った。
マーガレットを目で見送ってから大統領は携帯電話で副大統領のネルソンを呼び、二人で綿密な計画を立てた。

翌日の昼ころマーガレットは大統領に耳打ちされた。
「君は、大統領は死んだとロットフェラー家に電話してくれ、それから家族の所へ行き荷造りしなさい、直属の者をバスで迎えに行かせる、、、決して早まった事をしないように」
マーガレットが出て行った後、大統領は大袈裟に悲鳴を上げて倒れた。
その日のうちに「大統領はウイルスによる肺炎で危篤状態」と言うニュースが全世界を駆け巡った。
そのニュースは当然ダイバットにも知らされた。ダイバットは狂喜して喜んだ。
「ウイルスによる肺炎で危篤だと、ふん、うまい偽装文句を考えたもんだ。今はまだ死亡と発表できない事情があるようだが、いくら表面上を取り繕っても死んだ人間は生き返らんわ。
うははは、これで俺を捕まえようとする奴はいなくなった。ウハハハ、大統領の老いぼれめ、ざまあみろ」
だが翌日の夜、秘密の部屋で楽しんでいた時、突然警察官がなだれ込んできてダイバットはあっけなく逮捕された。裸のまま手錠をかけられてもダイバットはまだ現実を認められなかった。


翌日の夜「大統領、危篤状態から回復」と同時に「ダイバット逮捕」のニュースが報じられた。
そのニュースを、ロットフェラー家に潜ませている配下の者からいち早く知ったロベルトは、すぐに大統領へ見舞いと祝電を送った。
それからロベルトは、椅子の背もたれを倒し足をデスクの上に乗せてくつろいだ。
(児童虐待の現行犯逮捕、しかも例の麻薬の製造指示者、恐らく刑務所から出ることはないだろう、、、
これでロットフェラー家はおしまいだ、、、
一抹の不安は、残党が馬鹿な真似をしないかだが、まあ大丈夫だろう、、、さて、寝るか)
デスク上から足を降ろしたちょうどその時、大音響とともに屋敷が爆発しロベルトの肉体も粉々になった。


月に一度の、生みの親であるオードリーと楽しく歓談していたバーナードとシルルは、会うたびに老けてきたオードリーを気遣い、早めに御いとまする事にした。
車に乗り込んだ時、シルルの携帯電話が鳴った。
シルルが電話を耳に当ててすぐ顔色を変えてバーナードに言った「お屋敷が爆破され御支配様が」
「なに、御支配様が」とバーナードは奇声を発し、運転手はスピードを上げた。
数十分後、猛スピードの車がロスマイルド家の門を通り抜けて急停車した。
目の前には屋敷の半分が破壊され、所々から煙が立ち昇っているロスマイルド家の無残な姿があった。

「御支配様は、御支配様は」と狂ったように奇声を発しながら、バーナードはシルルに手伝ってもらって車外に出た。その時、銃声が聞こえシルルが倒れた。現状が理解できずシルルを覗き込んだバーナードの頭上を2発目の弾丸が飛び過ぎた。
事態に気づいたボディガードが飛び出して来て銃口を向けていた男に発砲した。男は倒れた。
その時、暗殺者の事など気にも留めていなかったバーナードは、シルルの服を口で引っ張って顔を仰向けにした。
シルルの胸部からおびただしい血があふれ出ていた。その血を見てバーナードは理性を失って叫んだ。

「どうしたのだ、、、何があったのだ、、、シルル、どうした、何故こんな所で寝ている、、、シルル、どうした、シル、、、シルル、うああ、シルル、シルル、目を覚ませシルル、お願いだ、シルル、目を覚ましてくれ、シルル、目を覚ましてくれ、うああ」
バーナードは、それから後の記憶がなかった。状況を理解できるようになったのは事件後4日経ってからだった。

その4日間は、たまたま地下に居て無事だったモーガンがロスマイルド家を取り仕切っていた。
モーガンは無事だった者を全員、地下のシェルターに入れ、怪我人等はシェルター内の病院で治療させた。
遺体も冷凍安置室に保管させたが、ロベルトの肉体は僅かに、靴を履いたままの右足だけだった。
だがシルルの遺体は、冷凍保存装備の棺に入れられ安置されていたが、顔は生前のような美しさがあった。4日ぶりに正気を取り戻したバーナードがシルルのその顔を見て泣き叫んだが、周りの者には奇声にしか聞こえなかった。そしてその奇声は数時間聞こえ続けていた。
周りの者は居たたまれず安置室の外に出ていたが、奇声が聞こえなくなったので安置室に入ると、バーナードが椅子に座ったまま足で「俺のPCとキーボードを持って来い」と綴っていた。

配下の者が半壊していたバーナードの部屋からPCとキーボードを持って来ると、バーナードは足でキーボードを押してPC画面上に文章を載せた。
「誰が御支配様を殺した、誰がシルルを殺した」
「まず屋敷を破壊し御支配様を殺したのは、門番が言うには上空から真っ赤に光る火の玉が落ちてきたそうです、恐らくミサイルではないかと、、、現在防衛省に発射地点と迎撃できなかった理由を確認中です。
シルルを撃ったのは、屋敷が破壊された混乱時に入り込んでいたロットフェラー家のヒットマンで、、、失礼ながらバーナード様を狙われたのが前面にいたシルルに当たったものと思えます」とモーガンが答えた。

モーガンの答えを聞いてバーナードは大奇声を発して棺の上に倒れ込んだ。しかし数分後立ち上がると「おのれロットフェラーめ、皆殺しにしてやる」とキーボードを叩いた。
その文章を読んだモーガンは悲しげに控えめに言った。
「そのロットフェラーですが、家長のダイバットが逮捕され今は崩壊寸前の状態とか、しかし逮捕の前に御支配様御世継ぎ様の暗殺を命令していたようです。そしてその暗殺命令は御世継ぎ様の御生涯ずっと続けられる可能性がありますので、どうぞ御留意のほど、、、」

バーナードは涙に濡れた顔を歪め短い奇声を発した後、椅子に座り「分かった、、、とにかく今は御支配様の葬儀とロスマイルド家の復興を優先させよう」とキーボードを押した。
するとモーガンは、バーナードに対して恭しく一礼して言った。
「、、、御支配様の御葬儀の件ですが、今しばらく御待ちになった方がよろしいかと、、、御支配様が御亡くなりになったのを知れば不埒な事をする輩も出てきましょう。今は御世継ぎ様のお立場を堅固なものにする事が先決かと。そのためには御支配様存命と公表し、以前と変わらぬ御振る舞いをされますように」
バーナードは醜く顔を歪めながらもモーガンの目を見て頷いた。

結局、対外的にロベルトはウイルスによる肺炎で隔離されている事になった。容態については公表されなかったが、ロベルトからと言う指示が頻繫に出された。
ロスマイルド家屋敷破壊のニュースも、ロベルトの圧力により極力伏せられた。大手メディアは一切報じず、屋敷のある森の外縁部の農民が「夜中に赤い火の玉が落ちてきた」と騒いでいたのも口止めされた。
屋敷破壊は航空写真を見れば一目瞭然だが、屋敷上空は昔から飛行禁止区域になっていたので、一般人に知られることはなかった。

バーナードは、ロベルトの代理としてイギリス防衛省に火の玉の正体を確認した。その結果、やはり通常爆薬の小型大陸間弾道弾だった。ただ現在はまだどこにも配備されていない開発中の物らしいとの回答で、発射地点も有名なエリア21付近というだけで詳細はハメリカ軍によって公表拒否されているとの事だった。
いずれにしても発射地点はハメリカであり、ロスマイルド家は当然ハメリカ政府に謝罪と賠償金請求をした。
しかしハメリカ政府は謝罪も賠償もしなかった。そして数日後「ロットフェラー関連ミサイル開発会社の誤射だった」と回答し、賠償等は全てロットフェラー家に請求されたし、との事だった。

その回答を知ったバーナードは、ゴミ箱を蹴り飛ばして怒鳴った。
「誤射で大陸間弾道弾がイギリスまで飛んできたと言うのか。ロスマイルド家の屋敷に落ちたと言うのか」
バーナードのその怒鳴り声も、周りの者には奇声にしか聞こえず何を言っているのかわからなかった。
周りの者を見回してその事に気づいたバーナードはキーボードを踏んだ。
PC画面上には「俺の言葉を翻訳する機械はまだできないのか」と記載されていた。
配下の者がすぐに調べて言った「完成しておりますが、いつ御持ちいたしましょうか、との事です」
「すぐに持って来させろ、しかしボディチェックを念入りにな」

数時間後、バーナードの口元にマイクと胸のポケットに小型スピーカーが着けられ、外部PCでバーナードの声紋等が入力解析され機械音声が発せられた。高性能PCのおかげでバーナードの奇声は、誰でも聞き取れる音声になった。
バーナードは喜んで言った「よく作ってくれた、礼を言う、、、義手もできるだけ早く頼む」
製作者に十分な礼金を持たせて帰すとバーナードはモーガンに言った。
「御支配様亡き後、今までロスマイルド家をよく取り仕切ってくれた、改めて礼を言う。
今後は俺がロスマイルド家を取り仕切る。モーガンは俺の相談役になってもらいたい」
モーガンはバーナードの前に膝をつき恭しく言った。
「御世継ぎ様、改め御支配様、身に余る御言葉感謝いたします」
この時が事実上のロスマイルド家新支配者誕生だったが、その公表は半年後になった。


そのころ、うだつが上がらない一匹の蟻は相変わらずネット検索をしていた。そこへ御老が新情報を持って来た。
「西田殿、ロットフェラー家の支配者ダイバットが逮捕された事は知っていような」
「はい、数日前にニュースを見て知りました」
「そうか、実はその後ロスマイルド家の屋敷が爆破された事と、家長のロベルトがコロナウイルスの肺炎により隔離されているという情報が、イギリスに潜ませている我が組織員からもたらされたのじゃ。
じゃが、組織員が破壊された屋敷を実際に見たわけではなく、ロスマイルド家の者が話していたのを聞いただけということらしい。
ロベルトの肺炎の方はロンドンでは公にされているそうじゃが、日本までは伝わっていないようじゃ」

西田は驚いて言った「えっ、ロスマイルド家の屋敷が爆破された、、、それとロベルトが隔離されている、、」
西田はロベルトや屋敷の事を聞いて、初めて屋敷に連れていかれて見た遊園地のような華やかで豪華な屋敷を何故か懐かし気に思い出した。
同時にバーナードやシルルそして威厳のあるロベルトの事も、、、
(あのロベルトが肺炎で隔離されている、、、イギリスでもウイルスが蔓延していることは知っていたが、まさかロベルトまで、、、それと訝しいのは屋敷を爆破された事とロベルトの隔離は何か関係があるのだろうか、、
ん、まてよ、、、屋敷を本当に爆破されたなら怪我人や死人は出なかったのだろうか、、、)

「西田殿、何を考えておる、何か気になる事でもござるのかな」
「えっ、ええまあ、、、本当に屋敷を爆破されたなら死人とか怪我人とかが出なかったのかと、、、それに屋敷を爆破されて黙っているようなロベルトではないでしょう。当然犯人への報復措置がとられるはず、、、
それさえできないほどの重病なのか、もしくは既に、、、」
「うむ、、、確かにな、、、分かった、組織員にもっと詳しく調べさせよう。
で、ロットフェラー家ダイバットの逮捕についてはどう思う。ロットフェラー家はこのまま潰れてしまうかの」
「、、、あれほどの大組織、支配者が捕まったところで潰れるとは思えません。恐らく後続の者どもが、これ幸いとばかりに出てきて争って次の支配者になろうとするでしょう。願わくばそうやって内輪もめをして潰し合ってくれれば嬉しいのですが、、、それとも、この際ハメリカ大統領が徹底的に潰してくれるか、ですね」

「ふむ、なるほど、、、相変わらず貴殿の分析は見事じゃの。
話は変わるが、そろそろ貴殿にもいろいろ動いてもらおうと思うておるが、ウイルス蔓延がのう、、、」
「俺、いえ私はウイルスなどに感染するようなヤワな男ではありませんし、小野寺殿によれば良いマスクもできているとかで、そのマスクがあれば私はどこへでも行きます」
「ふむ、頼もしい限りじゃ、マスク入手の件も含め影の総理殿に御話しいたそう」
そう言って御老は去って行った。一人になると西田は小さくため息をついてから考えた。
(ここに居るのも飽きてきたところだ、、、さて、どこへ行かされるのやら、、、)

数日後また御老が西田の所へ来て言った。
「西田殿、新情報じゃ、、、先ずロスマイルド家の屋敷の方じゃが、工事車両が頻繫に出入し建築材料等も多量に運び込まれておるそうじゃ、屋敷爆破は本当じゃろう。
それと、ロベルト隔離じゃが、あれ以来なにも公表されておらんで、どうなっておるのかさっぱり分からんそうじゃ。ただ、ロベルトからと言う事でロットフェラー家への損害賠償請求等いろいろ指示は出ているそうじゃがの。まあ、指示を出しているのがロベルトだと確認されたわけではないから何とも言えんが、、、
それと、ロスマイルド家専用の教会に大型トラックで数十の棺が運び込まれたのを見たと言う証言があるそうじゃ。本当ならやはり屋敷爆破時に死人が何人も出ていたのじゃろう。
それから西田殿は数日後、早苗とハメリカに行ってもらいたい。詳細は道中で早苗に聞いてくれ」

「へ、ハメリカに、、、まあどこへでも行きますが早苗と一緒、、、」
「ん、早苗では不服かの、早苗は英語堪能じゃが、貴殿の英語はお世辞にも達者とは申せまい。一緒に行って教えてもらうと良いじゃろう」
「は、はい分かりました、では、外交員の早苗で」
「ふむ、外交員の早苗が良いのか、てっきり艶めかしいくノ一の早苗かと思っておったが、分かった、伝えておく。おう、そうじゃ、例のマスクも入手済みじゃから持って行ってくれ」
そう言って御老は去っていった。


翌々日の午後、西田はニューヨークへ向かう機内で早苗から今回の訪米の目的を聞かされていた。
「、、、と言う訳で影の総理は、西田さんが大統領と直接会って、西田さんの目で大統領を見て信用できるかどうかを判断して欲しい。そして信用できると確信したなら親書を手渡し、親書の回答もその場で聞いてくるようにと、、、」
「お、おい、大統領が信用できる人物かどうかを、影の総理は俺に見極めろと言うのか」
「はい、一口で言えばそうなります」
「『一口で言えばそうなります』って言って、、、そんな大役をなぜ俺なんぞに、、、第一、大統領が俺なんぞに会ってくれるはずがないだろ、影の総理は何を考えているんだ」

「大統領と会えるようには私が手配しますのでご心配には及びませんわ。それにいずれ影の総理になられるのだから、西田さんは今から世界トップレベルの人たちと会っておく必要があるとの、影の総理の御考えです」
「げっ、、、な、なんだと、お、俺が影の総理になるだと、、、」
「えっ、西田さんはその事まだ聞いていなかったのですか?、、、御老も私に『西田殿は御神の加護を授かりし者じゃ、いずれ影の総理を引き継がれるじゃろう。じゃから今のうちに無名のうちに色々な経験をしておかねばならんのじゃ』と申されていましたわ」

西田はめまいがしてきた。
(お、俺が影の総理になるだと、、、あ、あの、糞ジジイ、、、俺は一度も聞いていないぞ、、、)
「さて、西田さん、、、ニューヨークまではまだたっぷり時間があります。それに、こんなガラガラの機内、しかもビジネスクラスは二人だけ。二人がナニをしても誰も気づきませんわ。
私、将来影の総理になられる男性と深い関係になっていたいのです、お分かりでしょう、、、
外交員の早苗なんて退屈でしょう 、私、新妻の早苗に変わりましょうか、それとも妖艶なくノ一に、、、」
そう言って早苗は温かい手で西田の手を引いた。西田の額から脂汗があふれ出た。


空港内で入国審査官に言われてカメラ前に立った時だけ外したが、それ以外は日本からずっとマスクを付けていた二人は、ニューヨーク市内のホテルでも外さなかった。
しかし、コロナウイルスが蔓延しているのにここの人々は大半がマスクをつけていなかった。
西田と早苗は不快に感じたが、今となっては銅繊維が使われているこのマスクを信頼する以外になかった。
まあ二人とも40歳代30歳代で、例えウイルスに感染しても命を落とすほど重病になるとは思えなかったが。

部屋に荷物を置いてから早苗が言った。
「大統領に会うのは明日の夜だからそれまではのんびりしてて良いです。それとも観光しますか?」
観光など鼻からする気がく、それどころか時差ボケで憂鬱だった西田は、とにかく風呂に入って眠りたかった。しかし早苗の存在が目ざわりだった。なぜ二部屋借りなかったのか。
その事を言うと早苗はあっけらかんとして言った。
「私のパスポート見なかったのですか、二人は夫婦として入国しているのですよ、ホテルも当然ツインルームでしょう。あ、私は西田早苗ですから忘れないで下さいね」
西田は言葉を失い、着替えを抱えて逃げるようにバスルームに入った。



翌日の夜、疲れた顔で執務控え室に入ってきた大統領は、ソファーに座っている一組の男女に気づいて驚きの声を上げた「君たちは何者だ、ここで何をしている」
男女は立ち上がり深々と頭を下げた後、数秒間マスクを外して顔を見せてから女性が完璧な英語で言った。
「驚かせて申し訳ございません大統領閣下、日本の影の総理の使いの者です。時節柄マスクを着用させていただきます 。誠に恐れ多い事ながら5分間だけ御時間をくださいませ」
「なに、日本の影の総理の使いの者、、、そんな者と会う約束はなかったはずだが、、、まあ良い、何用だ」
大統領はそう言って男女の向かいのソファーに座ったが、その時の動作には警戒心のかけらも見当たらなかった。まるで突然訪ねて来た友人に対するような親しみのこもった態度にさえ見えた。

その態度を見て西田は即座に判断した。スーツの内ポケットから封筒を取り出し恭しく大統領に手渡した。
大統領は無表情のまま開封して中の手紙を読んだ。そしてなおも無表情のまま言った。
「このような事で私の回答を求める必要はない、好きにしたまえ」
西田と早苗は立ち上がり深々と頭を下げた。それから早苗が言った。
「大統領閣下、夜分遅くに御無礼いたしました、これで失礼します」
「なんだ、もう帰るのか、ワシは構わんからもう少し話していけ」
「ありがとうございます。しかし止めてある監視カメラが作動しますので、御名残り惜しいですが、これで」
そう言うと早苗は西田を促して出て行った。
二人が出て行った後、大統領は秘書を呼んで怒鳴った「ここの監視カメラシステムはどうなっているのか」


ホテルの部屋に帰ってきてから早苗が聞いた「親書にはなんと書かれていたのですか?」
「なに、お前は知らなかったのか『新型ミサイル開発を許可してください』という内容だ」
「えっ、新型ミサイル開発、、、それを大統領は、、、」
「ミサイルの破壊力までは書かれていなかったが、まさか自国を脅かすほどのミサイルだとは考えていなかったのだろう、、、さて、この結果がどうなるか、だ」
「そんなに凄いミサイルなんですか」
「そんな事は、影の総理組織に新参者の俺なんかよりもお前の方が詳しいだろ」

「私の本業は要人暗殺ですわ、ミサイル開発は専門外分野です」
「、、、要人暗殺なんて言葉を平然と口にする、、、お前はどんな神経しているんだ」
「でも、それが私の本業ですから、他に言いようがありませんでしょ。それとも私の肉体を使った要人陥落とでも言った方が良いでしょうか。私が肉体を使えば十中八九男性を落とせますわ。西田さんも試してみ」
西田は思わず早苗の言葉を遮って言った。
「わ、分かった、もういい。それより何故、防犯カメラだらけの 大統領執務控え室に入れたのか知りたい」
「簡単ですわ、カメラ室に居る仲間が連絡した時間は防犯カメラを止めていたのです。現在の警備員は防犯カメラばかり見ていて、自ら見張らないので簡単に侵入できますわ」
「、、、」西田は言葉が出なかった。
すごすごと自分のベッドに入って、また今夜も早苗に襲われない事を祈りながら眠りについた。

翌朝、部屋でモーニングセット後のコーヒーを飲んでいた西田の向かいの椅子に座って早苗が言った。
「私、2~3日出かけますわ。西田さんはここに居てくださいね」
「出かける?、、、」
「ええ、私の本業の方、、、心配しないでね私の成功率は99%だから、、、
私の1%の失敗は西田さんただ一人。私に襲われて生き残ったのは西田さんだけですわ。西田さんは本当に御神の御加護を授かっているのかも知れませんわね。
あ、そうそう、ここに居られる間にテレビニュースを見ておくと良いですわ。日本では決して報じられないような事もありますから。ただテレビ局はロットフェラー家に支配されていますから、どうしてもロットフェラー家擁護の内容になっていますけど、、、
英語が良く分からなかったら録画しておいてください。帰ってきたら訳してあげますから」
そう言ってから早苗は出て行った。西田は何の予定もなかったのでテレビを点けた。

テレビニュースを見ていると、どの局もウイルス感染について報じていたが、そのニュースの後で地下室に監禁されていた数千人の児童が救出された事、その後数万人分の腐乱死体も発見された事などが報じられた。西田はその映像を見て衝撃を受けた(こんな小さな子どもを、何のために監禁、、、)
西田のその疑問の答えもニュースで報じていたのだが、西田の英語力では、Adrenochrome 等の意味が分からずニュース全体の半分くらいしか理解できなかった。
西田は、子どもたちを監禁した理由を知りたくなりそのニュースを録画した。
(、、、rape などという単語もあったが、まさかあんな小さい子まで、、、一体ハメリカはどうなっているんだ、、、こんなニュースは日本では報じられていないが、なぜ日本で報じられないのか、大犯罪ではないか、、、)

西田が寝食も忘れてニュースを見ていると、ロットフェラー家支配者ダイバットが逮捕された事や、イギリス、ロスマイルド家の改築工事の事なども報じられていた。
だが、英語が不得意な西田にはダイバット逮捕の理由や、ウイルス感染が流行っているこの時期にロスマイルド家がなぜ改築工事をしているのか等が分からなかった。西田はこのニュースも録画した。
(外国のニュースを見ても言葉が理解できないと、、、不愉快だが早苗に教えてもらうしかないな、、、
それにしても日本では全く放送されていない内容ばかりだが、日本のテレビ局はどうなっているのだ、、、)
いつしか西田は、早苗が帰って来るのを待ち望んでいた。そして自分のその気持ちに気づいて苦笑した。

その早苗は3日後に、アバズレ女の早苗のまま帰ってきた。そして部屋に入ってくるなり悪態をついた。
「なんだ西田、部屋にいたなら何故チャイムに応答しなかった」
西田は面食らった(なんだ、こいつ、どうしたんだ)と一瞬思ったが、以前河原で襲われた時のことを思い出し(そうか、また変身しているんだな、やれやれ)
西田は「外交員の早苗になれよ」と言ってテレビニュースの録画再生の準備をした。
ふくれっ面のまま早苗はバスルームに入ったが、15分ほどして出てきた時には外交員の早苗になっていた。

西田はその早苗に言った。
「疲れていないならこのニュースを訳してくれ、そもそもAdrenochromeってなんのことだ」
早苗はそのニュースを最後まで見終えてから言った。
「、、、これは現在欧米で大問題になっている児童誘拐監禁その上、虐待した上でのアドレノクロム抽出事件についてのニュースです」
「児童誘拐監禁までは俺でも分かるが、その後のアドレノクロム抽出が何のことか分からない。アドレノクロムとは何なんだ」

「アドレノクロムは現存する中では最高の麻薬です。ただこの麻薬は児童の脳にある松果体という小さな器官でしか作られないのです。しかも児童が虐待されストレスのために異常に分泌された物です。
犯されたり虐待されたりして泣き叫ぶ児童の目から松果体まで管を刺してアドレノクロムを抽出します。
しかし児童が成長してアドレノクロムが出なくなれば殺されます。その死体が数万と発見されたのです。
アドレノクロム抽出に関わっていた人たちは当然のこと、その麻薬を使っていた有名人や富裕層の人たちも次々と逮捕されています」
「な、なに児童を虐待して分泌させた物を使って作った麻薬だと、、、生きている子どもの目に管を刺して抽出する、、、しかも数万人の死体が見つかっている、、、」

西田は言葉を失った。
(生きている子どもから無理やり抽出させて作った麻薬、、、欧米の有名人や金持ちはそんな麻薬を使って楽しんでいたのか、、、人間じゃねえ、、、奴らは人間じゃねえ、、、悪魔だ、奴らは悪魔だ、、、)
驚愕した西田の精神状態を無視して早苗はさらに淡々とした口調で言った。
「児童が救出された地下室いえ地下トンネルは、ハメリカの都会を結ぶ全長数千キロのトンネルの一部分ですが、核シェルターを兼ねた広い場所が数百箇所もあり、それ以外にも政府に知られていない、富裕層が勝手に作った秘密の地下室等で児童監禁アドレノクロム強制抽出麻薬製造死体遺棄が行われていたのが確認されています。
今回逮捕された有名人や富裕層の面々ですが、その中でも特に注目されるのがロットフェラー家当代支配者のダイバットの逮捕です。
ダイバットほどの大物なら、ありふれた犯罪なら御金で何とかできたでしょうが、アドレノクロム抽出及び麻薬製造を指令していた事が実証されればダイバットといえど死刑よくて無期懲役だと報じられています」

「御老からダイバット逮捕は聞いていたが、その理由は麻薬製造指令容疑だったのか、、、
それにしても子どもの目から管を刺して抽出した物で作った麻薬、、、
信じられねえ、、、本当なら人間のすることじゃねえ、、、」
「本当にそうやって作った麻薬です。しかしアドレノクロム抽出及び麻薬製造に関わっていた彼らには罪の意識はありません。
なぜなら彼らにとっては、自分たちの家族や仲間以外の人間はみな家畜としか認識していないからです。
彼らにしてみれば『家畜から有益な物を抜き取って何が悪い。自分の家畜を殺して何が悪い。人間はみな家畜を殺して食べているじゃねえか』という考えなのです。
つまり『他人は、自分たちとは同等の人間ではない』という考え方が根本的な犯罪原因です、救いようがない人たちですわ」

西田はまた言葉を失った。
(他人は、自分たちとは同等の人間ではない、だと、、、てめえたちこそ人間ではない!てめえたちは悪魔だ!。決して許されない鬼畜だ。こんな鬼畜どもは皆殺しにするべきだ、、、許せん、、、許せんぞ!)
いま西田の心の中に激しい憤りが火山の如く噴火した。
そしてその噴火に核爆弾を投下するような事を早苗は平然と言った。
「救出された児童の中に、日本人の子どもも千人近く含まれていたそうですが、二本政府は国内向けには何も公表していないそうです」

「なんだと、どういうことだ!日本の子どもも居るというのか!」
耳元近くで怒鳴られ早苗は一瞬顔を背けたが、なおも淡々と言った。
「昨日、御老に聞いたのですが二本政府は、今回の事件について日本国民にまだ何も知らせていないようです。ついでですが日本国内で毎年数万人の行方不明になっている子どもたちがいる事さえもメディアは報じていません」
「なに、日本国内で毎年数万人の行方不明になっている子どもたちがいるというのか、、、噓だろ俺はそんなこと聞いたこともないぞ、、、それは本当の話か、、、そんなに多くの子どもたちが行方不明、、、まさか」

「警察庁が一応『行方不明者の状況』で広報していますが、それを見ても9歳以下で毎年ほぼ千人、10歳代の子どもは毎年1万6千人から1万7千人の行方不明者がいます。しかしメディアは一切報じていません。
その行方不明の子どもたちの何割かがハメリカまで連れてこられ地下室でアドレノクロム抽出、10歳代の子どもは恐らく性交奴隷として、、、」
西田は怒りで頭がクラクラしてきた。
(悪魔め、、、鬼畜め、、、日本の子どもたちまで犯し虐待してアドレノクロムを抽出し殺していたのか、許せん、許さんぞ、鬼畜ども、、、)

その後、西田は「富裕層の犯罪」と題し以下の内容でコラムを書き、早苗に英訳してもらってネット公開した。
『アドレノクロム、この忌まわしき麻薬  
ルーシーの両親は決して裕福ではなかったが、少しずつ御金を貯めてルーシーの4歳の誕生日に有名な遊園地に連れていってくれた。ルーシーの大好きな観覧車に乗る前にママと公衆便所に入った。便所から出たが、手洗い場で待っていると言ったママはいなかった。ママを探していると、いきなり鼻と口をハンカチのような物で塞がれ気を失った。気が付いたら両手両足を縛られ、口にガムテープを貼られて薄暗い所に入れられていた。すぐ近くで男同士の会話が聞こえた。「上玉だろ、奮発してくれよ」「いいだろう3千ドル出そう」「もう一声」「調子に乗るな、てめえは今月もう5人目じゃねえか1万ドルは超えてるだろう。とっとと行きな」「ちぇ」その後、車が遠ざかる音がし、ルーシーの乗せられている車も走り出した。しばらくして車が止まり、ルーシーは車のトランクから出され別の車に乗せられた。その車は音もなく走り出した。辺りは真っ暗で何も見えなかった。しばらくして車が止まるとシャッターが上がる音がした。ルーシーは大男に抱えられ車から出されてシャッターの内側の小部屋に入れられ裸にされたが、すぐに綺麗な服を着せられ子供部屋のような楽しげな明るい大部屋に入れられた。そこにはルーシーと同じくらいの女の子が数十人いたが、みんな不安そうな顔で座っていた。大声で泣き出した子がいたが、すぐに大男が入ってきて「泣くな」と言って腹を蹴られて呻き声に変わった。それを見て、泣きたかったルーシーはじっとしていた。しばらくして大男と一緒に年配の男が入ってきて、見回した後で2人の女の子を連れて出て行った。またしばらくして大男と中年の男が入ってきて一通り見回した後、中年男はルーシーを指名した。ルーシーは怖くなって後ずさりしたが大男に捕まり、後ろ手に縛られて中年男に渡された。中年男はルーシーを後部座席に座らせると音のしない車を走らせてトンネルの中をどこまでも走り続けた。不安と緊張のせいでかいつの間にかルーシーは眠っていたが、シャッターの上がる音で目覚めた。車が内側に入るとすぐにシャッターが閉められた。中年男はシャッターを閉めた白衣姿の老人に「この家畜を固定台に据え付けておけ、貫通式をする」「承知いたしました御主人様」中年男が居なくなると、白衣姿の老人はルーシーを奥の部屋に連れていき、裸にして十字架のような台に両手を縛り付け、額と首もバンドで固定した。ルーシーは足をバタバタさせ「離して」と泣き叫んだが、老人は無表情のまま去って行った。少し経って中年男が裸で入ってきて、ルーシーを眺め「俺の最高の楽しみだ」と言ってニヤリと笑いルーシーの足を開かせた。数秒後、股間の激痛に耐えかねルーシーは気を失った。次に気がつくとルーシーは体も足も固定され、固定台のままうつむけにされていた。頭も体も動かせず、目だけを動かせたが左目が痛かった。そして左目が見えなくなっているのが分かった。しかもその左目には細いプラスチックの管が差し込まれてあり、管の中をピンク色の液体がほんの少しずつ流れているのが右目で見えた。しかしそれ以外に見えるのは床のタイルだけだった。しばらくして老人が来て口の中に5ミリほどの管を刺しこみながら言った。「やれやれ煩わしい事よ、これから毎日2回流動食をやらねばならん、、、3年か5年か、、、早く死ねば楽になるが、死んだらまた別の子が、、、」それからどれほど経ったのかルーシーには分からなかった。またあの中年男が来て老人と話しているのが聞こえた。「アドの出方はどうだ」「日に7CCくらい」「なに7CCだと、もっと多く出せんのか、他の所では10CCとか言っているぞ」「では、もう少しストレスを与えれば、、、」「そうか、では俺が直々に与えてやる、固定台を立てて足のバンドを外せ。その後、お前は隣部屋に行け」「承知いたしました御主人様」固定台を立てて老人が去ると、中年男はルーシーの足を開かせた。またあの激痛がしてルーシーは気を失った。そんな事がどれほど繰り返されたのか、固定台に何年縛り付けられていたのか。ある日また中年男と老人の話声が精神異常者になっているルーシーに聞こえた。「もういくらストレスを与えても抽出できなくなりました。数日前に爪をはがしても泣き声も出しませんでした。気が触れているようです。この辺りが限界かと」「そうか、分かった、別の子を連れてくるが、その前に最後の楽しみを味あおう、固定台を立てて首にロープを付けておけ」「承知いたしました御主人様」その後、固定台を立てて目や口に差し込まれていた管を抜かれ、額と首のバンドも外されたが代わりに首にロープをかけられ、ロープの片方の先端は天井の滑車に通され老人がその先端を握った。中年男がルーシーの足を開かせながら言った。「俺が引っ張れと言ったらすぐに引っ張るんだぞ」「承知いたしました御主人様」、、、数十分後、ルーシーは息絶え、遺体はゴミ袋に入れられて専用の場所に捨てられた。その後、あの固定台には別の女の子が縛り付けられた。。。  
この話を妄想と一笑するのは皆さんの自由ですが、生きている子どもたちからアドレノクロムが抽出され麻薬として販売されているのは紛れもない事実です。そして100CCが千ドルもする麻薬を購入して楽しんでいる有名人や富裕層の人たちが居る事も紛れもない事実です。この事実を皆さんをどう思いますか。
これでもハメリカは正義の国と言えますか。ハメリカという国はいつから、御金さえあれば人殺しさえもできる国になったのですか。自分たちが快楽を得るためなら、他人を殺しても許されるような国と国民でも良いのですか。ハメリカという国の中でこのような事をして国として恥ずかしくないですか。人間として恥ずかしくないですか。
この忌まわしき麻薬製造に関わっている人たち、この忌まわしき麻薬を購入して楽しんでいる有名人や富裕層の人たちは本当に人間ですか。悪魔ではないのですか。
悪魔であるなら、本当の人間は悪魔狩りをするべきではないですか。ハメリカという国に悪魔は要らないのではないですか。ハメリカという国から悪魔を排除するべきではないですか。
私は、ハメリカ国民の心の中に良心があると信じたい。良心あるハメリカ国民なら必ず、悪魔を排除すると信じたい。されど、、、』

ウイルスのせいで室内でネットを見ている人が多かったせいもあってか、コラムはネット公開されて1時間で観覧者数が1万人を超え、1日後には100万人を超えた。
コメント欄は、有名人や富裕層の人たちを罵倒するコメントで溢れた。
翌日の大都会の中心部ではマスクをしていない群衆がデモを始めた。中には高級ブランド販売店や財閥のビルに投石する者たちも現れた。そのような者たちはすぐに増え暴動が始まった。
警察官が出動した。しかし暴動を鎮圧しょうとはしなかった。ただ遠巻きにして見ているだけだった。
警察官でさえ制服を脱いで暴動に加わりたいと思っていたのだ。上部からの暴動鎮圧命令に従う警察官など一人もいなかった。暴動は野放しにされ数十万人に膨れ上がった。

市長は大統領に軍の出動を求めた。しかし大統領は出動させなかった。代わりにテレビで緊急声明を述べた。
「良識あるハメリカ国民の皆さん。暴動を止めてください。そして話し合いましょう。
私は皆さんとハメリカの現状について話し合いたいのです。皆さんの中から5人の代表者を選んでください。私はその5人と公開討論をしたいと思います。皆さんが暴動をせざるを得なくなった原因について公開討論しましょう」
大統領のこの声明を見た者たちが声をかけ合い、その日のうちに暴動は収まって5人の代表者が選ばれた。選ばれたのは市議会議員、薄給の会社員、高級ブランド店主、有名大学の優等学生、そしてホームレス代表者の5人。

大統領とマスク着用の代表者5人の緊急公開討論が始まった。先ず大統領が言った。
「皆さん現在わが国にはウイルスが蔓延し死者も出ている。
このウイルスは感染力が強く2メートル以内に近づけば感染すると言われている。そんな危険な状態のわが国で、皆さんは何故集まって暴動を起こすのか?。
故意に感染者を増やしてパンデミックを起こさせ医療崩壊させたいのか。医療費高騰で国家経済破城を望んでいるのか?。もしそうなら私は大統領として国家転覆罪で皆さんを逮捕せざるを得なくなる、、、
皆さんの意見を伺いたい」

「大統領閣下、私は薄給会社員で医療保険もありません。ですのでウイルス感染をとても恐れています。
しかし、この度のアドレノクロム事件はとても座していられません。とうてい見過ごすことのできない事件です。幼い子が誘拐監禁され、生きたままアドレノクロムを抽出されたあげく殺される。しかもそのアドレノクロムで作った麻薬を有名人や富裕層の人は楽しんでいる。これは悪魔の行為としか言いようがありません。
このような悪魔の行為がこのハメリカ国内で起きているのです。とても許せる事ではありません。
私は非力ながら、このような悪魔の行為をする者を排除したくてデモに参加したのです」

「私も同様です。私はここの市議会議員ですが、アドレノクロム事件を知って、人間として決して許されない事だと憤りを覚えてデモに加わりました。
アドレノクロム事件に関わっている人たちは人と言えません。正に悪魔です。この国から排除するべきです」
「僕も同感です、事件を知ってとても驚きました。この近代国家のハメリカでアドレノクロム抽出などという悪魔的行為が現在も繰り返されていたとは信じがたいです、ショックで勉強もする気になれません」
「かと言って商店を破壊しても良いのか!高級品を売っているからといってワシの店を破壊する資格がお前たちにあるのか!お前たちは街の破壊屋でしかない、暴漢でしかない」

「ふん、みんな金持ちが悪いんだ。金持ちが、自分たちだけが大金を得られるように社会システムを作り変えて甘い汁を吸っている。その上、金にものを言わせて子どもを誘拐し虐待、、、
金さえあれば何をしても許されると勘違いしているんだ、正に悪魔としか言いようがねえ、、、
だが、襲うならそんな悪魔のような金持ちを襲うべきじゃあねえのか、普通の商店を襲って何になる」
このホームレス代表の言い分を聞いて店主が顔をほころばせ親指を立ててホームレス代表に見せた。
だがホームレス代表は無表情のまま大統領を見ていた。

大統領は少し間をおいてから言った。
「、、、アドレノクロム事件に対する皆さんの憤りが伝わってきました、、、実は私も全く同じ気持ちです。皆さんと同じ憤りを抱いています、、、ちょっとその前に、皆さんはアドレノクロム事件についてどうやって知ったのですか?テレビニュースの内容だけではそれほどの憤りは生まれないように思うのだが、、、」
「大統領閣下、ネットを見てください。大変なことになっていますから『富裕層の犯罪』で検索してください」と市会議員が言うと大統領は指を鳴らして秘書を呼びタブレットを見た。
そして『富裕層の犯罪』を読み終えた後もじっとタブレットを睨んでいたが、厳しい表情で話し始めた。

「これを読めば、、、正義感の強い皆さんが憤るのは当然です、、、皆さんに暴動参加を促す、良くできた文章です、実に良く書けている、、、」
「僭越ながら大統領閣下、今は文章のでき不出来を言っている時ではありません。
ある犯罪者集団が子どもを拉致監禁して、生きている子どもたちからアドレノクロムを抽出し、その後、殺していたという事実をハメリカという国がどう対処するのか、悪魔としか言いようがないこの犯罪者集団を大統領閣下がどのように処罰するのか、大統領閣下が何もしないなら、ハメリカ国民が団結して正義の名のもとにこの犯罪者集団を排除するべきではないのか?今はその事について討論したいのです。
この犯罪者集団に対して大統領閣下がどうする御考えなのかお聞きしたい」

「皆さんに言われるまでもない無論、私は厳罰をもって対処する。この犯罪者集団を一人残らず逮捕してみせる。このような犯罪が我が国ハメリカで起きている、これほど不名誉なことはない。
徹底的に捜査しこの事件に関わった全ての犯罪者を逮捕する。この事を皆さんに約束する」

「ふん、犯罪者だけ逮捕したってハメリカは良くならねえ、、、
ハメリカに存在する数千万の貧困層を無視して金持ちにばかり儲けさせる現在の社会システムを変えないとハメリカは良くならねえよ、、、
生きることに追い詰められた貧乏人の『金儲けのためなら何だってする、金のためなら子どもだって虐待死させる』という悪魔のような心を何とかしない事には犯罪者は決して無くならねえ。捕まえるいっぽうから新たな犯罪者が出てくるのが分かりきっているさ、、、

悪魔としか言いようがない人の心から変えないと、この国は決して良くならねえ。
そのためには先ず貧困層を無くすことだ。貧乏人に仕事を与えて暮らせるようにすることが一番必要なことなんだよ。能書きは要らねえ、貧乏人に仕事を与えろ。
同時に、金さえあれば何でもできると勘違いしている金持ちのクズどもを逮捕しろ。
それができなきゃ、この国はいつまでたっても良くならねえ」

大統領は無言のまましばらくホームレス代表を見つめていた。その眼差しには温かみが宿っていた。
「、、、正に君の言う通りだ、、、人びとの心に潜む悪魔的感情を無くさせないとこの国は良くならない。
だが、それには時間がかかる。
『金儲けのためなら何だってする』これの根本的原因は貧困だ、だから先ず貧困を無くさねばならん。
社会システム改革も緊急の課題だ。しかしこれも時間がかかる、一日や二日でできる事ではない。
しかしこれらの事を私は何が何でもやり通したい。どうか皆さん、私にもう少し時間をください」
大統領にそう言われると5人はそれ以上なにも言えなくなった。
数分の沈黙の後、大学生がひょうきんな声で言った。
「僕は大統領閣下を信じます。大統領閣下の言われた事を信じます」
途端に他の4人が拍手した。

公開討論が終わった後、大統領はホームレス代表を呼んで言った。
「君は何故ホームレスなどやっているのか、君には才能がある。私の所でその才能を活かして貧困対策にあたってくれないか」
ホームレス代表は夢でも見ているような表情で言った。
「、、、身に余る光栄です、しかし俺など、、、」
「よし話は決まった」そう言ってから大統領は秘書を呼んで耳打ちした。
その後、秘書はホームレス代表を連れていった。



テレビの公開討論の反響は大きかった。大統領の人気が急上昇した。
(これで二期目も安泰だろう、、、俺としては、もっと暴動が続いてロットフェラー家焼き討ちとかもやって欲しかったが、、、公開討論で暴動を止めた大統領を賞賛するべきか、、、)西田はそう思った。
「さて、日本に帰るか、早苗いつ帰国する」
その時ドアのチャイムが鳴った。西田が行こうとするのを遮って早苗がドアに近づき覗き穴を見た。
ドアの向こうには警官が立っていた。
早苗は不審には思ったが逃げ出す必要はないと判断してドアチェーンを付けたままドアを開けて言った。
「何か御用でしょうか」
「ハメリカ大統領が御呼びです」

驚いた早苗が一瞬西田の方を振り向いた瞬間、鉄切り鋏でドアチェーンを切って警官二人が入ってきた。
早苗が必殺の手刀を叩き付けようとするのを背後から西田が止めた。
警官の後から入ってきたスーツ姿の男が、大統領直筆のメモ書きを見せながら煩わしそうに言った。
「やはり只者ではなかったな西田友一と早苗、群衆扇動と公務執行妨害で逮捕する、、、と言うのは嘘で、本当に大統領が御呼びだ、、、
全く大統領の気まぐれには手を焼くぜ。抵抗なんかせずおとなしく一緒に来てくれ」
西田と早苗は同行した。

大統領出務控え室で二人は長く待たされた。
二人の背後には屈強な大男が二人立っていたがその二人も待ちくたびれた顔をしていた。
しかし西田と早苗は「またここへ来るとはな」「そう縁があるみたいですわ」などと話しながらくつろいでいた。
この控え室は数日前に忍び込んだ所だったが、まさかまた来るとは思ってもみなかったのだ。

やがて大統領が気忙しそうな顔で入ってきて「メールで群衆をそそのかし、、、」と言いかけて二人の顔を見て驚いた顔で言った「君たちだったのかね、、、」
大統領は二人の向かいのソファーに座り厳しい表情で言った。
「君たちの目的は何だ、なぜ群衆を扇動した、、、返答次第では君たちを逮捕せねばならんが、日本の影の総理の命令か」
早苗からの通訳を聞いて西田は静かに言った。
「大統領閣下、この度のメール配信は影の総理は全く関係ありません。
私がテレビニュースでアドレノクロム事件を知り怒り心頭に発してその想いをメール配信しただけなのです」

「なに、激怒したからネット配信しただけだと、、、信じられん、、、そんな文章で何十万人もが暴動を起こすとは、、、いや、確かにあの文章を読むと憤りが湧いてくる、、、君は天才コラムニストか、、、
それとあの文章を読んで私は、数か月前に起きたデモを引き起こしたメール配信を思い出したのだが、文章構成が似ていた。まさかと思うが、あの時のメール配信も君たちだったのか」
エドワードと作ったあの文章については今は何故か黙っている方が良いように思った西田は「いえ、それは知りません」と即座に否定した。
すると大統領は一瞬「噓言うな」という顔で西田を見てから「まあ、その事はいい、だが我が国民を扇動するのは止めてくれ。これ以上ウイルス感染者を増やしたくないのだ。これ以上医療費が増えるとイギリスだけでなく貴国日本からも援助をいただく事になる」と言った。

西田は(この大統領に噓は通じない)と思ったが平然と言った。
「私は、群衆を扇動するつもりであのコラムを配信したのではありません。純粋に怒りのせいです。
日本の子どもたちまで含まれていた事を知り、あの悪魔どもを許せなくなったのです。
日本からこの国までどうやって連れて来たかは知りませんが、そうまでして金を得ようとする悪魔どもを私は到底許すことができませんでした。
大統領閣下、何故この国にはそんな悪魔が存在するのですか?子どもを虐待し殺してまでして金を得ようとする悪魔、自分たち以外は家畜と見なし、殺しても何とも思わないような悪魔が何故この国に存在するのですか?ハメリカは人権尊重の国ではないのですか?この国は子どもたちには人権はないのですか?」

「、、、君にそう言われても返す言葉もない、、、私は恥じ入るばかりだ、、、
だが私はこの国の大統領だ、何が何でもこの国を良くして行かなければならん。悪魔どもを排除し、他国から非難されない立派な国に変えていかねばならない。私はそのために最善を尽くす。
君も日本の影の総理の一員なら、日本を良くするために努力してくれ」
「御言葉を返すようですが大統領閣下、日本を良くするためと言われるなら、もういい加減に陰で日本を操るのは止めてください。戦後75年も経っているのに今だにジャパンハンドラーを使って日本から富を収奪している。正に大国による弱国虐めです」

「、、、まさか君に『弱国虐め』などと言われるとは思ってもみなかった、、、
大統領が私で良かったな、他の大統領なら君は生きて帰れなかっただろう、、、
だが良く言ってくれた。久しぶりに気迫の有る日本男児に出会った、、、
ジャパンハンドラーの件は考えておく。だが影の総理に言っておけ、日本人だけで日本を守れる力があるのか、とな、、、よし、今夜はここまでだ、またいつか会おう、、、おい、二人を丁重に送っていけ」
西田と早苗は立ち上がり深々と頭を下げた。
屈強な大男がドアを開けて二人を送っていくのを大統領は目で見送った後、大きなため息をつき秘書を呼んで言った。
「ジャパンハンドラーの実態を調べろ、、、それと影の総理が作っているミサイルの威力もな」


ホテルの部屋に帰ってきた二人は疲れ切っていた。特に西田は大統領に面と向かって「この国は子どもたちには人権はないのですか?」などと挑発的ともとれる事を言ったのを悔やんでいた。
(もっとマシな言い方があったろうに、、、)
「何を考えていらっしゃるの貴方」と不意に早苗が優しい声で言った。
「今日の貴方は素晴らしかったわ。ハメリカ大統領にあれだけの事を言ったんですもの。私、改めて貴方を好きになりました。今夜は新妻の早苗で御慰みしますわ。ねえ一緒にお風呂に入りましょうよ」
西田はトイレに急行した。


日本に帰ってくると西田はすぐに御老に会って聞いた。
「御老、日本の子どもたちが毎年数万人も行方不明になっている事を御存知でしょうか。しかもこの件はメディアは一切報じないばかりか二本政府も無視しているとか、一体どうなっているのでしょうか」
「ん、その件か、誰に聞いた、早苗か、あいつは物事の上辺しか見れん、困った奴じゃ、、、
良い機会じゃ、西田殿自ら調べてみなされ。物事はよく分析せねばならんという事が分かるじゃろう」
そう言って御老は去って行った。

西田は先ずコンピューター室に入って行方不明者数の年齢別推移等を調べた。特に9歳以下と10歳代の子どもについて詳しく調べた。
(9歳以下の子どもの行方不明者が年々少しずつ増加している、昨年は1216人、、、
この年齢で自主的に家出したとは考えられない。誘拐、しかも身代金目的ではないなら、この子たちはどこへ連れていかれたのか、、、
日本で身代金目的の誘拐はだいたい捕まっている。それを知っている誘拐犯は身代金要求で危ない橋を渡るよりも人身売買の方を選んでいるのだろうか?。そうなると当然、買い手は誰だ?、、、

10歳代になると家出もあり得るが、今は出会い系サイト等で親しくなり、親に内緒で出かけてそのまま帰って来なくなる娘が多いそうだ。
親しくなって良い友達同士になった、なら家に帰ってくるはずだが、帰って来ないということは、これも誘拐監禁強姦もしくは人身売買。売られた先は男性の欲望解消ペットショップ辺りか、、、
20歳代も10歳代とほぼ同で昨年は18518人だが、10歳代と同じ内容だろう、そして売られ先も同じ、、、
十数年前のポチエンジェル事件、あの事件と同じような事がいま現在も日本のどこかで、、、
とは言ってもあのポチエンジェル事件、顧客名簿に皇族の名前もあったそうだが胡散臭い。
自分の正体がすぐにバレるようなことまで名簿に載せるとは考えられない。金持ちの顧客が偽名に皇族や国会議員の名を使った可能性の方が高いだろう。

ん、行方不明者の所在確認等の状況だと、、、行方不明者全体の9割は所在確認済みもしくは死亡確認済み。数年経っても所在確認も死亡確認もできていないのはせいぜい1割。
まあ、1割とは言っても年間8千人くらい、しかも10歳代から30歳代が全体の半数以上だから4千人ほどが所在確認も死亡確認もされていない本当の意味での行方不明者と言う事になるか、、、
10歳代から30歳代の行方不明者が年間4千人この人数を多いと思うか少ないと思うか、、、
それと9歳以下の子どもたちの行方不明者数、、、何だ「居所の把握できない児童」は累計で6人のみ、、、
何だこれは、、、ではハメリカで地下室から千人の日本の子どもたちが救出されたというのは噓だったのか
早苗のやろう、翻訳ミスか、、、俺は鵜吞みにして大統領にまで言ってしまった、、、)
資料はよく検証して確かなことを知らないとダメだということを西田は痛感した。


ロスマイルド家の屋敷を破壊され支配者ロベルトを殺されてから半年が過ぎた。
バーナードは新支配者として内外に宣言し、ロベルトの盛大な葬儀を行った。
だが、ロットフェラー家の者は一人も参列させなかった。それどころかロットフェラー家系列ミサイル開発会社に莫大な損害賠償を請求した。


ロットフェラー家の支配者ダイバットは逮捕され獄中で、ただ一人の血縁者次男のマーフィーが家督を継ぐ事になりそうだが、このマーフィーは知能が低くダイバットに疎まれていた。
ダイバットは返す返すも長男ダニエルの死が悔やまれた。同時にダニエルを殺したロスマイルド家を心底憎んだ。
ダイバットは獄中からも「何が何でもバーナードを殺せ、ロスマイルド家を根絶やしにしろ」と命令した。
ロットフェラー家お抱えのヒットマンが賞金稼ぎのようにロスマイルド家に近づいて行った。


そんな状況であってもバーナードは今月も生みの親オードリーに会いに行った。
そして「ロスマイルド家の屋敷に一緒に住んでくれ」と懇願した。
しかしオードリーはなんだかんだと言って承知しなかった。バーナードは仕方なく強制連行した。そして新築されたばかりの最上級の部屋に住まわせた。
バーナードが強制連行したのには理由がある。一番には警護の面だった。
もしオードリーが襲われ人質にされたら、オードリーを見捨てることのできないバーナードは相手の言いなりになるしかなかった。
シルルを殺された後のバーナードにとって、オードリーは我が身に代えても守りたい唯一の人だったのだ。

バーナードは暇さえあればオードリーの部屋に来ていた。そしてスピーカーからの機械音声ではあったが、いつも一番に「お母さん、体調はいかがですか、何か御不便な事はありませんか」と尋ねた。
まだ60歳前なのに既に老人性痴呆症が始まっているオードリーだったが、バーナードの顔を見るとすぐに毅然とした態度で挨拶を返した。
「若御支配様、ごきげん麗しゅう、、、よくお越しになられました、さあどうぞこちらへお座りください」
バーナードがオードリーの向かいの椅子に座ると今日もまた目に涙を溜めてオードリーは言った。
「ロベルト様御亡くなり、、、さらにシルルまで亡くなって、、、なんと御いたわしいこと、、、」
「お母さん、その話はもうやめましょう、、、心配しないで、俺は大丈夫だから、、、俺は必ずロスマイルド家を復興してみせるから」

オードリーの部屋に来てもあまり話すことはなかったが、バーナードにとっては一番心が安らぐ時だった。
支配権力引き継ぎや亡くなった幹部の代理人認定、屋敷新築の指示、葬儀の打ち合わせ等で忙しかったころよりも、暇な時間ができたこの頃になってバーナードにシルルを失った悲しみが襲い掛かってきた。
今のバーナードにとっては、ロスマイルド家の支配者であり祖父であったロベルトの死よりもシルルの死の方がはるかに痛手だった。一人でいると寂しくて死にたくなった。特に一人で寝る夜は辛かった。
昼間忙しくて疲れ果てている時は眠れたが、思い出すゆとりができてきたこの頃は眠れない夜が多くなった。
そんな夜はバーナードは一人で地下の死体安置室に行って、冷凍保存されているシルルの顔を見た。
冷凍保存されていてもシルルの顔は美しかった。まるで生きているかのように。
シルルの顔の上のカバーガラスには、とめどなくバーナードの涙が落ちていた。


バーナードもまた、ロットフェラー家根絶やしを命じていた。
獄中のダイバット、息子のマーフィー、そして肺炭疽で死んだダニエルのまだ3歳の息子ジョセフの3人に密かに懸賞金をかけ、その道のプロに依頼した。
それ以外にもロットフェラー家系列の大企業の買収、大物オーナーのスキャンダル暴露、不正融資等の密告など、ロットフェラー家没落の原因になりうる事なら何でも実行に移させた。
その中で一番成果が上がったのが、アドレノクロム抽出に関係した者たちの密告だった。
ロットフェラー家の身うちの者はもとより、系列会社のオーナーや管理職の多くが逮捕された。
また、逮捕された有名人とロットフェラー家系列会社の幹部社員との乱れた関係なども暴露させ、信用やイメージを失墜させた。その結果、多くの有名人がテレビや映画出演をキャンセルされた。


ある日、ロットフェラー家の大豪邸の中庭で母親と遊んでいたジョセフに数頭のドーベルマンが襲い掛かった。傍にいた数人のボディガードが制止させようとしたが、ドーベルマンはボディガードの言うことを聞かなかった。それもそのはずで、そのドーベルマンはロットフェラー家で飼っているドーベルマンではなかった。
ロットフェラー家のドーベルマンは発情期の雌のドーベルマンのあとを追って屋敷の外におびき出され、代わりに犬笛で調教されていたドーベルマンがジョセフの匂いを嗅ぎつけて近寄り襲い掛かったのだった。
異変に気付いたボディガードがドーベルマンを射殺したが、その時は既にジョセフは顔面のほか数か所を噛みちぎられ重体、母親も大怪我をして豪邸内の病院へ搬送された。

その翌日ジョセフの死がダイバットに知らされると、ダイバットは出血するまで顔と手で壁を叩き続けて泣いた。数時間後ダイバットを見た看守は怯えた。
血と涙で汚れたダイバットの顔は狂人そのもので、眼光には妖気さえ漂わせていた。
しかしそのダイバットも三日後の朝、裁判所前で護送車から出た瞬間狙撃され死亡した。
その事を、ダイバット近辺に潜ませていたスパイから聞いたバーナードは残忍な笑みを浮かべて喜んだ。
しかし、もっと喜んでいたのは、、、。


秘書からジョセフとダイバットの死を聞かされた大統領は、一人になると薄笑いを浮かべて考えた。
(あとはマーフィー一人、だがマーフィーは無能だ、何もできまい。実質これでロットフェラー家は終わりだ。これでこの国の大改革ができる)
大統領は側近を集めてハメリカファースト政策を本格的に始めるよう指示した。


「うだつの上がらない一匹の蟻さん、また考え事ですか」
糸川一二三の声を聴いて我に返った西田はぼんやりと糸川を見た。
「もしかして昼食後からずっとその格好ですか?」
西田の前のテーブルにはラーメンのどんぶりと飲みかけのコーヒーカップがあった。既に午後3時だった。
「西田さんの考え事のヒントにでもなればと思ってこの資料を持ってきました。
新型ミサイルの発射実験の結果です。人工衛星からロボットアームで取り出され、400キロ上空から発射され、見事に南極大陸近傍の小島に着弾しました。しかも爆薬なしタングステン弾頭のみで岩盤に直径30メートルのクレーターができました。これは想定していたよりも大きい破壊力です、、、
西田さん聞いていますか、理解できていますか」

西田は瞠目して言った「タングステン弾頭のみで30メートルのクレーターですか」
「あは、西田さん目が輝いてきましたね、この資料を持ってきて良かったですわ。後で読んでくださいね。
ただ今回の実験は最初から着弾点を設定していたので成功しましたが、発射された敵弾道ミサイルを撃ち落とすためには、人工衛星に弾道ミサイルの情報を送信し、人工衛星のコンピューターが独自に計算して迎撃地点を決める必要があり、人工衛星内の現在のコンピューターでは計算速度が追いつきません。
つまり、ミサイルよりもコンピューターの開発が急がれている状態です」
「へえ、そうなんですか、コンピューター開発が遅れているんですか、、、しかし着弾地点が分かっている場合はもう既に破壊できるのですね」
西田はそう言いながらロットフェラー家の大豪邸の写真を思い出していた。

「はい、着弾地点の座標を人工衛星のコンピューターに送信すれば30秒以内にミサイル発射できますわ。
でもそれではダメなんです。敵が発射した弾道ミサイルを発射地点上空で迎撃爆破させないと、このミサイルを開発した意味がないんです。
発射地点上空で爆破するには二つの方法があります。一つは人工衛星のコンピューターで弾道ミサイルの軌道を読み取り、ミサイルを発射する方法。でもそのためには人工衛星のコンピューターを大型高性能にしなければなりません。そうすると人工衛星の重さが20トンを超えてしまいます。現在日本最大のH-2Bでは運べません。今年完成予定のH-3ロケットが20トン以上運べそうなので期待されています。
今一つの方法は、迎撃ミサイル自体に敵弾道ミサイル追尾能力を持たせる方法ですが、この方法は、ミサイルの進路を自在に変える推進装置が必要となってくるため、ミサイルの大型化必定、恐らく人工衛星内に隠して運ぶ事ができなくなると思われます。よって、この方法はまだ採用されていません。
人工衛星内の高性能コンピューター開発とH-3ロケットの完成が、このミサイル運用の鍵となります」

相変わらず正に科学者の説明と言える糸川の話を聞いて西田はうんざりした。
今の西田にとっては着弾地点がわかればミサイルで破壊できると分かっただけで十分だったのだ。
(これで奴らの本拠地を破壊できる、、、具体的に攻撃方法を考えなければならんが、その前にこの学者さんから逃げ出さなないと、、、)と思っていた西田に糸川は誇らしげに言った。
「今夜また小野寺さんの部屋で一緒に飲みましょう。日本でのウイルス感染終息宣言が出され、小野寺さんもウイルス科の応援がなくなり毎夜飲めるようになったと喜んでいましたので、お祝いを兼ねて3人で飲みましょう。ミサイルについてはその時またお話ししますわ」
(げっ、、、な、なんとか逃げ出さないと)

「あ、あの、俺、今夜は用事が」
「あは、昼間からボーとしている西田さんに用事なんかあるわけないでしょう。じゃ今夜8時に」
そう言って糸川は去って行った。
西田は頭を掻きながら思った(やれやれ、どうしたものか、、、そうか考え事はここ以外でもできる、、、)
西田は食器を片付けると部屋に帰り、小さな旅行カバンを持って出てきた。

影の総理の屋敷の裏門から出ようとすると「あら、貴方どこへ行くの」と早苗の声がした。
(げっ、な、なんで早苗がここに、、、)
西田は無視して出ようとしたが、忍者の修業をして素早い動きのできる早苗に先回りされた。
「さ、一緒に行きましょう。貴方と外出できるなんて夢みたい。で、どこに行くの」
早苗から逃げられるはずはなかった。西田は観念した(ちぇ、やけくそだ、どうにでもなれ)
西田は小さなため息をつき苦笑いを浮かべながら早苗と歩き始めた。

夕方だというのに風もなく外は暑かった。歩き始めてすぐ汗が出て来た。
早苗が言った「ねえ貴方、歩いてどこへ行くの、私暑くて死にそう」
西田も同じ気持ちだった。いつも温度調節されている地下にいて急に外へ出たせいか頭がボーとしてきた。
(こんな日に歩いていたら死んでしまう、レンタカーを借りよう、、、行き先は、、、)
西田は早苗に言った「一番近いレンタカー屋はどこだ」
「レンタカー屋、、、ちょっと待ってね」
そう言うと早苗は歩きながら片手でスマホを操作してレンタカー屋を探してすぐに言った。
「あの角を曲がって700メートル」
まだ700メートルも歩くのかとうんざりしたが二人は何とかレンタカー屋にたどり着きレンタカーを借りた。

西田がレンタカーの運転席に座ろうとすると「私が運転しますわ、貴方は助手席に座って、心配しないでね、後部座席にスタンガンを持った男はいないから」と言って早苗は笑った。
西田は忘れていた記憶を思い出し苦笑いをして見せた。
車は走り出した。しかしすぐに大きな交差点の手前で左わきに止まった。
早苗が聞いた「酒田、郡山、長岡のどこに行くの」
「、、、とにかく暑くない所へ行こう、、、山の中なら涼しいだろう」
「じゃ郡山方面に行くはね」早苗の声は弾んでいた。

車は49号線に入ってしばらく走り、西会津町から400号線に入った。30分ほど走ると「宮下温泉左折」の看板が見えた。周りは既に薄暗くなっていたので今夜はここの温泉宿に泊まる事にした。
川沿いの小さな温泉宿、早苗は頬を染め嬉しくてたまらない様子だったが、西田は、、、。
翌朝9時ころ宿を出た。温泉は申し分なかったし料理も美味しかった。しかしここに2泊する気にはなれなかった。考え事をするには何か物足りなかった。もっと見晴らしの良い、景色の良い宿に泊まりたかった。
早苗にそう言って次の宿を探させてから出発した。橋を渡り再び400号線に入り道なりに進んだ。
会津川口から左に折れなおも400号線を進むと相変わらずの谷間の道、たまに峠超えで見晴らしの良い所もあったが民家も宿もない。結局昼ごろ会津田島に着いてしまった。

新緑しか見えない谷間の道にうんざりした西田が不機嫌そうに言った「おい、どこへ行くつもりだよ」
「日光、男体山辺りに行けば景色の良い宿がありますわ」
「なに、日光まで行くのか」
「あら、あと2時間ほどで着きますわ。でもその前にここで昼ごはん食べましょう」
早苗に任せるしかなかった。二人は会津田島で食事し、その後また車を走らせ東照宮も華厳の滝も素通りして中禅寺湖に3時ころ着いた。
さっそく中禅寺湖とその向こうに雄大な男体山が見える眺望の良い宿にチェックインした。
「どう、満足ですか」
「、、、まあ良い、、、」そう言ってから西田は早苗を引き寄せ、並んで窓の外の景色を眺めた。
早苗も西田の背中に手を回し肩に頭をもたせ掛け、うっとりと景色を眺めていた。

翌日の朝食後、早苗は観光したいと言ったが、西田はどこへも行きたくなかった。
「俺は観光など全く興味がない、いろいろ考えたい事があるからここに来たのだ。お前一人でどこへでも行きなさい」
「せっかく二人で来たのに、、、」早苗はふくれっ面をしながらも出て行った。
一人になった西田は、窓辺に椅子を向かい合わせにして座り足を向かいの椅子に乗せた。
眼前に男体山が見える。(、、、良い山だな、、、良い眺めだ、、、さて、、、)

西田は、これからの事を考えた。
(着弾点を入力すれば攻撃できる新型ミサイル、、、これで奴らの拠点を破壊できる、、、
だが、そうやって奴らのトップを数人あるいは数十人殺して、それで全てが解決するだろうか、、、)
ハメリカから帰ってきて以来、西田は部屋のテレビでハメリカやイギリスのテレビニュースを見るようになった。英語が分からない時はメールで早苗に教えてもらい、だいたいのニュース内容も分かるようになった。

(この間のニュースではロットフェラー家のダイバットが狙撃され死亡したと報じられていた。
1000メートル離れたビルの屋上から一発で脳天を撃ち抜いたすご腕のスナイパー、、、
雇えるのは大富豪のロスマイルド家バーナードだろうとの早苗の解説だが、俺もそう思う、、、
その数週間前にロスマイルド家でロベルトの葬儀が行われたが、ロベルトの死因は表向きはウイルス感染による肺炎、だが屋敷の改築工事をしたということは、ロットフェラー家による屋敷の爆破、それでロベルトが死んだ可能性もある。
もしそうなら、ロットフェラー家とロスマイルド家の殺し合い。

その結果ロットフェラー家の支配者は無能と噂されているマーフィーだけ。
一方ロスマイルド家の方はバーナードが支配者になって安定しているらしい。
仮に今、ロスマイルド家とロットフェラー家の屋敷もろともバーナードとマーフィーを殺したとしたら、、、
まてよ、、、恐らく両家の殺し合いはまだ終わっていないだろう。
ダイバットが死んでも、その前にバーナード暗殺を命じていたはずだ。
それにバーナードもマーフィーを生かしておくはずがない、、、
もう少し様子を見よう。そしてバーナードとマーフィーどちらかが殺された後でまた考えよう)
西田はベッドに横になり少し眠った。

結局そのホテルに2泊して西田は観光もしないで帰った。早苗は不満たらたらだったが何も言わなかった。
影の総理の施設に帰ってきて、小野寺糸川コンビが待ち受けているだろうと思っていたが、待っていたのは御老だった。昼食後のコーヒーを飲んでいる西田の向かいの椅子に座って御老は言った。
「ハメリカ大統領から影の総理に親書が届いた。御自身が大統領の間はジャパンハンドラーを派遣しない。その代わり新型ミサイルの性能を知らせろ、という内容だったそうだ、、、
影の総理は、これの返書は貴殿に任せると言われた。1週間以内に返書の文言を考えるように、とも、、、」
「えっ、返書を俺、いえ私がですか、、、」

「、、、影の総理は何もかも御存知だ、貴殿と早苗がハメリカでネットを使って暴動を起こさせた事もな。
コラムだけで群衆に暴動を起こさせたその作文能力を影の総理は高く評価されておられる。
返書の文言などお手の物じゃろう」
「し、しかし、、、新型ミサイルの性能の件はどうしますか、知らせて良いのですか?」
「その判断も貴殿に任せるとの御言葉じゃった、、、貴殿に任されたということは、後継者としてそれだけ期待されているということ、、、日本の未来の舵取り、しっかり頼みますぞ」
そう言うと御老はさっさと去って行った。その後ろ姿を西田は口をへの字に曲げて睨んでいた。

(くそ、また難題を押し付けられた、、、新型ミサイルの性能を教えたら秘密兵器の意味がなくなる、教えるわけにはいかないだろう、、、しかし教えるのを断ったら、日本の現状が続く、、、ん、まてよ、現状か、、、)
西田の頭の中に、ある考えが浮かんだが、それは糸川に確認してからの方が良いと思った。
小野寺や糸川と飲むのも煩わしかったが、この際仕方がないとも考えた。
(幸い中禅寺湖のお土産もある。知人の結婚式とでも言えば外出の言い訳はどうにでもなる、、、)
夕食時、西田は土産を持って二人を待ち構えていた。

その夜、西田の予想通り小野寺の部屋で3人で宴会。乾杯し一口飲んでから糸川が面白そうに言った。
「あは、うだつが上がらない一匹の蟻さんでも結婚式に出席するんだ」
「これこれ売れ残りが失礼なことを言うもんじゃない。見かけによらず西田さんは妻子持ちだぞ」
「あは、売れ残りだなんて、それを言うなら私よりも小野寺先輩の方が」
「私はもともと結婚願望がありません。だから売れ残りではありません。しかし貴女は、」
「あは、私も結婚願望なんてありませんわ、研究開発できるだけで幸せですもの」
「そんなに綺麗な顔して結婚しないなんてもったいないでしょう。女性としての幸せを無駄にする気」
「あは、私の顔なんてどうでもいいわ、結婚なんて興味ない」

その時、西田が糞真面目な顔で言った。
「少子化で日本の未来は滅びるとの予想です。今は一人でも多くの日本人女性が子を産むべきです。
何なら子作り百発百中の俺がお手伝いを」
小野寺と糸川は一瞬絶句して顔を見合わせた後、小野寺が吹き出して言った。
「に、西田さん、お見事な冗談、さあもう一杯」
糸川も笑ったが、どこかとってつけたようなぎこちない笑いだった。しかも、これくらいでは酔わないはずの糸川の顔がやけに赤くなっていた。その糸川の顔の意味など無頓着に西田は言った。

「さて糸川さん新型ミサイルの件ですが、入力された地点にミサイルを着弾させるだけの現在のミサイルと、発射された敵弾道ミサイルを人工衛星内コンピューターが弾道計算して発射地点上空で迎撃爆破できるようになったミサイルとでは性能としてどれくらいの差があるのでしょうか?
また国土防衛の観点から見たらどうでしょうか?」
急に固い話に変わって面食らった感じの糸川だったが、西田の話術に慣れてきたとみえすぐに対応した。

「性能にしても国土防衛の観点から見ても雲泥の差ですわ。ミサイル自体は同じでも、そのミサイルを静止している物に当てるのと動いている物に当てるのとでは難易度が全く違います。
発射地点上空で迎撃爆破できるようになれば、発射地点は放射能汚染される事になり自滅するでしょう。
それを恐れてどこの国も弾道ミサイル発射を断念するでしょう。これほど強力な抑止力はありませんわ。
その事が分かっているからこそ、ここで秘密裏にミサイルを研究開発しているのです」

「そのミサイル開発のメドはいかがでしょうか」
「それはこの間お話ししましたように高性能コンピューターの開発とH-3ロケットの完成にかかっています。
まあ私は本年中にはどちらも完成可能だと思っています」
西田はそれを聞いて嬉しそうに言った。
「ありがとうございます。それを聞いて安心しました。さあ今夜は飲みましょう」
「いきなりミサイルの話をされて、、、何かあったのですか」
「いえ、大したことではありません、とにかく飲みましょう」この時、西田の考えは決まっていた。

翌日、西田は返書の下書きをした。
ジャパンハンドラー停止のお礼の後、迎撃ミサイルのことには触れず、位置を入力すれば人工衛星からミサイルを着弾できるという内容だけにした。
(人工衛星から発射され所定位置に着弾するということだけでも世界初であり世界中が欲しがる技術だ。
この情報だけでもハメリカ大統領は驚くだろう)
数日後、西田は下書きを御老に渡した。


影の総理からの返書を読んだ後、大統領はその返書を副大統領に読ませてから処分した。
大統領選挙が2ヶ月後に控えている大統領にとって、日本の事などにかまっていられなかったのだ。
「閣下、あの時の公開討論は有益でした。支持率急上昇です、再選は確実です」と副大統領は言った。
しかし大統領は憮然としていた。(もう一つ決定打が欲しい)と考えていたのだ。
(もしワシが再選できなかったらこの国はどうなる、、、また無能な大統領が現状維持するだけだ、恐らく何百年先までも奴らの収奪対象のままだろう、、、ワシは何が何でも再選せねばならん、、、
仕方がない、切り札を使おう、、、だがその前に、我が国民にアレに対して関心を持たせておいた方が良いだろう。それをどうするか、、、あの男を使うか、、、)
大統領は秘書を呼んで耳打ちした。


最近の西田は朝食ぬきが多かった。9時ころ起きて昼ころまで世界のニュースを見てそれから昼食に行く。西田はいつものようにテレビを消してから洗顔を始めた。その時、部屋の呼び鈴が鳴った。
西田はタオルを持ったままドアを開けた。
そこには険しい顔の御老が立っていて西田に携帯電話を渡しながら言った。
「ハメリカ大統領が西田殿と直接話しがしたいそうじゃ、その電話番号にすぐ電話してくれ」
そう言うと御老は去って行った。西田は一瞬呆然としたがドアを閉めベッドに座ってから電話をかけた。

「閣下、TOMOKAZU NISHIDA です」
「大統領だ、、、単刀直入に言う、力を貸してくれ。
君は1年ほど前も我が国でデモを起こさせた。その時は『東日本大震災はハメリカによって引き起こされた』という内容から『通貨発行権を奴らに奪われているせいでハメリカ国民は豊かになれない』という内容に変えた。するとハメリカ国民はデモを起こした。
君には文才がある。その文才を使ってもう一度デモを起こさせて欲しいのだ。
『通貨発行権を奴らに奪われているせいでハメリカ国民は豊かになれない』という理由を基にしてデモを起こさせてくれ。

君には本心を言うが、私はハメリカのために通貨発行権を何が何でも取り戻したいのだ。
しかしそのためには、国民一人ひとりがその事について理解していなければならん。
『通貨発行権を奪われたままではハメリカ国民はいつまでたっても豊かになれない』という現実を全国民が知らなければならんのだ。頼むMr,TOMOKAZU ハメリカ国民にデモを起こさせてくれ」
「分かりました閣下、やってみます」と西田は言うしかなかった。他に言いようがなかった。
「ありがとうMr,TOMOKAZUすぐに取り掛かってくれ」そう言って大統領は電話を切った。

その後、西田は御老に相談し、ネット配信元を日本にしない方が良いということで再び早苗とハメリカへ行くことになった。
西田は機内で文言を考えニューヨークのホテルに着くと早苗に英訳させすぐにネット配信した。
コラムの冒頭には、ウイルスに感染し路上で亡くなった多数のホームレスの現状を載せ、医療保険にも加入できず病気になっても死ぬしかないホームレスは人間ではないのか?と訴えかけた。
さらに、ホームレスはハメリカ国民ではないのか?ハメリカ国民でありながら貧困故に死ぬしかない。そんな事がこのハメリカ国で起きて良いのか?。ハメリカ国民はこれで良いのか?。
ハメリカは何故このようになったのか?と続けた。

そして最後に、全ては貧困のせいだ。
全ては貧困のせいだが、では何故ハメリカ国民の中にはこのような貧困者が多いのか?。
ハメリカの富はどうなっているのか?。富の分配はどのようになっているのか?。
その事を調べて分かる事は、ドルの発行権という名目で莫大な富が奪い取られていると言う事だ。
ハメリカの富は奴らに奪われている。そのためにハメリカは豊かになれない。そもそもハメリカの金、ドルを発行するのにハメリカにその発行権がない、こんな馬鹿な話があるか。
ハメリカの全国民はこの事実を知らなければならない、と結びそれに関連した資料を添えた。

コラムの反響は大きかった。観覧者数が時間経過とともにうなぎ登りに増えていった。
翌日には「通貨発行権を奪い返せ」「富の横取りを許すな」「ハメリカ国民に富を」「ハメリカを富める国にし貧困層を消滅させよう」等というプラカードを掲げた群衆がデモを始めた。
その群衆は三日後には数万人に1週間後には数十万人に増えた。
その事を知った大統領は喜んだ。
しかし決して顔には出さず、周りには「忌々しいデモ隊め」と罵って見せた。

群衆の一部が暴走しスーパーマーケット等から略奪を始めた。するとすぐ大勢の警察官が出動して鎮圧した。その時、警察官は言った「デモは構わん、しかし同じハメリカ国民から奪うのはダメだ」
略奪者は品物を返した。そしておとなしくデモに加わった。規律のあるデモが続いた。
2週間目に入ると群衆は100万人を超えた。
大統領はテレビ放送を通じて群衆に呼びかけた。
「我が国の愛国心ある皆さん。皆さんの御気持ちはよく分かった。
全ての原因は、我が国に通貨発行権がない事だ。我が国の通貨発行権は残念なことに、イギリスやこの国の銀行家たちが持っている。個人が持っているのだ。そして膨大な利益を得ている。
そのせいで我が国にはその利益が入ってこない。国は貧しくなるばかりだ。こんな事が許されて良いのか。

良いはずがない。しかし今までの大統領は何もしなかった。何とかしようとした大統領は暗殺された。
ロンカーン、コネディ、他にも数人の大統領が不審死だ。だから今までの腰抜け大統領は通貨発行権について何もしなかった。
しかし私は違う。私は通貨発行権を我が国ハメリカに取り戻す。そして我が国の富の横取りを防いでみせる。私は我が国の通貨発行権を我が国に取り戻す事を皆さんに誓う。
しかしそのためには、私にもっと時間が必要なのだ。
皆さんにお願いする。私にもっと時間をください。もう1期、私に大統領を続けさせてください。

デモをされている皆さん、もう止めてください。そして家に帰って私の仕事ぶりを見てください。
私は、通貨発行権を取り戻す事を皆さんと約束し、そのための行動を今から始める。
ハメリカから貧困層をなくし、豊かな国に変えるために通貨発行権を取り戻す、その時間を私にください」
テレビ放送を見て大統領の決意を知った群衆は引き潮のように消えていった。デモはなくなった。


歴代のハメリカ大統領にとって「通貨発行権」という言葉を使うことはタブーだった。
この言葉を使うと命を失いかねないほどの危険性があった。しかし現大統領は「通貨発行権を我が国ハメリカに取り戻す」と宣言した。しかもテレビ放送を通じて国民と約束までした。
この事は今現在、通貨発行権を持っている者たちに対する宣戦布告と同じだった。
現在の通貨発行権所持者の力は絶大だった。ハメリカを経済破城させることすらできる権力と経済力を持っていた。
その事を知っている大統領の側近はみな青ざめた。どんな反撃がくるか想像するのも怖かった。
しかも2期目の選挙を2ヶ月後に控えた今、大統領はなぜ通貨発行権を言い出したのか。大統領は気が触れたのか。側近たちは怯え狼狽えた。

だが現大統領は平然としていた。テレビ放送の後も、いつもと変わらない言動だった。
大統領には強い信念があったのだ。
(これで私を見捨てるような国民なら、近い将来ハメリカは必ず滅びる。
否、通貨発行権を奪われているということは、ハメリカ国民はみな奴らの経済的奴隷でしかないのだ。国民主権国家とさえ言えないのだ。
私は命に代えても通貨発行権を取り戻す。奴隷国民を必ず解放させてみせる。
、、、だが、それまで我が身をどうやって守るか、、、奴らを敵に回した以上、もう親衛隊と言えど信頼できない。いつ奴らに寝返るか、奴らに弱みを握られていつ私を裏切るか、、、今となっては頼れるのは、、、)


大統領の依頼通りデモを起こさせた西田と早苗は、ホテルで日本に帰る準備をしていた。そこへ大統領の使者が来て言った「お二人すぐ来てください」
1時間後二人は三度、出務控え室で大統領に会っていた。
大統領は二人の向かいのソファーに座ると顔をほころばせて言った。
「例の件の礼を言う、、、しかし本当に君たちはデモを起こさせれたのだな、君たちは群衆を扇動する怖い人間だ、逮捕するべきだろう」
「いえ、デモを起こさせたのは私たちではありません」

「なに、、、どういう事だ」
「デモを起こさせたのはハメリカ人の国民性です。不満や怒りをすぐに行動に移せるこの国の国民性です。
日本人では、私のあの程度の文言では決してデモなど起こしません」
「ふむ、なるほどな、我が国の国民性を良く見抜いているな、、、と言う事も含めて君たち二人は危険人物だ逮捕する。私が合図すれば警護員が飛び込んで来て君たちを捕まえるが、そうなったら君たちはどうする」
西田をたて、控えめな態度で座っていた早苗は一瞬強い視線で大統領を見てすぐにうつむいて言った。
「大統領ともあろう御方が御戯言を、、、もしそのような事になりましたら、御身を人質にするだけの事」
「なに、私を人質にするというのか、、、どうやって、女性の君にそんな事ができるのかね」

大統領の言葉が終わった瞬間、早苗の体が宙を飛び大統領の背後に回って大統領の首に腕を巻き付けていた。正に一瞬の出来事だった。西田も驚いたが大統領はもっと驚いたようだった。
早苗は静かな、しかし殺気のこもった声で言った。
「私の事は御調べになられているはず、400年続く暗殺者集団の一員である事をお忘れなく」
「早苗、よせ、、、閣下、ご無礼いたしました、お許しください」
早苗は大統領を飛び越えてソファーの前に着地すると振り向きにっこりと笑ってから深々と一礼して座った。
大統領は青ざめていた顔を上機嫌な顔に変えてから嬉し気に言った。

「良い余興を見させてもらった、ありがとう、、、
実はな君たちを試してみたのだ、君たちの実力を知りたかったのだ、私の方こそ無礼した許してくれ、、、
さて君たちは私のテレビ放送を見てくれたろうな。
あのテレビ放送を見れば君たちなら理解できると思うが、私は奴らに命を狙われる事になったのだ。
奴らの力は絶大だ。私のボディガードさえも買収されるだろう。今となっては誰一人として信用できる者は居ないのだ、君たち以外にはな、、、

私は決して死を恐れているわけではないが、我が国ハメリカに通貨発行権を取り戻すまでは私は死ぬわけにはいかないのだ。
私は何が何でも通貨発行権を取り戻したいのだ。私の気持ちを解ってくれまいか。
君たち、そして影の総理の組織員に私を守って欲しいのだ。誰にも知られず秘密裏に守ってもらいたい。
通貨発行権を取り戻すまでで良いのだ、それ以後は命など要らん。どうか頼む、私を守ってくれ」
そう言って大統領は西田と早苗に深々と頭を下げた。

西田は心を打たれた。
(大統領が俺なんぞに頭を下げた、、、ハメリカ国民のために、ハメリカの未来のために、、、)
西田は早苗を促し立ち上がって深々と一礼してから言った。
「閣下、この身に代えても御守りいたします」
大統領も立ち上がって二人の手を取り「ありがとう」を繰り返した。
この時、3人の目には光る物があった。
数日後、影の総理の組織からその手の者数十人が大統領近辺に配された。



「御支配様、由々しき事態になりました」
「モーガンか、、、ハメリカ大統領の事か」
「御存知でしたか」
「我が一族の存亡に関わる、見過ごせまい、、、モーガンならどうする」
「恐れながら、、、出る杭は打たれる、と申します、、、災いと化す前に打ち込むべきかと」
「分かった、手配してくれ、、、病気か事故にして穏便にな」
「かしこまりました」



その後、西田は秘書としていつも大統領の傍に立った。
早苗は大統領の身の回りの世話をするメイドとしてふるまいながら大統領を警護した。
西田はプロではないとは言えボディガードの経験も知識もあったし、早苗はもともと暗殺者で、暗殺の方法も暗殺者の心理状態さえも熟知していた。
また呼び寄せた影の総理の組織員も、早苗と同じ暗殺者か警護専門員だった。
暗殺に使う凶器や毒薬毒ガスの知識も豊富で、そう言う面では一般のボディガードよりも優秀だった。
今までのボディガードを遠ざけ、西田たちに守らせた大統領の判断は正解と言えた。

ある日、大統領は執務室で数人の職員たちと書類に目を通したり署名をしたりしていた。
その時、一匹の昆虫が飛んできて大統領の肩にとまった。
昆虫は這って大統領の首に近づいた。その動きに違和感を抱いた西田は数十枚の書類を丸めた物で叩き落とし、即座に靴で踏み潰した。
昆虫は壊れ金属片とわずかな液体が漏れ出てきた。近づくと不快な刺激臭がした。
西田は大統領を離れさせ早苗を呼んだ。その時、ポケットに手を突っ込んでいる職員が目に留まった。
(この暑い時期に手をポケットに、、そうか)西田はその職員の手を掴んで引っ張り出し、ポケットを探りリモコンスイッチを取り上げた。職員は逃げ出そうとしたが、早苗と一緒に入ってきた警護員に取り押さえられた。
西田は早苗に昆虫ロボットと液体を調べるよう頼んでから大統領とその部屋を出た。

また、ある日、遊説中に少女が大統領に花束をプレゼントした。大統領は花の香りを嗅ごうと顔を近づけた。
とっさに西田が新聞紙で遮ぎり花束を奪って持ち上げると、花束から薄っすらと煙が立ち昇っていた。
西田は警護員に花束を渡し、ガスマスクを装着して調べるようにと伝えた。
花束を渡した少女はポカンとしていた。恐らく手渡すように言われただけだろう。そして少女を使った犯人は既に逃走しただろう。

数日後の遊説途中の休息時、早苗に聞くと昆虫ロボットはハメリカ兵器研究開発会社の秘密兵器であり、漏れ出た液体はシアン化合物、花束の煙はホスゲンらしいとの事だった。
「このような秘密兵器や毒ガスを使われると警護も大変だな、胃が痛くなりそうだ」
「そうですわ、警護よりも暗殺する方がよっぽど楽です。いっそのこと先手を打って暗殺依頼者を暗殺した方が良いですわ」
「おいおい何てことを、、、だが一理あるな、、、依頼者は分かっているのか」
「確定ではありませんが、恐らく奴らの筆頭ロスマイルド家のバーナードかと」
「なに、ロスマイルド家のバーナードだと、、、」

西田は腕を組んで宙を睨んだ(う~む、確かにその可能性はあるな、、だが、バーナードを暗殺する、、、)
西田の脳裏にバーナードと過ごした日々が思い出された。
西田は少し考えてから言った「バーナードの暗殺はロットフェラー家に任せておこう」
その時、大統領の悲鳴が聞こえた。
(しまった。二人一緒に大統領の元を離れた)西田は後悔しながら大統領の元へ突進した。
大統領の前には3頭のドーベルマンが今にも飛びかかろうとしていた。そのドーベルマンの横腹に早苗の飛び蹴りが食い込んだ。早苗は着地するとすぐ別の1頭の脳天に手刀を叩き込んだ。
頭蓋骨が砕ける鈍い音が西田にも聞こえたが、西田はそれどころではなかった。何度も蹴りを繰り出すのだがドーベルマンにかわされ一発も当たらない。西田は焦った、一瞬日頃の鍛錬不足を嘆いた。
結局3頭とも早苗に仕留められた。西田は苦笑いを浮かべ頭を掻いた。
幸い大統領は無傷だった。しかし後数秒遅れていたらと思うと西田は冷や汗が出た。
(それにしても、さっきまで居た数人の職員はどこへ、、、)

西田は不吉な予感がした。大統領を促してその場を離れた。頭上にヘリコプターの音が聞こえてきた。
西田たちが居たその家は、遊説中の休憩のために極秘に借りていた一軒家だった。家の外は通常の警察官が警護し、内部は10人ほどの影の総理の組織員が警護していた。しかし警察官の姿が見えなくなり組織員たちが外に出た直後にドーベルマンが入ってきたようだった。
早苗は組織員を集めて大統領の周りに配置させ、リビングルームに移動した。そして、包丁や大きなビヤグラスなど武器になりそうな物を集めさせた。西田は大統領に最寄りの普通の警察官を電話で呼ばさせた。

家の前の広い庭の上空にヘリコプターがホバリングし、5人の男が次々とロープを伝わって降りて来るのが窓ガラス越しに見えた。男たちは着地するとマシンガンを構えて用心深く家に近づいてきた。
組織員数名が移動して行った。組織員はみな拳銃携帯のはずだが包丁なども持って行った。
数分後、庭の方から数十発のマシンガンの音がして止んだ。そしてまたすぐ別の方向から数発のマシンガンの音がして止んだ。急に静かになったが別の方向からビヤグラスが割れる音がかすかに聞こえた。
数分後、リビングの窓から見える所で組織員がヘリコプターに向けマシンガンを乱射しているのが見えた。
ヘリコプターは飛んで行った。その後すぐパトカーの音が聞こえてきた。

一人の組織員が早苗の所へ来て言った。
「終わりました。我々はみな無事ですが、奴らのために救急車をお願いします」
早苗は「ご苦労様です」と言ってから携帯電話で救急車を呼んだ。
数分後、警察官がどやどやと家に入ってきた。早苗はFBIの身分証を見せ状況を説明し、数台のパトカーを借りて大統領と共に全員で宿泊ホテルに移動した。
パトカーの中で大統領が早苗に聞いた。
「マシンガンの音しか聞こえなかったが、君たちの組織員は銃を持っていないのか」
「いえ、持っていますが、刃物の方が使い慣れているのです。
それと、殺害の時は自ら製造した特殊ナイフを使いますが、今回のように生け捕りにする場合はありふれた物を使います。彼らは特殊ナイフは誰にも見せません。見た者は死あるのみです」
大統領も横で聞いていた西田も背中に冷たい物を感じた。

ホテルの一室で大統領と西田と早苗が、何故あの家が奴らに知られたのかについて話し合った。
「大統領側の職員がみな居なくなったと言う事は、職員みな買収されていたと言う事だろう」
「職員全員だと、、、」と大統領が信じられんという顔で言った。
「奴らならできる事でしょう、、、今後の遊説計画も知られているということです。このホテルは大丈夫なのか」
「これほど多くの客が居るので、マシンガンを持って襲ってくるとは思えませんが、毒薬や毒ガスには注意が必要です。今後、食事は全て私どもの方で用意します。
それから念のため応援を頼んでおきました。明朝から加わりますが私服ですので見分けがつきません。
ですので合言葉を使います、日本語で『雨ですね』と聞いて『いえ雪です』と答えたら仲間です」
「なに、日本語で『雨ですね』と聞いて『いえ雪です』と答える、、、なるほど良い方法だ」と大統領は感心したように言った。

翌日から演台に立つのは3人だけになった。しかし事前に、支持者に扮した組織員が安全を確保した。
一部の組織員は暗殺者の立場(もともと暗殺者なのだが)で下見をし狙撃場所を探しだしてその近辺にも組織員を潜ませていた。そして実際に大統領の演説が始まるとライフル銃を持ったスナイパーが現れ組織員に捕まった。スナイパーは合点がいかず目を白黒させた。


組織員の働きにより大統領は無事遊説を終えて選挙に臨んだ。その結果は予想通り大勝だった。
「通貨発行権を取り戻す」という大統領の言葉が大多数の有権者の支持を得たのだ。
有権者の多くは「通貨発行権」がどういうものかを調べ、大統領がこの言葉を口にする事がどれほど危険なことかを理解し「大統領は命がけでハメリカのために通貨発行権を取り戻すと言っている」と周りの人びとに説明して回った。大統領の支持者は急増し見事に再選した。



大統領は二期目の就任演説でも通貨発行権を取り戻すと宣言した。
国際ニュースでその演説を見ていたバーナードはモーガンに言った。
「やはりあのスナイパーでないとダメなようだな、、、
大統領が通貨発行権の手続きが終わるまでに必ず仕留めるようにと伝えてくれ」
「かしこまりました」
「それにしても大統領警護の者たちは何者だろう、なかなか手強いようだがモードか、、、」
「モードではないようです。
ウイルス流行のせいもあってか皆マスクで顔を隠していますが東洋人の体型のようだったと聞きました」
「なに、東洋人、、、気になる、調べてくれ」
「かしこまりました」


まだ奴らに買収されていない大統領側の諜報員が、ダイバットを狙撃したスナイパーをバーナードが再度、雇ったと知らせてきた。
それを聞いた西田と早苗は、大統領のスケジュールと照らし合わせて、いつどこで狙われるかを予想した。
「一番可能性があるのは三日後のアーリントン墓地での献花だろうな、狙撃の場所としてはうってつけだ。
しかも場所が広すぎる、我々だけではとても守り切れない、、、早苗どうする」

「大丈夫ですわ、海兵隊に応援を頼みます。海兵隊はまだ奴らに買収されていません。
当日に1万人を緊急出動させて大統領周辺に人垣を作ります。それと、シークレットサービスは信用できませんから我々の組織員全員で最近辺を警護します。人海戦術ですわ」
「そうか海兵隊は大統領側だったな、分かった大統領に頼もう。
それと攻撃は最大の防御だ、スナイパーを捕まえる方法も考えてくれ」

当日、大統領到着予定の2時間前になって緊急配置された海兵隊員でアーリントン墓地の一角は埋め尽くされた。
ウイルス流行のせいでもともと一般人は少なかったが、その少数の一般人も海兵隊員人垣の外に出された。
大統領の周りはシークレットサービスに変装した組織員と数人の専属のテレビ局スタッフだけになった。
スナイパーは舌打ちした。狙撃は不可能だった。ライフルの入ったケースを持って茂みから出て隠してあった車に向かった。

そのスナイパーの行動を2000メートル上空にホバリングしていたドローンのテレビカメラが捕らえていた。車の中で待機しながらその映像を見ていた組織員は、大統領到着で誰も帰ろうとしない中、ただ一人車に向かう男をスナイパーと断定し、車を追跡しながら応援を求めた。
しかし、応援の車が到着する前にスナイパーの車は逃走し、警察の緊急検問も間に合わず結局逃げられてしまった。
組織員は悔しがったが、ドローンのテレビカメラはスナイパーの車がビルの陰で見えなくなるまで中継録画しており、解像度が良いので車種も色も分かりスナイパー捜査の手がかりを得ることができた。
翌日、西田たちはその手がかりを持ってスナイパー捜査を警察に依頼した。


大統領は通貨発行権についての様々な計画を次々に実行していった。
政府公認の銀行を格上げしハメリカ国銀として新紙幣発行権を与え、新紙幣の造幣を始めさせた。
そして新紙幣が出来上がれば、旧紙幣と等価で交換し旧紙幣を回収することにしていた。
当然のことながら大統領は国内国外に新紙幣発行を宣言しようとした。

宣言式場は多くの報道陣が遠巻きにし、カメラシャッターの音やフラッシュの閃光が交差する中央デスクに大統領が立ち、口を開こうとした瞬間、西田が大統領に体当たりした。
大統領の背後に倒れた西田の後頭部をかすめた弾丸がデスクの後ろの壁に穴をあけた。
すぐに大統領の上に覆いかぶさった西田の背中に2発目3発目の弾丸がめり込んだ。

早苗や組織員が報道陣の人混みの中に突進した。その早苗の胸にも弾丸がめり込んだ。早苗は後方に倒れたたが、顔をしかめながら立ち上がった。
組織員がカメラを向けていた男を取り押さえ、カメラが床に落ちた瞬間暴発した。
式場は大混乱になった。

その混乱に乗じて別の男が大統領に走り寄り銃口を向けた。組織員の一人が飛びかかった。
弾丸は大統領から外れ床に穴をあけた。男と組織員が倒れてもみ合っているところへ別の組織員が飛び込み、男の首に手刀を叩き込んだ。男は一撃で動かなくなった。
数人の組織員が西田と大統領を助け起こし控室に連れていった。
大統領は幸い軽傷だったが、西田は後頭部に裂傷、出血が止まらずハンカチで押さえて救急車を待った。

この事件で西田と組織員3人が負傷したが、2人の男を逮捕した。しかし、ダイバットを狙撃したスナイパーではなかった。
西田は二日で退院し、後頭部に大きな絆創膏を貼り付けたまま大統領に会った。
スナイパーがまだ捕まっていない事が気になって病院に寝て居られなかったのだ。
その西田に大統領が感謝を込めて言った。
「よく守ってくれた、ありがとう、、、傷はもう大丈夫なのか」
「大丈夫です、ありがとうございます」

「ところであの時、銃で狙われているとどうして分かったのだ」
「、、、分かりません、無意識のうちに体が飛び出していたのです」
「なに、無意識のうちにだと、、、」
実際に西田は今思い返しても分からなかった。何かを見て、何かを感じて体が動いたようなのだが、何を見たのか思い出せなかった。しかし、結果として大統領を守る事ができた。
運が良かった。運が良かったのは大統領なのか西田なのかは分からないが、二人とも死ななかった。
防弾チョッキも西田や早苗を守ってくれた。とは言えマシンガンやライフル銃だったらと思うと冷や汗が出た。

「カメラに銃が仕込まれていたそうだが、エックス線や金属探知機で分からなかったのか、ボディチェックはしなかったのか」
「、、、どんなに素晴らしい検査機があっても検査機を扱う人間が買収されれば武器持ち込みは簡単です。私と早苗が初めて執務控え室に忍び込んだ時と同じです」
「う~む、なるほど、、、今後はボディチェックも君たちの仲間にやってもらおう」

「閣下、次回の宣言式場、私に決めさせていただけませんでしょうか。守ってばかりでは埒が明きません。
スナイパーをおびき寄せて捕まえたいのです」
「なに、スナイパーをおびき寄せて捕まえるだと、、、そんな事ができるのかね」
「勝算はあります」
「う~む、君を信じよう、やってみたまえ」

数日後、西田は影の総理の組織員の中で一番の狙撃の名手と、早苗が師匠と仰ぐ伝説の暗殺者老人を呼び寄せて、宣言式場選びとスナイパーをおびき寄せる方法を話し合った。
式場の衛星画像を何箇所か見た後で伝説の老人が言った。
「腕に自信のある狙撃手ならこの式場でここから狙う」
西田は、ダイバットの時と同じようにビルの屋上から狙うと思っていたからそこは予想外の場所だった。
「さすがは御師匠様、自分も同感です。ほど良い所にビルがありますが、このビルでは逃走に時間がかかる。
この森なら数百メートル走ればトンネル、トンネル内で仲間の車に乗ればドローンでの追跡も振り切れる。
人の目は明るい所から暗い所を見ても良く見えないが、その反対は良く見える。森の中から狙うのは理にかなっている。敵も同じように考えるだろう」と狙撃手も言った。

その後、早苗を加え4人で実際にその森に行ってみた。その森は好都合なことに丘の上にあり式場が良く見えた。しかも1キロほどの距離でスナイパーにとっては苦にならない射程距離に思えた。
師匠は森の中の大木の横に座って言った。
「ここからならワシでも仕留められそうだ、、、敵がワシと同じ考えなら、ここから狙うだろう」
狙撃手も周りを見回してから言った「正に絶好の狙撃地点です」
「そして貴殿はあの木の陰から敵を狙う、、、敵が大統領を撃つ前に両腕を撃て」と師匠が数十メートル離れた木を指差して言った。師匠には敵スナイパーの行動が目に見えているかのようだった。

西田はその日のうちに、三日後の宣言式場の場所を公表させた。
(三日もあれば敵スナイパーも狙撃場所を決めれるだろう。その間にこちらは表向きだけでも最高の警備態勢を整えておこう。攻撃は最大の防御だ)
当日また海兵隊員による人垣を作り、厳重な警備態勢をとっている事を報道陣や一般人に見せつけた。
今回の宣言式は野外だった事もあり、海外の多数の報道陣も加わっていた。


スナイパーは、ライフルスコープを覗き込んで思った。
(ふん、海兵隊員が何万人いてもその頭越しに大統領の顔が見える、俺には大きすぎる的だ)
だが次の瞬間、両腕に激痛が走った。何事が起きたのかと周りを見たスナイパーの目に、前後左右から銃を構えた黒ずくめ装束の男たちが近づいて来るのが見えた。
スナイパーは一瞬逃げ出そうとしたがすぐに無駄である事を悟った。撃ち抜かれた両腕では毒薬を口に入れることもできない。スナイパーは吐き捨てるように言った。
「どうして俺がここに居る事が分かった」
銃身からわずかに湯気がたっているライフルを持った男が一言言った。
「上には上が居ると言う事だ」



野外での宣言式は無事行われた。
そのテレビ中継を苦々しい顔で見ていたバーナードは、大統領の後ろに立っている男に気づいた。
何度も見返した後、確信を持って叫んだ「Mr,TOMOKAZU」
(何故Mr,TOMOKAZUがハメリカ大統領の傍にいるのか)と疑問に思ったが、生きていた事に狂喜した。
すぐ側近に指示した「あの男と話しがしたい、テレビ電話するように伝えてくれ」
バーナードは心ときめかせてテレビ電話を待った。その日の夜遅くやっとかかってきた。

テレビ電話が繋がり相手の顔が見て取れるとバーナードが叫んだ「Mr,TOMOKAZU」
一瞬間をおいて西田が答えた「、、、バーナードか」
「Mr,TOMOKAZU生きていたのか、生きていたなら何故我が家に帰って来なかったのだ、あれほど約束したのに、なぜ帰って来なかったのですか。しかも交通事故で死んだと聞かされ自分は、辛かった」
とバーナードが立て続けに言うと、西田は遮って言った。
「俺を裏切ったのによくそんな事が言えるな、それともお前は知らなかったのか」
「裏切った?Mr,TOMOKAZUどういう事です、自分には何がなんだか分からない」

「、、、そうかお前は知らなかったのか、ではロベルトの仕業か、、、
俺が日本に帰ると刺客が待ち構えていたのだ、つまり俺が日本に帰る事を刺客に知らせた人間が居たということだ。そしてその人間は俺が日本に帰る事を知っていた人間つまりロスマイルド家の人間だということだ。俺はロスマイルド家の人間に裏切られたのだ」
「、、、なんと、そうだったのですか、、、」
その時になってバーナードは、西田の死を告げた時のロベルトの白々しい言い方が思い出された。

「それよりシルルはどうした、お前は自分で話せるようになったのか」
バーナードは顔を突き出すようにして見せ「この機械で話せるようになりました、、、シルルはロットフェラー家のヒットマンに殺されました自分の身代わりになって、、、」と言い涙を流した。
「、、、そうだったのか、、、お悔やみを言う、、、そういえばロベルトも亡くなったとか、、、」
「公にはウイルス感染でと言っているが、ロベルトもロットフェラー家に殺された。ミサイルでこの屋敷とともに爆破されたのだ」
「そうだったのか、、、不幸が続いたようだな、、、改めてお悔やみ申す、、、」

「それよりMr,TOMOKAZU、貴方は何故ハメリカ大統領の後ろに立っていたのですか。今日テレビを見て気づき驚きました」
「俺は刺客に狙われた後、影の総理の一員になった、そして今は大統領の警護をしている。つまり今の立場ではお前の敵と言う事になる」
「な、なんと、、、影の総理の一員として大統領の警護、、、」
「まあ、それももうすぐ終わる、大統領が通貨発行権を取り戻すまでという話だったからな」
「そうだったのですか、、、」

「それはそうとしてバーナード、33階級者が今だに日本に居て政府を苦しめているが、ロベルトはこの約束も破ったのか。ロスマイルド家は、否、お前はまだ日本から富を収奪し続けるつもりなのか」
「、、、それは、、、ロベルトが亡くなって、、、自分は33階級者の事まで考えが及ばなかった。
しかし早急に33階級者を解任させましょう、、、しかし日本からの富の収奪というのは、、、
ロスマイルド家としては昔からの契約に基づいて利潤を得ているので収奪というわけでは、、、
わかりました、この件一度担当の者を日本へ行かせて日本政府と検討させましょう。その結果、違法な収奪等があるようなら改善させましょう」
「分かった、そうしてもらうと嬉しい」

「、、、Mr,TOMOKAZUロスマイルド家に来ていただけないでしょうか、自分の相談役になって欲しい。
自分はまだ若輩者で、このロスマイルド家一族を先導する自信がないのです。力になっていただきたい」
「ハハハ、それはお前の買いかぶりだ、俺にはそんな能力はない、それに今の俺は影の総理の組織員だ。俺の意思でどうにかできる状態ではない」
「、、、わかりました、、、でも時々はこうして話し相手になってください」

「いや、それも今の立場では難しい、組織員としてスパイと間違われかねないからな、、、
それに、お前はまだハメリカ大統領の命を狙うつもりなのか?。だとしたら俺は阻止しなければならん。
とても話し相手などなっていられない。このテレビ電話も組織を抜け出してやっている状態だ」
「、、、そうですか、、、一族の長としての自分の面目が失われますが、大統領を狙うのはやめましょう、、、」
「お前のその言葉を信じて大統領の警護から手をひこう、、、ではまたいつか、、、元気でな」
「、、、Mr,TOMOKAZUもお元気で、、、」
テレビ電話は終わった。話の内容が信用できるなら西田にとって否、日本にとって素晴らしい成果だが、、、



宣言式が終わった数日後、西田と早苗は大統領と別れの挨拶をしていた。
「私は『通貨発行権を取り戻すまで』という約束をした事を後悔しているよMr,TOMOKAZU。
君たち二人にいつまでも一緒にいてもらいたかった。今から新しい約束をする事はできないかね」
「何か日本でも問題が起きたようで、すぐに帰って来いとの影の総理の命令ですので、、、」
「う~む、残念だ、、、では『今後、生涯友人である』という新しい約束をしてくれないかね」
「私どもには身に余る御言葉、感謝いたします」

「よし約束したぞ友よ。その友に私からお土産をやろう。影の総理に伝えてくれ『日本の、ハメリカからの真の独立を認める』今後ハメリカは一切関与しない。日本は、全て日本人だけで日本を統治しろ、とな」
「真ですか大統領、、、」感激のあまり西田はそれ以上言葉が出なかった。
「真だ、核ミサイル開発も認める。私は君たちを見ていて確信したのだ。
日本がどれほど軍事大国になろうと、日本人は我が国と敵対する事はないと、否、我が国だけではない。
日本が軍事大国になっても、日本人はそれを笠に着て他国を脅かすような事はしないとな」
西田と早苗は、目に光るものを溜めて深々と一礼して言った。
「感謝の極み、お土産確かに拝受いたしました」
大統領は二人と固い握手を交わした。

西田と早苗を見送った後、大統領は心の中でつぶやいた。
(通貨発行権のないハメリカは奴らの植民地と同じだったのだ、、、
彼らが私を守ってくれたおかげで通貨発行権を取り戻すことができ、ハメリカは奴らから独立する事ができたのだ。その私が彼らの国の独立を認めないわけにはいかないだろう、、、)



そのころ日本では、C国の数千の漁船が『尖閣諸島はC国の領土、日本は去れ』の大弾幕を掲げて尖閣諸島周辺海域に襲来していた。
二本政府は海上保安庁の巡視船2隻を派遣していたが、C国漁船は巡視船の両側を同時に通過するなど悪辣な意思を誇示しながら対峙していた。
二本政府はC国政府に何度も抗議したが、抗議の内容が「遺憾の意」をあらわにするだけでは、全く効果がなかった。しかも、この状況をメディアが報じず、二本国民は全く知らなかった。

御老が、帰って来たばかりの西田に言った。
「毎度の事じゃが二本政府の対応では埒が明かん、それで影の総理は貴殿の意見を聞けと仰せられたのじゃ。ハメリカから日本を独立させた英雄なら良い考えがあるじゃろうとな」
「日本へ帰って来たばかりのお、いえ私にまたそのような難題を、人使いの荒い事で、、、」
「ふむ、まあそうとも言えるの、では二三日、和子殿に会って英気を養い二人目を孕ませて」
「い、いえ結構です、わかりました、考えてみます」
御老は、してやったりの表情を浮かべ去って行った。西田は口をへの字にして宙を睨んだ。

西田は考えた(C国政府め、、、二本が憲法のせいで反撃できないと知っていて好き勝手にしている。
二本政府は完全に舐められている、、、
このままでは次第に概成事実を積み重ねられやがて奪われてしまう、竹島のように、、、
C国もK国も国際的事実を認めぬばかりか実効支配すれば自国の物という考えなのだ、、、)
西田は、C国漁船を追い払う方法を考えているうちに脈略もなくバーミューダートライアルの言葉が頭に浮かんだ。何故そんな言葉が、と自分でも不思議に思ったがわからなかった。
(バーミューダートライアル、、、魔の海域、、、だれも近づこうとしない、、、
ん、まてよ、だれも近づこうとしない魔の海域、、、しかし日本人にとっては魔の海域でなければ、、、)

翌日、西田は自分の考えをまとめて御老に話した。
「ふむ、さすがは西田殿じゃ、一晩でこれだけの事を考えつくとはの、、、
コストがかかるがC国漁船が怖がるまでの間じゃ、それと潜水艦で機雷を設置するには時間がかかる。
最初は新型ミサイルを使った方が良いじゃろう。急いで影の総理に進言する」
御老はそう言って気忙し気に去って行った。



尖閣諸島海域、今日も数千のC国漁船が群れていた。
その漁船群の最後尾の海上が突然大音響とともに大爆発した。水柱が百メートルもの高さまで立ち昇り、数百メートル離れていた漁船にも水しぶきが叩き付けられた。その後、同心円状に広がった大きな波が漁船を揺らしたころには、漁船に乗っていたC国人はみな肝をつぶして蒼白になった。
わけを知っている巡視船が後退した海域にも続けざまに二箇所が爆発した。
漁船はいっせいに全速力で自国に向かって帰り始めた。

その後、漁船の大群が襲来する度に海上爆発が起きた。しかし漁船上のC国人もC国政府もなぜ爆発が起きたのか分からなかった。
夜間なら赤い直線が見えたかも知れないが昼間では、レーダーでさえもとらえられないほどの高速落下物を、真下近辺に居たC国人は肉眼で見る事はできなかったのだ。
その後、二本政府は漁船が居ない時を見計らって潜水艦で、もっと低コストの機雷を設置していった。
機雷は、巡視船や海上哨戒機からでも遠隔操作で浮上させ海面近くで爆発させることができた。

二本政府はこの方法で竹島も取り戻す事にした。
秘密裏に二種類の機雷を設置した後、保守系国会議員を竹島に上陸させ「日本の領土」の看板を立てさせた。当然の結果としてK国人は怒り狂い戦艦まで動員して竹島周辺海域に押し寄せた。
するとすぐに日本の海上哨戒機が飛来した。
その時、戦艦の前方数百メートルの海上が突然大爆発した。戦艦は急旋回をして爆発海域を避けたが、その側面数十メートルでも小さな爆発が起きた。そして帰還し始めた戦艦の後方でも、まるで追い立てるように爆発が起きた。戦艦はじめ全ての船舶が帰って行った。

その後、K国船舶が竹島に近づく度に同じ事が起きた。
K国政府は「二本が爆発物を使った」と抗議したが、二本政府は「証拠を示せ」の一点張りで無視しながら、竹島に軍事施設を建設していった。
その結果、竹島は数十年ぶりに日本の本当の領土になった。

尖閣諸島も日本の漁船が安心して操業できるようになった。
C国が「尖閣諸島奪還のために軍事力を行使する用意がある」と脅してきたが、二本政府は平然と「尖閣諸島は国際的に見ても日本の領土であり、奪還と言う言葉は正しくない。貴国は国際司法裁判所に提訴すればいい」といなした。
その後で「尖閣諸島海域で起きた事が三峡ダムでも起きるかも知れないね」との防衛大臣のコメントを公表した。C国政府が激怒し「それは宣戦布告か」と返してきた。二本政府は「防衛大臣の個人的なコメントだ」と応じ取り合わなかった。

数日後、2機のC国戦闘機が尖閣諸島近傍の領空内に侵入した。自衛隊機が緊急発進し追跡した。
C国戦闘機は一度領空外に出たがすぐにUターンして領空内に侵入し、その行動を2度続けた。
3度目に領空侵入した時、自衛隊は後方からC国戦闘機にロックオンした。
C国戦闘機はそうとう慌てたのか数秒間飛行が乱れたが、体勢を立て直して去って行った。
数時間後C国政府は「自国戦闘機が自衛隊機にロックオンされた。これは宣戦布告行為だ」と世界に向けて発表した。

二本政府は即刻「自衛隊機は事前に領空侵犯であると警告したにもかかわらず、C国戦闘機は3度も侵犯した。これは悪質な挑発行為であったためロックオンをせざるを得なかった。故にこの度の責任は全てC国にある」と反論した。
予想通りC国政府は「ロックオンされた場所は我が国の領空内だ」と発表。
二本政府はすかさず、人工衛星GPS追跡画像によるC国戦闘機の飛行コースを地図上に重ねたものを公表し、ロックオンの位置が間違いなく尖閣諸島近傍領空内であると主張した。
するとC国政府は「尖閣諸島は我が国の領土であり、その領空も我が国のものだ」と発表。
二本政府は「尖閣諸島は歴史的観点からも国際的観点からも日本固有の領土であり、貴国が望むなら国際司法裁判所にて争っても良い」と発表した。
国際司法裁判所に持ち込まれれば自国不利であることを知っているC国政府は黙った。

翌日、国会議員が尖閣諸島に上陸して「尖閣諸島は日本の領土」と記載された石碑を設置し、その動画を二本政府は世界に向けて配信した。
その動画を見てC国政府は歯ぎしりして悔しがった。何としてでも報復措置を行いたい。
しかし報復措置を行えば、これまでの経緯からして自国の不法行為がますます拡散されてしまう。
C国政府は黙るしか術がなかった。

しかし、この時の二本政府の対応からC国政府は気づいた「二本政府は今までと違う」と。
C国政府は、二本政府が何故これほど強気になったのか、その理由を知りたがった。
C国最高権力者の側近が言った「二本は新兵器を開発した可能性があります。しかもその兵器は核兵器以上の威力がある物と思われます」
「なんだと、二本が核兵器以上の威力がある兵器を開発しただと、、、」
「そうでなければ、我が国に対して二本があれほど強硬な対応をとれるはずがありません」
「う~む、、、その兵器について大至急調べさせろ、、、二本め、、、」

日本に潜んでいるC国人スパイの暗躍が活発になった。しかし新型ミサイルの情報は得られなかった。
そんなある日、H-3ロケットの完成が報じられた。20トン以上の物が運べるようになる。
試験飛行として雑多な物が運ばれる事になったが、その雑多な物が何であるかは報じられなかった。
しかも当然のことながら宇宙空間に大型人工衛星を放出した事も報じられなかった。
ロケットは発射時の動画と上昇して見えなくなるまでの動画が世界に向けて発表されたのみだった。

H-3ロケットの発射実験成功のニュースを見てC国最高権力者は嫌な予感がしたが、側近たちの「単なる新型ロケットの発射実験が成功しただけ、我が国の方がまだまだ上だ」と言う言葉に翻弄されて、それ以上深く考えなかった。だが新兵器の情報を早く入れろ、とスパイたちに通達させた。


日本に潜入しているC国スパイの半数は若い女性だった。当然そのスパイは色仕掛けを行使した。
二本人は、警戒心がないのか色仕掛けに弱いのか、国会議員の有力者までもが女性スパイの虜になった。
高齢で既にそちらの方は使用不可能では、と思われる国会議員が若い女性とホテルに入るところが撮られた写真が週刊誌に載った事もあった。


ある夜、高層ビル上部にあるホテルの、エレベーターの真ん前の客室ドアがそうっと開き、マフラーを被った女性が周りを見回した後、エレベーターのボタンを押した。
エレベーターが上昇して来て止まりドアをが開くと、女性は手招きして男性を素早くエレベーター内に招き入れた。そしてドア閉めのボタンを押そうとした瞬間、大柄な女性の手が伸びてきて開けボタンを押した。
その後、男性がエレベーター内に入ってきた。大柄な女性は閉めボタンと各界通過1階ボタンを押した。

エレベーターのドアが閉まると、後から入ってきた男性が独り言のように言った。
「1階まで約3分、、、手短に行こう、、、3階幹事長、この女性をちょっと御借りする」
3階幹事長と言われた男性は驚き青くなって言った「お、お前は何者だ、何故ワシを知っている」
男性は 3階幹事長の言う事を無視して女性に言った。
「C国の女性スパイ、麗美曄、、、最高権力者に伝えろ。ジャパンハンドラーは居なくなり、もうハメリカへの上納金は要らなくなった。二本はその金で核兵器を開発する、、、まあ既にできている兵器もあるがね」

麗美曄と言われた女性も青くなった。そしていきなり男性に殴りかかった。しかしその腕を大柄な女性が苦も無く後ろ手にねじ上げ、麗美曄は悲鳴を上げた。
3階幹事長がおろおろしながら言った。
「や、やめろ、、、その娘に手を出すな、、、お、お前たちは何者だ 、望みはなんだ、金か、金ならくれてやる、1千万くれてやる、それでここでの事は全て忘れろ、いいな、、、」
「本性を現したな売国奴、あんたの薄汚い金など要らん、その代わりその面を晒せ」
そう言うと男性は、3階幹事長と麗美曄の顔を覆っていたマフラーを奪い取った。そして素早く後ろに回り込んで3階幹事長の顔を監視カメラに向けさせた。

3階幹事長は両手で顔を隠しながら悲鳴に近い声で叫んだ「や、やめろ、、、やめてくれ」
大柄な女性も麗美曄の顔を監視カメラに向けさせて言った。
「これで貴女のスパイ活動も終わりね、さっきの言葉を最高権力者に伝えたら上手く逃げることね」
「3階幹事長も日本男児なら退き際は綺麗にする事だな」
そう言って男性と大柄な女性は開いたエレベーターの外に出て行った。

3階幹事長はその場にしゃがみ込んでわめいた。
「あ、あいつは何者だ、、、か、核兵器を開発するだと、、、そんな事、俺は許しておらんぞ、、、二本で核兵器なんぞ作らせてたまるか、、、総理は気でも狂ったか、、、そんな事より、あの娘はスパイだったのか、、、
わ、ワシは、ワシはどうなる、、、あの娘はC国のスパイ、、、ワシは、、、どうなる、、、」
そのスパイはとっくに居なくなっていた。そして酔っ払いと間違われた3階幹事長は、入ってきた多くの人にエレベーターから追い出された。


女性スパイから、二本が核兵器開発を宣言したと知らされたC国最高権力者は顔色を変えた。
(二本が核兵器を開発するだと、、、非核三原則はどうした、誰も反対しないのか、、、大金や色をくれてやり手なづけていた国会議員どもはどうした、なぜ反対しない、、、
まさか国民に秘密にすると言うのか、国民に黙って造ると言うのか、、、そんな事ができるはずが、、、
不要になったハメリカへの上納金で造るだと、、、ハメリカがその事に同意したと言うのか、、、
まさかハメリカが、二本の核兵器開発に同意した、、、)

二本が核兵器を開発する。これはC国にとってとてつもない脅威だった。
最高権力者は、二本の技術力の高さを思い知らされていた。通常兵器でさえも、その技術力のせいで圧迫されているのに、その上核兵器まで持ったら、二本がどれほど恐ろしい国になるか、、、
(何としてでも二本の核兵器開発を止め、、、既にできている兵器もあるだと、、、
この間の尖閣諸島での海上爆発はもしかしたら、、、いや、放射能は全く検出されなかったという、、、
あれ以外にも核兵器があると言うのか、いや有ってもおかしくない。二本には核弾頭搭載可能なロケットもプルトニウムもある、既に秘密裏に造っていたとしても不思議はない、、、
今の段階でもし二本に核攻撃したら、、、核攻撃の応酬になる、、、その結果は、、、人類滅亡、、、
我が国には多大な地下シェルターがあるとはいえ、地上に出られなくなったら、、、)
C国最高権力者は、うかつに二本に攻撃できないことを悟った。



二本の核兵器開発の話はR国にも伝えられた。そしてR国最高権力者もまた二本を恐れた。
(今なら我が国の兵器で二本を廃墟にすることが可能だが、同時に我が国も相当な被害を被るだろう。
そればかりか、放射能汚染で地球上に住めなくなるだろう、、、
地下シェルターで何十年も生きたところで何が幸せだと言うのか、、、)
R国最高権力者は秘書を呼んで言った「北方四島返還を発表しろ」



二本は本当に核兵器を開発したのだろうか?。
その後の日本は急激に経済回復し、豊かな国になった。
軍事力も公表されている値では世界5位だが、C国最高権力者やR国最高権力者は決してその事を信じていなかった。「核兵器大国日本」と認識していたのだ。
そのおかげで世界は平和になった。


                              完                 2020年6月9日

一匹の蟻 その後

読み返してみると、結局は私の願望を書き留めたものになってしまった。
特に日本については、アメリカからの真の独立そして核武装。
しかし私は思うのだが、、日本はこのままではいけない。
いつまでもアメリカの言いなりになるしかない国ではいけない。
日本の事は日本人だけで決めて、そして日本という国は日本人だけで守って行けれる国にならなくてはいけない、と思うのですが、これを読まれた方、よろしければ御考えを聞かせていただければ幸いです。
また、私が日本と二本を使い分けた理由もお察しください。

御意見御批判等は下記メールアドレスにお願い致します。
  sryononbee@yahoo.co.jp

一匹の蟻 その後

これは一匹の蟻の続編です。 日本の未来はどうなるのでしょうか。 私の願望は叶うのでしょうか。

  • 小説
  • 長編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-07-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted