沖田メンタるクリニック 沖田編

沖田:はい、はい、そうですね。心の病(やまい)は必ず治ります。ええ、頑張って行きましょう!大丈夫、私が必ず治してみせます。
沖田:はい、お大事になさってくださいね。
沖田:あ!次のご予約忘れずに!はい、はい、はーい……。
沖田:ふー!これで一旦の予約は全部終わったかな?
沖田:あ、皆様、お久しぶりです。
沖田:沖田メンタルクリニックへ、ようこそ!
沖田:私が医院長の沖田、と申します。
沖田:メンタルクリニック、という名の通り
沖田:当院には、様々な心の病(やまい)を抱えた患者さんが来院(らいいん)されます。
沖田:不眠に鬱病(うつびょう)、ノイローゼやあがり症、先端恐怖症に、男性機能の低下!エディプス、ファザーマザーシスターブラザー森羅万象すべてのコンプレックス!
沖田:高所(こうしょ)に閉所(へいしょ)、雷の音や男性女性、しまいにゃ巨像(きょぞう)、先端(せんたん)……は言ったか。対人、暗闇、くもへび爬虫類、森羅万象すべての恐怖症!
沖田:色んな悩み、心の病をお持ちの方々が、毎日ひっきりなしに来院しているのです。
沖田:……医者の立場からしたら、仕事が多いのは嬉しいことなのですがね、こんなにも世の中には困っている方が多いのかと思うと……少々考えさせられることも、ありますよね。
沖田:この苦しく狭い、人間社会、こちらの波をかきわければ人に当たらぬことはなく。
沖田:こちらの山をかきわけりゃ、人に当たらぬことはなく。
沖田:コンクリートジャングル、狭まった(せばまった)空間に、おそらく、押し込められすぎたせいなのでしょう。
沖田:人間というのは、難儀(なんぎ)な生き物です。
沖田:……まあうちの場合、患者さんのほとんどは人間ではなく、神様、なんですけどね……。
沖田:そう、私、実は……神様のカウンセリングもしてるんですよ。
沖田:世の中には、たくさんの神話があります。
沖田:日本神話、エジプト神話、クゥトゥルフ神話に、インド、ギリシャ、ローマ、色々引っ括めた北欧神話。
沖田:その神話の神様たちだって、毎日悩んで、時に悲しみ、時に笑い、失恋に涙してちょーっと死んでみたり。そしてなんとなく復活してみたり。
沖田:自身の母親を妻にしてみたり、やめてみたり。
沖田:脇から子供産んでみたり、子供の頭をゾウにしてみたり。
沖田:ほんとまぁ、飽くなきトラブルの連続なわけですよ。
沖田:……あと大体ね、大体ご自分の垢(あか)とかから、こども作りすぎね。
沖田:男性遺伝子も女性遺伝子も要らないとか、あんたらはカタツムリか!って……たまには突っ込みたくもなりますけどね。
沖田:楽しく、仕事をさせていただいております。ははは。
沖田:さながら本当の意味での精「神」カウンセラー……といったところですかね。
沖田:(小声で)この言い回し、案外気に入ってるんですよ、ふふふ。
沖田:さぁてと……この後の予約も無いことだし、今日は私ひとりだし……
沖田:ちょっとごちゃごちゃして来た、私のデスクの片付けでもしましょうかね?
沖田:まずは、デスクの上に並べている医学書、論文、「週間!僕の私の神話」シリーズ。
沖田:んー!これはどれも捨てられませんね!
沖田:特に「僕の私の神話」シリーズは年間定期購読ですし!
沖田:すんごいんですよ、これ。ふふふ。
沖田:一番最初は日本神話だったんですけどね。
沖田:創刊号には、本物の草薙剣(くさなぎのつるぎ)の欠片(かけら)が付いてきますー!って書いてあって!
沖田:あんな国宝級の遺物(いぶつ)を付録にするなんて!この本出版してる会社どんだけすごいのよ!って。
沖田:興奮したもんです、はい。
沖田:ただ、何を間違えたのか。
沖田:僕の所に届いたのは、この草薙剣で倒された八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の首の一本だったんですけどねー!はははは!
沖田:……箱開けた瞬間襲いかかってきたのは良い思い出です……。
沖田:……うん、やっぱりこの書籍達(しょせきたち)はそのままにしておきましょう。
沖田:次は引き出しの中だけどー……うわ……ごちゃごちゃしてて何が入っているやら。
沖田:んー……1つずつ取り出していきましょうか。
沖田:(ごそごそと何かを取り出すような)
沖田:うわぁ……でてきた……これなんだっけ?
沖田:なんかすっごい臭い……。
沖田:毛皮……?
沖田:なんだっけこれ……ちょっと調べてみよう……。
沖田:てーれてっててーん!「週間!僕の私の神話の道具」!
沖田:絶対神様に貰ったやつか、押し付けられたやつなんだよなあ……。
沖田:えーっと、あったあった!
沖田:ふむ、なになに。
沖田:「ネメアのライオンの毛皮」……?
沖田:んーっと……あー!はいはいはい!あの有名なヘラクレスさんが!腰に巻き付けてる!あの毛皮ね!?
沖田:……その毛皮がここにあるって事はヘラクレスさん、どうやって帰ったんだろう……。
沖田:あの方、毛皮しか身にまとってない系男子だったような……。
沖田:……これは……待合室の壁にでも飾っておこうかな!
沖田:よし、次。
沖田:わ、なんかすごいベタベタする!
沖田:……ろうそく?
沖田:わ、すごい、リアルな翼の形してる。
沖田:これはーっと……あ、あった!(本を見ながら)
沖田:これあれか!イカロスさんの「ろうで固めた翼」か!
沖田:あの太陽に近づきすぎると溶けちゃうやつね!
沖田:でも「ろう」の溶けちゃう温度って、六十度からなんですよ。
沖田:お風呂の温度でも高くても四十度くらいですよ。
沖田:そんな六十度の日差しにあてられてたら、ろうよりからだのがヤバそうなんですけどね。
沖田:さすが神様ですね。
沖田:これは……うん、待合室に飾っておきましょうか!
沖田:さあ、次々!なんだか楽しくなってきたぞ!
沖田:わ、なんかすごく高そうな腕輪だ。
沖田:これは……あ!これオーディンさんから頂いたやつだ!
沖田:なになに?「ドラウプニル」
沖田:「オーディンの所有する黄金の腕輪」黄金!やった!大金持ちだ!
沖田:なになに?「九つの夜を超える度に、おなじ腕輪を八個生みだす」増えんの!?
沖田:……ちょっと待って。
沖田:北欧神話は確か13世紀あたりに語られた神話だったはず……。
沖田:西暦に直すと、大体1300年くらいの事を指すから……大体820年くらい前のものということね?
沖田:ざっと計算して九つの夜を、三万三千回くらい跨いで(またいで)いると。
沖田:……そして、毎回八個……。
沖田:26万個に増殖している……?
沖田:いやちょっとまて!ちがう!ちがいますねこれ!?
沖田:だって最初の九つの夜を超えた時点で八個増えて現物九個でしょ!?
沖田:そのあとその九個がそれぞれまた8個ずつ増えるんでしょ!?
沖田:その時点ですでに81個じゃん!
沖田:そしてその次の九つの夜を超えた時にはその81個がさらにそれぞれ8個ずつ増えるんでしょ!?
沖田:やばい!やばいよこれ!オーディンさんのせいで地球がやばい!!
沖田:なんかこんな話どっかで聞いた事ある!!
沖田:あ、あれだ!そうだ!ど〇らえもんの!どら焼きをバイ〇インで増やしてどうしようもなくなって宇宙に捨てにいく話!!
沖田:……待合室に飾っておくか。
沖田:さ、次々!
沖田:うわあああああ!なんか物凄い量の目玉がでてきた!
沖田:きもちわるっ!え!これ僕が、本当にもらったの?違うよね、流石に目玉欲しがらないよね?僕でもさ。
沖田:なんか1個ずつ全部違う目玉だな……
沖田:んーと……端からバロールの目玉、メドゥーサの目玉、カトブレパスの目玉、コカトリスの目玉、バジリスクの目玉、サリエルの目玉……と。
沖田:あ、説明書きもある、なになに?「見たものを大体即死させる」
沖田:ちょっとまってよーーーーーー!!!
沖田:六個もあるよ!即死級アーティファクト六個もあるよ!!もうオーバーキル!オーバーキルだよ!!!
沖田:え、なんで僕生きてるの。
沖田:六個ばっちり視線あってるよ、なんでなの。
沖田:怖い怖い怖い。
沖田:この状況というかなんかもう自分自身が怖い!
沖田:よし、待合室に飾っておこう。
沖田:あれ?外線だ。
沖田:はい、こちら沖田メンタルクリニック、沖田が承ります。
沖田:あらー!ゼウスさん!どうもどうも!
沖田:あれからどうですか?良くなってます?
沖田:ほんほん、えー!すごい!奥さん大喜び?すごい!一体なにしたんですか!
沖田:良かったですねえ!はい、はい、いえいえ、今度また詳しく聞かせてくださいね!
沖田:それで、本日はいかがなさいましたか?
沖田:え?これから?オーディンさんの所に行って?お酒を飲むから来ないかって?
沖田:……いっちゃおっかなあ!!!
沖田:はい、はい、わかりました。すぐ準備していきますね。
沖田:はい、お誘いありがとうございます、はい、また後ほどー!
沖田:……ふふ、噂のキャバクラならぬキュレクラ……楽しみだな……。
沖田:それでは皆様、大変申し訳ございませんが当院本日は午後の診察はお休みと、させていただきます。
沖田:また明日以降いつでもご来院ください。
沖田:24時間いつでも、神様ですら受け入れますからね。
沖田:あ、待合室の目玉は見ないように!気をつけてくださいね!
沖田:それでは、また!

沖田メンタるクリニック 沖田編

沖田メンタるクリニック 沖田編

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-01

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